トランペッター、ワダダ・レオ・スミスが最近組んでいるグループに「ゴールデン・カルテット」というものがある。トゥヴァ共和国のヴォイス・パフォーマー、サインホの映像を買うついでに、こちらのDVD『WADADA LEO SMITH GOLDEN QUARTET』(Jacques Goldstein、LA HUIT、2007年)も送ってもらった。何しろカット盤であるから、ほとんど送料だけかかったような感覚である。カット盤は、正規の流通ルートから外れたという意味で敢えて傷物にされ、そのため安い。LPではジャケットの隅がカットされたりパンチ穴が開けられたりしていた。DVDにもあることは今回初めて知った。
左下がカットされている
映像はスタイリッシュなモノクロであり、ひょっとしたら、チェット・ベイカーのドキュメンタリー、ブルース・ウェーバー『Let's Get Lost』に張り合えるのではないかとおもえるほど良い。レオ・スミスの演奏は最初は抑制気味だが、次第に熱くなっていく。何といっても特筆すべきは、ロナルド・シャノン・ジャクソンのドラムスだ。4ビートではなく、生命のようなパルスを全方位から放ち続ける格好良さ。レオ・スミスとお互いに煽り続けるのには凄みがある。ちょっと、最後期のコルトレーンに蛇のように絡んだドラマー、ラシッド・アリをおもい出した。これまでロナルド・シャノン・ジャクソンのことは特に何ともおもっていなかったのだが、突然気になるドラマーになってしまった。
ボーナス映像として、「DeJohnette」の演奏が収録されている。もちろん、ジャック・デジョネットのことで、「ゴールデン・カルテット」のCD第1作『Wadada Leo Smith's Golden Quartet』(TZADIK、2000年)ではそのジャック・デジョネットがドラマーとして参加し、「DeJohnette」を演奏している。印象としては、「寸止め」のような煮え切らなさを感じるデジョネットの演奏はさほど好みでないのだが、このCDは音が多彩でよく聴く。DVDの抑制から発散への流れとは違って、いろいろなタイプの曲が録音されているのだ。なかでも、録音の直前に亡くなった稀代の音楽家レスター・ボウイに捧げた「Celestial Sky and All the Magic: A Memorial for Lester Bowie」では、レオ・スミスがボウイのようなにぎにぎしいトランペットも吹いていて、ちょっと哀しくなる。
DVDのインタビューでは、「ゴールデン・カルテット」の意味するものと訊かれ、「Maturity」や「Wisdom」といったことばを発していた。CD第1作にベーシストとして参加していたマラカイ・フェイヴァースこそ、その2つの言葉に相応しいようにおもわれる。しかし、彼も既に鬼籍に入っている。このグループでのマラカイの演奏も、映像で観たいものだ。