6月24日に静岡県情報公開審査会から到着した大井川広域水道企業団補助金不適切事務処理関係公文書非開示異議申立てに係る意見書の提出依頼に添付されていた知事意見書(画像2枚)を以下に公開するとともに、それに対する反論の意見書(6月30日送付予定)を公開します。
<知事意見書に対する反論の意見書>
平成26年6月30日
静岡県情報公開審査会
会 長 興 津 哲 雄 殿
異議申立人 鈴木 浩伸
意 見 書
平成26年6月23日付け静情審第8-2号で依頼のあったこのことについて、静岡県情報公開条例(以下、「条例」という。)第25条第2項に基づき、本書のとおり意見書を提出する。
また、本書の提出をもって、意見陳述については希望しないことを併せて回答する。
記
平成26年6月18日付け環水第74号の4により静岡県知事(条例第2条に規定の実施機関)から提出のあった「意見書」(以下、「知事意見書」という。)に記載の非開示とした理由等について、以下のとおり意見を述べる。
1 知事が非開示とした具体的な理由等について
知事は、請求した公文書の全てについて非開示とし、その根拠規定として条例第7条第6号を援用し、以下の2点を主張している。
知事は、水道水源等施設整備事業費補助金に係る不適正事務の事案解明のため、一連の事務手続きを再確認するための調査(以下、「事件調査」という。)を行う必要があったこと。
知事は、事案の調査に着手したばかりであったため、開示請求のあった公文書の内容を公にした場合、事案の解明等の調査事務を円滑かつ正確に行うことに支障を及ぼすおそれがあると判断したため、当該規定を適用したこと。
また、「5 異議申立人の主張について」においては、以下の2点の見解を示している。
「本件補助金に係る事務として既に作成等された文書であったとしても、まさに現在進めている事案の調査に関する情報が記録されている文書として、条例第7条第6号の適用の対象となりうる」
「異議申立人は既に事案の解明等に着手していること、また、当該処分が事案の解明等の事務を円滑かつ正確に行うために必要なことは認識しえることから、事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあったため条例第7条第6号を適用したものであることは了知し得るものである」
2 知事の非開示理由及び知事意見書における条例解釈に対する反論
平成11年に成立した「行政機関の保有する情報の公開に関する法律」に習って規定された条例第7条第6号に規定の「県の機関、…(中略)…が行う事務又は事業に関する情報であって、公にすることにより、次に掲げるおそれその他当該事務又は事業の性質上、当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの」(以下、「柱書」という。)の解釈及び適用について、知事の法令解釈の誤りを以下に論証し、知事意見に反論する。
「柱書」のあてはめについて
今回の事例に則して県の主張を非開示の根拠規定として援用した条項に当てはめれば、知事は、知事が非開示とした公文書は、県が行う「事件調査」に関する情報であって、公にすることにより、「事件調査」の性質上、「事件調査」の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある、と判断したこととなる。
これを換言すれば、知事は、①非開示とした文書が「事件調査」に関する情報であること、②非開示とした文書を公にすることにより、「事件調査」の性質上、「事件調査」の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある、との条例第7条第6号が要求する2つの要件を満たすと考え非開示と判断したこととなる。
要件①について
前(1)中の要件①の「非開示とした文書が『事件調査』に関する情報であること」について、知事の法令解釈の誤り及び要件①の不備を以下に証明する。
平成22年11月11日、東京高裁控訴審判決において、本県の条例第7条第6号に相当する渋谷区情報公開条例第6条第6号に規定の「争訟に係る事務に関連する情報」の範囲について以下のとおり判示された。
「『争訟に係る事務』に関する情報が記録された公文書を非公開とすることができる賜閧゚ている趣獅ヘ,実施機関等が一方当事者として争訟に対処するための内部的な方針に関する情報が公開されると,それが正規の交渉等の場を経ないで相手方当事者に伝わるなどして,紛争の公正,円滑な解決を妨げるおそれがあるからであると解され(最高裁平成8年(行ツ)第236号同11年11月19日第二小法廷判決・民集53巻8号1862頁参照),同規定にいう『争訟に係る事務』に関する情報とは,現在係属し又は係属が予想される争訟についての対処方針の策定やそのために必要な事実調査など個別具体的な争訟の追行に係る事務に関する情報にとどまらず,一般的な争訟事務に関する対処方針の策定や事実調査の手法などの情報をも含むものと解するのが相当である。一方,争訟の対象となる行政上の行為の行われる過程において,当該行政上の行為の適正を保持するために作成され,取得された文書は,争訟に係る事務に関して作成され,取得された文書ではないことからすると,これが,当該行政上の行為に係る争訟において証拠として提出されることがあり得るとしても,直ちにこれを争訟に係る事務に関する情報であると解することはできない。」(甲第1号証4ページ1行目)
「争訟が係属し,あるいは係属が予想される行政上の行為又は怠る事実に関する情報は実施機関において一般的に非公開とすることが許容される結果を招来することとなり,区民の知る権利を保障するとともに,区が区政に関し区民に説明する責務を全うすることを目的とし,区の保有する情報は公開することを原則とし,非公開とすることができる情報を限定した本件条例の趣獅ノ反する結果となり相当ではないのである(なお,情報公開・個人情報保護審査会平成14年6月11日答申(平成14年度(行情)答申第56号),同年10月1日答申(平成14年度(行情)答申第231号)参照)」(甲第1号証5枚目18行目)
「これらの文書は,区教育委員会がB学園に対し,同法人によるA学級の運営のために,D小学校の目的外使用を許可し,かつ,その使用料を免除した処分(別件各処分)の過程において,当該行政行為の適正を保持するために作成され,あるいは取得された文書であり,別件各処分に係る別件住民訴訟のための主張立証の方法及びその提出時期の選択についての方針等の対処方針の策定やそのために必要な事実調査の過程で作成され,取得された情報ではない。」(甲第1号証6枚目20行目)
また、この判決において参照している「情報公開・個人情報保護審査会平成14年6月11日答申(平成14年度(行情)答申第56号)」においても、
「『争訟に係る事務』とは,現在提起され又は提起されることが想定されている争訟についての対処方針の策定や,そのために必要な事実調査などその追行に関する事務を指すものであり,行政処分がされる過程において当該処分の適正を保持するため作成・取得された文書は,これらが後日当該行政処分に対する争訟において証拠として提出されることがあり得るとしても,争訟に係る事務に関するものと言うことはできない。このように解しないと,およそ争訟が想定される行政処分に係る事務に関し作成・取得された行政文書は,すべて法5条6号ロに該当し不開示とされる可能性があり,国民に対し政府の説明責任を全うするという情報公開法の趣獅ノ照らし不合理な結果となる。」(甲第2号証4ページ4行目)とした上で、
「当審査会において諮問庁の説明を聞き本件対象文書を見分した結果,本件対象文書は,許可処分を行うために諮問庁又は原処分庁と許可の相手方たる事業者,関係行政機関等との間で行われた折衝内容等を記録したものであり,国の争訟の方針等争訟の追行に関する情報が記載されているものではなく,諮問庁と原処分庁との間で協議した内容を記載した文書についても,争訟が提起された場合の争訟の方針等争訟の追行に関する情報は記載されていないことなどから,いずれも法5条6号ロに該当しないものと認められる」(甲第2号証4ページ15行目)との判断を下している。
これらの論拠を踏まえ、当該判決において対象となっている「争訟」という事務・事業を本件事案に係る「事件調査」事務に置き換えれば、以下の結論が導出される。
すなわち、
「事件調査の対象となり,あるいは事件調査の対象となることが予想される行政上の行為又は怠る事実に関する情報は実施機関において一般的に非公開とすることが許容される結果を招来することとなり,県民の知る権利を尊重するとともに,県が県政に関し県民に説明する責務を全うすることを目的とし,県の保有する情報は公開することを原則とし,非公開とすることができる情報を限定した条例の趣獅ノ反する結果となり相当ではないのである」
「非開示とされたこれらの文書は,厚生労働省から大井川広域水道企業団に水道水源等施設整備費補助金が交付されることを目的として,県がこれらと連絡調整する過程において,当該行政行為の適正を保持するために作成され,あるいは取得された文書であり,この事務に係る別件事件調査のための調査の方法及びその時期の選択についての方針等の対処方針の策定やそのために必要な会議の過程で作成され,取得された情報ではない。」のである。
よって、非開示とした文書は、そもそもその作成過程からして「事件調査に関する情報」でないため、当該文書を「事件調査に関する情報」として非開示とすることは、条例第7条第6号の適用要件を欠き、違法である。
また、以上の法令解釈から、文書作成の過程を無視し、単に事件調査の対象となっていることをもって条例第7条第6号規定の非開示対象であるとした「1 知事が非開示とした具体的な理由等について」中の③の知事の主張が法令の適用を誤ったものであることは明らかである。
要件②について
条例第7条第6号に規定の「その他当該事務又は事業の性質上、当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの」の解釈として、「新・情報公開法の逐条解説(第6版)」(有斐閣)において、
「『事務又は事業の性質上』という表現は、当該事務または事業の内在的性格に照らして保護に値する場合のみ不開示にしうることを明確にする趣獅ナある。」(甲第 3号証2枚目左20行目)と解説されている。
このことからすれば、本件非開示文書の作成過程であるところの、厚生労働省から大井川広域水道企業団に水道水源等施設整備費補助金が交付されることを目的として,県がこれらと連絡調整する事務自体が、その事務の内在的性格に照らして保護に値するなどということは想起できないことから、当該連絡調整事務は条例第7条第6号に規定の非開示の対象たる「事務又は事業」といえないことは明らかである。
よって、前(1)中の要件①及び②の「事件調査」を当該連絡調整事務に置き換えたとしても条例第7条第6号に規定の要件を満たすことはできないのである。
また、同書においては、「『適正』という要件を判断するに際しては、開示のもたらす支障のみならず、開示のもたらす利益も比較衡量しなければならない。本条1号・2号におかれている公益上の義務的開示の規定が6号におかれていないのは、『適正』の要件の判断に際して、公益上の開示の必要性も考慮されるからである(大阪地判平成19.6.29判タ1260号186頁)。『支障』の程度については、名目的なものでは足りず、実質的なものであることが必要であり、『おそれ』も、抽象的な可能性では足りず、法的保護に値する程度の蓋然性が要求される。したがって、一般的にいって、本号は、行政機関に広範な裁量を与える趣獅ナはない」(情報公開法要綱案の考え方4(6))」(甲第3号証2枚目左22行目)との解説があるが、知事の主張においては、これについて十分な考慮がなされていないことを証明する。
知事は、異議申立人の具体的支障が一切示されていないとの主張に対して、「具体的な支障の範囲までは示していない」と認めつつ、「異議申立人は既に事案の解明等に着手していること、また、当該処分が事案の解明等の事務を円滑かつ正確に行うために必要なことは認識しえることから、事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあったため条例第7条第6号を適用したものであることは了知し得るものである。」(「1 知事が非開示とした具体的な理由等について」中の④)と反論している。
しかし、前段の事実(「異議申立人は既に事案の解明等に着手していること、また、当該処分が事案の解明等の事務を円滑かつ正確に行うために必要なことは認識しえる」)から、なぜ後段の結論(「事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあったため条例第7条第6号を適用したものであることは了知し得る」)に至るのか、論理的必然性もない上に、結論に至る展開の道筋につながりさえない。
そもそも、前段の事実中の「当該処分が事案の解明等の事務を円滑かつ正確に行うために必要なことは認識しえる」との見解は、その根拠すら不明である。いったい知事は、本件公文書開示請求が、事件調査に必要な公文書の原本やその写しまでも押収するような請求であるとでも考えているのだろうか(注:現実に今回の公文書開示請求は写しの交付を求めており、原本開示を求めていない)。それとも、公文書開示制度に内在する受忍限度の範囲内とされる開示請求にかかる事務負担が事件調査に当たって支障だとでも言いたいのだろうか。
さらに、そのように調査着手の事実から非開示が自明な判断であると考えるなら、知事は何ゆえに開示決定等の期限をわざわざ延長し、かつ、異議申立てから知事意見書の提出までに2か月以上の期間を要したのだろうか。
いずれにしても、知事のこのような主張は、場当たり的で主観的かつ非論理的な主張であるばかりか、条例第7条第6号の適用に当たって求められる具体的支障については何ら答えていない極めて不当なものである。
このことは、知事意見書の当該規定を適用した理由中の「事案の調査は着手したばかりであったため、その内容を公にした場合、事案の解明等の事務を円滑かつ正確に行うことに支障を及ぼすおそれがあると判断し、当該規定を適用した」(「1 知事が非開示とした具体的な理由等について」中の②)との主張においても同様である。
ここで、「その内容」とは開示請求の対象となった補助金事務手続きに係る公文書であり、併せて県による事案調査の対象となった公文書を指すと推察されるが、事件調査に着手したばかりであると、なぜ調査対象公文書の内容を公にすることがその調査事務に支障を及ぼすのか、前段の事実(「調査は着手したばかり」)と後段の結論(「事案の解明等の事務を円滑かつ正確に行うことに支障を及ぼすおそれがある」)の論理的結合性が全く不明であり、かつ、具体的支障が想起できない。
まさか、何らかの必要により調査に着手したばかりであれば、その調査の対象となる公文書は、自動的に調査事務の支障になるものとして、全て非開示にできるとでも考えているのだろうか。不明である。
条例第7条第6号の適用に際し、「適正」の要件判断における開示のもたらす利益(本件の場合は、補助金事務の適正の検証・監視及び証拠保全による事件調査の過程における既存文書の恣意的改ざんの抑制に資するなどが想定される)に対する「支障」の内容及び程度の判断が必要不可欠であり、やはり知事の主張は法令解釈とその適用に当たっては、あまりに主観的かつ非論理的なもので不当なものである。
その他の反論
知事が知事意見書において、「支障を及ぼすおそれ」について、何ら具体例を示しておらずに「おそれ」を主張している事実から、「支障を及ぼすおそれ」について、知事に広範な裁量があるかのごとく解釈している疑いがあるので、このことについて以下に補足的に反論しておく。
「現代行政法講座Ⅳ 自治体争訟・情報公開争訟」(日本評論社)において、「『おそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある』との記載はないので、行政機関の長に広範な裁量が認められるわけではなく、裁判所の全面的な審査に服する」(甲第4号証2ページ左23行目)との解説にあるとおり、知事に客観的判断を排除できるような広範な裁量が認められるものではなく、「円滑な執行に著しい支障を生ずるおそれがあるか否かについては行政機関側の事情であり、被告らは、右非開示部分の記載内容等を了知しているのであるから、被告らの側で、右非開示部分の非開示により、当該事務事業の実施の目的が失われること、当該事務事業の公正かつ適切な執行に著しい支障を生ずること、当該事務事業の円滑な執行に著しい支障を生ずることを具体的に主張立証する必要がある」(福岡地判平成11.3.18)との判獅ェ示すとおり、非開示の文書を保有している知事の側において具体的な支障を明らかにし、客観的審査に付すべきである。(注:少なくとも開示請求の最小単位となる一公文書ごとに判断すべきは当然である。)
けだし、具体的支障が示されなければ、それ自体の適否はもちろん、開示のもたらす利益との比較衡量上の「適正」をも客観的に判断しようがないからである。
総括
以上反論のとおり、処分庁が主張した非開示とした条例上の根拠規定の適用判断には明らかな誤りがあるため、「1 知事が非開示とした具体的な理由等について」中の②、③及び④については否認、①については考慮すべき事実外であるため不知と意見するものである。
よって、平成26年4月7日付け(25)環水第254号の2による公文書非開示決定処分を取り消し、対象公文書62件を速やかに開示すべきである。
3 付記(書証説明)
略
以上
<参考:PDF版>
県からの依頼文書一式
知事意見書への反論の意見書
<参考:これまでの経過リンク>
「大井川広域水道企業団補助金不適切事務処理関係公文書非開示に係るこれまでの経過と所感」
<知事意見書に対する反論の意見書>
平成26年6月30日
静岡県情報公開審査会
会 長 興 津 哲 雄 殿
異議申立人 鈴木 浩伸
意 見 書
平成26年6月23日付け静情審第8-2号で依頼のあったこのことについて、静岡県情報公開条例(以下、「条例」という。)第25条第2項に基づき、本書のとおり意見書を提出する。
また、本書の提出をもって、意見陳述については希望しないことを併せて回答する。
記
平成26年6月18日付け環水第74号の4により静岡県知事(条例第2条に規定の実施機関)から提出のあった「意見書」(以下、「知事意見書」という。)に記載の非開示とした理由等について、以下のとおり意見を述べる。
1 知事が非開示とした具体的な理由等について
知事は、請求した公文書の全てについて非開示とし、その根拠規定として条例第7条第6号を援用し、以下の2点を主張している。
知事は、水道水源等施設整備事業費補助金に係る不適正事務の事案解明のため、一連の事務手続きを再確認するための調査(以下、「事件調査」という。)を行う必要があったこと。
知事は、事案の調査に着手したばかりであったため、開示請求のあった公文書の内容を公にした場合、事案の解明等の調査事務を円滑かつ正確に行うことに支障を及ぼすおそれがあると判断したため、当該規定を適用したこと。
また、「5 異議申立人の主張について」においては、以下の2点の見解を示している。
「本件補助金に係る事務として既に作成等された文書であったとしても、まさに現在進めている事案の調査に関する情報が記録されている文書として、条例第7条第6号の適用の対象となりうる」
「異議申立人は既に事案の解明等に着手していること、また、当該処分が事案の解明等の事務を円滑かつ正確に行うために必要なことは認識しえることから、事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあったため条例第7条第6号を適用したものであることは了知し得るものである」
2 知事の非開示理由及び知事意見書における条例解釈に対する反論
平成11年に成立した「行政機関の保有する情報の公開に関する法律」に習って規定された条例第7条第6号に規定の「県の機関、…(中略)…が行う事務又は事業に関する情報であって、公にすることにより、次に掲げるおそれその他当該事務又は事業の性質上、当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの」(以下、「柱書」という。)の解釈及び適用について、知事の法令解釈の誤りを以下に論証し、知事意見に反論する。
「柱書」のあてはめについて
今回の事例に則して県の主張を非開示の根拠規定として援用した条項に当てはめれば、知事は、知事が非開示とした公文書は、県が行う「事件調査」に関する情報であって、公にすることにより、「事件調査」の性質上、「事件調査」の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある、と判断したこととなる。
これを換言すれば、知事は、①非開示とした文書が「事件調査」に関する情報であること、②非開示とした文書を公にすることにより、「事件調査」の性質上、「事件調査」の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある、との条例第7条第6号が要求する2つの要件を満たすと考え非開示と判断したこととなる。
要件①について
前(1)中の要件①の「非開示とした文書が『事件調査』に関する情報であること」について、知事の法令解釈の誤り及び要件①の不備を以下に証明する。
平成22年11月11日、東京高裁控訴審判決において、本県の条例第7条第6号に相当する渋谷区情報公開条例第6条第6号に規定の「争訟に係る事務に関連する情報」の範囲について以下のとおり判示された。
「『争訟に係る事務』に関する情報が記録された公文書を非公開とすることができる賜閧゚ている趣獅ヘ,実施機関等が一方当事者として争訟に対処するための内部的な方針に関する情報が公開されると,それが正規の交渉等の場を経ないで相手方当事者に伝わるなどして,紛争の公正,円滑な解決を妨げるおそれがあるからであると解され(最高裁平成8年(行ツ)第236号同11年11月19日第二小法廷判決・民集53巻8号1862頁参照),同規定にいう『争訟に係る事務』に関する情報とは,現在係属し又は係属が予想される争訟についての対処方針の策定やそのために必要な事実調査など個別具体的な争訟の追行に係る事務に関する情報にとどまらず,一般的な争訟事務に関する対処方針の策定や事実調査の手法などの情報をも含むものと解するのが相当である。一方,争訟の対象となる行政上の行為の行われる過程において,当該行政上の行為の適正を保持するために作成され,取得された文書は,争訟に係る事務に関して作成され,取得された文書ではないことからすると,これが,当該行政上の行為に係る争訟において証拠として提出されることがあり得るとしても,直ちにこれを争訟に係る事務に関する情報であると解することはできない。」(甲第1号証4ページ1行目)
「争訟が係属し,あるいは係属が予想される行政上の行為又は怠る事実に関する情報は実施機関において一般的に非公開とすることが許容される結果を招来することとなり,区民の知る権利を保障するとともに,区が区政に関し区民に説明する責務を全うすることを目的とし,区の保有する情報は公開することを原則とし,非公開とすることができる情報を限定した本件条例の趣獅ノ反する結果となり相当ではないのである(なお,情報公開・個人情報保護審査会平成14年6月11日答申(平成14年度(行情)答申第56号),同年10月1日答申(平成14年度(行情)答申第231号)参照)」(甲第1号証5枚目18行目)
「これらの文書は,区教育委員会がB学園に対し,同法人によるA学級の運営のために,D小学校の目的外使用を許可し,かつ,その使用料を免除した処分(別件各処分)の過程において,当該行政行為の適正を保持するために作成され,あるいは取得された文書であり,別件各処分に係る別件住民訴訟のための主張立証の方法及びその提出時期の選択についての方針等の対処方針の策定やそのために必要な事実調査の過程で作成され,取得された情報ではない。」(甲第1号証6枚目20行目)
また、この判決において参照している「情報公開・個人情報保護審査会平成14年6月11日答申(平成14年度(行情)答申第56号)」においても、
「『争訟に係る事務』とは,現在提起され又は提起されることが想定されている争訟についての対処方針の策定や,そのために必要な事実調査などその追行に関する事務を指すものであり,行政処分がされる過程において当該処分の適正を保持するため作成・取得された文書は,これらが後日当該行政処分に対する争訟において証拠として提出されることがあり得るとしても,争訟に係る事務に関するものと言うことはできない。このように解しないと,およそ争訟が想定される行政処分に係る事務に関し作成・取得された行政文書は,すべて法5条6号ロに該当し不開示とされる可能性があり,国民に対し政府の説明責任を全うするという情報公開法の趣獅ノ照らし不合理な結果となる。」(甲第2号証4ページ4行目)とした上で、
「当審査会において諮問庁の説明を聞き本件対象文書を見分した結果,本件対象文書は,許可処分を行うために諮問庁又は原処分庁と許可の相手方たる事業者,関係行政機関等との間で行われた折衝内容等を記録したものであり,国の争訟の方針等争訟の追行に関する情報が記載されているものではなく,諮問庁と原処分庁との間で協議した内容を記載した文書についても,争訟が提起された場合の争訟の方針等争訟の追行に関する情報は記載されていないことなどから,いずれも法5条6号ロに該当しないものと認められる」(甲第2号証4ページ15行目)との判断を下している。
これらの論拠を踏まえ、当該判決において対象となっている「争訟」という事務・事業を本件事案に係る「事件調査」事務に置き換えれば、以下の結論が導出される。
すなわち、
「事件調査の対象となり,あるいは事件調査の対象となることが予想される行政上の行為又は怠る事実に関する情報は実施機関において一般的に非公開とすることが許容される結果を招来することとなり,県民の知る権利を尊重するとともに,県が県政に関し県民に説明する責務を全うすることを目的とし,県の保有する情報は公開することを原則とし,非公開とすることができる情報を限定した条例の趣獅ノ反する結果となり相当ではないのである」
「非開示とされたこれらの文書は,厚生労働省から大井川広域水道企業団に水道水源等施設整備費補助金が交付されることを目的として,県がこれらと連絡調整する過程において,当該行政行為の適正を保持するために作成され,あるいは取得された文書であり,この事務に係る別件事件調査のための調査の方法及びその時期の選択についての方針等の対処方針の策定やそのために必要な会議の過程で作成され,取得された情報ではない。」のである。
よって、非開示とした文書は、そもそもその作成過程からして「事件調査に関する情報」でないため、当該文書を「事件調査に関する情報」として非開示とすることは、条例第7条第6号の適用要件を欠き、違法である。
また、以上の法令解釈から、文書作成の過程を無視し、単に事件調査の対象となっていることをもって条例第7条第6号規定の非開示対象であるとした「1 知事が非開示とした具体的な理由等について」中の③の知事の主張が法令の適用を誤ったものであることは明らかである。
要件②について
条例第7条第6号に規定の「その他当該事務又は事業の性質上、当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの」の解釈として、「新・情報公開法の逐条解説(第6版)」(有斐閣)において、
「『事務又は事業の性質上』という表現は、当該事務または事業の内在的性格に照らして保護に値する場合のみ不開示にしうることを明確にする趣獅ナある。」(甲第 3号証2枚目左20行目)と解説されている。
このことからすれば、本件非開示文書の作成過程であるところの、厚生労働省から大井川広域水道企業団に水道水源等施設整備費補助金が交付されることを目的として,県がこれらと連絡調整する事務自体が、その事務の内在的性格に照らして保護に値するなどということは想起できないことから、当該連絡調整事務は条例第7条第6号に規定の非開示の対象たる「事務又は事業」といえないことは明らかである。
よって、前(1)中の要件①及び②の「事件調査」を当該連絡調整事務に置き換えたとしても条例第7条第6号に規定の要件を満たすことはできないのである。
また、同書においては、「『適正』という要件を判断するに際しては、開示のもたらす支障のみならず、開示のもたらす利益も比較衡量しなければならない。本条1号・2号におかれている公益上の義務的開示の規定が6号におかれていないのは、『適正』の要件の判断に際して、公益上の開示の必要性も考慮されるからである(大阪地判平成19.6.29判タ1260号186頁)。『支障』の程度については、名目的なものでは足りず、実質的なものであることが必要であり、『おそれ』も、抽象的な可能性では足りず、法的保護に値する程度の蓋然性が要求される。したがって、一般的にいって、本号は、行政機関に広範な裁量を与える趣獅ナはない」(情報公開法要綱案の考え方4(6))」(甲第3号証2枚目左22行目)との解説があるが、知事の主張においては、これについて十分な考慮がなされていないことを証明する。
知事は、異議申立人の具体的支障が一切示されていないとの主張に対して、「具体的な支障の範囲までは示していない」と認めつつ、「異議申立人は既に事案の解明等に着手していること、また、当該処分が事案の解明等の事務を円滑かつ正確に行うために必要なことは認識しえることから、事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあったため条例第7条第6号を適用したものであることは了知し得るものである。」(「1 知事が非開示とした具体的な理由等について」中の④)と反論している。
しかし、前段の事実(「異議申立人は既に事案の解明等に着手していること、また、当該処分が事案の解明等の事務を円滑かつ正確に行うために必要なことは認識しえる」)から、なぜ後段の結論(「事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあったため条例第7条第6号を適用したものであることは了知し得る」)に至るのか、論理的必然性もない上に、結論に至る展開の道筋につながりさえない。
そもそも、前段の事実中の「当該処分が事案の解明等の事務を円滑かつ正確に行うために必要なことは認識しえる」との見解は、その根拠すら不明である。いったい知事は、本件公文書開示請求が、事件調査に必要な公文書の原本やその写しまでも押収するような請求であるとでも考えているのだろうか(注:現実に今回の公文書開示請求は写しの交付を求めており、原本開示を求めていない)。それとも、公文書開示制度に内在する受忍限度の範囲内とされる開示請求にかかる事務負担が事件調査に当たって支障だとでも言いたいのだろうか。
さらに、そのように調査着手の事実から非開示が自明な判断であると考えるなら、知事は何ゆえに開示決定等の期限をわざわざ延長し、かつ、異議申立てから知事意見書の提出までに2か月以上の期間を要したのだろうか。
いずれにしても、知事のこのような主張は、場当たり的で主観的かつ非論理的な主張であるばかりか、条例第7条第6号の適用に当たって求められる具体的支障については何ら答えていない極めて不当なものである。
このことは、知事意見書の当該規定を適用した理由中の「事案の調査は着手したばかりであったため、その内容を公にした場合、事案の解明等の事務を円滑かつ正確に行うことに支障を及ぼすおそれがあると判断し、当該規定を適用した」(「1 知事が非開示とした具体的な理由等について」中の②)との主張においても同様である。
ここで、「その内容」とは開示請求の対象となった補助金事務手続きに係る公文書であり、併せて県による事案調査の対象となった公文書を指すと推察されるが、事件調査に着手したばかりであると、なぜ調査対象公文書の内容を公にすることがその調査事務に支障を及ぼすのか、前段の事実(「調査は着手したばかり」)と後段の結論(「事案の解明等の事務を円滑かつ正確に行うことに支障を及ぼすおそれがある」)の論理的結合性が全く不明であり、かつ、具体的支障が想起できない。
まさか、何らかの必要により調査に着手したばかりであれば、その調査の対象となる公文書は、自動的に調査事務の支障になるものとして、全て非開示にできるとでも考えているのだろうか。不明である。
条例第7条第6号の適用に際し、「適正」の要件判断における開示のもたらす利益(本件の場合は、補助金事務の適正の検証・監視及び証拠保全による事件調査の過程における既存文書の恣意的改ざんの抑制に資するなどが想定される)に対する「支障」の内容及び程度の判断が必要不可欠であり、やはり知事の主張は法令解釈とその適用に当たっては、あまりに主観的かつ非論理的なもので不当なものである。
その他の反論
知事が知事意見書において、「支障を及ぼすおそれ」について、何ら具体例を示しておらずに「おそれ」を主張している事実から、「支障を及ぼすおそれ」について、知事に広範な裁量があるかのごとく解釈している疑いがあるので、このことについて以下に補足的に反論しておく。
「現代行政法講座Ⅳ 自治体争訟・情報公開争訟」(日本評論社)において、「『おそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある』との記載はないので、行政機関の長に広範な裁量が認められるわけではなく、裁判所の全面的な審査に服する」(甲第4号証2ページ左23行目)との解説にあるとおり、知事に客観的判断を排除できるような広範な裁量が認められるものではなく、「円滑な執行に著しい支障を生ずるおそれがあるか否かについては行政機関側の事情であり、被告らは、右非開示部分の記載内容等を了知しているのであるから、被告らの側で、右非開示部分の非開示により、当該事務事業の実施の目的が失われること、当該事務事業の公正かつ適切な執行に著しい支障を生ずること、当該事務事業の円滑な執行に著しい支障を生ずることを具体的に主張立証する必要がある」(福岡地判平成11.3.18)との判獅ェ示すとおり、非開示の文書を保有している知事の側において具体的な支障を明らかにし、客観的審査に付すべきである。(注:少なくとも開示請求の最小単位となる一公文書ごとに判断すべきは当然である。)
けだし、具体的支障が示されなければ、それ自体の適否はもちろん、開示のもたらす利益との比較衡量上の「適正」をも客観的に判断しようがないからである。
総括
以上反論のとおり、処分庁が主張した非開示とした条例上の根拠規定の適用判断には明らかな誤りがあるため、「1 知事が非開示とした具体的な理由等について」中の②、③及び④については否認、①については考慮すべき事実外であるため不知と意見するものである。
よって、平成26年4月7日付け(25)環水第254号の2による公文書非開示決定処分を取り消し、対象公文書62件を速やかに開示すべきである。
3 付記(書証説明)
略
以上
<参考:PDF版>
県からの依頼文書一式
知事意見書への反論の意見書
<参考:これまでの経過リンク>
「大井川広域水道企業団補助金不適切事務処理関係公文書非開示に係るこれまでの経過と所感」