つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

ガラスでマントは作れない

2005-06-20 23:59:42 | ファンタジー(現世界)
さて、相方がファンタジーが少ないとボヤクので第202回は、

タイトル:風の又三郎――ガラスのマント
編者:朝日新聞社編
出版社:朝日新聞社

であります。

まず最初に断っておくと、これは宮沢賢治の『風の又三郎』ではありません。
その実写映画のフィルム・ブックです。
綺麗なカラー写真五十数点と細かい解説で映画の魅力を余すことなく伝えており、ストーリーブックとしても楽しめます。

主人公は原作に出てこない少女『かりん』。
父が亡くなり、母も病気の治療のために療養所に入らざるを得ない状況で、彼女は養女として本家に迎えられることがほぼ決定していました。

母との別れを拒むかりんは、ある日の夕方に本家の屋敷を飛び出します。
森の中の隠れ家に身を潜めてうたたねしていると、どこからともなく聞こえてくる不思議な歌声――どっどど どどうど どどうど どどう。

そして……かりんは見たのです。
夜霧の向こう、森の色に溶けるような緑の帽子、緑のマント、緑の靴を身につけ、巨木の上に座る不思議な少年を……。

来ましたね。

夜、霧、森、着物の少女!(いや、それは関係ないだろ)
これだけ条件揃えてボーイ・ミーツ・ガールかませる少年などそうはいません。
そう、奴です――風の又三郎です。

又三郎のキャスティングが非常にいい。
かりん達が通う小さな学校に転校生として現れるのですが、真っ白い帽子、真っ白いマント、すましたお顔で度肝を抜いてくれやがります。
なんと言うか……雰囲気がハイカラなのです、普通の子役じゃなくてオーディションで選ばれた子らしいんだけど、これは大当たり。

かりん役もよいです。
周囲から程よく浮いてて(笑)、自然を象徴する又三郎と他の子供達との間に立つ巫女役として、いい感じの演技を見せてくれました。
ちなみに彼女もオーディションで選ばれた子ですが、その後女優となりました――早勢美里、って知ってますか?

かりんの母が壇ふみ、使用人のおばばが樹木希林とサブキャラも豪華。
でも特筆すべきは、又三郎の父親が草刈正雄だということ。
かりんが又三郎の家に行った時、チェロを弾いてくれます――つーか、お父さん役似合いすぎ、昔は汚れた英雄だったんだが……。(笑)
深く考えると、セロ弾きのゴーシュのオマージュだったのかも。

ストーリーの本筋は原作を追いつつも、原作より遥かに又三郎のキャラクターがファンタジックに描かれている、不思議な映画でした。
又三郎と接触することで大人に近づいていくかりんの姿を描くことに主眼がおかれており、従来のものとは違った雰囲気が楽しめます。

うーむ、書評じゃなくて映画レビューになってしまった。
わっ、時間ないので今日はこれまでっ。
(次の日に大幅加筆しました、ごめんなさい)

え、カテゴリーがファンタジーなのはなぜか?
本来ならその他カテゴリーなんですが、本の最後に原作の『風の又三郎』の全文が掲載されているので、敢えてファンタジーにしました。
原作だけだと文学カテゴリだしなぁ……。

こういうのも読んだりして

2005-06-19 15:01:48 | その他
さて、ファンタジーのカテゴリーがまったく増えてないと思うの第201回は、

タイトル:性と呪殺の密教 ~怪僧ドルジェタクの闇と光
著者:正木晃
出版社:講談社選書メチエ

であります。

密教、と言うことで仏教……宗教の本であります。
とは言っても、副題が示すとおり、仏教は仏教でも日本の仏教者の名前ではないから、別のところのだけど、これはチベット仏教を題材にしたもの。

もともと、こういうアジアの宗教や神話など、東洋文化に興味があったし、チベット仏教はドキュメンタリーとか、テレビでちょろっと知ってるくらいなので手に取ってみた。

さて、内容は12世紀前後に実在したドルジェタクという人物を中心に、チベット仏教を概括したもの。

仏教というと昔から日本には馴染み深い宗教だし、密教と言うと弘法大師空海の真言宗、伝教大師最澄の天台宗がある。

でも、チベット仏教は日本で一般的な仏教とはやはり違う。
もちろんお国柄ってのもあるんだろうけど。

まずタイトルのとおり、キーワードは「性」と「呪殺」
仏教では不犯、不殺と言う戒律があるにもかかわらず、これ。

しかし、当時の政治状況や宗教の状況などから、なぜそういうのが必要であったのかをしっかりと解説してくれている。

宗教の本ではあるけれど、印象としては人物伝、それとチベット仏教の歴史を解説しているような感じで、比較的読みやすい本だと思う。

ただ、やはり宗教の本だけあって、仏教関係の専門用語とか、経典の説明や解釈があったりするので、ここが専門家でもないし、そこまで勉強しているわけではないので、文意を掴みきれないところがあった。

もっとも、こんな本を手に取ろうと思うひとが、これくらいのことを気にしてもしょうがないのかもしれないけど~(笑)

分量的には短編

2005-06-18 16:21:58 | 小説全般
さて、これくらいのときには記念しておこうの第200回は、

タイトル:マジョモリ
著者:(作)梨木香歩 (絵)早川司寿乃
出版社:理論社

であります。

このところ、かなりお気に入りの梨木さんの本であります。
作と絵、と言うことでこれはふつうの単行本ではなく、『絵本』

気に入ったらとことん集めてしまうタイプだけど、とうとう絵本にまで手を出してしまった(笑)

さておき、ストーリーは主人公であるつばきが、ある朝、「まじょもりへ ごしょうたい」という手紙を受け取ったところから始まる。

家から道路ひとつ挟んだ先にある深い森。
大人たちは「御陵」と呼ぶそこは、子供たちにとっては「まじょもり」
入ってはいけないと言われているそこへ、けれど「ごしょうたい」を受けたつばきは、「空いろのつる」を道案内に、奥へ奥へと入っていく。

そこでひとりのハナさんと言う女性と出会い、またあとからやってきたふたばちゃんと一緒に、御神饌に生クリームやジャム、ピーナッツバターなどを塗ったお菓子を食べながら、たった3人の小さなお茶会を楽しむ。

とても短い話で、文章だけ読んでいれば30分はいらない。
じっくりと、文章から得られる出来事を、イラストを見ながら想像力を膨らませて、ゆっくりと楽しんでも1時間はかからない分量だと思う。

けれど、1回読んで、今度はイラストだけにして、またじっくりと……と短いぶんだけ、気軽に読める。
まぁ、実際に1回は文章中心にして、2回目はイラスト中心に読んでみたし。
文章中心だと見落としてる小さなところに気付くと、またそれがうまい具合に話の中で出てきた小さな言葉とかに対応していておもしろい。

イラストも話にとても合った感じで、特に空白の使い方がうまいと思った。
また、構成もおもしろい。
最初のページの日本家屋のようなイラストや、その次の近代的なシステムキッチン、そのあとのつばきの部屋と言った具合に配置されているけれど、これが読んでいくと、納得。

最後のほうもイラストだけにして、ゆったりとした間を作ったりと、ストーリーをうまく補完している。

しかし、こう何冊か梨木さんの本を読んだけど、この短編もオチがとてもいい。
つばきの家が神社であるとか、おかあさんの名前がふたばであるとか、話が終わったあとの神社の御祭神の縁起とか、そういうのがきっちりと、ラストに修練されていて、まったく不自然さがない。

で、またさらに、ほんとうに最後の最後の最後にやられた。

神社の縁起のところがあって、次のページが、著者ふたりの紹介文になっている。
ふつうなら、ここであとはなんか第何版とかが書いてあるのが文庫とかはふつう。
まぁ、これは著者紹介と、第1刷とかのは一緒になってたけど。

なので、最初は見なかった。
2回目に見たときに、著者紹介のところまで来て、本を閉じようとしたときに、ふとイラストが見えた。

まじょもりと現実世界を分ける木の柵の向こう側に、生クリームをたっぷり使ったようなケーキとフォーク、それから折りたたまれた手紙が1通。

くそぅっ、うまいぜっ!

脱帽であります。

このひとも実は初めて

2005-06-17 18:26:22 | 恋愛小説
さて、ほんとうに梅雨入りしたのかと思っているの第199回は、

タイトル:ファッション界ストーリー「(1)恋愛イリュージョン」「(2)恋愛エチュード」「(3)恋愛マチエール
著者:藤本ひとみ
出版社:角川文庫

であります。

古本屋で読む本がないかと漁っているときに目についたのが「ファッション界ストーリー」という副題。
物書きで、モデルの話を書いているので、こういうものに手が伸びてしまったり(^^;

それに実際、この作家さんは初めてなので、食わず嫌いもどうかと言うのもあってあっさりレジへ。

3巻完結だけど、1冊がとにかく薄いので1日で一気読み。

ストーリーは、有名なファッションの学校の基礎科を終えた主人公松本美欧がデザイナーとして成長していく話で、タイトル通り、成長物語と恋愛物語が不可分の関係にある。

読み進んでいくうちに、キャラの年齢が高いだけの少女小説だな、と思った。

主人公の美欧の21歳を始め、男キャラは同い年から27歳までの3人。
まぁ、これがものの見事に主人公に惚れる。

少年マンガのヒロインが必ず主人公に惚れると言う、いわゆる都合のいい女性キャラとまったくおなじ構図。

まず最初に出会う非常勤講師の久我貴之。
高い身長と精悍な体つき、モデルばりの容姿に有名デザイナーの息子で自身もデザイナー。
作者の萌え度数100%のキャラ。

次に学校の理事長の柚木俊介。
野心家で、暗い過去を持つ実業家で、事業のことと言いながらも主人公に惚れる。

最後におなじ学校の池沢悟。
ニューヨークのコンテストで賞を取るほどの才能の持ち主。もとバスケ部で身長180センチを超える。こいつも主人公に惚れるが友達で終わる。
敵愾心が犇めく生徒の中で主人公にアドバイスをしたり、協力したりと性格はかなりよい。

まー、もう、好きにしてくれ状態。
主人公に対する惚れっぷりも以下同文。

また、主人公の恋に恋して突っ走っていくところも以下同文。

文章は段落ごとの一文が比較的短く、キャラが前面に出てきてテンポはいい。
ただし、何もかもを明け透けに書いて、「匂わせる」とか、「さりげなく」という言葉とは無縁の表現方法なので、無味乾燥で味気ない。

まぁ、少女小説にしては最終的に主人公が誰ともくっつかなかったのが、まだマシ。
お約束街道まっしぐらの予定調和でハッピーエンドだと絶対に思わせる話の流れだったので。

とは言うものの、いい作品かと言われれば、絶対にそうだとは言わないし、オススメもしない。
駄作とふつうの境界線ぎりぎりくらいだし、文庫のカラーをスニーカー文庫と間違えてるんじゃないかと言いたくなる。

あとがきの作者の久我貴之萌えもうざいし。

あー、少女小説が好きならどうぞ、くらいだな。

やはり白羽陣でしょう

2005-06-16 13:03:13 | 木曜漫画劇場(白組)
さて、なぜ学ランなのかツッコンではいけない第198回は、

タイトル:風魔の小次郎(全十巻)
著者:車田正美
文庫名:ジャンプ・コミックス

であります。

扇:最近挨拶がマンネリ気味のSENでーす。

鈴:相棒が全角なのに半角を貫いているLINNで~す。(「ー」と「~」にも注目(笑))

扇:もう少し協調性を持たないか? かなーり一応だが、コンビなんだし。

鈴:……そう言えばそうだったな(爆)
ならば、今回の木曜劇場は「協調性」をテーマに書いてみやう。

扇:ほう、協調性をテーマにね。
それは、「ツー」と言ったら「トロワ」と答えるんだな?

鈴:うむ。「あ」と言ったら「はん」と答えるのだ(爆)

扇:頭痛がしてきたのでさっさと始めよう。(これだから天然は……)
聖闘士星矢の作者、車田正美の描く学ラン忍者アクションです。つーか、私はこっちの方が好き。

鈴:まぁ、冷房の効いた室内と外との気温差で頭痛がするのは仕方あるまい。
……で、忍者なのか、こいつら。

扇:忍者だ! 忍んでないけど忍者だ!
作中で手裏剣一枚も出てこないし、変わり身も分身も使わないけど忍者……だ。
なんで学校同士の抗争に忍者使うんだとか言われると辛いが。

鈴:うむ、確かにそうだが、まぁ、世の権力者の手足となって使われるのが忍だから仕方があるまい。
しかし、その抗争がその次の話とほとんど関係がないところがまた……よしっ!

扇:よしっ!ぢゃねぇだろ。
序盤からデカ文字炸裂するあたり、今日の雲行きは怪しいな。

鈴:そもそも怪しくなるのが当然のようなマンガだしな(爆)
さて、とりあえず、ストーリー紹介でもしておくか。
第1部、学園抗争の助っ人にかり出された小次郎が、なぜか仏さまも出てくる聖剣抗争に巻き込まれる(?)話。

扇:そこはちょっと違うかな。
第一部が学園抗争から始まった風魔一族対夜叉一族の戦い。
第二部が神の作った十聖剣をめぐって華悪崇(カオス)と戦う聖剣戦争。
第三部が風魔一族の内乱だ。

鈴:なんか、第一部から第二部はスケールがでっかくなったが、第三部になっていきなりちっこくなったな。
やはり見せ場は十聖剣の話だと思うんだがなぁ。
あの暴○族も考えつかないような華悪崇側のキャラの名前がおもしろかった。(←なんか違う)

扇:あれは大人の事情……かも。
個人的な見せ場は二巻の『伊賀の影○』調の戦いだと私は思ってたりするが。
華悪崇側のキャラと言えば、涅絽、羅沙亜、雄皇……ほかにもいたけどいいか。どれにも言えることだが、ルビ振ってないと読めない。紫苑は別として。

鈴:読めないよな、とにかく華悪崇側のキャラの名前って。このマンガ知らないで読めたらすごいひと……いや、おかしいひとかもしれない(爆)
じゃぁ、ストーリーはやったので次キャラにしませう。

扇:じゃ、主人公の小次郎。
風魔一族の忍者の一人。ザコには強いが顔キャラ相手だとボロボロになって根性で勝ちを拾うのは王道。風魔一族中では、劉邦の次に弱いかもしれない人(笑)。結局、武蔵には勝てなかった……巌流島の呪いか?

鈴:飛鳥武蔵。忍者ではありません。
孤高の木刀剣士で、はっきり言ってこの作品中最強。聖剣のひとつ、黄金剣を保有し、剣の腕もさることながら、超能力戦士でもあり、妹が死んでからはしがらみがなくなったこともあって、弱点がなくなった。
てか、聖剣戦争のときには、仏さんの都合で相打ちにされたとしか思えないぞ。

扇:だな、あの相打ちはいまだに納得いかん。
竜馬。風魔の独眼竜として恐れられる男。
飛鳥武蔵と同じく超能力戦士(サイキックソルジャー)で、死鏡剣という一般人回避不能な技を使う。あと何もない空間から木刀出すのが得意。ただし、その能力も武蔵には及ばない。
なぜか、聖剣持ってからの方が弱くなったような……。

鈴:だな。
……って、キャラ紹介これで終わりのような気が……。
この話、紹介するに足るだけのネタになりそうなキャラってけっこう少ないな(爆)

扇:何なら俺一人で三人ぐらい書こうか?
個人的に一押しの小龍。薬を染みこませた鳥の羽で相手の動きを封じ、羽根手裏剣でとどめを刺す白羽陣が格好良い。結構ちょこちょこ活躍する。
なんとなく霧隠れ才蔵な霧風。相手を霧で包み、同時に幻影まで見せてしまう霧幻陣が強力。ただし、盲目の敵に当たった時は結構ピンチだった。
華悪崇皇帝。十聖剣を手中に収めようとしている、言動がなんとなくサタンっぽい方。顔にシャドウかかってる間はやたら強かったが、面が割れた途端に弱くなった。哀れ。
他にも沢山いるけど、ま、こんなとこかな。

鈴:確かにこんなとこだろう。なんかメインで目立つキャラ以外の印象が薄いからなぁ。
強いて言えば、確かに風魔の連中くらいだし。
と言うのも仕方あるまい、とは思うけどな。聖剣戦争が派手で目立ってたから、そこのキャラが目立って印象に残るのは仕方あるまい。
ただし、華悪崇側は名前と漢字が憶えにくくて印象に残らない逆のパターンだけど。

扇:ごめん、この漫画のキャラ全部覚えてる。
華悪崇の連中、さらで漢字で書けって言われたら辛いが。

鈴:つらいどころではないぞ、あの当て字は。

扇:まぁな。
強い奴等を倒したらまた強い奴出現という、少年バトル漫画の王道を走ってはいるんだけど、ところどころに妙な味があって好きな漫画です。少なくとも普通の忍術漫画ではありません。
この時の絵は好きだったなぁ。なんとなく日本画っぽかった。

鈴:日本画か……?
しかし、相変わらずだが、車田らしいマンガではあるな。
脇役のほうが人気が出そうなビジュアルなのも、少年マンガの王道だ(笑)

扇:ベタの処理を版画にしてるとこがね、なんか好きなのだ。
らしいと言われたら何も言えんな。脇の方が美形だったり、あからさまに強かったり、いいとこ持ってたりするのはこの世界の常だ。

鈴:だから脇役のほうが人気が出るのではないか。
まぁ、確かに、小次郎じゃぁ、ビジュアル的にもキャラ的にも人気は出にくいとは思うがね。
……と、ファンに喧嘩を売られる前に逃げとこうっと(笑)

扇:あ、逃げた。
戦闘シーンに計算入りまくる漫画に慣れた人からすると大味かも知れないけど、雰囲気が好きなので私はオススメつけときます。決して懐かしさからだけでは……ないと思う。
では今日はこのへんで。さよなら、さよなら、さよならぁ~。

鈴:懐かしさは否定できんぞ、もう(笑)
でも、星矢よりは短いし、気軽に手に取るには長さもいい感じ。だらだら長くやってくれるよりはこれくらいの長さのほうがいいしね。
と言うわけで、微妙にオススメしながらこの辺で。
さよなら、さよならっ、…さよならっ!

螺旋はめぐる

2005-06-15 17:58:05 | ミステリ
さて、ちょこっと変わり種の第197回は、

タイトル:小説スパイラル~推理の絆~(4)
著者:城平京
出版社:スクウェア・エニックス

であります。

漫画『スパイラル~推理の絆』の小説版。
これ、ガンガンNETに一部掲載されているんですが、小説版オリジナルのキャラクター小日向くるみの話がこっちで完結しているということで、買ってきました。

小日向グループ総裁、小日向紋十朗の孫娘、小日向くるみには悩みがあった。
紋十朗の陰謀で、警視庁の警部、鳴海清隆と推理勝負して勝たなければ彼と結婚しなくてはならない状況に追い込まれたのだ。
清隆は仕事をさぼって部下の羽丘まどかをからかうような道楽刑事だが、事件が起こるとさも始めから犯人が解っていたかのように解決してみせる嫌な野郎。
はっきり言って好みの範疇外、というか顔を合わせたくない手合いである。

表向きは破談に協力するようなことを言っているくせに、いざという時にいいところだけもっていく清隆。
へっぽこ上司にイライラをつのらせながら、惚れているのが誰の目にも明らかなまどか。
二人に挟まれたくるみは見事勝利して灰色の青春から脱出できるのか?
それはまた、別のお話であるのだが……と言いたいが、人生そうもいかない。

というわけで、現在も連載中の漫画『スパイラル』の外伝です。
十一巻でミステリではなくファンタジー色が濃くなり、賛否両論な原作ですが、私は特に気にしてないです。
もともと推理物というよりは心理戦を楽しむ漫画だったので、神がどーの悪魔がどーのと言おうが、主人公二人は飽くまで計算とバクチの両天秤で乗り切ってくれると思うので。

で、この小説版完結編、非常に素直(?)な推理物になってます。
くるみと漫画の主人公鳴瀬歩(清隆の弟)が一緒に捜査を進めるのが見所。
あと、ファンとして嬉しいのは歩君とまどかの出会いが描かれていることかな。

ラスト、くるみと清隆の関係は決着を見ます。
また、それまでの清隆の思惑も明かされます。
二人の決別の会話で、くるみの男前っぷりが炸裂してるのでファンなら読むべし。

メディアミックス小説読んだの久々だなぁ。
漫画が会話主体の作品だし、原作者本人が書いてるってことで、はずしはしないだろうと思ったからかも知れない。

書け、書くんだエバ!

2005-06-14 20:46:08 | 文学
さて、久々の強敵だった第196回は、

タイトル:エバ・ルーナ
著者:イサベル・アジェンデ
出版社:国書刊行会

であります。

以前紹介した『エバ・ルーナのお話』の姉妹編、というか本編。
他者に翻弄されつつ、物語を作ることに目覚めていくエバの姿を描いています。

彼女の名はエバ・ルーナ。
エバは生命、ルーナは月を意味する。

インディオの父はエバが生まれる前に立ち去った、その行方は誰も知らない。
孤児だった母はエバが六歳の時に死んだ、料理女が彼女を引き取った。

エバは女中として様々な家に仕えるが、諸事情で長続きしない。
耐えきれなくなったある日、彼女はたった一人で町へと飛び出す。

エバの才はたった一つ、物語を紡ぎ出すことだけ。
しかしそれが、彼女と人々をつなぐ唯一の絆だった。

独裁者に支配された国でエバは生きる。
あたかも、その名を象徴するかのように……。

主人公エバ・ルーナは不思議なキャラクターです。
彼女は安住の地に着くまであっちこっちを転々としますが、陰鬱さがまるでない。
かといって、何があってもどうにかなるさと達観している楽天家でもありません。

彼女は夢想家です。
一つの言葉から、一枚の絵から、一人の人物から発想を得て、物語を構築します。
そして、それを語って聞かせることをコミュニケーションの手段としている。

もちろん、彼女の物語が心に届かない人々も多数います。
言葉によって作られた関係が物理的なもので破壊されることも多々あります。
自然、彼女はそれから逃げること、立ち向かうことの両方を覚えていきます。
中盤で非常に親切な人(私のお気に入り)に拾われるのですが、その時も、「嫌だったら一ヶ月で逃げます」と言い切ったりしている。

空想家で反骨心の塊という不思議な人物、エバ・ルーナ。
そんな彼女を取り巻く環境はリアリズムに満ちています。
感情に流されやすい彼女を支える人々の言葉は非常に重く、現実的です。

人物および政情不安な国の描写が見事で、物語をがっしりと支えています。
ただし、日本人の肌には合わないかも……ピンとこない人は多分沢山いる。

ステレオタイプなキャラクターに食傷気味な方にオススメ。
サブキャラおよびそれにまつわる話が非常に多彩で、読ませます。
カメラマン、移民者、娼婦、軍人、政治家、ゲリラ、両性具有の天使(笑)等々、主人公であるエバを忘れてしまうぐらいバリエーションがあります。
いったい何人ストックしてるんだか……。

ハードカバー、字ぎっしり、入手困難となかなか手強い相手。
読む場合は気合い入れましょう、半端な気持ちだと挫折します。

ちなみに『エバ・ルーナの物語』、先に読んで正解でした、私は。
読み進めていく過程で、聞いたことのある名前や地名がちらほら出てくるのが楽しかったので(笑)。

おお、ナースチェンカ!

2005-06-13 23:01:40 | 文学
さて、短いので速攻で読めたの第195回は、

タイトル:白夜
著者:ドストエフスキー
文庫名:角川文庫

であります。

ドストエフスキーにしては珍しい、100頁ちょっとの短編です。
副題に感傷的ロマンとある通り、トルストイも真っ青のロマンス。

主人公はインテリで夢想家の青年。
ヒロインは祖母に束縛された少女ナースチェンカ。
夜のペテルブルク、運河の欄干に身をもたせかけて泣くナースチェンカを主人公が見た時、ドラマは開幕する。

浪漫ですよ、はい。 

全編、主人公の一人称で書かれており、妄想が炸裂してます。
特に序盤、主人公が自分のことを解説するくだりが凄い。
彼にとって毎日見かける人はすべて知人であり、馴染みの建物は友人なのです!
ネジが数本飛んでると言うか……妄想癖もここまで来ると立派なものだ。

ナースチェンカは彼が自分から接触を試みた初めての女性です。
しかし、欄干で泣いているところでは声をかけられない。
彼女が暴漢にからまれているところを助け、初めて話ができる。
このシチュエーションもまた永遠のロマンですね(笑)。

毎夜、彼女と出会い言葉を交わす時間は彼にとって至福の時。
二人の出会いはまぎれもなく現実です、互いの想いは違えど。
しかし、共有している世界は夢の延長でしかありません。
すべては白夜が見せた幻、脆くはかなく消えるさだめなのです。

以前紹介した『白痴』や『罪と罰』などの大作とはかなり趣が違うので注意。
ドストエフスキーをもっと知りたい方は必読。
必ずや、彼の別の面が見えてくることでしょう。

短いですが、今日はこのへんで……。

事典と言うには微妙なところも

2005-06-12 15:25:04 | 事典/図典
さて、ぶっといので時間がかかったの第194回は、

タイトル:世界神話事典
著者:大林太良、伊藤清司、吉田敦彦、松村一男
出版社:角川選書

であります。

事典と言うことで、世界のあらゆる地域の神話が網羅されている。
誰でも知っているギリシャ神話から日本神話などは当然、東南アジアやメラネシア、アフリカ、南北アメリカ、オーストラリアなどなど、ほんとうにいろんな神話が収められている。

構成は、

総説
共通テーマに見る神話
地域別に見る神話

の3つに大別されている。

総説と共通テーマに見る神話、と言うことで、ただ単に神話を集めて事典にしただけのものではない。
学問としての神話……神話学の本でもある。

と言うわけで、神話が目当てのひとはかなりきついと思う。

ちなみに私もいろんな地域の神話がありそうなので買ってみたものの、はっきり言って総説はうざかった。
別に何とか型の神話だとか、どういう影響を受けたとか、そんなのはぜんぜんいらなかったので、これには閉口した。

しかも、そのぶん、神話そのものがほとんど概要ばかりだし、いろんなのが散らばっていて、地域別に見る神話までけっこう読むのがめんどくさかった。

地域別に見る神話でも、神話そのものは概要版でそれぞれ特徴的なものや有名なものが主体。

とは言うものの、ここに来てようやく目当てのネタになってくるのでおもしろかった。
特に、アメリカとかアフリカ、メラネシア、ポリネシアなど、いままでまったく聞いたことがないような神話は興味深い。

もっとも、物書き的には読み物以外にも、こういうのは資料として使えるから、決して損をしたような感じはないけどね。

読み物として2200円はちと高いけど(^^;

それでいいのか、綿貫!

2005-06-11 20:52:09 | 小説全般
さて、またもやなぜかこちらになってしまったの第193回は、

タイトル:家守綺譚
著者:梨木香歩
出版社:新潮社

であります。

ほんとうは「裏庭」にするつもりだったのに、古本屋で何気なく単行本の棚を見ていたら転がっていたので買ってしまった(笑)

さて、この話は主人公である物書き、綿貫征四郎が書いたもの、と言う体裁の一人称で語られている。
時代はようやく電気工場なるものが出来るようになったころ。
舞台は、死んだ学友の家を中心として語られる生活の話。

……なのだが、お守りを頼まれた家の庭のサルスベリに初っぱなから惚れられてしまう。
つか、それを綿貫に語るのが、死んだはずの学友である高堂。

少しくらい驚けよ! 綿貫!

だいたい掛け軸から現れた高堂に向かって「どうした、高堂」はないだろう。
しかも「サルスベリのやつが、おまえに懸想をしている」と言われて「……ふむ」だけかいっ!

とは言うものの、この綿貫、どこか感覚的にずれているような感じはするけれど、とても人間くさい。
高堂が出てきても、サルスベリに惚れられても、河童がいようととりあえず、受け入れてしまう割に、高堂を始めとして、隣のおばちゃんや和尚、後輩の山内と言った周りのひとたちの言葉や態度に、うろたえたり、不安になったり……。

超然と不可思議を受け入れるところと人間くさいところとのギャップがまたいい味を出している。

また、作品全体を通して、日常の中に不可思議が違和感なく自然に溶け込んでいて、それがとても心地よい。

で、話そのものに戻ると29もの植物の名前のタイトルがついた短編連作。
四季の移ろいの中で、タイトルとなっている植物と絡めて、様々な精霊や妖怪たちと綿貫の生活が描かれている。

構成は短編なんだけど、四季の移り変わりの中での話で一本の長編と言ってもいいと思う。
初っぱなからサルスベリに懸想された話で、どういう終わり方をするのかと思っていたら、きっちりとラストはうまい具合に作ってくれている。

「西の魔女が死んだ」「エンジェル エンジェル エンジェル」もそうだったけど、このひと、ラストの落とし方がうまいんだよなぁ。

キャラも綿貫以外の周りの人物も、人間くささがある綿貫と、逆に不可思議の一部分としての脇役と、うまく描かれている。
不可思議を当然の知識として綿貫に解説し、それに対してそうなのかと気付く綿貫の掛け合いは、くすっとさせてくれて楽しいし(^^

と言うか、そこかしこに「くすくすっ」と笑えるところもあるし。

前に読んだ2冊ともまた違った味わいのある作品で、これは「西の魔女が死んだ」と同じくらいオススメ。
作品世界に、するするっと入っていけて、その雰囲気に十二分に浸れる、そんな話。
どちらかと言うと、こっちのほうが好きかもしれないなぁ。