つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

絵は似せるもんじゃないか!?

2012-04-28 14:36:28 | SF(国内)
さて、そんなふうに思うわけですよの第1011回は、

タイトル:ミニスカ宇宙海賊パイレーツ
著者:笹本佑一
出版社:朝日新聞出版 ASHAHI NOVELS(初版:'08)

であります。

タイトルは……アニメのほうのお話です(笑)
だいたいアニメ化するに当たっては、多少なりとも原作のイラストと似せて絵を作るものだと思いますが、アニメの「モーレツ宇宙海賊」のほうの絵を、本書のイラストの違うこと違うこと。
原作知ってて、アニメを見た人は絵柄の違いにかなり戸惑うんじゃないかぁ、と思うわけですよ。

それはさておき、「エリアルシリーズ」で一世を風靡した(と思う)笹本氏の新シリーズですが、アニメ先行で見てだいたいのあらすじは知ってはいるのですが……。
ストーリーは、

『白凰女学院高等部1年加藤茉莉香、ヨット部所属。ついでにレトロな喫茶店「ランプ館」でウェイトレスのバイトもこなす元気印の高校生。
ヨット部でのシミュレーターを終えて、他の部員たちより先に学校を出た茉莉香はランプ館でのバイトに精を出していた。
そこに現れた一組の男女。母の知り合いだというふたりは、茉莉香に突然、宇宙海賊の船長にならないかと持ちかけてくる。

わけもわからずその場はしらばっくれた茉莉香はバイトを終えて帰宅。夕食の支度をしていた母の梨理香にランプ館での出来事を話していると、家に来訪者が訪れる。
その来訪者はランプ館で出会った男女で、女性のほうはミーサ、男性のほうはケインと名乗った。
夕食をともにしながら、梨理香とふたりきりだと思っていたら実は父親は数日前に死んだことなど、事情を聞いた茉莉香は正式に「合法の宇宙海賊」である海賊船弁天丸の船長就任要請を受ける。

合法の宇宙海賊――茉莉香たちが暮らす海明星が宗主星との独立戦争の最中、弱体な戦力を補うために時の政府が発行した私掠船免状を持つ宇宙海賊のことだった。
独立戦争そのものは1世紀以上も前のこと。歴史の教科書にすら載っているような時代の話だが、免状そのものは有効なまま。
そしてその免状の更新には、船長の直系の継嗣でなければならないため、茉莉香に白羽の矢が立ったのだった。

とは言え、いきなり宇宙海賊の船長なんて……と返事を保留した茉莉香だったが、そこへ新任の教師として赴任してきたケイン、おなじく新たな保険医として赴任したミーサと再会することになる。ついでにケインはヨット部の顧問にもなっていた。
おまけに編入生として分校からやってきたチアキ・クリハラと言う女生徒までいて、しかもヨット部へ入部。
作為的な匂いがぷんぷんする中、ケインが星間航行の免許を持っていると言うことでヨット部は夏休みの合宿を兼ねて、所有する帆船型の宇宙船オデットⅡ世号で宇宙に出ることに。

単なる女子校のヨット部による練習航海。しかし、中継ステーション係留時からハッキングが行われ、練習航海中も不穏な気配が流れる。
そんな中、茉莉香の取った行動とは? そして茉莉香は宇宙海賊になるのか?』

なんて書いてますが、プロローグで茉莉香が宇宙海賊やってるシーンがあるので、宇宙海賊にはなるんですけどね(笑)

さておき、アニメを見ていたからだろうとは思いますが、絵ってやっぱり偉大ですね。
プロローグはいいんですが、第一章の最初から読むのをやめようかと思いました(笑)
と言うか、この手のSF経験値の低い私には、横文字の単語は意味わかんないし、茉莉香がヨット部のシミュレーターで大気圏突入のシミュレーションを行っているところ、オデットⅡ世号でのトラブルや航海など、ある程度のSFとか、飛行機とか、そういうのの知識がないと、まったく情景が思い浮かびません。
かろうじて読めたのは、アニメでこのシーンはああいう絵だった、と言うのが頼りになったわけで、そうでないとSF経験値の低い方にはかなりつらいのではないかと思います。
特にスペースオペラと銘打っておきながら、内容はラノベに近いので、ラノベ感覚で手を出すとホントにつらいと思います。

ストーリーは、宇宙海賊とは言っても宇宙海賊の仕事をしているのはプロローグだけ。あとは茉莉香が船長になる決断をするまでのヨット部での練習航海での出来事が中心です。
ストーリー展開はまぁまぁです。大きな破綻があるわけでもなく、そつなく進んでいきます。
武装も何もないオデットⅡ世号を襲う謎の宇宙船との電子戦が主となってストーリーは進み、茉莉香の発案でこれを退ける、と言うのが大筋の流れですが、どうやらこれが契機となって茉莉香は船長になる決意をするわけですが……。
決意に至るまでの茉莉香の心理描写が乏しいので、まったく説得力に欠けます。
まぁ、いろいろと想像することで楽しんでください、と言うことなのかもしれませんが、想像するのにすら心理描写に乏しいので、これもかなりきついのではないかと思います。

文章は最近のラノベ作家とはさすがに違って作法を心得ていますが、キャラの演じ分けがうまくないので、頻繁に話し言葉がいったい誰が喋っているのか、と言うのがわかりにくいことがあります。
キャラが多数出てきて……と言うのならわかりますが、当直でブリッジに詰めている茉莉香とチアキのふたりの会話ですら、どっちの台詞なのかがわかんないときが出てくるのはどうかと思いますね。
喋り言葉に特徴をつけるなり、地の文でフォローするなりして、きちんとわかるように書いてもらいたいものです。
典型的な「著者には想像できて書いてるけど、読んでるほうには伝わらない文章」です。

キャラもいまいちです。
アニメを見ていたので、その分脳内補正が効いてくれてキャラが立っているように見えてしまいますが、ホントのところはかなり微妙な線でしょう。
主人公の茉莉香からして、謎の宇宙船との電子戦に対して発案して撃退するなど、普通の女子高生にはどう足掻いても無理っぽそうなことを一晩で計画してしまったりと、遺伝という言葉で片付けるには無理があろうかと思います。
まぁ、宇宙海賊の船長になろう、って言うんだからこれくらいのことはできてくれないと困る、と言う意図はわかりますが、説得力を持たせてくれなければ評価にはマイナスにしかなりません。
主人公の茉莉香がこれなのだから、他のキャラに至っては推して知るべしでしょう。
SF経験値が低い、と言うのを差っ引いても、アニメを見てなかったらさっぱりな作品です。

と言うわけで、軽く読めそうなスペースオペラ……と言いたいところですが、悪いところばかり目立ってしまっているので、総評は落第です。
アニメのほうは絵があってわかりやすいので、おもしろかったのですが、よくアニメ化されたようなぁ、ってくらいです。
SF経験値の高い方にはいいかもしれませんが、それ以外の人にはまずオススメしません。

あ、そうそう、ひとつだけいいことがありました。
アニメを見ていたので、喋り言葉がちゃんと各キャラの声優さんの声で脳内再現してくれました(笑)
これは楽しかったなぁ(笑)
いや、別にそれだけですけど……。


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