Sightsong

自縄自縛日記

妙なプロパガンダ劇、『白毛女』

2009-08-23 17:20:00 | 中国・台湾

上海で買ってきたDVD、『白毛女』(1950年)。中国建国直後に作られたプロパガンダ・フィルムと言っていいだろう。このDVDは中国の古い映画シリーズのひとつで、15元(230円程度)。英語字幕が入っているが、シリーズの多くは中国語字幕のみ。中に以下の立派なポスターが折りたたまれて入っていた。

映画としては見るべきところはない。だが、面白い点はそこかしこに散りばめられている。

結婚を控えた小作人の娘。地主がその美しさに目を付けて、小作人の父に対し、借金をすぐ返せぬなら娘を差し出せと迫る。父はむりやり拇印を押されてしまい、結婚式の前の晩、自殺する。娘は地主にいじめられ、挙句にレイプされ、子供ができるや身売りされそうになるが、裏口から山へと逃れる。それまで死んでしまいたいと絶望していた娘は、生き延びて復讐してやるのだと誓う。そして、髪は白くなり、寺に住む白毛女という幽霊だと噂されるようになる。やがて許婚は八路軍に入り、軍とともに地主を罰する。

もともとは1940年代半ばの民間伝説であり、プロパガンダ劇であるいっぽう、死と再生のイニシエーションという神話的構造を内包しているという(藤井省三『現代中国文化探検』、岩波新書、1999年)。また、動乱の1940年代にあって、赤色政権の聖都・陝西省延安を中心とした解放区では、新しい社会意識を代表する理想が形成され、それまでになかった生き生きした女性像の原型が生み出された。そのひとつが『白毛女』なのだという(李子雲/陳恵芬/成平『チャイナ・ガールの1世紀』、三元社、原著2004年)。この時代と政治の象徴を担わされた妖怪ということだ。逆に、悪辣な地主という役を与えられた国民党にとってはいい面の皮だ。

実際、八路軍の兵士たちは非常に美化されて描かれている。もともとは、かわいそうな2人の結婚を応援していた「叔父さん」が、自分の体験を語るところからはじまる。曰く、黄河を西に渡ったらそこには「赤軍」がいて、土地を皆で公平に共有する素晴らしいところだったんだよ、と。そのため、結婚相手を奪われた許婚の男は、同じように決死の思いで黄河を渡る。そして八路軍の服を着て地元に凱旋し、「叔父さん」に、「赤軍」は正式には「八路軍」というんだったよ、と言うのだった。

その八路軍が悪辣な地主を攻撃するときのこと。そのような収奪は抗日のためにならないから、という理由を語るのだ。また、なぜか盧溝橋(らしき、欄干に多数の獅子がある橋)を攻撃し、橋のたもとにある、清の乾隆帝の揮毫「盧溝暁月」の碑を爆破する。日中戦争の契機となった地ではあっても、そのような八路軍による碑破壊の事実はないと思うがどうか。第一、まだ盧溝橋に残されている。 

●参照 盧溝橋


アカテガニの生態を描いた短編『カニの誕生』

2009-08-23 07:50:47 | 環境・自然

カニにもいろいろあって、里山のような田舎で育った私が慣れ親しんだのはもっぱらサワガニだった。そのころ川や沢ではよく捕まえたりしたものの、雑菌がいるからすぐ放して後で手を洗いなさい、と教わっていた。

余談ながら、ザリガニも多かった。日本固有のザリガニ(日本ザリガニと呼んでいた)はグレー色で、アメリカザリガニは赤色。時々、ハサミだけ赤色のような「アイノコ」を捕まえて騒いでいた。他の外来種と同じなのか、日本ザリガニは少なくなっているようだった。

科学映像館が配信している『カニの誕生』(学研、1956年)(>> リンク)は、下田の海辺に棲息するアカテガニの生態をとらえた、9分間の短編映画である。海辺で育ったわけでもない私がこのようなカニに親しみを覚えたのは、大人になってからのことだ。アカテガニは、木更津の小櫃川河口、盤洲干潟で見たことがある。(下田にも行きたいのだが、なかなか機会がない。)

アカテガニは名前の通り赤が目立つが、黄色やグレーの部分もある。映像は白黒だから赤色は心の眼で観ればよいし、ナレーションで説明もしている。カニの生態についてならば、有明海や三番瀬のアシハラガニを紹介した下村兼史『或日の干潟』(1940年)(>> リンク)よりもしっかりしていて、餌となる有機物を両手でむしゃむしゃ食べている映像は人間的(カニ的?)で楽しい。

映像の白眉は、満月や新月の日に一斉に産卵する場面だ。無数の卵を抱えたアカテガニは海につかり、一気に放出する。まるで水槽のなかで見るような、クリアな映像もある(海中にカメラを入れた水槽でも設置したのだろうか?)。最初はゾエアと呼ばれるプランクトンとなって浮遊し、やがてカニの形に近づくメガロパとなり、その後、稚ガニとなる。

こういった映像を観た後では、海辺をうろつくカニの姿が実に奇妙で不思議なものに思われる。風景の異化効果が、自然映画の醍醐味である。


小櫃川河口のクリークにあったアカテガニの抜け殻(2008年) Pentax LX、77mmF1.8、ベルビア100


盤洲干潟のアカテガニ(2008年) Pentax LX、77mmF1.8、ベルビア100

●カニ
『カニの誕生』(科学映像館)

三番瀬(1) 観察会【千葉県】(マメコブシガニ、コメツキガニ、)
盤洲干潟【千葉県】(アカテガニ、チゴガニ、アシハラガニ、ヒメアシハラガニ、オサガニ、ヤマトオサガニ、コメツキガニ)
新浜湖干潟【千葉県】(クロベンケイガニ)
江戸川放水路の泥干潟【千葉県】(コメツキガニ、ヤマトオサガニ)
下村兼史『或日の干潟』【長崎県、千葉県】(シラスナカニ、アシハラガニ)
『有明海の干潟漁』【長崎県】(ヤマトオサガニ、シオマネキ)
漫湖干潟【沖縄県】(シオマネキ、ヤエヤマシオマネキ)
またここでも公然の暴力が・・・泡瀬干潟が土で埋められる【沖縄県】(ミナミコメツキガニ)
救え沖縄・泡瀬干潟とサンゴ礁の海 小橋川共男写真展【沖縄県】(ミナミコメツキガニ)

●科学映像館のおすすめ映像
『沖縄久高島のイザイホー(第一部、第二部)』(1978年の最後のイザイホー)
『科学の眼 ニコン』(坩堝法によるレンズ製造、ウルトラマイクロニッコール)
『昭和初期 9.5ミリ映画』(8ミリ以前の小型映画)
『石垣島川平のマユンガナシ』、『ビール誕生』
ザーラ・イマーエワ『子どもの物語にあらず』(チェチェン)
『たたら吹き』、『鋳物の技術―キュポラ熔解―』(製鉄)
熱帯林の映像(着生植物やマングローブなど)
川本博康『東京のカワウ 不忍池のコロニー』(カワウ)
『花ひらく日本万国博』(大阪万博)