つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

ハリウッド戦車物?

2006-11-08 22:41:20 | SF(国内)
さて、SFも浮上するか? な第708回は、

タイトル:くたばれ戦車商隊
著者:上原尚子
出版社:富士見書房 富士見ファンタジア文庫(初版:H1)

であります。

お初の作家さんです。
『覇邪の封印』のゲームブックを書いた方らしいのですが……覚えてない。
敵の超重戦車に仲間を奪われた青年が、過去にケリを付けるために復讐戦を挑む物語です。



時は未来――月に建設された都市群が地球に対して独立戦争を仕掛けている時代。
解放戦争と呼ばれるそれは、月都市の大半を巻き込んで二十年以上続いている。
だが、月のすべての都市が地球と敵対しているわけではなく、中立を保つ都市も多数存在した。

そんな状況下で、中立都市内の反地球勢力は極秘裏に解放軍、及び、ゲリラへの援助を開始した。
戦局が拡大するにつれて軍事企業の介入も活発になり、その流れは『商隊』と呼ばれる賞金稼ぎ部隊を生むに至る。
商隊が地球側の兵器を自前の装備で破壊し、そのスコアに応じて企業が賞金を出し、その戦果を解放軍が買うというシステムの確立により、月は巨大な軍事市場と化していた。

戦車商隊『チーム2355』のリーダー・ユカヤは突然の成り行きに衝撃を受けていた。
一年前、自分のいたチーム2228をたった一台で潰滅させた超重戦車『リトルマレイ』――奴を仕留める依頼が、直接自分の元に来たのだ。
こちらのメンバーはアタッカー三人、バックアップ二人、装甲車一台、装備はせいぜい対戦車歩兵分隊クラスでしかない……が、ユカヤは決して逃げるわけにはいかなかった!



一言で言っちゃうと、根性で勝とうとする連中と物だけで勝とうとする連中の戦い、です。
時代は未来、舞台は月ですが、軍事テクノロジーは二十世紀レベル(未来の品は宇宙服とホバーバイクぐらい)だし、月の戦場特有の描写も少ないので、第二次世界大戦ものとして読んでも差し支えはないでしょう。
ユカヤ達2355のメンバーは装甲車に乗って戦場を駆けめぐるのですが、車内が非常に広いため、作品の雰囲気は戦車物と言うより戦艦物に近いかも。

でもね――

シャワー室付きの装甲車って何よ?

シャワー室、休憩室、ホバーバイクとジープの格納庫まであるって……どれだけデカい車やねん!
一応、敵への攻撃はアタッカー(歩兵)が行うみたいですが、攻撃チームである以上、装甲車が攻撃を受けることも多い筈……つーか、冒頭でいきなりユカヤが敵の装甲車をバズーカで破壊してるし……。
こんなでっかい的を用意して戦車に挑む時点で、ナンセンスの極みですね。ついでに言うと、何で後半に出てくる敵のヘリコはこいつを狙わなかったんでしょう? 謎だらけです。

主人公側がこのていたらくですから、敵はもっとひどい。
ターゲットのリトルマレイは、重装甲が売りの超重戦車なのですが……イラスト見る限り、その大きさは駆逐艦レベル。

お前はマウスか?

補助火器はどこ? デカさだけが売りのマウスも機銃だけはちゃんと付けてたぞ。
機銃がないにしても、せめて随伴歩兵ぐらいは付けろ! 近接戦でカモられるだけだぞ!
つーか、一緒に付いてきてる装甲車や戦車も適当に固定機銃撃つしか能がないのか? 歩兵出せ、歩兵! そんなんだから、ユカヤ達アタッカー三人組にいいようにやられちまうんだよ!

ド素人かお前らっ!

地球人は、余程、戦車商隊の戦法を学ぶ気がなかったらしいですね。
バズーカに地雷に手榴弾と、ユカヤ達は対戦車兵器使い放題なのに、地球人はノロマな棺桶を沢山揃えて力押しって……よくもまぁこれで二十年も戦えたもんです。

ついでに言うとドラマも薄い。
メンバー五人、及び、ユカヤの元チームメイトであるザックの視点を使い回すことで群像劇っぽい話にしようとしてるんですが、個々のエピソードの扱いが軽すぎて空中分解してます。
そもそも、何でみんながユカヤを信頼するのかさっぱり解らない。もうちょっと強硬に彼と対立し、魂をぶつける奴がいないとドラマが盛り上がらないんですが。

落第です、褒めようがありません。
ユカヤにとって人生のハイライトとも言えるリトルマレイの撃破は敵のマヌケな戦い方のおかげで盛り上がらないし、最後に語られるユカヤの相棒コーのサブストーリーも何じゃそりゃって感じで……どうにかして下さい、もう。


最新の画像もっと見る