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つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

読者限定品

2006-03-31 03:14:50 | ファンタジー(異世界)
さて、つれづれに年度末は関係ないの第486回は、

タイトル:大鷲の誓い デルフィニア外伝
著者:茅田砂胡
出版社:中央公論社 C・NOVELS Fantasia

であります。

本編が終了して何年経ったんだろうねぇ、これ。
ってくらいあとになって出版されたデルフィニア戦記シリーズの外伝。

ストーリーはデルフィニアでは公爵にあり、ティレドン騎士団の団長でもあったバルロと、ラモナ騎士団の団長のナシアスのふたりの話。
時代はウォルが王に就く前で、当然デルフィニアでは主人公のひとりだったリィも出てこない、バルロとナシアスがまだ騎士団の団員であったころ。

騎士団同士の対抗試合で勝利したナシアスに、ひとりの少年が手合わせを求めてくる。
それがまだ騎士の叙勲すら受けていないバルロで、それを知らないナシアスはあっさりと勝ってしまう。

試合の後、ナシアスが王都へ赴く機会があったときに、バルロはナシアスを呼び、剣の相手をさせる。
ティレドン騎士団では、公爵家の総領息子で、当然次期公爵のバルロ相手に勝つわけにもいかないのだが、ナシアスはそれを試合の後で知っても、まったくそんなことなど頓着しない。

権勢にまったくとらわれずに接するナシアスは、公爵家の総領息子という立場に、否応なしにつきまとうしがらみとは無縁な関係を築ける間柄。
そんなふたりが団員から騎士、そして隣国パラストとの戦いを経て友情を深めていく、そんな話。
もちろん、公爵家で育ち、一般的な常識とはかけ離れた公爵家の常識に苦悩する、一般的な常識の持ち主であるナシアスの姿や、バルロの母である王妹の公爵夫人に絡んだ友情の危機的状況など、まぁ、スタンダードな出来事は十分に盛り込まれている。

最後のほうは、デルフィニア戦記本編よりもあと……リィがいなくなってからの話題も少し入っている。

デルフィニアが好きなひとにとってはきっとおもしろい話なんだろうなぁ、と思う。
著者らしいテンポの良さは健在で、とても読みやすい。
でもこのふたりだとどうしてもウォルとリィのような夫婦漫才にはならないので、そういう笑えるところが少ないのが残念なところかも。

まぁ、そんなところかな。
すごいおもしろい、と言うわけでもないし、本編読んでないとラストのほうのエピソードなんかはほとんどわからないだろうし、なんかホントに懐かしいなぁ、くらい。
まぁ、外伝なんだから本編知らないひとが買うとは思わないけど。

……にしても、最初表紙のイラスト見たときに、ほんとうにしばらく読んでなかったこともあって、ウォルとバルロのふたりかと思ったぞ(笑)

ほほぅ

2006-03-26 16:21:38 | ファンタジー(異世界)
さて、二日酔いで頭痛がしてるなぁの第481回は、

タイトル:彩雲国物語 黄金の約束
著者:雪乃紗衣
出版社:角川書店 角川ビーンズ文庫

であります。

目録探してみたら12月25日に1巻「はじまりの風は紅く」を読んでいて、その続きの2巻。
1巻では、主人公の秀麗が昏君の王をたたき直してくれと依頼され、後宮へ行き、そこで起きる事件などを経て、めでたしめでたしな話だった。
評価は甘々の及第点ではあったが、この2巻、なかなか好みとしてはいい感じになってきている。

さて、後宮を辞して、約束通りの報酬金500両ももらい、これで前の貧乏生活も改善された……はずの秀麗の住まう紅家は、家の修繕だの何だのとやっているうちに、あっさりといままでと変わらない生活に戻っていた。
雨漏りがしなくなったことと、麦飯が米飯になったことを除いて。

あと、匿名希望とありながら誰かがバレバレな王の劉輝から、傍目には嫌がらせとしか思えない非常識な贈り物が来ることが変わったことか。

そんな秀麗のところへ、ふたつの出来事が起きる。
ひとつは、伸び放題の髪と髭面の男が家の前で行き倒れていたこと。
もうひとつは、夏の暑さに次々とダウンした王宮で働くこと。

ストーリー的にはこのふたつが、同時並行的に進んでいく。
行き倒れの男のほうは、家人である静蘭や茶州という地方での権謀術数に絡んで。王宮で働くことは、男子専制の国試に女性も受験可能にするための話に。

まぁ、このふたつに関してはまぁいいだろう。
実際、ラストには秀麗は実験的に導入された国試に合格したことも書かれているし、むしろこういう話になるほうが個人的には好きだね。
べたべたに甘くなるよりは、こういうストーリー展開のほうがいい。

しかし、前の1巻のときも思ったけど、この作者、エピソード詰め込みすぎ。
メインの話は上記のふたつなのだが、この他にも、1巻で出てきた霄太師絡みのネタや、秀麗の父である邵可のネタなど、いろいろと取り混ぜてはいる。
……いるのだが、おかげで流れの悪いところが多々出てくる。

こういうスタイルが好きなひともいるとは思うが、そういうネタをやりたいなら短編集でもなんでもいいから、そういうところでじっくりやってくれ、と言いたくなる。
ムダにたくさん入れて、本来の話の流れを阻害するようであればなしにして、本編をじっくり書いてくれ。

文章的には、場面場面の変化や繋がりが悪いところがちらほら目につく。
最低でも、誰が喋っているのかわかるように地の文を入れるとか、口調の特徴をもう少し出すとかしといてもらいたいもの。

まぁでも、個人的には秀麗の今後が気になるところなので続きは買ってみるかなぁ。
男性キャラの新キャラも増えて、どんどん秀麗の周囲が逆ハーレム状態=や○いの匂いがしまくりなのがちときついかもしれんが。

始めよければ……?

2006-02-25 17:17:01 | ファンタジー(異世界)
さて、終わりのほうもあるけどどっち? の第452回は、

タイトル:狼と香辛料
著者:支倉凍砂
出版社:電撃文庫

であります。

行商人になって7年、25歳になったロレンスは、過去に行商の関係で親しくなった村で毎年のように行われている祭りに立ち会う。
その祭りは麦の豊作を祝うもので、豊穣の狼神を祝うものだったが、いまではまったく形骸化していた。

祭りは村人だけで行われるもの。
そのため、ロレンスは相棒の馬とともに荷馬車でその村を立ち去ることにする。
塩と交換に手に入れたテンの毛皮と、僅かばかりの麦とともに。

そうして日が落ち、野宿だと思いつつ荷馬車のテンの毛皮にもぐり込もうとしたロレンスは、なぜか毛皮の山の中に先客がいることに気付く。
なんだと思って見ると、10の半ばを過ぎたくらいの少女……ただし、茶色の耳と尻尾つき。
悪魔憑きとも思える姿をした少女は、賢狼ホロと名乗った。

彼女は、ロレンスが立ち寄った、祭りをしていた村で、祭られていたはずの狼神だった。
麦に宿るホロは、たまたま立ち寄ったロレンスが持っていた麦に宿り、村を抜け出してきたのだ。
ひょんなことから数百年は生きている狼神を拾ったロレンスは、ホロとともに旅をするようになる。

……最初の最初の掴みはかなりOKだった。
「この村では、見事に実った麦穂が風に揺られることを狼が走るという。」
まぁ、どこかに元ネタでもあるのかもしれないが、あいにくと私は知らないので、なかなかよい出だしだと思った。

だが、序盤を読むに連れて、ロレンスがホロと出会うところや、老獪な、けれど幼い子供を思わせる相反したキャラクターとして描かれるホロとロレンスのやりとりなど、まったくキャラクターと作品の雰囲気が合っていない。

自分のことを「わっち」、ロレンスを「ぬし」、語尾が「ありんす」など特徴的な言葉遣いをするホロと、若手の商人らしいロレンスのキャラクターはいいのだが、序盤はかなりキャラが浮いている状態。

中盤以降に入り、ストーリーが展開するに連れて、テンポはよくなり、読み応えは増してくるものの、出だしの掴みに較べて序盤がへぼへぼなので、悪くするとこの時点でやめたくなってくる。

ストーリーも、主人公が商人だけあって、帯の「剣と魔法の活躍しない」という言葉に嘘はない。
ただし、どうもこの作者、自分がわかって想像できていることをわかりやすく文章にする、と言うことが下手。
展開に破綻はないが、かなりの頻度で文章を読んで情景や場面がまったく想像できないことがある。

ときどき、と言うレベルならまだしも、かなりあるのでこれは致命的。
文章量はラノベにしてはけっこう充実していて、読み応えは保証できそうなのだが、流れと言う面ではかなり低い評価しか出来ない。

また、タイトルの「狼と香辛料」だが、ストーリーの終盤のほうで、「ほらよっ」という感じで投げ込まれたようにタイトルに絡むネタが登場し、これもいただけない。
なかなか興味をそそられるいいタイトルなのだが、ストーリー上での扱いのおかげで、別にこのタイトルでなくともかまわないのではないかと言う気になってくる。

中盤以降の読み応えはなかなかよいし、クライマックスやラストもなかなかのものなので、ぎりぎり及第点と言ったところだろうか。
とは言うものの、今後の精進次第では、かなりよい雰囲気を持った作品を期待できるのではないか、とは思う。



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生き残りゲーム

2006-01-03 16:21:55 | ファンタジー(異世界)
さて、いつものごとくふらっと手に取ってみた第399回は、

タイトル:七姫物語
著者:高野 和
文庫名:電撃文庫

であります。

お初の方です、受賞作と言うことで手を出してみました。
いわゆる『一行一段落』しかも一人称な文章は好みじゃないのだけど、敢えて眼をつぶります……多分、幼い主人公の心情を表す効果があるに違いない。(祈)
なんでそんなに甘いかって言うとイラストが好みだから――じゃなくて、私がデビュー作というものに弱いからです。(前にも言ったっけ?)



三年前の冬、寒さに震えていた私はあの二人に出会った。
背高のテン様と嘘つきのトエ様、彼らは独りぼっちの娘を探していたのだ。
私がトエ様の袖を掴まなければ、そのまま別の娘を拾ったに違いない。

トエ様は私に名前を付けた。
カラスミ――七月の東和詠み名。
僕らと来るならそう名乗りなさい、それ以外は何も言わなかった。

テン様が言った。
自分が将軍、トエ様が軍師、そして私がお姫様、三人で天下を取りに行こう、と。
その時の私は、天下が何かすら知らなかった。

七つの主要都市に七人の姫君が立ち、天下を伺う。
その内の一人、それが私。
東和七宮、空澄姫殿下。



幼女と仲良く天下取りですか?

すいません、冗談です。
テンとトエに拾われた時が九歳、現在進行形で十二歳な主人公ですが、そーゆー類の話ではありません。

年上のおにーさん二人に挟まれて女の子女の子してた主人公が、立場を自覚し始めるまでの成長物語。
戦国の七雄のトップを全員女王にしちゃったようなシチュエーションながら殺伐とした雰囲気はなく、可愛らしいお話になっています。
イベントはそう多くありませんが、キャラの個性は出てます……もっとも、テンとトエの極甘っぷりを見る限り天下が取れるとはとても思えませんが。

子供っぽいようで、時折、残酷な割り切りを見せるカラスミを好きになれるかが評価の分かれ目でしょうか、私は結構好きです。
忍者チックなボディガードや現場に出張ってくる武闘派お姫様とかお約束な方々も出ますし、総じて言えばキャラ物と言えるでしょう。

眼をつぶるって言ったけど、やっぱり文章にも触れておきます。
行頭と、下が「白い」のは……まぁ、幼くておとぼけな感じの主人公に合っているし、可愛らしい雰囲気を醸し出している、とは思います。
でも、「ならば」「しばらくして」「そうして」で一行取るのはどうにかして下さい、ひどく疲れる……考え方古い?

文章が気にならないなら読んでみてもいいかも。
天下取りの途中でラストを迎えますが、一つの物語としてはこれで終わりでいいかと思います、と言うより、続きいらない。



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単純に楽しみましょう

2005-12-25 14:35:55 | ファンタジー(異世界)
さて、このジャンルは久々の第390回は、

タイトル:彩雲国物語 はじまりの風は紅く
著者:雪乃紗衣
出版社:角川書店 角川ビーンズ文庫

であります。

いわゆる少女向けのライトノベルの文庫であります。
まぁ、たまにはこういうラノベもいいかぁと言うことで、数も出ているし、人気があるのだろうと言うことで購入。

舞台は、尚書などの官吏の名前から概ね随や唐あたりの古代中国だろう。(確かこのあたりの時代の官名だった気が……)
家柄だけは一流だが、その日の食事代にも事欠いてしまうくらい零落した紅家の姫秀麗は、貴族のお姫さまに似合わず、勉強や二胡を教えたり、侍女の臨時雇いに行ったりと、武官であり秀麗の家の家人である静蘭とともに、貧乏暇なしを地でいっていた。

そこへ彩雲国にあって名宰相と誉れ高い霄太師が、父と静蘭、自分を含めて10年以上は軽く暮らしていけるおいしい話を持ってくる。
それは、政務にまったく興味を示さず、しかも男色家の噂がある現国王紫劉輝の妃として後宮に入り、ぼんくら国王をたたき直してくれ、と言うものだった。

かくして、秀麗は金500両のおいしい仕事に目がくらんで、後宮へ行くこととなった。

なんか、ときどきこういうほんとうに文庫の短い解説みたいなの書いてるな、私……。

さておき、この話、何も深く考えてはいけない。
とにかく、単純にストーリー上で動くキャラを楽しみましょう。
それ以上を望むと、バカを見る。

とは言うものの、第1回ビーンズ小説賞奨励賞・読者賞を受賞しただけあって、確かに人気が出そうな話ではある。
と言うか、私が下読みさんだったら、この文庫のカラーからして、確実に通すね。

ただ、きちんと評価をしようとしたらやはりぼろぼろと欠点が出てくる。
まず、キャラクター。
主人公である秀麗、国王の劉輝、家人の静蘭を除いてキャラがしっかりしていない。
物語の中で準主役格の武官文官のコンビなど、その最たるものだろう。
文章の関係もあるが、すんなりとキャラクターとして飲み込めないところが多々ある。

さらに構成がまずい。
後半に入ってからこういうラノベに必要な事件とその黒幕、動機など、すべて後半で「実はこうでした」と語っているだけで、前半部分と乖離している。
好々爺然とした霄太師や生活能力の欠如した父親の正体など、「あ、そう」としか思えない。
ストーリーの中心にあるテーマは一貫しているので、もっときっちり伏線を作っていれば、説得力を持たせられると思うんだがね。

文章も、古代中国を舞台にした割にはカタカナ文字が入るなど、個人的な好みとしてはどうかとは思うが、文庫のカラーからはまだ許せるかな。
さしてうまいとは言えないが、まずいとも言えないレベルで、甘いかもしれないが文章は及第点だろう。

とは言うものの、上記のとおり、ただ単に軽く読みたいと言うのであれば、これはいいかもしれない。
コメディだしね。

まぁでも、やはりと言うか当然と言うか、や○いの匂いがするんだよね。
ジャンルとして仕方がないと言えば仕方がないんだろうけど。

とりあえず戦っとけ

2005-12-21 19:39:29 | ファンタジー(異世界)
さて、実はこの方二冊目な第386回は、

タイトル:Ⅸ(ノウェム)
著者:古橋秀之
文庫名:電撃文庫

であります。

以前、『ブラックロッド』を紹介させて頂いた方です。
『サムライ・レンズマン』とどっちにしよーかな~って考えたけど、本家レンズマンを好きかって言われると疑問形なのでこっち。

中国風の世界を舞台にしたバトル・ファンタジーです。
気孔みたいな武術を使う集団の秘蔵っ子であるヒロインと、鬼の右腕を持つため人里離れて暮らす少年が出会って、ヒロインを狙うやたら強そーな奴等が現れて、少年が少女を救い出すために敵の城に乗り込んで……まーそんな話です。(投げやり)

お約束なストーリーは置いといて、陰陽五行術と中国武術をくっつけたよーなバトルシーンですが――。

地味

元々、文字で書く戦闘シーンの迫力って絵より格段に劣るので、心理描写、イキな会話、過去の因縁、なんかで盛り上げてく必要があると思うのですよ。
でも、力任せの野生児とお堅い武闘派少女に動き以外を期待するのは厳しいものがあるんじゃないでしょうか……年齢無視してやたら悟ってたりしたら別だけど。
いわゆる達人同士の戦いもあるんですが特に印象なかったですね、そもそも、敵味方ともに斬られ役の顔キャラいないし。

あ、一人いました!
名前忘れましたが、ヒロインの叔父の友人みたいな感じの人で、モノローグで人格とか強さをやたら吹聴してくれるんだけどあっさり斬られて南無三。
その後、敵はおろか、味方の誰一人として彼のことを語る者なし、おーい……ヒロインの叔父貴さんよ、あんたの友人殺されてっぞ~。(爆)

ちなみに本作、最後の最後に事件の黒幕みたいな奴が出てきてさらっと終わります。
何かRPGの序盤だけ小説化したような感じ、でも続編はいらないかな。
この巻だけで裏の関係や先のストーリーが読めるような書き方してるし、この二人の絡みが見て見たい……って程、強烈な印象のキャラもいないので。

B級少年バトル漫画を文字で読みたい人にオススメです。(勧めてない)
あ、ヒロインはしっかり脱がされます――って、そこがツボなのか?



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後宮へGO!

2005-12-05 23:27:33 | ファンタジー(異世界)
さて、第404回あたりになんか記念しようかと思う第370回は、

タイトル:後宮小説
著者:酒見賢一
出版社:新潮社

であります。

知る人ぞ知る中国風アニメーション『雲のように 風のように』の原作。
アニメの方は悲恋物といった風情でしたが、こちらは……。

腹英三十四年、帝王が崩御し弱冠十七歳の太子が王位を継ぐことになった。
彼のために宦官達は新たな後宮作りを始め、各地から多くの女性を集める。
後に正妃となる少女・銀河は、後宮の実態を知らぬままそれに志願した。

女大学と呼ばれる教育機関で房中術を学びつつ、後宮入りを待つ宮女候補達。
幸運にも、銀河と相部屋の仲間達は最終試験まで残ることができた。
新帝に選ばれ、正妃となる銀河……しかし、帝国は危機を迎えつつあった。

歴史書を元にした物語という体裁を取ったファンタジーです。
実は本文で紹介されている国や史書はすべて存在しない(!)のですが、見せ方が非常に上手いので本当に中国史を学んでいるような気分になります。
架空の歴史家によるこの物語の時代の評や、ところどころに出てくる豊富な知識、後宮独特の風習などなど、現実の歴史物語より凝っています。

上の粗筋には書きませんでしたが、この話には二人の主人公がいます。
一人はもちろん銀河、もう一人は……反乱軍の首魁の一人・渾沌です。
アニメでは銀河とロマンスを展開した新帝陛下ですが、こちらではほぼ脇役。

性別も年齢も立場も違うのに、銀河と渾沌は非常によく似ています。
銀河は市井の娘であり、当然、後宮の作法や常識などまったく知りません……しかも正妃になってもそれは変わらず、自由奔放な行動を続ける。
渾沌は退屈を紛らわすために反乱を起こしたというとんでもない男……しかも最初から王朝を滅ぼす気などなく、勝てないと解ったらあっさり降伏したりします。

感覚を最優先し、周囲の理解を超える行動を取るトラブルメーカーが主役を張るのは王道中の王道ですが、それが二人も出てくる作品というのは珍しい。
当然の如く、物語はこの二人が出会うところで最大のハイライトを迎えます……しかもかなり納得のいく形で――上手い。

ファンタジー好きのみならず、歴史好きにもオススメ。
漢字が多いので、そこが苦手な人は辛いかも知れませんが。
アニメ版も綺麗な話だったけど、個人的にはこっちの方が好き。

らしく書いたら?

2005-11-19 00:26:17 | ファンタジー(異世界)
さて、ファンタジーでしょ? の第354回は、

タイトル:孤狼と月 フェンネル大陸偽王伝
著者:高里椎奈
出版社:講談社NOVELS

であります。

主人公の少女フェンベルク……フェンは、ストライフという王国の王族の末子で、13歳にして、人間とおなじ形をしながら人間ではないとされるグールの軍隊、獣兵師団を率いる将軍だった。
国のため、元帥である兄のために、ひとに忌み嫌われるグールという存在で構成された軍隊を指揮し、戦場へ赴いていた。

戦場で勝利を得、帰国したフェンは罪人がその仲間たちの手引きによって脱走したことを知り、町の者の噂を頼りにその後を追う。
そこでその罪人に自らの置かれている立場を教えられ、そのことを知った敬慕する兄に、犯罪者として流刑されることとなる。

罪人の言葉がきっかけとは言え、信じていた国や王、兄たちに裏切られ、そのショックで心を閉ざしてしまったフェン。
けれど、その身分故に流刑先で人買いに売られ、競売にかけられる。
そして競り落とされた男に養われながら、ある事件に関わるようになり、自らの不明を知り、そして様々な国を旅することを決意する……。

何のひねりもなければ、奇を衒ったところもない、いかにもなファンタジーもの。
ストーリーの流れも、フェンのストライフ王国での仕事ぶりから始まり、信じていた者たちの裏切り、失意、そして様々なことを知り、成長していく物語で、お約束の塊。
とは言え、かなり安心して読めるのは読めるだろうね。

すごいおもしろい!
なんて口が裂けても言わないけど、ライトノベルとして軽く読むには、まぁ適していると言ってもいいかもしれない。
ただし、これで新書なんて、講談社、ぼりすぎやで。
どう考えても文庫で出すべき話と分量だよ。

引っかかるのはやっぱり文章かなぁ。
「とうとうここまで来てしまった」とかで使う、「とうとう」を「到頭」と書いたり、「しっかり」を「確り」だったり。
……あの、ジャンル把握して書いてます? と聞きたくなるね。

あと、そういうイメージなんだろうけど、こういう横文字メインのファンタジーで「蔀」とかさ、もっと単語は選んで使えよ、って言いたくなる。
あとがきを読むと勢いで書けたみたいな感じで書いてあったので、わからないでもないけど、違和感ないのかね。
当然、推敲するだろうに。

あと、気になるところと言えば、裏切られたあとのフェンかな。
仮にも軍属で、しかも最初のグールを率いた戦場で相手の将軍に対して、極めて冷静に首にナイフを突きつけて降伏を迫るキャラが、いきなり「考えるのも考えないのも疲れ」るほどに落ち込むか?
何日も何日も何もせず、杖なしでないと歩けなくなるほどになるか?
そりゃぁ、13歳の少女、と言う設定からすれば、無理もないよと言うひともいるだろうが、それまでのストーリーの流れからはとてもそうは思えないね。
そういうところに説得力を持たせたいなら、もっとそういうところを描くべきだね。
元帥の兄をとても慕っている、という場面を見せるのも一場面だけだし。

ファンタジーならファンタジーらしい書き方と、説得力をもっと持たせられるような描写とかがしっかりしてくれれば、「お約束な話だけど、読んでみても悪くないと思うよ」くらいには言えただろうにねぇ。
まー、続きも出てるみたいだし、読むものに困って古本屋にあったら買うかな。

新人さんなのに悪いけど

2005-11-18 20:40:49 | ファンタジー(異世界)
さて、久しぶりの新書だなぁの第353回は、

タイトル:光降る精霊の森
著者:藤原瑞記
出版社:中央公論新社 C★NOVELSファンタジア

であります。

第1回C★NOVELS大賞受賞作、と言うことで、とりあえず新人さんを試しに読んでみるか、と言うことで購入。

ある過去を背負って、ある森の森番をしていたエリは、いつもの巡回をしているとき、相棒の犬によって小型犬ほどもある不思議な猫に出会う。
さらに猫を追う犬を探して森の奥深くまで辿り着き、そこで小さな少女を拾うことになる。

行き倒れかと住処の小屋に連れて帰ったのはいいが、おなじ森番のひとりは少女が半分透けて見えると言う。
さらにそこへあの猫が訪れ、喋り出すとともに少女が半妖精であることを告げ、エリにある町までの同行を求める。

紆余曲折の末、喋る猫であるゼッテ、半妖精のファティとともに鷹の女王と呼ばれる者を訊ねる旅に向かうことになる。

……と、煽り文句まがいの中途半端なストーリー紹介はこれくらいにして。
まぁ、ストーリーの中心は主人公であるエリの過去の話かなぁ。
もともと王族の血を引く公爵家の子息で、優秀な、けれど血筋は劣る兄との確執を描いたもの。
もちろん、同行者であるファティ、ゼッテの旅の話もメインの話ではあるのだろうけど、なんか、どっちもどっちで中途半端って感じがする。

ファティ、ゼッテの話からエリの話に流れていくストーリーの流れはうまい具合に行ってるんだけど、その結果が「それかよ……」と突っ込みたくなるくらい、呆気ない……いや、味気ないっつーか……。
エリのキャラも、こういうライトノベル系の話にしては薄い。
元修道士という設定を差っ引いても、主人公としては影が薄すぎる。
感情の起伏が明快でかわいらしいファティと、横柄で口の悪いゼッテに完全にキャラ負けしている。
主人公なのに。

それもあってか、ラストのほうのエリと兄との対峙もクライマックスだと言う迫力に欠けるし、兄の行動も著者の苦し紛れって感じが否めない。
そのあとの兄の回想の部分も、理由をあとからこうなんだよと説明しているだけ。
もっとストーリーの中でもっと兄のそう言う部分を見せないと、読んでても「あ、そう」で終わりなだけ。

中心の話であるはずのエリのストーリーがこれじゃぁねぇ。
新人さんだし、きっとネットとかで検索して、見つけたらへこみそうだけど、ダメだね、これは、と言ってしまおう。

でも、悪いことばかり言うのも何なので、いいところも。
描写力はかなりよいと思う。
町や建物と言った構造物となると、自分の想像していることをうまく文章に出来ないのか、まったくダメ。
じっくりゆっくり読まないと形すら想像しづらいんじゃぁ、もっと書き方を工夫すべきだろう。

っていいとこのはずだったのに……(笑)
いや、ホントに描写はとてもいいのよ。
構造物以外は。
最初のほうの森の描写や、旅の道中の描写、キャラの表情の変化や動きと言った部分は申し分ない。
比喩も情景に合っているし、小難しくひねくり回してるわけじゃないから読みやすいしね。

でも、やっぱりストーリーがねぇ。
まず、オススメは出来ないな。

残念ながら

2005-10-07 23:12:56 | ファンタジー(異世界)
さて、3冊目でどうなったのかの第311回は、

タイトル:翔佯の花嫁 片月放浪
著者:森崎朝香
出版社:講談社X文庫ホワイトハート

であります。

3作目も古代中国をベースにしたファンタジーで、1作目の「雄飛の花嫁」でも出てきた閃(せん)、そしておなじく少しだけ出てきた瓔(えい)の話。
そしてシチュエーションもおなじく、斜陽の瓔が閃との戦争を回避するために、公主を王妃として閃王に差し出すところから始まる。

ただし、1作目と違うのは、1作目のヒロインである珠枝は思慕する兄の約束を信じて嫁いできたが、3作目のヒロインの董香月(とう こうげつ)は、復讐のために閃王、巴翔鳳のもとへ嫁ぐ。

閃の2代目の王座についた翔鳳は、いくつもの国へ戦争を仕掛け、そしてそれらを悉く制覇し、支配する。
そんな戦争の中で、翔鳳に住んでいた小城を焼かれ、最愛の母を殺された香月。
そんな思いの中で閃へ嫁ぐことは復讐するための好機。

しかし、とても公主とは思えない慣れた仕草で後宮を抜け出し、翔鳳を襲った香月は呆気なく負ける。
当然、一国の王を暗殺しようとすればどうなるかは火を見るよりも明らか。
……にも関わらず、翔鳳はそのまま王妃のまま、留め置き、足繁く香月のもとへ通うこととなる。

暗殺しようとしたにも関わらず、王妃の地位はそのまま。
挙げ句の果てには殺さないと約束する翔鳳に戸惑いながらも、翔鳳が側にいることに慣れてくる香月……。

なーんて、またもや解説文っぽい感じでやってしまった(笑)

さて、結論から言うと、3作目にして落第。
2作目は、ある意味、意欲的だが構想と1冊に収めると言う制限との関係で失敗してしまった感があるが、今回は1作目と似たタイプの話で、もろに1作目との対比が可能。
しかもその1作目がそれなりに評価できる作品だっただけに、今回の作品の甘さや欠点と言ったのがとてもよくわかる。

まずキャラクターの魅力に乏しい。
作者があとがきでも書いているが、本人も自覚しているくらい枚数が少ない。それは「無駄な文章を削」ったらしいのだが、逆にそのぶん、文章の薄さが行動の描写、心理描写を少なくして、それがキャラの魅力を損ねているのではないかと思う。
1作目も、個人的にさほど文章量が多いとは思わなかったが、しっかりとした描写でよかった。それを削って、作者本人が枚数が少なくなったと思うほど少なくしたのならば、これは予想の範囲内と言われても仕方がないだろうと思う。

またストーリー展開も序盤はいいのだが、話が進むに連れてストーリーが上滑りするばかりで入っていけない。
香月の素性や身代わりと言うキーワードがあるのだが、それをうまく処理しきれていない、もしくはいろいろ狙ったのかもしれないがそれがうまく機能していない、と言う印象。

それがさらにキャラの薄さと相俟って作品全体のおもしろさがなくなっている。

2作目と同様、いろいろとやろうと思っているのかもしれないが、読者の期待をいい意味で裏切る、と言うのはこれを読んでつくづく、ハイリスクだと思った。
「やられたっ!」と思うくらいいい展開、ラストはとても難しい。
失敗すれば、結局のところ、酷評される。

作者が3作目でそれを狙ったのであれば、またもや失敗したとしか評しようがない。
1作目で読める話だと思って期待していたぶんだけ、失望は大きい。

私はけっこう買った本はためておくタイプだが、これはもう古本屋行き確定。
1作目のようなしっかりとした話を望みたいが、よほど読む本がない限り、買うことはないだろう。
2連続ではずれた作者に手を出す気は、ない。