さて、ちょっと乗り遅れた気がしないでもない第209回は、
タイトル:ICO―霧の城―
著者:宮部みゆき
出版社:講談社
であります。
同名のアクション・ゲーム『ICO』のノベライズです。
ゲームにハマってから読んだので、ちょっと(かなり)先入観があるかも。
その村には一つのしきたりがあった。
角の生えた子供を生贄として海の上の城に捧げるという。
今年の生贄の名はイコ――村でただ一人、角を生やした子供。
13歳の誕生日、イコは神官達に連れられて城へと向かう。
城の中、立ち並ぶ石棺の一つに閉じこめられてしまうイコ。
偶然に助けられて石棺から出たイコは城内をさまよい歩く。
人気のない廃墟の城。
そこでイコは檻に入れられた少女と出会う。
言葉の通じない二人は手をつないで外界を目指すが……。
上記のストーリーは小説、ゲーム共通です。
イコの年齢、しきたり等についてゲーム本編では語られませんが、取扱説明書にあらすじが記載されており、ある程度の情報が得られます。
話を戻して、本書は500頁強、四章構成の長編ファンタジーです。
各章の色がかなり違うので、一章ずつ解説していくことにします。
『すべては神官殿の申されるまま』……一章です。
内容はほぼ作者のオリジナルで、ゲームのストーリーになかった、イコが村を出発するまでの過程と霧の城の伝説についての解説がメイン。
イコ、その育ての親である村長夫婦、友人でオリジナルキャラのトトの葛藤、悲哀、憤り等の心情が丁寧に描かれています。
本書で一番出来のいい章で、イコが選ばれた戦士だったりとか、伝説の書が出てきたりとか元のゲームを知っている身として小説独自の設定に引っかかる部分があったものの、良くまとまっており、次章に期待して一気に読めました。ここだけならオススメ。
『霧の城』……二章です。
ゲームの序盤~中盤に当たる部分で、イコと少女が城のあちこちを巡り、外界に通じる正門までたどり着くも、そこで強力な妨害者と遭遇するまでを描きます。
城に登場する物言わぬオブジェクトに作者なりの解釈が加えられているのが特徴……なんだけど、その見せ方がひどい。
ゲームにない要素として、イコが少女と手をつなぐと彼女の記憶がフラッシュバックするというのがあるのですが、これが余りにも多い。
元のゲームが解説を極力排して、美しい景色を自分なりに解釈して楽しむものだっただけに、これはもう最悪としか言いようがありません。
せめて、イコが観察しつつ想像する描写でとどめて欲しかったところです。
記憶の中で解説されるのでは想像の余地がないので、ファンタジーとして見ても劣悪。
さらに言えば、ゲームをやっていないと城の構造がよく解りません。
描写は細かいのですが、それがかえって読者を混乱させていると思います。
ゲームやった人、やってない人、どちらにも勧められない最低の章です。
『ヨルダ――時の娘』……三章です。
完全オリジナルの話で、イコが霧の城で出会った少女ヨルダの過去を描いており、本書の三分の一近くを占めています(笑)。
はっきり言って作者はこの章を書くのが目的だったんじゃないか? と思えるぐらい気合いが入った章……というか独立した短編。
過去の霧の城を舞台にヨルダの視点で話は進みます。
彼女と城主の確執、放浪の騎士オズマとの出会い、武闘大会、など様々な出来事が展開し、この世界の輪郭がおぼろげながらに見えて来る。
凄い! という程ではありませんが、ゲームと切り離して普通のファンタジーとして見れば悪くない出来だと思います。
ゲームのヨルダについてちょっと触れておくと、彼女のモチーフは鳥です。
最初に入れられていた檻は高い天井からぶら下がっており、モロに鳥籠。
道中で鳥が出てくるのですが、ほっとくと彼女は一緒に付いて行ってしまいます。
透き通る真っ白な衣装も、鳥の翼を思わせます。
『対決の刻』……四章です。
ここは敢えて詳しく触れません。
今までの複線を統合し、過去と現在を知ったイコが城主に挑みます。
で、全体的な感想を言うと。
駄目だこりゃ
ですね。
詳しく語られないとは言え、ゲームには美しいストーリーが存在します。
寂れた城の中で右も左も解らないイコが、同じように捕らわれた少女に出会う。
イコだけでも、ヨルダだけでも城から出ることはできません。
生贄の少年と籠の鳥の少女。
言葉の通じない二人にとっては、つないだ手だけが唯一の絆。
そしてその絆を断たれた時、イコはたった一人で巨大な敵に立ち向かうのです。
最後の戦いでは角折られちゃったりするのですよ。
血がどくどく流れるのを見た日にゃ、もうボルテージ全開。
この城主、絶対殺す!
と画面に向かって吠えたのは私だけじゃない筈。
ところが、この小説版ではイコの闘う背景がすり替えられてます。
詳しく書かないけど、過去からの因縁みたいな、伝説の再来みたいな。
ふざけるな
で、切り捨て御免ですな。
ゲームを知らない人には楽しめる……かな?
ただ、1890円の値段に見合ってるかはちょっと言いかねる。
タイトル:ICO―霧の城―
著者:宮部みゆき
出版社:講談社
であります。
同名のアクション・ゲーム『ICO』のノベライズです。
ゲームにハマってから読んだので、ちょっと(かなり)先入観があるかも。
その村には一つのしきたりがあった。
角の生えた子供を生贄として海の上の城に捧げるという。
今年の生贄の名はイコ――村でただ一人、角を生やした子供。
13歳の誕生日、イコは神官達に連れられて城へと向かう。
城の中、立ち並ぶ石棺の一つに閉じこめられてしまうイコ。
偶然に助けられて石棺から出たイコは城内をさまよい歩く。
人気のない廃墟の城。
そこでイコは檻に入れられた少女と出会う。
言葉の通じない二人は手をつないで外界を目指すが……。
上記のストーリーは小説、ゲーム共通です。
イコの年齢、しきたり等についてゲーム本編では語られませんが、取扱説明書にあらすじが記載されており、ある程度の情報が得られます。
話を戻して、本書は500頁強、四章構成の長編ファンタジーです。
各章の色がかなり違うので、一章ずつ解説していくことにします。
『すべては神官殿の申されるまま』……一章です。
内容はほぼ作者のオリジナルで、ゲームのストーリーになかった、イコが村を出発するまでの過程と霧の城の伝説についての解説がメイン。
イコ、その育ての親である村長夫婦、友人でオリジナルキャラのトトの葛藤、悲哀、憤り等の心情が丁寧に描かれています。
本書で一番出来のいい章で、イコが選ばれた戦士だったりとか、伝説の書が出てきたりとか元のゲームを知っている身として小説独自の設定に引っかかる部分があったものの、良くまとまっており、次章に期待して一気に読めました。ここだけならオススメ。
『霧の城』……二章です。
ゲームの序盤~中盤に当たる部分で、イコと少女が城のあちこちを巡り、外界に通じる正門までたどり着くも、そこで強力な妨害者と遭遇するまでを描きます。
城に登場する物言わぬオブジェクトに作者なりの解釈が加えられているのが特徴……なんだけど、その見せ方がひどい。
ゲームにない要素として、イコが少女と手をつなぐと彼女の記憶がフラッシュバックするというのがあるのですが、これが余りにも多い。
元のゲームが解説を極力排して、美しい景色を自分なりに解釈して楽しむものだっただけに、これはもう最悪としか言いようがありません。
せめて、イコが観察しつつ想像する描写でとどめて欲しかったところです。
記憶の中で解説されるのでは想像の余地がないので、ファンタジーとして見ても劣悪。
さらに言えば、ゲームをやっていないと城の構造がよく解りません。
描写は細かいのですが、それがかえって読者を混乱させていると思います。
ゲームやった人、やってない人、どちらにも勧められない最低の章です。
『ヨルダ――時の娘』……三章です。
完全オリジナルの話で、イコが霧の城で出会った少女ヨルダの過去を描いており、本書の三分の一近くを占めています(笑)。
はっきり言って作者はこの章を書くのが目的だったんじゃないか? と思えるぐらい気合いが入った章……というか独立した短編。
過去の霧の城を舞台にヨルダの視点で話は進みます。
彼女と城主の確執、放浪の騎士オズマとの出会い、武闘大会、など様々な出来事が展開し、この世界の輪郭がおぼろげながらに見えて来る。
凄い! という程ではありませんが、ゲームと切り離して普通のファンタジーとして見れば悪くない出来だと思います。
ゲームのヨルダについてちょっと触れておくと、彼女のモチーフは鳥です。
最初に入れられていた檻は高い天井からぶら下がっており、モロに鳥籠。
道中で鳥が出てくるのですが、ほっとくと彼女は一緒に付いて行ってしまいます。
透き通る真っ白な衣装も、鳥の翼を思わせます。
『対決の刻』……四章です。
ここは敢えて詳しく触れません。
今までの複線を統合し、過去と現在を知ったイコが城主に挑みます。
で、全体的な感想を言うと。
駄目だこりゃ
ですね。
詳しく語られないとは言え、ゲームには美しいストーリーが存在します。
寂れた城の中で右も左も解らないイコが、同じように捕らわれた少女に出会う。
イコだけでも、ヨルダだけでも城から出ることはできません。
生贄の少年と籠の鳥の少女。
言葉の通じない二人にとっては、つないだ手だけが唯一の絆。
そしてその絆を断たれた時、イコはたった一人で巨大な敵に立ち向かうのです。
最後の戦いでは角折られちゃったりするのですよ。
血がどくどく流れるのを見た日にゃ、もうボルテージ全開。
この城主、絶対殺す!
と画面に向かって吠えたのは私だけじゃない筈。
ところが、この小説版ではイコの闘う背景がすり替えられてます。
詳しく書かないけど、過去からの因縁みたいな、伝説の再来みたいな。
ふざけるな
で、切り捨て御免ですな。
ゲームを知らない人には楽しめる……かな?
ただ、1890円の値段に見合ってるかはちょっと言いかねる。
はっきり言って、このゲームのストーリーに伝説とか、血筋とか、使命など不要です。
本編が好きな人にオススメできないのは間違いないですね。かと言って、これ単体で読めるかと言うと……。(爆)
ICOはシチュエーションを楽しむゲームであって、登場人物の生い立ちや使命などというのはどうでも良いんですよね(汗)。
ゲームの不思議感覚を大切にしたい人は本書をあえて読まないことも一つの選択かもしれません。