Sightsong

自縄自縛日記

吉田敏浩氏の著作 『反空爆の思想』『民間人も「戦地」へ』

2007-10-21 22:28:53 | 政治

テロ対策特別措置法(テロ特措法)の延長または新法をめぐって、米艦に給油した燃料が対イラク戦争にも流用された、いわば「油ロンダリング」(逆方向かもしれないが・・・)に関して与野党の鞘当てが激しい。問題は給油された燃料の使途に関するデータ管理や説明責任、隠蔽工作そのものにあるのではない。最終的にその意図、米軍の矛先がどこに向けられたか、というところにある。今回の場合、端的に言えば、「テロとの闘い」を標榜しながら、本来目的は効果をあげておらず、それどころかアフガニスタンやイラクの罪のない民間人を犠牲にし続けている、ということが、正視すべきことだろう。

吉田敏浩『反空爆の思想』(NHKブックス、2006年)は、米軍が(さらに遡れば、旧日本軍を含めた多くの国軍が)空爆という方法を採り続けていること、そしてそれが技術的にも誤爆が避けられず、手段を問わない殺戮兵器を使うことも含め、民間人の犠牲が確信犯的であることを浮き彫りにしている。

ブッシュ政権がこのような軍事行動を本格化させたのは、言うまでもなく、2001年9月11日の「9.11テロ事件」をきっかけとしている。「9.11」では、米国人を中心に、罪のない民間人が3,000人以上も犠牲になった。しかし、同年10月7日から12月29日までの空爆で死亡したアフガニスタンの民間人は、それを上回る4,000人前後だという。民間人を直接狙ったのではなく、ある確率で犠牲者が出ることを承知の上で行ったことの結果である。もちろん、その後も、イラクにも範囲を拡げ、軍事活動は続いていて、犠牲者は出続けている。米軍・米政府の説明は「誤爆」、「付随的被害」、「かれらはテロリスト」である。

米軍が空爆に使用する精密誘導爆弾の「半分」(!!)が的中する範囲は、3mだったり13mだったりするようだ。さらにこれは設計値であるから、誤作動や天候や人為的ミスで精度が低下し、数百m~数kmそれる場合もある。つまり、ピンポイント爆撃という言葉自体がウソというわけだ。ターゲットも、誤認などにより、テロリストではなく民家などになっている場合もあるという。

すなわちこれは、「テロとの闘い」が、実は民間人への「無差別爆撃」に他ならないのだと、吉田氏は指摘する。そして、不発弾が多く地雷的なものになってしまうクラスター爆弾や、強度が高いが放射性物質を含む劣化ウラン弾など、いまだ確信犯的な兵器が使われていることも含め、その背後には、「空爆」という方法が孕む危うさを主張している。

吉田氏のいう「空爆」の危うさは、民間人の犠牲を回避しえないことを行い続けることの背景として、①お互いが見えないこと、②敵側の人間を非人間的な存在としてしか想像できないこと、③傷つけた側は痛くないから日常生活を送れること、④権力や政治の格差、⑤軍事技術は限られた者にしかわからないこと、⑥「正しい戦争」をしているとの優越感・選民意識、⑦民間人が犠牲になっていることが報道されない、といった「距離・隔たり」を挙げている。

そして私たちは、基地や給油を通じて、税金を民間人の無差別殺人に使ってもらっているわけだ。吉田氏も繰り返し語るように、爆弾を受ける人たちのことを想像してみるとどうか。日常生活をしていたところ、自国の為政者や政権が「ならず者」だからという理由だけで、不可避的な「誤爆」にさらされ、家族を奪われたりひどい障害を受けたりして、その理由を見ず知らずの人に「付随的な被害だ」、「仕方がなかった」、「避難しておくべきだった」、「ネセサリー・コストだ」などという言葉で片付けられたとしたら。無関心でいることは、実は大きな罪であることに他ならない。

「しかし、それはよく考えてみると、自分の子どもの命を守るためなら、「対テロ戦争」の名のもとに他国の子どもたちの命が奪われてもやむをえない、という正当化論である。自分が直接手を下さなくても、他国の母親から子どもの命を奪うのを容認していることになる。自分たち家族の安全はアメリカの軍事力によって守られると思っているのだろうが、一方でアメリカの軍事力によって他国の人びとの家庭が破壊されている現実には目をつむっている。
 他国の人びとに犠牲を強いていることに対して、それはあまりにも無自覚な態度ではなかろうか。他国の人びとの生命を自分たちの安全のための「消耗品」あるいは「コスト」のように見なすその考え方は、実は血塗られた論理である。」

吉田敏浩『反空爆の思想』(NHKブックス、2006年)より

犠牲になりうるのは、日本企業の民間人も含まれることを示した本が、同じ吉田敏浩氏の『民間人も戦地へ テロ対策特別措置法の現実』(岩波ブックレット、2003年)である。

テロ特措法では、洋上で米艦に給油するため、自衛隊の護衛艦や補給艦が出航している。あまり知られていないことだが、その自衛隊の艦艇の修理に、民間企業の技術者が派遣されている。艦艇を造る企業だけでなく、たとえば艦艇内のシリンダーやレーダーといった部品・装置を供給している企業が対象となっている。

「安全な地域」という前提でありながら、米軍はそのような前提を置いておらず、また安全のため情報を非開示にしている時点で、その前提は矛盾している。要は、「戦地派遣」である。

防衛省は、省と民間企業との修理契約のみにしかタッチしておらず、事故や事件に関しては企業内の労使関係で(会社が掛けている保険などで)対応するものとしているようだ。しかし、実際には、民間企業が政府の要請に対して首を振ることは難しいだろうし、また、企業内でも派遣を拒否することは難しいに違いない。

テロ特措法成立(2001年11月2日)から2007年3月までに、インド洋に自衛隊艦船が派遣された回数は延べ57回にのぼる(ピースデポ『イアブック核軍縮・平和2007』高文研、2007年)。そのうち、2003年3月までの延べ回数は17回だが、吉田氏の調べたところでは、その期間に7回の修理派遣が行われている。

テロ特措法の延長・新法、さらにはこのような戦争への加担はあってはならない。


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2 コメント

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Unknown (おおくにあきこ)
2007-10-23 13:14:59
吉田氏の『反空爆の思想』、今もっともほしい戦地の具体的な情報が書かれているようですね。
無関心でいることは本当に大きな罪だと思います。せめて補給支援特措法などというものには反対を唱え続けなければと思います。
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Unknown (Sightsong)
2007-10-24 01:00:25
おおくにあきこさん
やはりここも、メディアの無関心とあえて回避していることが気になります。先日、野党議員の指摘(補給する油により米軍が空爆し民間人が犠牲になっている)に対し、首相が「逆ギレ」したとの報道がありましたが、報道の中身は国会での現象だけでした。
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