つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

またですか……

2012-05-05 16:14:10 | 小説全般
さて、ようやく2巻でありますの第1013回は、

タイトル:祝もものき事務所2
著者:茅田砂胡
出版社:中央公論新社 C☆NOVELSファンタジア(初版:'11)

であります。

けっこう読んでも記事にしない小説が多々あります。
何の感慨もなかったり、感性が拒否反応を起こして途中で読むのを断念したりと理由は様々ですが……。

そんな中、茅田さんの作品は比較的安心して読める話が多いのですが、この2巻はどうなっていることやら……。

ストーリーは、

『事務所に訪れたのは宿根と名乗った人物だった。事務所所長の百之喜太朗は厄介ごとが嫌いな面倒くさがり。どんな依頼なのかと思っていたが、宿根の依頼は拍子抜けするほどのことだった。
依頼内容は、とあるビルのカフェで出くわした人物の安否の確認をしてほしい、と言うものだった。

宿根が言うには、とあるビルのカフェで遅い昼食を摂っていたとき、そこに居合わせた客で、同じビルの山根コーポレーションに勤めている小林という人物のことで、そのとき、その小林と言う人物は糖尿病の発作で倒れてしまったのだ。
騒然とする店内で、当初は宿根も何もできないでいたが、カフェには医療関係者が居合わせていたらしく、小林にインシュリンを投与しようとしていた。
だが、宿根には過去に猫の糖尿病で得た知識があり、その医療関係者が投与しようとしていたインシュリンの量が半端ではなかったのだ。

高血糖ではすぐ死なないが、低血糖では死ぬ。そのことを知っていた宿根は小林が倒れた原因が低血糖であると判断し、血糖値を下げるインシュリンではなく加糖するべきだと判断して、グルコースを飲ませたのだった。
その後、小林は救急車で運ばれてしまい、安否はわからずじまい。
本当に自分のした処置は正しかったのか、そのことで悩んでしまった宿根は、百之喜も恐れる大家の越後屋銀子の紹介で事務所を訪れたと言うのだ。

どんな厄介な依頼かと思いきや、案外簡単そうな相談だったので依頼を受けた百之喜は、秘書の凰華とともに小林が勤めている会社に向かったのだが、そこには該当する人物がいない。
仕方なく件の事件が起きたカフェで聞き込みをしていると、倒れた当の小林が現れた。――のだが、彼は小林ではなく、樺林慎であり、山根ではなく、周コーポレーションに勤めている会社員だった。

そしてそこから事態は泥沼の様相を呈してくる……。』

読んでいてまず思ったのは、また親族ネタですか……、ってとこでしょうか。
1巻も相続絡みの親族ネタでしたが、今回はそれに輪をかけて複雑な親族、人間関係が絡んだ遺産相続にまつわる話でした。

ストーリーは、宿根の依頼を受けていろいろと調査をするうちに、徐々に明らかになってくる離婚、再婚などを巡って発生する遺産相続問題に樺林が巻き込まれ、最初の事件であるインシュリン投与事件に端を発する樺林の殺人未遂などを絡めて、誰が樺林を殺そうとしているのか、が解き明かされていく、と言う内容。
相変わらず、何でもないことや他愛ない出来事から事件を大きくしていく手腕は見事ですが、今回はキャラがとてもたくさん出てきて、しかも離婚、再婚で親族関係や遺産相続問題が絡んでいて、人間関係がとてもややこしいです。
はっきり言ってさっくりと一読した限りでは、相関関係を想像するがかなり難しいくらいです。
……と言うか、この人間関係の複雑さには辟易しました。

キャラも主人公の百之喜や凰華は変わらずですが、これまた相変わらず非常識人といろんな意味で強い女性を描くのは茅田さんらしいところでしょう。
特に女性キャラ。昔、スニーカー文庫で出ていたころの「桐原家の人々」シリーズのあとがきで、著者本人が「強い女性が好き」と語っていましたが、芯の強い女性キャラがこれでもかと言うくらい出てきます。
この辺りは著者の趣味でしょうか。……と言うか、億単位の遺産相続をそれがどうしたってくらいに剛胆に構えられる人物はそうそういないと思うのですが、当たり前のように出てきます。
まぁ、非常識を書かせれば天下一品の著者ですから、逆に言えばこうした強い女性たちも非常識の範疇に入るのかもしれませんが……。

ともあれ、人間関係のややこしさを除けば、上記のとおり、小さな出来事から事態を大きくしていく著者らしい展開で、ファンにとっては楽しめる作品ではないでしょうか。
もっとも連続して親族ネタで攻めてくるのはいかがなものかと言う気はしないでもありませんが……。
あと、前作よりも人間関係がややこしすぎて、著者の魅力である何も考えずに読める、と言うのが阻害されているところもマイナスでしょうか。
でもまぁ、まだ2巻。今後はどんな事件を扱うことになるのか、期待はしたいところです。

と言うわけで、総評としては及第と言ったところでしょうね。
個人的に茅田さんの作品は好きだけど、「デルフィニア戦記」のように手放しでオススメできるような作品ではないけど、さして落第にするようなひどい話でもないので、こういうところに落ち着いてしまいますね。


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