さて、昔を思い出して遠い目をするの第598回は、
タイトル:キスまでの距離 おいしいコーヒーの入れ方I
著者:村山由佳
出版社:集英社文庫
であります。
高校最後の1年が始まる時期、勝利は弟子入りまで志願してしまったほどコーヒーがうまい喫茶店でマスター相手に愚痴っていた。
男やもめで暮らしてきた父の転勤、さらには叔父の転勤に伴い、叔父の家でかれん、丈の従兄弟たちと暮らすことになってしまったからだ。
悠々自適のひとり暮らしがかなわないことを嘆く勝利だったが、3年前、さえない美大生だったはずの従姉かれんに久しぶりに出会ったときに事態は変わった。
どことなく天然が入ったぼんやりだった従姉は、性格こそ変わらないながらも目を瞠るほどの美人に。
しかも勝利が通う高校の美術教諭にまでなっていた。
かれんの存在にもやもやする気持ちを抱えながら、その秘密を知ってしまった勝利は、かれんに惚れている自分の気持ちを自覚するものの、行きつけの喫茶店のマスターや、その縁故で現れた新任英語教諭の中沢の、かれんへの馴れ馴れしさなどに嫉妬し、御しきれない気持ちを抱えていたが、ある日、丈に、中沢からかれんの指輪のサイズを教えてくれと頼まれた、と言う嘘をきっかけに……。
本書は集英社文庫、と言うことになっているが、もともとはジャンプJブックスという新書(ただし弱冠サイズは大きい変則形)で刊行されていたもの。
過去に、高校時代の友人がおもしろいと言っていたのを思い出して読んでみたけれど、確かに集英社のジャンプ系……と言うより、少年マンガの恋愛ものを愛読しているタイプの中高生あたりには、かなりウケる作品だろう……と言うより、ウケるのは確実だ。
やむにやまれず同居することとなった叔父宅で久しぶりに出会った年上の女性は目を瞠るほどの美人になり、主人公が惚れるのも王道ならば展開、ラストに至るまで王道で、さらにはターゲットとする中高生くらいの年齢にとっては半ば憧れとまで言えそうなくらいのシチュエーションとラスト。
これで人気が出なければ嘘だろう。
はっきり言って、さぶいぼ覚悟なくらいベタな作品だが、もともと活字離れが激しい中高生くらいの年齢層に支持者を獲得した作品だけにとても読みやすい。
勝利の一人称で語られるものだが、一人称で語られる範囲の中できちんと書かれており、一人称に三人称の視点が加わると言うような不自然さはない。
そのぶん、視点が狭い、と言う欠点はあるものの、だからと言って説明不足になることもなく、勝利の視点から見るかれんの描写にも違和感はない。
ストーリー、展開は、平凡、ベタ、お約束、王道など、言い様はいくらでもあるが、そうしたものを平易に、きっちりと読ませてくれるのは評価したい。
ただ、いまならば、総体的な評価で言うと、やはり以前に読んだ「天使の卵-エンジェルズ・エッグ」のほうが、しっとりと落ち着いた雰囲気のある恋愛小説として評価は上、と言わざるを得ないだろう。
もっとも、「天使の卵」よりは男性にとってはほんとうにひとつの憧れのようなものとして普遍的な作品になるのではないかと思う。
それがために評価が上がる、というわけではないんだけどね。
タイトル:キスまでの距離 おいしいコーヒーの入れ方I
著者:村山由佳
出版社:集英社文庫
であります。
高校最後の1年が始まる時期、勝利は弟子入りまで志願してしまったほどコーヒーがうまい喫茶店でマスター相手に愚痴っていた。
男やもめで暮らしてきた父の転勤、さらには叔父の転勤に伴い、叔父の家でかれん、丈の従兄弟たちと暮らすことになってしまったからだ。
悠々自適のひとり暮らしがかなわないことを嘆く勝利だったが、3年前、さえない美大生だったはずの従姉かれんに久しぶりに出会ったときに事態は変わった。
どことなく天然が入ったぼんやりだった従姉は、性格こそ変わらないながらも目を瞠るほどの美人に。
しかも勝利が通う高校の美術教諭にまでなっていた。
かれんの存在にもやもやする気持ちを抱えながら、その秘密を知ってしまった勝利は、かれんに惚れている自分の気持ちを自覚するものの、行きつけの喫茶店のマスターや、その縁故で現れた新任英語教諭の中沢の、かれんへの馴れ馴れしさなどに嫉妬し、御しきれない気持ちを抱えていたが、ある日、丈に、中沢からかれんの指輪のサイズを教えてくれと頼まれた、と言う嘘をきっかけに……。
本書は集英社文庫、と言うことになっているが、もともとはジャンプJブックスという新書(ただし弱冠サイズは大きい変則形)で刊行されていたもの。
過去に、高校時代の友人がおもしろいと言っていたのを思い出して読んでみたけれど、確かに集英社のジャンプ系……と言うより、少年マンガの恋愛ものを愛読しているタイプの中高生あたりには、かなりウケる作品だろう……と言うより、ウケるのは確実だ。
やむにやまれず同居することとなった叔父宅で久しぶりに出会った年上の女性は目を瞠るほどの美人になり、主人公が惚れるのも王道ならば展開、ラストに至るまで王道で、さらにはターゲットとする中高生くらいの年齢にとっては半ば憧れとまで言えそうなくらいのシチュエーションとラスト。
これで人気が出なければ嘘だろう。
はっきり言って、さぶいぼ覚悟なくらいベタな作品だが、もともと活字離れが激しい中高生くらいの年齢層に支持者を獲得した作品だけにとても読みやすい。
勝利の一人称で語られるものだが、一人称で語られる範囲の中できちんと書かれており、一人称に三人称の視点が加わると言うような不自然さはない。
そのぶん、視点が狭い、と言う欠点はあるものの、だからと言って説明不足になることもなく、勝利の視点から見るかれんの描写にも違和感はない。
ストーリー、展開は、平凡、ベタ、お約束、王道など、言い様はいくらでもあるが、そうしたものを平易に、きっちりと読ませてくれるのは評価したい。
ただ、いまならば、総体的な評価で言うと、やはり以前に読んだ「天使の卵-エンジェルズ・エッグ」のほうが、しっとりと落ち着いた雰囲気のある恋愛小説として評価は上、と言わざるを得ないだろう。
もっとも、「天使の卵」よりは男性にとってはほんとうにひとつの憧れのようなものとして普遍的な作品になるのではないかと思う。
それがために評価が上がる、というわけではないんだけどね。