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つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

裁かれるっ!

2006-12-25 23:50:18 | ファンタジー(異世界)
さて、まだまだ序盤な第755回は、

タイトル:砂の覇王3 流血女神伝
著者:須賀しのぶ
出版社:集英社 コバルト文庫(初版:H12)

であります。

須賀しのぶの長編ファンタジー『流血女神伝』シリーズの第二弾『砂の覇王』の三巻目。
エティカヤの第二王子バルアンの後宮に入ったものの、見事にそこから転落したカリエのその後を描きます。
今回の表紙はそのバルアン王子。杯掲げて、何か妙に嬉しそうです。ところで、彼の脇に控えている美少年は誰でしょう?(笑)



カリエは、サジェに毒を盛った疑いで投獄されていた。
直接毒を運んだ侍女は既に自害しており、真相を確かめる術は無いに等しい。
処刑を免れる方法はただ一つ……バルアン王子に直訴し、無罪を主張するのである。

結局、カリエの努力は無駄に終わった。
バルアンは最初から釈明を聞く気などなかったのだ。
強い者が生き残ればいい、という彼の論理に憤慨したカリエは、すべてを呪いつつ砂漠に逃走した。

実直な武人・ヒカイに助けられ、カリエは紙一重のところで死を回避する。
だが、後宮から逃亡しようとした者は死罪……状況が好転したとは言えない。
果たしてカリエの運命は――?



『カリエさん諸国コスプレ漫遊記』って何よ?

いや、本巻のあとがきにそう書いてあったのです。
もっとも、これが冗談ではなかったりするのが本シリーズの恐ろしい所ですが。
何せ主人公が、生まれながらのサバイバル娘・カリエですからねぇ……。(笑)

『帝国の娘』では、猟師から皇子に変身。
『砂の覇王』でやっと普通の女の子に戻れたと思ったら、奴隷、妾妃候補、厩番、死刑囚と来て今回は――秘密。
半ば以上作者の陰謀でしょうが、ここまで社会的地位が安定しないキャラも珍しいと思います。(賛辞)

今回の目玉は、そんなカリエをハメた犯人探し。
ミステリ話として良くできており、最後にどんでん返しも用意されています。
最後に語られる真相が、バルアンというキャラクターを描くための肥やしとなっているのも見事。

と言うか、今回の主役はバルアンですね。
今後重要なポジションを占める彼を詳しく描くのがメインです。
皇帝として苦労するドミトリアスのシーンもありますが、飽くまでバルアンの比較対象といった感じですし。

例によってオススメです。
おまけに、最後のページには曰く付きの某人物が出てきてたりして……続きが楽しみですね。(笑)



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消されるっ?

2006-12-18 10:24:41 | ファンタジー(異世界)
さて、毎週月曜は須賀しのぶの日になりそうな第748回は、

タイトル:砂の覇王2 流血女神伝
著者:須賀しのぶ
出版社:集英社 コバルト文庫(初版:H12)

であります。

須賀しのぶの長編ファンタジー『流血女神伝』シリーズの第二弾『砂の覇王』の二巻目。
奴隷として砂漠の国エティカヤに送られたカリエの奮闘を描きます。
表紙が妙に華やかですが、こんなポーズをキメるシーンはありません。つーか、あとがき読む限り、単なる趣味で描いたといった感じ。(笑)



奴隷として売られたカリエは、ルトヴィアとは全く異なるエティカヤ文化の教育を受けていた。
第二王子セガン・マヤルバルアンの後宮に入り、主の寵愛を受けて『妃妾』シャーミアと呼ばれる身分に上がるために。
カリエとエディアルドに恨みを抱く少女サジェもまた『妃妾』を目指している以上、悠長に構えている余裕はなかった。

ルトヴィアのタイアス大神ではなく、白き神オルを奉ずる世界エティカヤ。
それを支配する聖典『アーキマ』を詠唱する最中、カリエは忘我の境地に陥り、白い山へと飛ぶ幻覚を視る。
カリエが視たのはオル教の聖山オラヤン・エムなのだが……彼女が幻視の意味を知るのは、まだ先のことだった。

後宮に入り、カリエは自分が他の女奴隷達よりも優位な立場にあることを知る。
嫉妬と羨望をはねのけつつ、新たな友人も得て、サジェとの対決の時を待つカリエ。
そして遂に、主のバルアンと対面する日がきた――!



エティカヤ文化の解説が入ったことで、アラビアン色がさらに濃くなりました。
ハーレムの中で繰り広げられる、カリエ対サジェ対女奴隷達の華麗な戦い(火サスではない)も面白いです。
しかし、今回の目玉はやはり――

ムハル(女の園の大浴場)でしょう。

すいません、嘘です。
ああっ! 何か、思いっきり女性読者からの冷たい視線がっ……。(怖)

カリエが、エドと自分の身を守るために、普通の女奴隷よりもワンランク上の『妃妾』シャーミアを目指すのが前半のメイン。
しかし、そう簡単に成り上がり作戦が成功するはずもなく、後半は一気に転落して色々とヤバイことになります。
『帝国の娘』でもそうでしたが、カリエって何か目標見つけて立ち直るたびに奈落へ突き落とされますね……さすが生まれながらのサバイバル娘。(笑)

あと、本巻で『砂の覇王』のメインキャラが大分出揃います。
前巻で登場した、カリエのライバル・サジェ、バルアンの小姓頭・コルド、同じくバルアンに仕える軍人・ヒカイ。
これに、エティカヤ編の裏の主役とも言えるバルアン王子、カリエの友人ナイヤ、一の貴妃ヤーエ・ラハジルビアン、二の貴妃セガナ・ラハジルジィキが加わります。

エドは……ラスト近くにほんのちょっとだけ出てます。
飽くまで顔見せ程度なので、ファンの方はあまり期待しないで下さい。
むしろ、グラーシカにコナかけ始めたドーン兄さんの方が目立ってるかも。(笑)

今回の舞台であるエティカヤは、元ネタはあるものの、かなり上手く描かれてます。
オル教の世界解釈や、数々の固有名詞、奴隷に対する考え方等、雰囲気作りは完璧。
後はやはりムハルですね。(←まだ言うかっ!)

前巻は新シリーズの地ならしということもあって、大河物の印象が強かったのですが、今回は目一杯カリエが主役です。
その分、マクロな物語の流れはスローになってますが、そこらへんは次巻に御期待下さい。



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売られるっ!

2006-12-11 23:17:33 | ファンタジー(異世界)
さて、最近どころかいつも突貫な第741回は、

タイトル:砂の覇王1 流血女神伝
著者:須賀しのぶ
出版社:集英社 コバルト文庫(初版:H12)

であります。

須賀しのぶの長編ファンタジー『流血女神伝』シリーズの第二弾『砂の覇王』の一巻目。
皇子宮を脱出したものの、さらに過酷な運命に翻弄される少女・カリエの姿を描きます。
メインの舞台は砂漠の国・エティカヤ王国ですが、前作に登場したルトヴィア帝国のその後も描かれています。



カリエは、エディアルドと共に北のユリ・スカナ王国を目指していた。
皇子宮は既に遠く、頼るべき相手はエドしかいない、おまけに、通り道であるクアヒナは目に見えて治安が悪化している。
一時は兄だったドミトリアスにすべてを打ち明け、別れを告げた時、彼が優しく送り出してくれたのがせめてもの慰みだった。

ヘーガと呼ばれる実の毒にあたり、エドが倒れた。
カリエは必死で助けを求めるが、誰も応える者はいない。
ようやく、ある家が二人を迎え入れてくれたが、彼らは一つの問題を抱えていた。

気付けば、カリエは見覚えのない天幕の中にいた。
ペジャンという女の話によれば、明日には東の国境を越え、エティカヤに入るのだという。
カリエは売られたのだ……奴隷として。

かくて、カリエのエティカヤでの日々が始まる――。



というわけで、作者の強制スクロールを食らったカリエは、アラビアンな国エティカヤで暮らすことになりました。
エディアルドとも離ればなれになり、奴隷として孤独な生活を……と思いきや、後でしっかり再会します。
もっともこの『砂の覇王』編で、エドは完全なる脇役だったりしますが。(笑)

この先九巻まで続くシリーズの第一巻なためか、カリエ一人のエピソードは割と少なめ。
以後ライバルキャラとして張り合うことになるサジェとの絡みで初手と最後をつなげていますが、起こった事件は上記の粗筋で大体全部です。
にしても、しめくくりの一文読む限り、『惚れっぽい猪』は健在ですね……ここらへんの重さと軽さの使い分けはいかにも須賀しのぶらしい。

その他の枝エピソードですが、前作に名前だけ登場したユリ・スカナの問題児イーダル君が登場します。
唯一人の男児ってことで、場合によっては王座が回ってくる立場の人物ですが、見た目は……あははは。
まだ十四歳ながら、姉グラーシカすら牛耳る口の上手さは結構不気味かも。
(つーか、危険人物の臭いがぷんぷんと……)

あと、遂にドミトリアス(ドーン)が皇帝となる決意を固めます。
理想を求め、崩れかけた国の復興に着手するドーン兄さんの明日はどっちだ?
でも、この時点で既に死亡フラグ立ってると思うのは私だけでしょうか? ルトヴィア帝国って、いかにもフランスっぽいしなぁ……。

例によって、レーベルのイメージを覆してくれます。オススメ。
一気に大河小説の色が濃くなりましたが、キャラ小説という面もしっかり残っているので、すらすら読めます。



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影武者少女が闘う!

2006-12-06 23:50:17 | ファンタジー(異世界)
さて、この方の株が急上昇中の第736回は、

タイトル:帝国の娘 (後編) 流血女神伝
著者:須賀しのぶ
出版社:集英社 コバルト文庫(初版:H11)

であります。

先週紹介した須賀しのぶの長編ファンタジー、の後編。
ルトヴィア帝国皇帝候補・アルゼウス皇子の影武者となったカリエが、他の三人の候補者と関わることで成長していく姿を描きます。
ちなみに、本作は流血女神伝と呼ばれるシリーズの一部なのですが、以後、十九巻(+外伝二巻)続いてまだ終わってません……面白いからいいけど。(爆)



遂に、カリエは他の皇帝候補者達が待つ『皇子宮』にやってきた。
皇都タイアークで得た二人の友――ユリ・スカナ王国の第二王女グラーシカ、彼女に仕える美しき僧侶サルベーンとも別れ、偽りの皇子としての戦いが始まる。
競うべき相手は、文武両道の第一皇子デミトリアス、聡明で心優しき第二皇子イレシオン、そして、強力な後ろ盾を持ち、最も皇帝に近い位置にいると言われる第四皇子ミューカレウス。

皇子宮の生活は、朝から晩まで勉強づくしだった。
その合間に、ミューカレウスと喧嘩し、イレシオンの優しさに触れ、ドミトリアスの教えを受ける。
それは、カリエにとって充実した日々だった……たとえ自分に皇位継承権がなかろうとも。

だが、そんな時間は長くは続かなかった。
カリエは外部の異変を敏感に察知し、アルゼウスの影武者をやめる時が来たことを悟る。
エディアルドすらも信用出来ない状況で、彼女が取った行動は――。



先週のレビューで私は、
『男装した女の子が美形の男に囲まれてアン×ェリークごっこを――』
なんてふざけたことを書きましたが、撤回します。

須賀しのぶはガチ。

この方、コバルトで堂々と大河物をやろうとしてます……と言うか、やってます。
あまりに面白いので、続編である『砂の覇王』(全九巻!)も一気に読んでしまいました。(爆)

このシリーズには、主に三つの国が登場します。

ルトヴィア帝国――おフランス八割+スペイン二割って感じの国。
エティカヤ王国――アラビアン九割+モンゴル一割って感じの国。
ユリ・スカナ王国――ロシア九割+イギリス一割って感じの国。 

本作の舞台は一番最初にに挙げたルトヴィア帝国。
この国には皇帝領を取り囲むように四つの公国が存在し、それそれが皇帝候補を出しています。
カリエを影武者として立てたのはゼカロ北公国で、ミューカレウスの背後にいるアビーテ西公国と睨み合っている、というのが大雑把な現在の状態です。
(本当は先週紹介しておくべき話ですが……)

で、そんな権力争いに巻き込まれたカリエですが……結構元気にやってたりします、中盤までは。
後半は、しっかり陰謀に巻き込まれてひどい目に遭います、しかもその犯人が――(以下自主規制)
おまけに、帝国内部のみならず外部からの干渉もあって事態は混乱。

東のエティカヤ王国はクアヒナ東公国の脅威となっていますが、本巻ではあまり目立っていません。
北のユリ・スカナ王国についても詳しい事情は書かれませんが、男装の麗人グラーシカが出たことで、多少情報が入ります。
では、本書で一番目立っているのはどこかと言うと、以後カリエと深く関わることことになるザカール民族です。

流血女神ザカリアを信奉する彼らは、ルトヴィアでは忌み嫌われています。
しかし、カリエの心を乱し、裏で怪しい動きを見せる僧侶サルベーンは半分ザカール人。
しかも、後半になって登場し、カリエを救う謎の人物は純血のザカール人だったりして――ああ、もう何が何だか。(笑)

そんなこんがらがった状況で、カリエは一つの決断をします。
これは、そのまま次作『砂の覇王』につながるのですが……ある意味ここで終わっていた方がカリエにとっては幸せだったかも。
熱烈なエディアルドファンは、今回のラストでカリエ+エドのラブラブ路線は確定と思ったようですね。無理もありませんが。(笑)
(私は別にエドのファンじゃないので、くっつこうがくっつくまいが構やしないけど)

前巻に続き、三重丸のオススメです。
ただし、数多くの謎と伏線が残っているので、続きを読む覚悟だけはしておいて下さい。(笑)



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タイトルって……

2006-12-03 20:48:39 | ファンタジー(異世界)
さて、そりゃ確かにそうだよなぁと思うの第733回は、

タイトル:IX(ノウェム)
著者:古橋秀之
出版社:メディアワークス 電撃文庫(初版:H15)

であります。

とりあえず、近場の図書館で借りられる電撃文庫を検索して見つけた……と思ったら第386回で相棒が読んでたよ……(笑)
と言うわけで、図らずもクロスレビューになった本書。
では、ストーリー紹介から。


いわゆる用心棒のようなことをしているひょう(金へんに票、以下「票」をあてる)師として、ある商隊の護衛をしていた五行票局の面々は、噂の化け物に出くわす。
それを迎え撃ち、追い払った票局の者のうち、燕児と言う少年は、化け物……ではなく6本の指がある異形の右腕を持つ少年を追いかけ、追い詰めるが最後は票局の頭である趙五行に少年は捕まえられる。

九郎と名乗る少年を連れ帰ることにした五行だったが、そのお守りは燕児に。
少年ながら強さは折り紙付きだが、野生で生きてきた九郎に手を焼く燕児。
幾日か、おなじ票局で過ごし、山へ帰る九郎を見送って帰ってきた燕児は、票局のある町が火に包まれているのを見る。
そこには、ずっと西を縄張りにしているはずの集団の頭である男がいた。


えー、武侠小説もどきの中国風アクションファンタジー、とでも言う作品だが……。
これ、取っつきにくいぞ、かなり。
武侠小説に慣れている、もしくは予備知識がなければ、いったい何なのかまったくわからない単語のオンパレードで、それに対する解説はほとんどなし。
こういうものだと読むにしても、まず知らないひとは意味不明だろう。
まぁ、私の場合、中国武術系をかじった経験があるので、その辺りの専門用語などに慣れているから十分わかるが……。

あと、武術ものに五行を絡めた武術の使い手たちがたくさん出てきて戦闘を繰り広げるわけだが、どうでもいい技の名前がたくさん出てきて食傷気味。
たいそうな名前を付けてすごそうに見せているのだろうがうざったいことこの上ない。

まぁ、この辺りはいちおう本来の武術というものをかじったことがあるだけに、むしろそれっぽく見せようとしているところが、逆効果になっていると言うこともあるとは思うが……。
むしろ、ばかばかしいくらいまでにぶっ飛んでくれたほうが諦めがつくからね。

で、ストーリーの基本は戦闘。
初手から九郎との戦闘があり、敵が出てからは敵との戦闘となり、ラストもやっぱり戦っている。
あとがきに「アクションに特化して」とあり、その通りの作品にはなっているが、ほんとうにそれ以外に何ら特筆すべきところがない。

いちおう、異形の腕を持つ九郎や燕児や五行の過去、敵の中心として出てきた男の目的やラストにラスボスらしき者が出てくるなど、いろいろと伏線を張りまくってはいるのだが、伏線のみと言う印象で、これ1冊の物語としてのおもしろさはほとんどない。
……のだが、Amazonのレビュー見ると、評価はいいんだよなぁ……。
いったいこれのどこがおもしろいんだろう……?



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影武者少女がゆく!

2006-11-29 21:05:38 | ファンタジー(異世界)
さて、珍しい文庫を手に取ってみた第729回は、

タイトル:帝国の娘 (前編) 流血女神伝
著者:須賀しのぶ
出版社:集英社 コバルト文庫(初版:H11)

であります。

須賀しのぶの長編ファンタジー。
ルトヴィア帝国皇帝候補・アルゼウス皇子の影武者となった少女カリエの戦いを描きます。
私はコバルトにはあまり手を出さない方なのですが、評判良いので読んでみることにしました。



寒空の下、カリエは猟銃を手にして獲物を探していた。
いつもは反対する父が、何故か今日に限って狩りを命じたからだ。
出かける時、母が商品にする予定の外套をかけてくれたのも妙だった。

寒さに耐えかねて道を引き返す途中、カリエは一人の美しい青年に出会った。
彼の名はエディアルド。カリエを迎えに来たのだと言う。
状況を飲み込めないカリエに、エディアルドは冷たく言い放った――お前はもう、両親のもとへは帰れない。

意識を取り戻した時、カリエは自分が四大公爵一つ・ゼカロ家に売られたことを知った。
現れたルドヴィア帝国皇妃フリアナは、熱病に犯された自分の息子アルゼウスの身代わりにカリエを選んだことを告げる。
ルドヴィア帝国には特殊な皇位継承制度があり、皇帝候補者たる者は十四歳になる前にカデーレ宮に入らねばならない……が、今のアルゼウスは歩くこともままならぬため、顔姿の似たカリエを代役として連れて来たのだ。

エディアルドの厳しい訓練に耐え抜いたカリエは、春の訪れとともに皇都を目指すのだが――。



で、とりあえず読んでみたのですが――。

この作者、思いっきり『樹なつみ』属性じゃねぇかっ!

かなり面白かったです、はい。
キャラもストーリーもど真ん中ストレートに王道なのですが、とにかく作りがしっかりしている。
カリエ個人の物語に、現在の情勢や帝国の歴史等を無理なく織り込んでおり、ミクロなドラマとマクロなドラマを綺麗に同時進行させています……上手い。

で、その主人公カリエですが――かなりハイスペックだったりします。
たかだか三ヶ月の訓練で礼儀作法を身に付け、皇帝と居並ぶ貴族の前できっちりアルゼウス皇子を演じきるって……どういう度胸と知能指数してるんだか。
しょっちゅう他人の裏を読むし、学習能力は高いし、根性座ってるしと、とんでもなく強力なヒロインです。完全なる王道キャラですが、格好いいので問題なし。

もっとも、そこは若干十四歳の少女、完璧超人というわけにはいきません。
エディアルドの前では素に戻ってしまうし、精神的打撃を受けるたびにどん底まで落ちるし、気に入った人物の前では仮面があっさり剥がれるしと、とにかく感情の起伏が激しい。
あと、物凄く惚れっぽいという弱点があり、これが出るとお馬鹿指数が増大してトラブルを引き起こします。つーか、『運命の相手』が今まで三人いて、今回現れた美形剣士で四人目って――をい!(笑)

そんな、カリエを押さえるのが従者にして相棒のエディアルド。
いわゆる外見堅物、中身御子様な彼氏役の典型で、冷血顔と怒り顔をいったりきたりしつつ、たまにささやかな優しさを見せて株を上げるという常套手段を使ってきます――基本ですね。
皇子に心酔しており、こんな小娘に『私の皇子』の身代わりができるものかぁ~! とばかりに冷たい態度でカリエをしごきますが、怒りが頂点に達すると美形らしからぬ口調にチェンジするのは結構笑えます。

ストーリーですが、男装した女の子が美形の男に囲まれてアン×ェリークごっこを――。

じゃなくて(それもないとは言えんが)、皇帝候補として奮闘するカリエの成長物語です。
いくら頑張ったところでエドは褒めてくれないし、かといって手ぇ抜くのはプライドが許さないし、弟属性バリバリの皇子様は守ってあげたいし、自分と皇子が似てるのはもしかして……といった彼女の葛藤を上手く描いています。
カリエが現在の位置に立つことになった背景、サブキャラ達の立場、他国との関係にもかなりのページを裂き、大河物としても読めるように仕上げているのは見事。

文句なし、三重丸のオススメ。
『惚れっぽい猪(作者談)』の活躍を御堪能下さい。(笑)
下巻は、出番のなかった他の皇子達が登場してさらに盛り上がるようですが、それについてはまた来週



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先入観勝負

2006-11-18 15:09:49 | ファンタジー(異世界)
さて、IPの右肩下がりが悲しいの第718回は、

タイトル:シュプルのおはなし Grandpa's Treasure Box
著者:雨宮諒
出版社:メディアワークス 電撃文庫(初版:H16)

であります。

お初の作家のデビュー作の短編連作。
タイトルのとおり、主人公の少年シュプルが、大好きなムルカという青年が主人公の冒険譚をパートナーにして、おじいちゃんの家にある宝箱から発見した品物をもとに、物語を語る、と言う体裁で4話の短編が収録されている。

シュプルが語る物語の前には、シュプル、幼馴染みのアロワ、お母さん、おじいちゃんの4人でのちょっとした日常が描かれ、次にシュプルの物語、そしておじいちゃんが語るシュプルが見つけた宝物のほんとうの理由、となる。
では、例によって各話ごとに。

「第一話 雪と弾丸」
まずは、おじいちゃんの家に預けられたシュプルがアロワとともに、物置から宝箱を見つけ、そこからひとつの弾丸を見つけ、そこから語る物語。

ある王国の遊撃部隊に所属するシュプル、上司である大尉のムルカや部隊の仲間とともに進軍を続けていた。
そんな部隊には必ず、一発の弾丸が支給されていた。王の信仰する神によって祝福されたそれは自決用の弾丸。これを用いれば必ず安楽な死後の世界へ行けることが約束されている。

だが、ムルカはそんなことはないと断言し、シュプルも薄々と気付いていながらも、戦闘が始まり、ついに終戦を知らせるビラが敵の爆撃機から雪のように舞い落ちてくる。

「第二話 夢を掘る人」
宝箱とされる木箱から探り当てた小さなスコップをもとに紡がれる物語。

井戸を掘るボランティアをしているシュプルとムルカは、渇水に悩まされる寒村に井戸を掘るために招かれていた。
その村の村長の次男、三男とともに井戸を掘っているときに、村を出て都会へ行ってしまった長男が、ここにダムを建設するため、最後となる地権者の説得のために村を訪れる。

村を嫌い都会へ出て行った長男と、村や村にある貴重な樹木などと言った故郷を愛する弟たちと争いになり……。

「第三話 愛の言葉」
おじいちゃんとアロワが、おじいちゃんとおばあちゃんが出会ったときの話と絡め、宝箱から見つけた、空気の抜けた風船をもとに語られる物語。

ある町で靴磨きとしているシュプル。おなじく靴磨きのライバルでありながら友人のムルカとともに、その日の稼ぎを手に1杯呑みに出かける途中、いまでは珍しい風船売りの女性を見かける。
「永遠の愛を誓う」風船だが、いまではもうそんなことをする者も少ないが、それでも風船売りを続ける女性ミツキに惚れたシュプルは、足繁くその日の稼ぎを持って風船を買う。

しかし、そこへミツキを狙う領主の放蕩息子イホップが現れ、権力と財力にものを言わせ、ミツキとの結婚をミツキの養い親である叔母から取り付け……。

「第四話 我が愛しきギャング・スター」
宝箱の中にあった白い粉が入った小瓶から紡がれる物語。

伝説のギャング・スター、カルロス・バンビーナの幹部であったシュプルとその部下のムルカ。
捜査当局からも畏敬されていたバンビーナ一家は、しかし引退したカルロスに代わり一家を取り仕切るようになったシュプルは、先代の名誉を重んじるやり方から麻薬などを取り扱うようになり、堕落していた。
だが、それは表向き、一家を離れ、青年実業家として成功し、表と裏の顔を使い分け、両方で成功することを目論むカルロスの息子カテナの意向であった。

だが、それを知らない幹部の一部は一家の堕落に、鉄の掟をも覚悟し、一家を離れるようになり、その掟とカルロスとの約束との狭間で悩み……。

さて、総評だが、さすがに本好きだがまだ少年のシュプルがありったけの想像力を働かせて語る物語、と言う体裁を取っているだけあって、とても雰囲気の穏やかな、ほほえましい作風に仕上がっている。
またスローライフを地でいく村、幼馴染みのアロワ、子供っぽさを残すお母さん、気難しそうだが一時期村を離れたと言う過去を持つ、不思議な部分のあるおじいちゃんなど、語られる物語以外の冒頭部分も、そうした雰囲気をうまく助長しており、おじいちゃんが最後に語る宝物のほんとうの理由もけっこう日常のありきたりな出来事だったりするところも、くすっとさせてくれておもしろい。

シュプルが語る物語の中でも、主人公が小さなシュプルなので、周囲のキャラとのギャップや、文章中で頻繁に表現される通常の擬音と、シュプル用ののどかな擬音なども、作品の雰囲気に大きく貢献している。

ただし、シュプルが語る物語そのもので言えば、映画をほとんど見ない私でさえも、どう考えてもどの作品も何らかの映画のシチュエーション、ネタなどを引っ張ってきたのだろうと想像がつくくらい、あからさまなもので、きっちりと作品を分析するとはっきり言って、大した物語ではないとの判断が大勢を占めよう。
また、「…」の多用など、文章的にも目につくところがそれなりにある。
そう言う意味では、分析型の読み手にとってはあまりオススメ出来ない作品と言える。

逆に作品の持つ雰囲気などを楽しむ感性型の読み手にとっては、十分読める作品になっていると思う。
それでも、子供が作ったお話だからと言う大前提を、常に念頭に置いておかないとバカを見るだろう。

個人的には私は後者のタイプなので、シュプルの物語の出来よりも、子供っぽい甘さの残る物語の作りや、物語のあとに語られるおじいちゃんの宝物のほんとうの意味、穏やかでほほえましい雰囲気の作風など、評価できる部分は大いにあるので、ライトノベルという評点の甘さも付け加えて、良品、と評価しておこう。

骨の首飾りが呼ぶ……

2006-11-13 19:37:41 | ファンタジー(異世界)
さて、五代ゆう株上昇中な第713回は、

タイトル:はじまりの骨の物語
著者:五代ゆう
出版社:富士見書房 富士見ファンタジア文庫(初版:H18)

であります。



【ゲルダではなくトラボルタなノッペラ星人】


先週の予告通り、五代ゆうのデビュー作が登場です。
北欧神話をモチーフにした世界を舞台にした長編ファンタジー。
唯一無二の存在に裏切られた女性ゲルダの復讐の旅を描きます。



ゲルダにとって彼は父であり、恋人であり、すべてだった。
たとえ、陰で魔女と呼ばれようと、彼の側にいられればそれで良かった。
彼の名は魔術師アルムリック、ルーンの担い手、昼と夜の主人。

二人は傭兵として、『冬』の討伐に出たゲルトロッド王の遠征軍に参加していた。
『冬』とは、北の国ヨトゥンヘイムを統べる『雪の女王』が送り込んできた魔軍である。
敵は強いが、負けはしない……アルムリックと、彼から『焔の華』の名を授かった自分がいる限り。

戦いが始まり、ゲルダは炎を操って『冬』の魔物を蹴散らしていた。
何度か『冬』との戦いを経験してきたこともあって、遠征軍は魔軍を押していく。
だが、信じられないことが起こった……勝利が見えた瞬間、アルムリックの呪いが味方を襲ったのだ。

兵士がばたばたと倒れる中、辛うじて、ゲルダは生き延びることができた。
アルムリックは北に飛び去り、後には雪と静寂だけが残った。
ゲルダは立ち上がり、北の地目指して歩き出す――裏切り者に復讐するために。



『〈骨牌使い〉の鏡』『ゲド戦記』の影響が色濃く見えましたが、こちらはアンデルセンの『雪の女王』かな?
もっとも、童話のゲルダは小さな少女で、本作のゲルダは大人の女性ですが。
ちなみに、『雪の女王』はインターネット電子図書館『青空文庫』で読むことができます。興味がある方はチェックしてみて下さい。

筋は非常に単純で、上記の粗筋の通り、ゲルダの復讐譚です。
重要キャラクターはゲルダ含めてたった五人。内二人は最終章までほとんど出番なし。
おまけに、旅物語に付きものの各地の細かい描写もありません。大雑把に、北の国と銀世界があるだけです。

これで三百頁以上書いて中だるみしてないってのが凄い。

読み終わった時には、むしろ、短い話だと感じたぐらいでした。
これは、ゲルダというハードボイルドなキャラクターの魅力もあるのですが……やはり彼女と、彼女の変化を描くために用意されたキャラクターとの絡みが秀逸なのが大きいと思います。

自分を守ってくれる存在だったアルムリック、守らなくてはならない存在・ケティル王子、そして、対等に向き合うべき存在・スヴェン。
ゲルダの旅とは三人と関わることであり、節目に配置された彼らとの出会い、別れ、再会によって、物語はプロローグからラストまで綺麗につながっています。
デビュー作でこの構成力は驚異的……さすが、大賞が出ないことで有名な某新人賞で大賞取っちゃっただけのことはあります。

数行前で舞台が薄いようなことを書きましたが、これは、世界観に北欧神話を持ち込むことでがっちりフォローされています。
ゲルダが語る天地創造の物語、作品内に出てくる数々の固有名詞、最終目的地ヨトゥンヘイムに座す雪の女王の正体等々、元ネタを知っていればより楽しめること請け合いです。
反面、北欧神話を知っているとマクロな流れが読めてしまうかも知れませんが、最後の最後は飽くまでゲルダ個人の物語としてケリを付けてくれているので、さして問題はありません。

ど真ん中ストレートのファンタジーです。かなりのオススメ。
二連発で当たりでしたが、次は何を読むべきか……。

60分一本勝負~

2006-11-11 13:36:38 | ファンタジー(異世界)
さて、図書館にないから買うしかないのよねぇの第711回は、

タイトル:ゼロの使い魔
著者:ヤマグチノボル
出版社:メディアファクトリー MF文庫J(初版:H16)

であります。

SENと話をしていて話題に出てきて、ファンタジー復権の至上(?)命題もあるので読んでみたもの。
……しかし、なんでこれを私が読むと言う話になっていたのだろうか……。

構成は1冊で長編1本、と言うわけではなく、中編が2本収録されている。

「魔法の国」
平賀才人は、目を覚ますとそこにはマントを羽織った、どう見ても日本の東京に住むひとではない一団に囲まれていた。
わけのわからないまま、そこで飛び交う理解不能な言葉たち。
そんな一団の中、囃し立てられていた少女は、何かを呟きながら才人にキスをする。
それは少女……ルイズが、才人を自らの使い魔として契約する儀式だった。
そして、才人は日本ではないどこかの世界で、この世界では極めて珍しい人間の使い魔となった。

第一話、と言ったところ。
主人公のひとりである才人がおちこぼれの魔法使いメイジのルイズに召喚され、使い魔となる導入部。
異世界に来た才人が現実を知って悩んだり、貴族、平民の区別がある社会でトラブルを巻き起こしたりと、パラレルワールドに飛ばされた主人公らしい展開で、テンポはよく軽快だが、ストーリー上はお約束の塊。

ただ、一人称と三人称を区別なく混ぜているのは気に入らない。
文章の作法の最低限くらいはきちんと守りなさい。

「ガンダールヴ」
前話の「魔法の国」での出来事から、ルイズの家系と昔からいがみ合っている家系のキュルケが、前話の出来事で才人に惚れてしまい、そのいがみ合いとルイズたちがいるトリステインで名を轟かすメイジの盗賊の事件を絡めた話。
ルイズとキュルケのいがみ合いから偶然、盗賊が魔法学院の宝を盗むところを目撃し、キュルケの友人タバサと4人で盗賊討伐に向かう。

変わらず、テンポはよく、展開も無理はなく、流れはよい。
文章も三人称に統一され、読みやすくなっている。

1話目の文章上の欠点を除けば、総じて、コメディの命である「テンポ」はとてもよく、軽く読むには適している。
キャラも、主人公の才人の行動や思考は一貫しており、破綻はない。
ルイズも高飛車で、才人の背伸びしたご主人様を演じており、時折見せるかわいらしさや凛々しさなど、十二分にお約束キャラの気配が濃厚で、いかにも人気の出そうなキャラに仕上がっている。

また、これまたお約束ながら、家系や才人を含めてルイズのライバル役となるキュルケも正反対のタイプだったりするし、その他、脇役の学院の教師、学院長など、コメディらしい軽快なキャラも多く、コメディとしての要素に申し分はない。

ストーリーも2話とも、展開は定番だが、定番だけに破綻なく進み、見せ場もきちんと作っている。

キャラはお約束で、ストーリーは定番と、わかりやすい物語を好むひとならば、確かに楽しめるであろうし、キャラに入れ込むことも可能であろう。
テンポの良さもこの作品の魅力に、十二分に貢献していることだろう。

ただし、逆に軽さと読みやすさ以外にさして見るべきところはなく、正味1時間もあれば読み終われてしまう読み応えのなさは、印象やインパクトのなさにつながる。
また、ストーリー、設定ともにお約束なので、才人が召喚された理由やルイズのおちこぼれやどんな魔法も失敗して爆発させてしまうこと、四大元素以外に「虚無」という魔法の系統があることなど、伏線を勘案すると、これから先の展開、落としどころが1冊読めば概ね読めてしまうところも、作品の軽さを助長する原因のひとつとなる。

もっとも、こうした面はお約束や定番を持ち出す以上、避けて通れない部分ではある。
コメディとしてのよさは、きちんと評価できるものとなっていることだし、決して落第とするほど悪い作品というわけではない。
ただ……、これで1冊580円(税別)は高いぞ、ゼッタイ。

アテが……大はずれ

2006-11-10 20:08:47 | ファンタジー(異世界)
さて、3冊分のオレの時間返してくれの第710回は、

タイトル:オルディコスの三使徒(1巻「妖魔の爪」2巻「紅蓮の絆」3巻「巨人の春」
著者:菅浩江
出版社:角川書店 角川スニーカー文庫(初版:H4、H6、H7)

であります。

えー、ほんとうは、この3冊でノルマ3日分をこなしてやろうと姑息なことを考えていたら……そうは問屋が卸さない、らしい。
その理由は後ほどと言うことで。

王家から下賜されたラウラという宝珠に祈りを捧げることで、生活を営む世界。
ソテと言う寒村で過去の事故や容姿から不遇を託っていた少女ブラウリカは、娯楽の少ない村を訪れたビンダカイク技芸団が座を開くその日、ふたりの旅の男に出会う。

技芸団の来訪を聞いて警戒するふたりの男に疑問を抱くブラウリカだったが、その警戒は、技芸団を隠れ蓑に世を乱すマヌダハルの手先。その力で村人を惑わし、ブラウリカを除いてすべてが石と化したソテ村からブラウリカはふたりの男……オルディコスの使徒と名乗る香師イシュラーマ、夢師タグロットとともに村を離れることになる。

あともうひとりの使徒、楽師を探すふたりに連れられ、旅をすることとなったブラウリカは、兄のもとで起きたマヌダハルの腹心との戦いや、闇に染まりかけた少年との出会いを経て、ふたりが探す「光の楽師」として目覚め、オルディコスの三使徒として、マヌダハルとの戦いに挑む。

……と、こんな感じで書いてると、いかにもなヒロイックファンタジーに見えるが、ストーリーは善悪の二元論では語れない「神」をテーマにして、SFテイストもちょっと入れた物語。

1巻は、ブラウリカが「光の楽師」として目覚める物語で、当然主人公でヒロインのブラウリカが主体。
ここでは、ブラウリカの生い立ち、境遇などから光の楽師として目覚めるまでの心の動きなどがきちんと描かれ、好感が持てる。
また、3巻完結のため、伏線もきっちりと作り、この時点で勧善懲悪の二元論ではない匂いを感じさせるところもいい。

2巻は3人揃ってからのマヌダハル討伐に向けた展開だが、弱まったオルディコス神の力や怠惰な王家、貴族への不信などから、マヌダハル側の巧みな煽動などを経て、完結編へのつなぎ。

完結編となる3巻は、テーマに沿った展開とこういうヒロイックファンタジーには珍しい大団円が待っている。

で、なぜこれが1日1冊にならなかったかと言うと……テーマの扱いを大きくしすぎて、物語やキャラの扱いが薄くなったため、と言えるだろう。
おそらく、だが、設定上、神……オルディコスとマヌダハルの対立軸を勧善懲悪にならずに理屈をこねくり回そうとした結果、3巻でまとめるために汲々としてしまった、と言ったところだろうか。

特に顕著なのが3巻。
2巻のラストの出来事で陥ってしまったブラウリカの現状や、イシュラーマの思いなど、テーマを語るためにこうしたキャラの心の動きが十分に語られないため唐突な感が否めない。
また、十分でないことはキャラそのものやバックボーンを希薄にさせ、人間味を感じさせない要因ともなる。三使徒のキャラの個性だけははっきりしているだけに、余計にその個性だけが上っ滑りしてる感じがするんだよねぇ。

「神」というテーマを持ってくるのはいいが、それによって物語やキャラ(人間)というものが、理屈をこねくり回すための人形になっていては意味がない。
もし、汲々としてせず、まとめたんだとしても、テーマとか、解説とかに埋もれてキャラが人形や道具にしかなってない小説ってのは嫌いなんだよね。

まぁ、物語としてはオチはつけてくれているが、他にも「その伏線でその展開かえ?」とか、「これ、ホントに理屈通ってんのか?」とか、まぁ……ぼちぼち首を傾げざるを得ないところもあったりするわけで……。
古い作品だし、いまの作風から見れば、だいぶ違っているところがあるからなぁ、と心の中でフォローを入れたとしても、このシリーズは落第。

長くなってもいいから、もっときっちりテーマもキャラも描いてほしい、と言うのが正直なとこかな。