しろくま日記

読んだ本の感想を記録してみたいと思います。
なんだか忘れてしまうので。

航路 上、下 コニー・ウィリス著 大森望訳 ハヤカワ文庫

2016-03-20 | 海外SF
古典的名作「トリフィド時代」の後は一気に21世紀まで下り本書を手に取りました。
これまた「犬は勘定に入れません」読了後ブックオフで入手はしていました。

が、かなり分厚い上下巻(1300ページ)にびびって読みだせずにいました。
感想を書く本もかなりたまっていた状態だったので手に取った動機には「読むのに時間がかかる本もいいかなぁ」という気もあったりしました。

本書は‘12年ローカス誌21世紀ベストで50位、SFマガジンベスト’06年35位’14年18位、2001年の刊行です。

訳者でSF評論家でもある大森望氏は訳者あとがきで「自分が十数年訳してきた40冊近い本の中では、まちがいなくベストワン」「10年に一度の傑作」といっています。
私的にもウィリス作品は「ドゥームズディ・ブック」「犬は勘定に入れません」は読了済でその力量は信頼しており「まぁ外れないだろう」という期待を持ち読み始めました。

内容紹介(裏表紙記載)
上巻:
マーシー総合病院で、臨死体験者の聞き取り調査を行っていた認知心理学者のジョアンナは、神経内科医のリチャードから新規プロジェクトへの協力を求められる。 NDE(臨死体験)を人為的に発生させ、その時の脳の活動を詳細に記録しようというのだ。 しかしその実験にはトラブルが続出し、被験者が不足してしまうジョアンナはみずからが被験者となることを申し出るが、彼女が疑似臨死体験でたどりついた場所は・・・・・・!?

下巻:
暗礁に乗り上げた研究プロジェクトを救うため、ジテタミンを投与されたジョアンナが疑似臨死体験のなかでたどり着いた先は、思いもかけぬ場所だった。自分は確かにここを知っている。なぜ、どこなのか思い出せないのだろう?ジョアンナは答えをもとめて必死に調べ始める。なんども臨死体験を実験で繰り返し、ついに突き止めた真相は、まさに予想だにしないものだった!ローカス賞に輝く読み始めたら止まらない感動作。


読んでいる最中また読了後も感じたことは「これはSFなのか?」ということ。
設定的にはほぼ現代、仮想テクノロジーとしてはほぼ「ジテタミン」のみ(他にも脳モニターやらあるようですが)のみ。

ひたすらマーシー総合病院の迷路のような通路を駆け抜けるのと、臨死体験の説明にページが費やされていきます。
SFというよりも臨死体験をテーマにした医療ミステリーといった感じです。
宮部みゆきが書いた瀬名秀明の「BRAIN VALLEY」のよう」といった評もあるようですが言われてみるとそんな感じです。

ウィリスお得意の「お邪魔な」人たちも随時主人公たちを邪魔しますが、「ドゥームズディ・ブック」や「犬は勘定に入れません」の方がイライラさせられました。
大森望氏は技巧の限りをつくした作品的なことを書いていますが、私には前二作と比べると非常にストレートな作品と感じました。

玄人をうならせながらも素人読者には技巧を感じさせない……。
超絶技巧なのかもしれませんね。

ただ私の好みは、「ドゥームズディ・ブック」>「犬は勘定に入れません」>「航路」となります、まっ素人ですから(笑)
また大森望氏は本作「ドゥームズディ・ブック」の3倍泣いたと書いていますが、私は逆でした...。
人それぞれ好みも涙腺の勘所も違うんですね。

と本作をけなしているような文章ですが、1300頁の大作、先がものすごく気になりながら一気に読んでしまいました、傑作だと思います。

私の感じとしては本作のテーマは人間の「意志」ではないかと感じました。
どんなに困難な状況、理不尽な「死」「病気」「痴呆」「状況」であったりして、解決できないにしてもとにかくそれに向かい合う「意志」をストレートに描いていました。
ときには遺志であったりも…。
(と書くとなにやらシリアスなお話のようですが基本コメディタッチで展開していきます)

とくにヒロインであるジョアンナのまっすぐな「思い」というか、いろんな意味で善良かつ健全であろうとする「意志」に圧倒されます。
第一部ではその「思い」「意志」がストレートに紹介され、第二部で空回りし出します。
なんとかその空回りも解決しそうなところでの第二部ラストには唖然としました…。

第三部でも「ヒロイン」の「意志」は貫かれるわけですが、なんともせつなくやるせない状態になります。
そうなっても私の場合「涙」というよりは「共感」「応援」的なものがメインの感情でした。
大森望氏の号泣したという「58章」ではさすがに目に涙がウルウルしましたが….。
この「58」という数字にも第1部から伏線が張ってあり、その他にももう一度読み返せばあちこちに周到な伏線が見つかるんでしょうね。

ただ今回は「個人の思い」をストレートに感じられる感動作、上質なエンターテインメント作品として楽しめました。

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