d98e3dfc.jpg

原文入力:2011/11/29 21:32(3669字)


このFTAは基本的にアメリカ的標準を強要する
アメリカは今、貧しい人々の地獄だ


←キム・ジョンチョル緑色評論発行人


開放化原則によって近い将来公的保険と相互扶助体系が
アメリカの保険会社らの利益のために解体を強要される可能性も大きい
内容をよく知っていながら押しつけたとすれば許しがたい重罪を犯したこと
知らなかったとすればその無知と蛮勇に驚かざるを得ない

今、日本では環太平洋経済パートナー協定(TPP)交渉参加問題を巡り論争が入り乱れている。この協定はもし日本が参加することになるならば事実上、米-日自由貿易協定(FTA)になる可能性が大きい通商条約だ。したがって彼らには韓-米自由貿易協定が良い参照事例になることが明らかだ。韓-米協定の具体的な内容を見れば日本が米国との交渉で何を得て何を失うのかを予想することができるためだ。


ところで少なくない論者は韓-米自由貿易協定を根拠に、日本が環太平洋経済パートナー協定に参加することは亡国の道に進むことだと断言している。代表的な論客は通商官僚出身で現在は京都大学経済学部教授の中野剛志だ。彼の論点は明快だ。 韓-米自由貿易協定は米国に一方的な利益を与えるだけで、韓国には‘極度に不利な’通商条約になってしまったということだ。彼は韓国産工業製品に対する米国側の関税はすでに十分に低く、したがって韓-米自由貿易協定を通じた関税撤廃が韓国側にあたえる利益は事実上無意味なことを指摘すしている。このように無意味な関税撤廃の代価として韓国が得たものは何か。韓国大統領が米国に国賓として招待され、盛大な歓迎を受けたこと以外には何もないというのが中野教授の結論だ。


しかし韓-米自由貿易協定が本当に恐ろしいのは、それが単純な貿易自由化協定ではないという点のためだ。この通商条約は基本的に‘アメリカ的標準’を強要することによって韓国社会固有の価値と風習と制度、憲法的価値を根源的に押しつぶす可能性が非常に高い。今、政府と御用言論は‘怪談’として片付けているが、今日の米国社会は貧しい人々の地獄だ。例えば、高い民間医療保険に加入できない4500万人の中には基本的歯科治療も受けることができず、家でペンチで傷んだ歯を自分の手で抜かなければならない人も珍しくない。これが超強大国 米国の現実だ。


その上、韓-米自由貿易協定が規定した市場開放化原則により、近い将来 韓国の公的保険と相互扶助体系が米国保険会社らの利益のために解体を強要される可能性も大きい。金融、法務、特許、会計、電力、ガス、水道、宅配、電気通信、建設、流通、高等教育、医療機器、航空輸送など多様な分野も将来が不安なのは同じだ。本来、韓国政府が韓-米自由貿易協定交渉を開始する時、前面に掲げた主要名分は米国式‘先進’制度を導入することによりサービス産業の競争力を高めるということだった。しかし現実的に米国に対しほとんど大部分が相対的に劣位にある韓国のサービス産業は全面的崩壊という残酷な事態に直面するかも知れない。


最も理解しがたいのは‘投資家-国家訴訟制’条項の受け入れだ。これは投資家の利益のために自国の公共秩序と社会的弱者および自然環境を保護しなければならない国家の主権行使を根源的に無力化させかねない致命的な規定だ。韓国政府はこれを米国に進出する韓国企業のためにも必要な規定だと強弁してきた。しかし米国は‘韓-米自由貿易協定履行法’により自身の主権行使を侵害するいかなる規定も不法だと宣言した。したがって論理的に見る時、この投資家-国家訴訟制は事実上韓国にのみ適用される条項といえる。国会議員らの中でこの問題を把握した人がいたのだろうか?


私は‘国益’という言葉は好きでないが、韓国の政官界上層部と既得権勢力が果たして‘国益’が何かを判断する能力を持っているのか非常に疑わしい。もし彼らが条約の内容をよく分かっていながら韓-米自由貿易協定を押しつけたとすれば許されざる重罪を犯したことであり、知らなかったとすればその無知と蛮勇は実に驚くばかりである。しかし、考えてみれば‘国益’というものはむなしい言葉に過ぎないのかもしれない。この条約を押しつけた人々が実際に念頭に置いたことは韓-米どちらも大多数の民衆の利益ではなかった筈だからだ。


本来、人類社会で貿易は互恵的交換のためのものだった。だが、コロンブスの航海以後、近現代史で貿易とは主に強者が弱者を収奪するための強力な手段として機能してきた。今、米国経済は風前の灯火だ。これは大量失業、両極化、貧困、人権無視を構造的に強要する新自由主義政策路線に起因したものだ。 したがって1%に集中した富を99%が等しく享有できる、すなわちより一層正しく人間的な社会を指向するための根本的転換がない限り米国の未来はないと言える。 それでも米国政府は米国自身は徹底的に例外にしながら他国に対し完全開放を強要する‘自由’貿易の拡大を通じて活路を見出す旧態依然な方法に固執している。

韓国では別に知らされなかったが記憶しなければならないことがある。それは去る10月‘韓-米自由貿易協定履行法’が米国議会を通過する時、民主党議員は賛成57人、反対130人で、大多数が反対票を投じたという事実だ。これは民主党が比較的庶民層を代弁しているという点を考慮すれば重要な意味を持つ。 すなわち、それは米国でも韓-米自由貿易協定が国民経済全体よりも特権的なごく少数の利益のためのものという認識が広範囲に存在するという証拠である。 実際に今最も心配なことは、韓-米自由貿易協定を通じてすでに絶望の中で苦しんでいる韓国の農業が事実上ケリがつくかも知れないという事実だが、かと言って米国の本当の農民である家族農が恩恵を得る可能性があるわけでもない。利益を得るのは今までそうだったように莫大な政府補助金を受け取っている米国の企業型大農、畜産業者、メジャー穀物会社だけのことだ。言い換えれば、米国でも韓国でも従来の不公正な社会構造が少しも変わることがないということだ。


自由貿易協定を新しい経済成長の動力とするという人々が見過ごしている重大な問題がある。それは今や世界が石油および資源枯渇、エネルギー危機、気候変化、環境破壊によって事実上 経済成長が不可能な時代に入り込んだという厳然たる現実だ。‘バルチック海運指数’というものがある。これは石炭、石油、鉱石、穀物などを大量に運ぶ外航貨物船の雇用状況を知らせる世界的統計数値だが、数年後の貿易と世界経済がどうなるのかを知らせる指標だ。 この指数は2008年に90%も急減し、その後しばらく回復した後、再び沈滞を記録している。


特に今後の世界経済状況に及ぼす決定的な要因は原油の供給問題だ。永くピークオイル(原油増産限界点)問題を無視してきた国際エネルギー機構(IEA)もついに2010年10月報告書で世界の原油生産が2006年に頂点を通りすぎたことを認めた。現代産業社会は去る半世紀の間、一言で言って価格の安い原油に依存して成長してきたといっても過言ではない。もうそういう価格の安い原油時代は過ぎ去ったとすれば、もはや従来のような成長は不可能だということは確実だ。


この間、農作業さえも大部分が石油に依存した生活方式は今、画期的な方向転換をしなくてはいけない時点に達した。ソ連と東ヨーロッパ社会主義圏が崩壊した直後、石油供給が中断されたことにより一時的に社会全体が機能マヒ状態に陥り、ついにみじめな大量飢餓状態に直面した北韓の状況はこのまま行けば近い将来に石油依存社会全体がやむをえず直面する状況といえる。ほとんど大部分の産業が価格の安い石油に依存しているだけでなく、エネルギー浪費および環境破壊的生活方式に深く中毒している韓国社会がその状況で例外になることができるだろうか? この厳粛な展望に照らしてみる時、韓-米自由貿易協定は実に時代錯誤的な生存戦略といわざるをえない。ピークオイルと資源-エネルギー-環境危機という死活的な要因を考慮せずに‘進歩’を試みることは妄想にすぎない。今ますます世の中で重要なことは自立的な食糧-エネルギー生産能力であることは自明だ。そのような意味で長期的な活路は農業中心の自給的・協同的地域共同体の再建にあるということは長く語る必要がない。輸出だけが生きる道という迷妄に捕われ唯一持続可能な暮らしの源泉である農作業を継続的に見下すならば、その究極的な結果は耐えがたい悲劇であろう。韓-米自由貿易協定は廃棄しなければならない。 キム・ジョンチョル緑色評論発行人


原文: http://www.hani.co.kr/arti/economy/economy_general/507806.html 訳J.S