つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

せっかく読んだんだし……

2006-10-13 21:27:15 | 小説全般
さて、作品名なんだからしょうがないじゃんの第682回は、

タイトル:魔羅節
著者:岩井志麻子
出版社:新潮社 新潮社文庫(初版:H16 単行本初版:H14)

であります。

えー、まず先に断っときます。
8編の作品が収録された短編集ですが、タイトルで引かないように(爆)

……では、各話ごとに。

乞食ほいと柱」
明治時代、岡山の北部の民家には必ずあった乞食柱。土間に突き立ったそれは、家の機能として以外にも乞食と家人とを隔てる境だった。そんな貧しい民家の末娘のサトは、ある時、病がもとで目や耳と言った機能が不自由になる代わりに、トウビョウ様という蛇神を見ることが出来るようになる。
巫女のようなことをして、そのおかげで生活は上向きになりかけてはいたが、その間、蛇とともに奇妙な若い男の乞食が頻繁に現れるようになり、蛇とともにサトの心と身体に淫靡なものを植え付けていき……。

「魔羅節」
千吉とハルは、両親の死と生活の困窮から岡山市に出てきた兄妹だった。しかし、それはひとつの理由であり、千吉は幼いころに暮らした村で、雨乞いの魔羅節を歌ったある時、村の男たちに嬲られた経験からでもあった。
そのこともあり、男の女郎として糊口を凌いでいたが、ある夜、客のひとりが故郷の村を訪れたことがある商人だった……。

「きちがい日和」
二月八月のきちがい日和には船を出してはいけない。そんな言い伝えのある瀬戸内海の小さな島のヤヨと花、ナミエは、ともに夫や婚約者をそのきちがい日和に漁船が転覆して亡くしていた。だが、そんな日和はそれだけではなく、幾日か前に見たオットセイのような黒い肌の男を浜に呼び寄せた。
島の最長老のヨシ婆とヤヨと花、ナミエは、それぞれが自らの恋うる相手の代替としてその男を文字通り、飼うことにした……。

「おめこ電球」
貧しさに姉妹は女郎に売られ、兄弟は身を持ち崩した男は、女郎宿の女に昔語りをする間に、いつの間にか父は英国へ留学するほどの分限者だったと語り出す。しかし、それはほんとうに豪奢な屋敷に住む狂った男が妻に紡ぐ語りだった。
それを聞いている妻は、様々な物語などを夫に聞かせ、作らせているはずだったが……。

「金玉娘」
両親を失い、孤児院に入り、そしてある男女の家に子守として引き取られたイネは、昔母親に教えられた「狸の金玉は八畳敷きもある」と言う言葉を覚えていた。引き取られた家ではこき使われるようなこともなく、平穏な日々だったが、小母やんと呼ぶ女性のほうは男が行商に出ると、男を連れて夜ごと情交を重ねていた。
そんな小母やんや男たちにイネは獣の姿を見……。

「支那艶情」
戦争で中国に行き、銃撃を受けて顔に酷い傷を負った峰松は、普段は傷を隠すように俯いているが、覆面を被ると押し入り強盗に殺人、強姦など傲然となる男だった。中国で受けたその傷の復讐もあり、辱めを与えるために支那そばの屋台の女主人のもとにいる纏足の少女に目をつける。
女主人を殴り、その少女を奪い去った峰松は、しかしその少女から意外な事実を聞く……。

「淫売監獄」
トヨは、両親を亡くし、親戚をたらい回しにされながら牛馬のような扱いを受けながら育った。呼ばれないために自分の名を知らなかったトヨは、ある時、引き取られた親戚の主人がトヨを犯そうとしたところをその女房に見つかり、女郎屋へ売られてしまう。
そこで隣に誰かが寝ていると言う独り寝を解消させてくれる幸せを見つけたトヨは、男でも病気のおなじ女郎でも、独り寝を凌げる相手ならば誰でも添い寝をしていた。だが、一緒に逃げようと言う男と口論になり、勢いで男を殺してしまったトヨは刑務所に入り……。

「片輪車」
川嶋は、流産の後、死に別れた妻珠子、かつての教え子との関係の後、送り迎えをしてくれる車引きの善蔵の末娘のタエを、教師を退職したあと、女中として雇っていた。
だが、そのタエは家に珠子の影を見、奇妙な話をする。死にそうな人、死にたい人には、善蔵が引く車は片輪に見える、と……。

以上8編。

なんかこの短編集、「淫猥」の一言でもうOKな気がするくらい、泥臭く、淫らで、猥雑な雰囲気が濃厚。
だいたいは明治くらいの時代で、舞台は岡山、そして会話文は岡山弁なので、土俗的な匂いがするのは当然だが、それにしてもそれ以上に淫猥さが滲み出ている。

作品としては、概ねどれも不幸な生い立ちなどを出発点にしており、けっこう救いのない、突き放したラストが多い。
特に「魔羅節」「金玉娘」などはそういうところが強い。

総評としていいか、またはおもしろいかどうかは……微妙だろうなぁ。
はっきり言って、これはかなり好みが分かれるだろうし。
個人的には淫猥だが、俗っぽいいやらしさの薄い印象で、雰囲気も強く、OKなほうだが、ダメなひとはとことんダメな気がする。
まぁ、タイトルで引いてしまうタイプのひとにはまず向かないだろうね。

私は「よくやったよ、このひと……」と思うけどね。


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