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つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

かくて、〈円環〉は顕現せり

2006-11-06 20:45:51 | ファンタジー(異世界)
さて、「あ、ファンタジー増やしちゃった」な第706回は、

タイトル:〈骨牌使い〉フォーチュン・テラーの鏡III
著者:五代ゆう
出版社:富士見書房 富士見ファンタジア文庫(初版:H18)

であります。

五代ゆうが放つ大河ファンタジー『〈骨牌使い〉の鏡』の最終巻です。
運命に翻弄される少女アトリの静かな戦いと、〈詞〉の世界を揺るがす大戦争の顛末を描きます。
前二巻については第622回、及び、第631回を御覧下さい。



〈骨牌〉の王国ハイランドは存亡の刻を迎えていた。
王に死の影が忍び寄り、〈真なる骨牌〉をその身に宿す者達は次々と〈異言〉の元へと走る。
最後の希望であったアトリすらも連れ去られ、ロナーは押し寄せる東の蛮族との絶望的な戦いにその身を投じていった……。

一方、アトリは〈異言〉達の都で幻を視ていた。
それは失われた物語……かつて存在した旧王国の崩壊を語る物語だった。
謎の〈十三〉の正体が明らかになり、アトリは己の為すべきことを知る。

滅びは間近に迫り、誰もが否応なく戦いの渦の中に飲み込まれていった。
今を守る者達と過去の罪を問う者達、二つの相反する勢力がハイランドに屍の山を築いていく。
その中で、アトリとロナーは再び出会い……別れた。それぞれが己の運命と対峙するために――!



本来、私は何かしらの毒を含んだラストの方が好みなのですが――

ここまでやってくれればハッピーエンドで問題ありません。

大団円です。
めでたしめでたしです。
文句の付けようがないハッピーエンドです。

もちろん、すべてのキャラクターが幸せになるなんて甘っちょろいものではありません。
すれ違いはあります、最後まで解り合えなかった相手もいます、他人の想いを力で押し潰したりもします。
生き残った者達は己の罪を自覚した上で、最後に訪れる幸福を抱くのです――ハッピーエンドとはこうでなくては。

で、本巻の内容なのですが、一言で言えば『戦いの果てに訪れる二人の聖婚』です。
一巻で語られた伝説の真相を知るアトリ、己の無力さと臆病さを思い知るロナー、二人の接近とともに過去と現在も接近し、物語は終局へと向かいます。
一巻からこっち、流されっぱなしだったアトリもようやく主人公となることができました……にしちゃロナーの方が断然目立ってる気がするが。(爆)

最終巻ということもあって、伏線の回収も激しいです。
この世界のシンボルとも言うべき〈骨牌〉の役割、アトリの夢に出てくる人物の正体明かし、忘れ去られていた(失礼!)アトリの友人モーウェンナとの決着まで付けます。
ロナーがようやく重い腰を上げた時、これでもかとばかりに顔キャラを登場させるシーンの盛り上がりは凄まじく、今までの地味な展開を綺麗さっぱり吹き飛ばして読み手をクライマックス・モードに引きずり込んでくれます。いや、ホント上手い。

本巻のMVPは、一巻からスポット的に登場していた道化師ドリリス。
他のキャラはともかく、こいつだけは読めなかった……そういう役回りだったのね。
ロナーのごとき若造にあっさり論破されてしまったのはちょっと笑いましたが、最後までふらふらと現れては、美味しいとこだけ持っていく妙な奴でした。こういうキャラ好き。

最後までハズさず書ききってくれてます。三重丸のオススメ。
さ~、次はデビュー作『はじまりの骨の物語』を読むぞっ。

イヤな予感も……

2006-11-03 13:42:34 | ファンタジー(異世界)
さて、ぢつはちょっとほっとしてたりしての第703回は、

タイトル:狼と香辛料3
著者:支倉凍砂
出版社:メディアワークス 電撃文庫(初版:H18)

であります。

1巻2巻と続いて若き行商人ロレンスと、麦に宿る神狼ホロが織りなす剣も魔法もないちょっと変わったファンタジーの第3弾。

ホロの故郷であるヨイツを訪れる目的もあり、前作リュビンハイゲンから冬の大市と祭りで賑わう町クメルスンへ向かうロレンスとホロ。
その途中、おなじ商業組合に所属し、魚商人のアマーティと出会う。
商人同士の会話の中、どうやらアマーティはホロに惹かれている様子。

とは言え、その計らいもあって祭りで賑わうことから難しい宿探しも何とかなり、ついでに商売の合間にホロの相手までしてもらうことに。
商売に続き、ヨイツまでの道のりについて情報収集をしたロレンスだったが、ホロの話を話半分で聞かされたはずのアマーティは、ロレンスに賭けを挑み、それに勝利した暁にはホロに求婚する、と言う挑戦状(+契約書)を突きつける。

その契約内容と、連れとしてともに旅してきたホロが易々と承諾するはずもない、とタカをくくってその契約を呑んだロレンスだったが、契約のひとつは達成しそうな気配。
さらにホロとは微妙にすれ違い、誤解が誤解を生み、賭けもホロも掌からこぼれ落ちようとする。

ちょうど2巻でロレンスとホロのふたりの関係がちと前進したところでもあったので、こうしたホロを巡っての事件というのは順当なネタだね。
また、アマーティとの賭けをきっかけに描かれる商売ネタも、ロレンスとホロのすれ違いにうまく絡んで物語の出来はいいと思う。
クライマックスも、いままでよりも読み応えのあるだけの盛り上がりがあり、ストーリーとしては、順調なネタながらもおもしろく読めた。

ただ、1巻でも指摘した文章面の欠点がここに来てぶり返してきたようだ。
読みづらさとそれに伴う流れの停滞が2巻よりも顕著になり、せっかくのストーリーのよさが台無し……とまでは言わないが、目減りしてしまうのは確か。
どこかほのぼのとしたロレンスとホロの関係や、対する商売という緊張がうまく混ざり合った、よい雰囲気もあり、文章的な部分さえ、もっときちんと出来ていれば、ライトノベルの中でもかなりのクオリティの作品、との評価も下せよう。
ただし、ほのぼのラブコメディとして(笑)

それにしても、このシリーズ、少なくともあと3冊くらいで完結してもらいたいもの。
ヨイツ、と言う目的もあることだし、とりあえずそこへ向けての道筋も3巻である程度つけられているので、ダラダラと長く続けるよりも、2、3冊くらいですっきり終わらせてくれればいいのだが……。



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復権めざして

2006-10-29 01:33:21 | ファンタジー(異世界)
さて、ここ最近ミステリ/ホラーに押されっぱなしだよなの第698回は、

タイトル:狼と香辛料2
著者:支倉凍砂
出版社:メディアワークス 電撃文庫(初版:H18)

であります。

今月に3巻が出てるなぁと思って買ったのはいいけど、そういえば2巻を読んでいなかったことに気付いていまさら読了。
タイトルどおり、デビュー作でもある前作の「狼と香辛料」の続編で、25歳の若き行商人ロレンスと、ひょんなことから旅の連れとなった豊作の神である賢狼ホロの、行商の旅を描いた物語。

前作の舞台である港町パッツィオでの出来事で手に入れた胡椒を手に、ポロソンという町を訪れたふたり。
ここで店を構えるラトペアロン商会に胡椒を持ち込み、商談を進め、成立、となるところにホロが胡椒を量る秤……ではなく、秤を乗せるテーブルに細工をしていることを見破る。

そのことを突いてロレンスはラトペアロン商会から大きな取引を仕掛け、北の教会都市リュビンハイゲンへと向かう。
利率は低いが安全な武具の取引……のはずだったが、そこでロレンスは思いも寄らない不渡りを出し、多額の借金を背負ってしまうことに。
商人生命どころではないかもしれない手痛い失敗に、ホロはひとつの案を持ちかける。

印象としては前作よりも全体的にレベルアップの跡が窺える。
ライトノベルにしては主人公が商人、ホロは手よりも知恵を出す立ち位置なので、派手な戦闘シーンなどはなく、全体的にテンポは穏やか。
ストーリーも、不渡りを出したロレンスが起死回生の手を打つものではあるけれど、どちらかと言うとそれよりも、そうした話の中で、ロレンスとホロの関係を中心に描いているため、盛り上がりに乏しい。
とは言え、こうしたところはキャラ設定からも仕方がない部分ではあろうし、それで作品のクオリティが下がっているか、と言えばそうでもない。

文章的にも前作に見られた欠点も少なくなり、読み進める苦労は少ないが、商談や取引などにまつわる商人らしい部分の説明には、やはりまだわかりやすい描写と言うものが求められる。

それにしても、この2巻に至ってホロの魅力全開やね(笑)
見た目は耳と尻尾があるだけの15歳前後の少女だが、実際は数百年を生きる神狼。
……なのだが、若いロレンスをからかったり、老獪さを見せたり、少女らしいかわいらしさを見せたり、単に食いしん坊だったり、怒ったりと様々な姿が描かれている。
まぁ、ちと甘いシーンがいくつかあったりと、ベタなところがないわけでないが、そんなホロとロレンスの関係や会話は楽しめる要素であろう。

ただ、ラストのほうがいまいちなところがあるため、総評としては手放しでオススメというわけにはいかない。
まぁ、前作よりも読み応えは出ているし、欠点は少なくなっているので、評点の甘いライトノベルということを差し引いても、十分及第だろう。



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いつ終わるのかな?

2006-09-20 23:59:18 | ファンタジー(異世界)
さて、何巻まで出てたっけ? とか考える第659回は、

タイトル:黒曜宮の陰謀(グイン・サーガ21)
著者:栗本薫
出版社:早川書房 ハヤカワ文庫(初版:S60)

であります。

百巻越えちゃったけど終わる気配が全然ない(らしい)、ハヤカワの顔です。
自慢じゃありませんが、ケイロニア編以降は飛び飛びでしか読んでいません。
マジで終わるんかいな……これ。

主人公は豹頭で記憶喪失の超戦士グイン。
当初は、義理堅くてパワフルで計算高いパーフェクトヒーローのグインが、謎の国ランドックを探して各地を放浪するというヒロイック・ファンタジーでした。
しかし、サブキャラの台頭や、各国の枝話の増加に伴って話は大河ドラマへとシフトし、主人公だった筈のグインはいつの間にやら外伝担当に……。
(ここらへん、カムイ伝とよく似ている)

そんな脇役街道まっしぐらだった彼が久々に表舞台に復帰するのが、『ケイロニア編』(19~24巻)です。
グイン・サーガはおおむね五巻セットで一つの編を構成しているのですが、私的にはこれがベスト。
北の大国ケイロニアを舞台に、グインの異例の大出世、皇帝アキレウス暗殺の陰謀、グインの親友マリウスの恋物語等、物凄い数のエピソードを盛り込んだ娯楽巨編です。

で、その内の一冊である本巻ですが、めでたく百竜長になったグインが皇帝暗殺の陰謀劇にケリを付けます。
見所は、腹に一物抱えた連中の告発合戦と、最後の最後に裏技二連発で一同をシメるグイン!
外伝に追いやられてた間に鬱憤がたまってたのでしょうか? 妙に生き生きとツッコミを入れ、都合の悪い質問は沈黙と重々しい台詞で封殺、越権行為としか思えない行動を繰り返して一気に事を収めます……本当に面白い。

グインのことばかりですが、サブの方々もいい味出してます。
お気に入りは皇帝の腹心・アンティーヌ侯アウルス。
どこの誰が相手でもタメ口で、一度決めたら皇帝相手でも自分の意志を貫き、よく解らないことは全部運命神ヤーンに押しつけるグインが珍しく逡巡した際、最後の一押しをしたイカスじーさまです。
(ちゃんとグイン暗殺も視野に入れてるしね。食えない人だ……)

陰謀劇の他にも、地味に頑張るトール君の活躍があったり、微妙な立場にいる魔導師ヴァレリウスとグインのファースト・コンタクトがあったり、マリウスが心の恋人イリスに自分の正体を明かしちゃったりと見所満載、非常に美味しい巻でした。

長~いシリーズの内の一冊だけ紹介するというのもなんですが、オススメ。
ずっと読んでる方に、ちょっと書庫から掘り出して読んでみて欲しい一冊です。
グインが『エネルギー』って単語を口にしたのだけは引っ掛かりましたが……。(笑)

(※おわびと訂正。
大いなる記憶違いをしておりました。
マリウスが自分の正体を喋っちゃうのは次の二十二巻です……すいません)

カルタ舞う

2006-08-23 23:04:24 | ファンタジー(異世界)
さて、実は最終巻まだ出ていない第631回は、

タイトル:〈骨牌使い〉フォーチュン・テラーの鏡II
著者:五代ゆう
文庫名:富士見ファンタジア文庫

であります。

先週紹介した、〈骨牌使い〉の鏡Iの第二巻です。
前巻は地固めという印象が強かったのですが、さて……こちらは?



ロナーとの予期せぬ別れ、異民族との接触、〈異言〉バルバロイの襲撃――。
運命に翻弄された末、アトリは仲間と共に北の王国ハイランドを訪れた。
彼女はそこで、〈異言〉達に狙われる理由と、自分に課せられた使命を知ることになる。

かつて大地を支配していた旧ハイランドの流れを汲み、〈詞〉の均衡を保つことを存在意義とする王国は危機に瀕していた。
〈真なる骨牌〉をその身に宿す十二人の〈骨牌〉の一人であり、〈詞〉そのものをまとめる役割を担うハイランド王が死期を迎えつつあったのだ。
王はアトリを歓待し、もっとも古き〈樹木〉と引き合わせるが――。



連続物なので粗筋が書き辛いです……。(泣)

二巻に入り、ようやく光と闇の対立構造がはっきりしてきました。
台風の目として双方から猛烈なオファーを受けていたアトリの立ち位置も明確になり、後は全面対決を待つばかり……にしては展開がゆっくりだけど。
謎の少年ロナーの微妙な立場が明らかになったり、前巻で怪しい動きをしていた人々の正体が判明したりと、ネタ消化に追われている印象が強いから、かも。

主人公のアトリですが、本巻ではお勉強に徹しています。
世界のお勉強、歴史のお勉強、骨牌のお勉強、人間関係のお勉強等を経て、ロナーに口答えできるぐらいまでには成長しました。
もっとも、その後の恋のお勉強(笑ってはいけない)に関しては……お前らいつの間にそこまで接近したんだ? と言いたくなるぐらい不自然でしたが。(爆)

一方、マクロな話では、お高くとまってるハイランドの連中の内輪揉めが描かれます。
正直、アトリがこいつらに味方する理由って弱いよなぁ……と思ってたら、前巻から引き続き登場のファウナがしっかりその方面に切り込んでくれました、偉い。
例によって物語は淡々と進みますが、さすがに終盤では結構激しい展開が見られ、くすぶっていた火種が一気に燃え上がるように破局が訪れます。

あ、ちなみに、この話はバトル物ではないのでそっちの方は期待しないで下さい。
骨牌を使ったド派手な魔法合戦とか、血で血を洗う剣の戦いとか一切なし。
戦闘が好きな方からすると地味かも知れませんが、個人的にこういう話は好きです。

一巻と同じく、作りはしっかりしています。オススメ。
前回もちょっと書いたけど、〈詞〉の設定といい、ハイランドの立場といい、やっぱりこの作品、『ゲド戦記』の影響が濃いと思うのは私だけでしょうか?
このまま行くと、最後にアトリが『影との戦い』エンドを迎えたり、ロナーと一緒に『壊れた腕輪』ごっこやっちゃったりするんだろうか……それはそれで面白そうだけど。(笑)


2006/11/06追記
最終巻出ました! レビューはこちら

続いてしまいました

2006-08-22 23:18:18 | ファンタジー(異世界)
さて、目指せ666回(笑)な第630回は、

タイトル:抗いし者たちの系譜 虚構の勇者
著者:三浦良
出版社:富士見書房 富士見ファンタジア文庫

であります。

先週紹介した、『抗いし者たちの系譜 逆襲の魔王』の続編です。
前回のラスが完璧だったので、続編書いて大丈夫なのか? と危惧していたのですが……さて。



遍歴三年、一枚の書簡が大陸統一国家サッハースの重臣達の元に届いた。
そこに書かれた短い一文は、瞬く間に宮廷内に広まり、多くの者を動揺させる。
散々悩んだ末、帝国宰相スキピオは皇帝サラ・シャンカーラにその件を報告した。

報告を受けてもサラは動揺を示さなかったが、スキピオの仕事は終わらなかった。
書簡の文面について対策会議を開くものの、謀臣達の議論には果てがない。
ようやく出た結論は、疑わしき者に監視を付ける、というものだった……。

問題は他にもあった、近く、皇帝サラが城を留守にするのである。
スキピオは皇帝不在時の精神的支柱としてラジャスを指名する。
だがそれは、非力な人間でしかない彼が元魔王と対峙し、説得せねばならぬことを意味していた――!



モロにスキピオ視点で書きましたが、本作の主人公はサラ・シャンカーラです。(笑)
前作からさほど時間は過ぎておらず、例によって、帝国を支えるサラ+スキピオ+グレンデルの会話で物語はスタートします。
皇帝暗殺未遂事件が終わり、ようやく普通の生活を送れるかと思いきや、またも新たな問題を抱えてしまうあたりはさすが新興国家ですね。(爆)

書簡の内容に付いては、先に解っちゃうと興醒めなので読んで確かめて下さい。
カバーの粗筋に書いてあるのが気に食わんが……誰だ、解説書いた奴!
ともあれ、この一文により帝国内部は揺れ、再び謀略の嵐が吹き荒れます。

ただ、この作者、謀略物が好きなのは解るんだけど上手いかと言われると……疑問。

前巻でとにかく引っかかった、『表も裏も作者が細かく解説してしまう』という点は、スキピオをメインに持ってきて、彼の葛藤に重点を置くことである程度解消されています。
でも、会議で登場する謀臣達の無能っぷりはひどいし、ラス手前で唐突に犯人として差し出された方の犯行理由も幼稚で、やっぱり知略戦を上手く書けているとは思えない。
おまけに最後は、すべてを理解しているスーパーキャラ二人が事態を収拾してしまうというアレな仕様で……ラジャス先生何しに出てきたんだか。(爆)

サラの出番を押さえた代わりに、章の合間に彼女の過去話を入れているのも蛇足。
今更、サラの凄さを強調してくれなくてもいい、って感じです。完全に作者の自己満足。
対決シーンの最後で某キャラが言った台詞は笑えたけど、それだけかな。

とまぁ、マイナス面は多々あるのですが――

スキピオ君楽しいから許そう。

強く正しく美しいけど中身はボケボケな宰相付秘書官ティアカバンが登場したおかげで、前巻よりさらにキャラが立っています。
ラジャスとの対面で、地味~に再登場しているホウキがフォローを入れるシーンは感涙もの。うんうん、非力だけどいい感じに慕われてるよねぇスキピオ君。
他にも、いかにも一癖ある軍司令ウィチィロポチトリが登場したり、ちょっと帰ってきたフェルグスが割と美味しい台詞をもらってたりと、今回もキャラ物としてはいい感じです。

出番は少ないものの、最後はちゃんとサラとラジャスでシメているのも好印象。
ただ、さらに続きが出ることが前提になっているので、前作ほど綺麗に終わってはいません。次巻できっきり完結することを期待すればいいんだろうけど。
個人的には、スキピオと双璧をなす近衛隊長グレンデルの活躍も見てみたかったりしますが、人間中心のこの話のカラーからすると、やっぱり脇で終わるのかなぁ。

少々パワーダウンした気はしますが、読める作品ではあります。オススメ。
最後のおまけ漫画がかなりいい味出しているので、スキピオファンは要チェックです。(笑)

逆襲連鎖

2006-08-15 23:59:00 | ファンタジー(異世界)
さて、ファンタジー強化週間になりそうな第623回は、

タイトル:抗いし者たちの系譜 逆襲の魔王
著者:三浦良
文庫名:富士見ファンタジア文庫

であります。

お初の作家さんです。
これがデビュー作ということですが……さて。

一つの伝説にこだわる男がいる。
己が運命に縛られていることを危惧する者がいる。
彼の名は魔王ラジャス。

一つの伝説に縛られた女がいる。
望まずして勇者と呼ばれ、孤独な生を生きる者がいる。
彼女の名はサラ・シャンカーラ。

必然と、一つの想いが二人を引き合わせた。
男は女に敬意を表し、女は男に対する愛を形にする。
その時、一つの伝説が現実のものとなった。

自分を迫害した人類に復讐するため、女は魔王となった。
運命に破れたことを由とせず、男は再戦を誓って野に下った。
そして運命に抗う二人は再び対峙する、一方は統一帝国を統べる魔王、一方は一介の戦士として――。

開始4ページで勇者に負ける魔王って初めて見ました。(笑)

勇者が悪で魔族が正義という、単純な聖邪逆転物……ではありません。
プライドと実力を備えた世界最強コンビの純愛物です。(いや、マジで)
いきなり魔王が負けてしまうというシチュエーションだけでも、「勝ったな!」と言えるのに、ぬかりなく『勇者が魔王に惚れていた』という設定まで入れた作者にまずは拍手。

ストーリーは、サラとの再戦を望むラジャスの戦い、人魔統一帝国の王として苦労するサラの戦い、サラを守る者達と狙う者達の暗闘を描くというもの。
メインであるサラの出番が多いとは言え、三つ物語を同時進行し、立場を変えた二人が対峙するシーンに収束させていく構成は見事の一言に尽きます。
また、陰謀物語の側面も持っているのですが、これについては後述。

キャラがかなり濃いのも特徴です、特に主役二人。

魔王を倒した直後に自分がその位置に座ることになり、前任者以上の実力を見せつけたサラ。
冷静な策略家にして人類への復讐者である面と、年齢相応に甘い面を併せ持つ、非常にアンバランスな御方。某襲撃者との対決は、その二つがぶつかり合っていて秀逸でした。
途中で語られる過去からして、もっと性格悪くなっていてもおかしくない人物ですが、ギリギリのラインで踏みとどまってしまうのが彼女の魅力の一つでしょう。

もう一方、余裕ぶっこいて、見事な負けっぷりをさらした元魔王ラジャス。
尊大でプライド高くて頭も回って強いんだけど、『魔王は勇者に勝てない』という伝説にこだわっているという、いかにも人間臭い方。(賛辞)
某『D'ark』のダルディーク様(解る方が何人いるだろう……)のように、冷酷かつせこく立ち回り、ひたすら悪に徹するタイプも好きなんですが、こっちはこっちで悪くないかな。

サブキャラもなかなか味があり、キャラ物の名に恥じないメンツが揃っています。
ただ……サラの清涼剤となっている少女ナナに関しては、ちょっとどころじゃなく雰囲気を破壊してる気が……。
ちなみに、私のイチオシは統一帝国の宰相スキピオ君。絵に描いたような苦労人で、次巻では殆ど主役と言っていいぐらい活躍します。(よしっ!)

と、いい点ばかり挙げてきましたが、引っかかる部分がないでもありません。
それはこの作品のキモでもある、策略を駆使した陰謀物。
とにかくくどい。

全部自分で『正しい答え』を書かないと気が済まないのでしょうか、心理描写、神の視点、キャラ同士の会話すべてを駆使してくどくどと説明文を読ませてくれます。
おまけに、エスカレートすると地の文が一行一段落になり、刻むように読者への確認作業を続けるので鬱陶しいことこの上ない! 書いてる方は楽しいのかも知れんが。
この傾向は陰謀が絡んでない戦闘描写にもあり、コマ送りの画像を見ているようで拒否反応が出ました……趣味の問題なんだろうけど。

続編が出ていますが、これ一冊できっちり一作品として終わってます。オススメ。
ラストもプロローグに負けず劣らず秀逸で、もう一度、「勝ったな、作者!」と言わせてくれます。(笑)

カルタでGO!

2006-08-14 23:49:14 | ファンタジー(異世界)
さて、久々のラノベな第622回は、

タイトル:〈骨牌使い〉フォーチュン・テラーの鏡I
著者:五代ゆう
文庫名:富士見ファンタジア文庫

であります。

初登場の作家さんです。(私の記事では)
『詞』 ことば に支配された世界を舞台に、『骨牌使い』 かるたつかい の少女アトリの数奇な運命を描くファンタジー長編で、本書は三分冊の内の一冊目に当たります。
二冊読んだ後で、相方が単行本の方を読了していることを知りました。(爆)

今夜もまた、『それ』はアトリの元を訪れた。
涙を流しながら腹に触れ、沈むように中へと入ってくる。
そして、風が吹くだけの無人の広野へと彼女を誘うのだ……。

アトリは亡き母の骨牌を受け継いだ骨牌使いである。
かつて骨牌使いは、この世のすべてを語った十二の詞――その力を宿した骨牌を用いることで強大な力を行使していた。
だが、今の世にそこまで強力な使い手は存在せず、彼女もまた、〈斥候館〉専属の占い師として慎ましく生きている。

祭りの席で、アトリは同じ骨牌使いに母を侮辱された。
骨牌による決闘という、詞を使う者として恥ずべき行為の果てに、彼女は旅の青年ロナーの未来を占うことを余儀なくされる。
占いを毛嫌いする彼が奪い取った『結果』を示す最後の札……それは、十二枚中最も不吉とされる忌み札『月の鎌』であった――。

確率十二分の一で、『徹底的な破壊』って、かなりシビアな占いですね。

とまあ、無粋なツッコミは置いといて……かなり凝った設定の異世界ファンタジーです。
『世界』を十二の詞によって語られる物語としており、詞を象徴する骨牌と、それを使って詞を操る骨牌使い達の存在を無理なく成立させています。
また、異言者と呼ばれる詞を破壊された者達や、詞も骨牌も知らず独自の文化を育ててきた民族を出す等、基本をきっちり押さえることで世界に奥行きを与えています。

ストーリーとしては王道で、主人公アトリが秩序の守護者と混沌の眷属の争いに引きずりこまれ、秩序側の一員ロナーと関わる内に世界を学んでいくというもの。
物語自体は淡々と進みますが、アトリの亡き母への屈折した感情や、隠された自分のルーツを知った時の困惑などを非常に丁寧に書いており、じっくり読ませてくれるのは好印象。
もっとも、本巻の彼女は状況に振り回されっぱなしなので、どちらかと言うと世界の案内役で終わっちゃってる感じはしますが……。(次巻でちょっと解消されます)

あと印象的だったのが、何から何までとにかく無駄がない作りをしていること。
捨てキャラが一人もいない、展開で寄り道したりしない、文章の水増しもまったくない……どこまで計算してるんだこの作者っ!
反面、手軽に読める作品やカタルシス溢れる作品を求める方からすると、固い! と感じる部分もあるかも知れません。私の場合、ジャストフィットだけど。

ただ、本巻に限って言えば――

世界の変動に呼応して現れる骨牌『見えず、聞こえず、語られぬ十三』の存在。
五百年前、骨牌の力で一国が滅びたというベルシャザルの伝説と現代のつながり。
夢の中でアトリを訪問する人物は、実は×なのではないか? という疑惑。

等々、謎が豊富で、激しい盛り上がりはなくても、続きを読む気にはなる……筈。(弱気)

文章、構成、設定、どれを取っても水準以上の良作です。オススメ。
ところで、序盤でいきなり出てくる『多島海』って名称は『ゲド戦記』へのオマージュなのか?(笑)


BOOK SORDさんの記事にトラックバックさせて頂きました!

これを薦めていいのか!?

2006-05-05 21:22:53 | ファンタジー(異世界)
さて、ビーンズ文庫編集部っていったい……の第521回は、

タイトル:エクリトワールの蝶
著者:生田美話
出版社:角川ビーンズ文庫

であります。

最愛の者を残して死んでしまったジゼは、冥界の王ミラダと、中級死神として百の魂を導いたならば蘇らせてもらえる契約を結ぶ。
再び最愛の者のもとへと死神としての仕事に精を出すジゼだったが、お人好しの性格が禍して導くどころか、九十九の魂の導きに失敗。
そしてとうとう百個目の魂まで導くことが出来なかった。

それは骸骨だけの身体に意志(=最愛の者のもとへ蘇る、と言う希望)を持たない下級の死神への降格を意味していたが、最後のチャンスを与えられる。
生者と関わってはいけない死神でありながら、ある生者と交渉することを命じられる。

これ以上、敬愛する冥界の王ミラダに迷惑をかけるわけにはいかないと意気込んでジゼは交渉へ向かうが……。

えー、先に言っておこう。
これを読んでおもしろかったとか、すごい好きとか言う方、及び著者は読まないほうでいいだろう。

と言うわけで、評価。

下手

金を出して買ってもらって読んでもらうんだから、せめて文章くらい最低限のレベルには達してくれ。

私はけっこう文章にはうるさいし、好みもあるほうだが、この作品は好み云々ではなく、作家としてのレベルに達していないとしか思えない文章だ。
ストーリーが云々する以前。
ゲームのシナリオライターもしているとのことだが、シナリオならいろんなひとの関わっているから最終的な作品としては目立たないのだろうと想像する。

まず最悪なのが場面展開の甘さ。
1行あけたりして変化があることを明示する、場面が変わったことをきちんと書いておく、などのことがかなり疎かで、場面がつながらないところが多々ある。
そのため、展開が急になったり、だらだらと長くなったりと、流れの悪さが際立っている。

その次に説明不足がひどい。
ただでさえ、統一感のない世界観なのに、これのおかげで余計にごちゃごちゃしている。
キャラについても同様であり、場面展開の甘さも相俟って言動、行動が、なぜそう語るのか、そう動くのかが飲み込めないところが多々ある。

おそらく、書いている自分がわかっているから他人が読んでもわかる、と言う文章の典型的なものだろう。

そのせいもあってか、主人公のジゼを除いてキャラが立っていない。
ジゼもしっかりしているかと言われれば、さほどそうとは思えず、相対的に見て、他のキャラよりはマシ、と言う程度。

ストーリーやキャラ造形などは、少女小説のジャンルとしては受けそうな感じのものではないかと思えるので、編集部おすすめと言うのもまったく理解できない……わけではないのだがねぇ……。
おすすめする前に、もっともっともっともっと、推敲させたほうがいいんじゃないの? 編集部。

二次関数

2006-04-23 18:20:46 | ファンタジー(異世界)
さて、作品の中身とは関係ないなの第509回は、

タイトル:砂漠の花
著者:金蓮花
出版社:集英社コバルト文庫

であります。

確か、このひとのは、ん年前に初期作品を読んだだけだったなぁと思い、いまではどんな感じになってるのかと言うことで購入。

大陸一の大国カナルサリにあって、16歳という若さで女王となったカリュンフェイは、暗殺によって弑された父王シアネーグに与えられた神託で戦の女神とされる少女。
また、そのカリュンフェイが受けた神託は二つという異例のもの。
「和をもって統治する」未来と「血によって支配する」未来の二通り。

そんな女王カリュンフェイと、女王を取り巻く父王時代からの宰相、生まれたときに亡くしたカリュンフェイにとって母と慕う王妹で宰相夫人、その息子である従兄などのカナルサリの者。
そして属国となった第二の大国シルヴァスから人質として送られてきた公子のシリスという人物によって、カリュンフェイに授けられた神託は現実のものとして回り始める。

物語の大筋としては、神託を中心にして繰り広げられる国家間の話ではあるのだが、この1巻はかなりキャラ個人中心。
カリュンフェイの運命を回し始めるシリスとの出会い、恋や、求めても得られなかった父王への思慕など、まぁ取り立てて「これは!」というものはないが、丁寧にカリュンフェイの姿が描かれている。

また従兄の立場に安寧として鳶に油揚げをさらわれた宰相の息子であるレンソールなどの脇キャラについてもよく描かれている。

ストーリーもまだ1巻と言うことでそこまで進んではいないが、次巻以降も期待させてくれる話にはなっていると思う。

それにしても……、読みにくいなぁ、このひとの描写は……。
比喩表現や情景描写など、読むひとによってはかなりくどく見えるだろうし、くどいのが嫌いではない私でも読みにくい。
逆に、キャラを動かしている際の描写が説明不足で、場面の動きやキャラの視点の変化などがわかりにくいところがぼちぼちある。

キャラの心理描写やストーリーはいいだけに、文章がもっと読みやすく、且つ情景が想像しやすい描写などになっていればかなりの高評価になったんだけどねぇ。