つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

誰かがそこに……

2008-03-10 21:33:51 | 小説全般
さて、一日遅れで申し訳ありませんな第953回は、

タイトル:暗いところで待ち合わせ
著者:乙一
出版社:幻冬舎 幻冬舎文庫(初版:'02)

であります。

久々に乙一読みました。
以前読んだのは……わっ、一年以上前だ。
名前だけは知っていたのですが、表紙にビビって手を出していなかったのは秘密。(爆)



視力を失った本間ミチルは、暖かい暗闇の中、いずれ訪れる静かな消滅を待っていた。
小学校以来の友人・二葉カズエと一緒に出かける以外、外との接触は皆無に等しい。
しかし、喉が渇けば水を飲むし、空腹になれば食事も摂る……何もせずじっとしていればすべては終わるのに……そんな意気地のない自分が嫌だった。

憎悪の対象だった人物が死んだにも関わらず、大石アキヒロは疲れ果てていた。
それまであった憎しみも、その原因が消えた嬉しさも、死を目の当たりにした悲しさもない。
あるのはただ虚夢だけだった……何もかもが抜け落ちてしまったと感じながら、彼は他人の家の片隅に座り続けていた。

事件のあった駅のすぐ近くにある家。
二人は互いに異なる理由で外界を避け、そこにいる。
息を潜めて存在を隠すアキヒロと、気付かない振りをするミチル……奇妙な同居生活が始まった――。



ミステリ、サスペンス、恋愛といった様々なジャンルの要素を盛り込んだ長編です。
白黒分けでいくと白乙一。『CALLING YOU』や『しあわせは子猫のかたち』と同じく、対人関係の構築が苦手で孤立しがちな主人公が、一人の異性との出会いで変わっていく様を描きます。
と、こう書くといつものパターンのように思えますが、今回は男女どちらも主人公扱いで、それぞれの境遇、心境、変化が交互に描写されており、非常に密度の高い作品に仕上がっています。

会話を交わすことなく、互いに相手のことを色々考える、という状況設定が非常に面白いです。
ミチルはアキヒロの存在を薄々感じてはいるのですが、一人暮らしということもあって、なかなか大胆な行動を取れません。
一方、アキヒロはアキヒロで警察に追われており、ミチルが自分を視認出来ないと解っていても、息を潜めてじっとしているしかない。

当然ながら、こんな状態が長続きする筈はありません。
アキヒロのミスもあって、二人ははっきりと、「ミチルはアキヒロの存在に気付いている」という認識を共有することになります。
相変わらず会話はないのだけれど、互いに相手の存在を認め、可能な限り干渉せずに時間を過ごす……ハタから見ると極めて異常な状況なのですが、相変わらず丁寧な心理描写でそういった違和感を感じさせないのはさすが乙一といったところ。

本作の白眉はやはり、ミチルが卵の殻を破壊する第三章でしょうか。
詳しいことは書けませんが、今までの静かな展開から一転、怒濤のイベントラッシュで物凄い盛り上がりを見せます。
ミチルはひたすら健気だし、アキヒロは格好良いし、さりげに、友人のカズエもいい仕事してたりと、もう満腹。
素晴らしいとしか言いようがないです、いやマヂで。

残る章では、アキヒロが逃走する原因となった事件の顛末が書かれます。
正直、ミステリとしては、「それしかないよね」という実に素直過ぎる展開で、多分ほとんどの人が序盤で予想が付いてしまうのではないかと。
じゃ、それが作品のクオリティを落としているかと言うと――さほど影響はありません。本作のメインは主役二人の再生であって、ミステリ要素なんてものは単なる枝葉に過ぎませんから。(さりげに凄いこと言ってるな、私)

久々に三重丸のオススメです。
いわゆる、乙一の『せつない系の話』が好きな方は、必読でしょう。
ちなみにホラー要素は皆無です、表紙とタイトルの割には。(笑)



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