NPO法人 三千里鐵道 

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南北の惨事-セウォル号の沈没、高層アパートの崩壊

2014年05月26日 | 三千里コラム

当局の謝罪に嗚咽する遺族(5.17,ピョンヤン)



セウォル号の惨事から40日が経過した。韓国社会はまだ深い悲しみに沈んでいる。その後も地下鉄事故やショッピングモールの火災など、安全対策を疎かにした人災が相次いでいる。一方、平壌でも5月13日、完工間近の高層アパート(92世帯が仮入居)崩壊で多数の人命被害が発生したとの報道があった。当局は死亡者の数を公表していないが、事故公表という異例の事態からも、相当数の犠牲者があったものと推測される。

民族分断の敵対状況が60年以上も続くなか、南と北は互いに大切なものを見失ってしまったようだ。南は「いかにたくさんのカネを儲けるか」、北は「いかに短期間で実績をあげるか」が、最優先の尺度になっている。「利益」と「速度」が「人命」を凌ぐ社会は、何れにせよ、人間の尊厳が息づく社会とは言い難い。「同病相憐」の痛みを込めて、以下の要訳資料を紹介する。(JHK)


① 5月18日付『労働新聞』-首都市民たちに謝罪
「住宅建設現場で起こった事故について、責任幹部らが遺族に深い慰労の意を表明」 


人民の利益と便宜を最優先し、人民の生命や財産を徹底して保護するのは、朝鮮労働党と国家の一貫した政策である。しかし13日、平壤市平川区域の建設場では、住宅の施工をいい加減にし、それに対する監督・統制を正しく行なわなかった幹部の無責任な対応により重大な事故が起き、人命被害が発生した。

事故が起きるや、国家的な非常対策機構が発動された。生存者を救出し、負傷者を治療して事故現場を整理するための救助活動が、緊張した雰囲気の中で行なわれた。

17日、救助作業が一段落した事故現場で、崔富一・人民保安部長、朝鮮人民内務軍のソヌ・ヒョンチョル将官、平壤市人民委員会の車熙林・委員長、平川区域党委員会のリ・ヨンシク責任書記など関係部門の責任幹部らが、被害者の遺族と平川区域人民をはじめ首都市民たちに、深甚な慰労の言葉とともに謝罪した。

崔富一・人民保安部長は「事故の責任は、朝鮮労働党の人民愛の政治を忠実に具現できなかった自分にある」とした。そして「人民の生命と財産を危うくする要因を適時に探し出し、徹底した対策を講じなかったことから事故を発生させた」と反省した。また「人民の前に犯したこの罪は、何によっても償うことができず赦されない」と言い、遺族と平壤市民たちに重ねて深く謝罪した。

そして「今後、人民大衆を第一とする党の崇高な意図に従って、人民保安部がいつも人民の利益と生命・財産を徹底して守る真の人民保安機関になるように、すべてを捧げる」と固く誓った。

朝鮮人民内務軍のソヌ・ヒョンチョル将官は、「事故の張本人は建設を担当した自分自身である」とし、被害者たちと遺族に深い哀悼の意と慰労の言葉を表し、今回の事故で大きな衝撃を受けた平壤市民たちに心より謝罪すると述べた。

さらに、「朝鮮労働党は建築物の質を高めることを強調しているのに、人民に対する奉仕の観点を正しく持てなかったことから工事を粗雑にし、今日のような重大な事故が発生した」と述べた。早急に被害者と会い、遺族の生活を安定させるために最善を尽くすことを厳粛に決意した。

平壤市人民委員会の車熙林・委員長は、「朝鮮労働党はわれわれ幹部が、人民の真の服務者、忠僕になれとつねに強調しているが、首都市民の生活に責任を担う戸主として、自分が住宅建設に対する掌握・統制を正しく行なわなかったことから、このような厳重な事故が発生した」と述べた。

また、遺族と首都市民たちに「面目ない。申しわけない気持ちを禁じ得ない。市人民委員会幹部が被害者たちと遺族の肉親になって、彼らの心痛を少しでも癒やし生活を早急に安定させるため最善を尽くす。今回のような不詳事が二度と生じないようにする」ことを固く決意した。

平川区域党委員会のリ・ヨンシク責任書記は、「事故現場で被害者たちに会って胸が張り裂けるようだった。朝鮮労働党がかくも惜しみ愛する人民の貴重な命を守ることができなかった責任感で、頭を上げられない」と語った。

また、遺族と区域内の住民にふたたび許しを請うとし、「今からでも気を持ち直し、区域の幹部らを動員して遺族の生活を安定させたい。事故要因をもれなく探って対策を講じ、人民の生命・安全を徹底的に保障する」ことを誓った。

平壤市党委員会の金秀吉・責任書記は「いま、平壤市民たちは遺族、被害者たちと悲しみを共にしている。被害者家族の生活を安定させ、新しい住居を与えるために党と国家の強力な緊急措置が取られている」とし、「みんなが悲しみを克服し、勇気を出して立ち上がる」ことを訴えた。


② 5月20日付『毎日経済新聞』コラム、「セウォル号惨事と平壌の23階アパート崩壊」

「国民の安全、安全な国作り」が最大の関心事となっている。朴槿恵大統領は19日、国民への談話を発表し、セウォル号惨事の再発を防ぐための総合的な安全対策を明らかにした。

折しも北では、建設工事が進んでいた平壌の23階建てアパートが崩壊し、相当な人命被害のあったことが報じられている。主要メディアを通じてセウォル号沈没後の韓国情勢を報道するなかで、「南朝鮮全土が怒りのルツボとなっている」と韓国政府を攻撃してきた北朝鮮当局としては、メンツが著しく損なわれることになった。

また、セウォル号事故の原因について、「腐敗し無能な傀儡当局の反人民的な政治が産んだ必然的な結果、南朝鮮当局の危機管理能力不足、人命より利潤を重視する腐敗した社会」など鋭い批判をしてきたが、今回の崩壊事故は、このような批判が結局は北朝鮮当局にもそのまま該当することを自ら証明したようなものだ。

金正恩体制のスタート後、北朝鮮には前例ない「建設ブーム」が起きた。当局自ら、今が建設の最盛期だと規定している。そして北朝鮮では、「短期間に建設する」のを最も誇らしい模範事例として称賛する。

ところが問題は、このように量産された建物の安全性を誰も保証できないことから、第二、第三のアパート崩壊事故による住民犠牲も相次ぐと予想される点だ。北朝鮮は、建物の安全性に関して不感症の社会になって久しい。建設分野に従事していた何人かの脱北者らは、「北朝鮮で大小の建物崩壊事故は日常事」と、口をそろえる。

今回の崩壊事故は北朝鮮のメディアにも公開され、高位幹部らが住民の前で謝罪する場面が演出された。しかし、このような事例はきわめて異例で、報道されなかった事故は決して少なくないだろう。手段と方法を選ばず「速度戦」で顕著な成果を誇示しなければならない慣行は、北朝鮮社会に深く根をおろしている。目標を達成できなければ厳重な処罰を受けるので、高位幹部から末端の勤労者に至るまで、命を賭けて短期間に結果を出さなければならない。

月給だけで暮らすのが難しい勤労者たちは、建築資材を横流しにするのが常だ。金を儲けるための違法な不動産開発も、ますます広がる傾向にある。「資本主義の市場経済が最も活性化しているのが建設市場だ」と言われるほどに、不動産建設は最も美味しい金儲けの手段となっている。

これに伴い、合法であれ不法であれアパートの新築・分譲・売買の過程では、民間の新興富裕層や開発業者・仲介人・施工者と、党・内閣の高位幹部層の間で、賄賂による共生関係が形成される。不正、非理、腐敗、不実が幅を利かす、構造的な環境が造成されているのだ。

これは金正恩の「国家による統一的な監督統制体系が整備されていない」という建設部門に対する叱責と、今回の事故原因が「施工をいいかげんにし、それに対する監督統制を正しく行わなかった党関係者の無責任から厳重な事故が発生し人命被害が出た」と自認したことからも傍証されている。

今後、対北支援あるいは南北の交流協力が再開すれば、建物に対する安全診断と設計、施工、建築材部門などテクニカルサポートから始めることが必要かもしれない。セウォル号の惨事が残した教訓を北の政権当局も学習し、住民の安全をより考慮する対策が出てくることを願うばかりだ。 (イム・ウルチュル、慶南大学・極東問題研究所教授)

在日同胞から国内同胞への呼訴文 賛同者を募集しています。

2014年05月24日 | 管理人のつぶやき
在日同胞呼訴文 発表の賛同者を募集します。

우리는 한국이 무엇보다 사람의 목숨과 인권을 소중히 하는 나라가 되기를 바랍니다.
私たちは韓国が何よりも人の命と人権を大切にする国になることを願います。

4月16日、珍島沖で起こったセウォル号沈没惨事は、これまでにもたびたび発生していた韓国の水難事故でも最大規模のものでした。 304名もの死亡者・行方不明者の大半が、『船室でじっと待て』という館内放送を信じて避難しなかった高校2年生であったことが、私たちにさらに大きな衝撃と悲しみをもたらしました。
今回の惨事は、ただ単に船長を始めとする乗組員の職務放棄が問題なだけではなく、現代韓国が抱えている深刻な病理-利益優先主義と責任回避-こそが大きく問われなければなりません。それは私たち、今の社会を作り上げてきた世代の責任です。 ソウル市庁舎に『미안합니다』(ごめんなさい)という大きなたれ幕が掲げられましたが、まさにそれは私たちの心を代弁しているものと思います。
この惨事を受けて、海外同胞社会においても何かをしなければという思いが高まっていますが、私たちはこの度の呼訴文を通して在日同胞の声を届けたいと思います。
何よりも「人の命と人権を大切にする国になってほしい」という私たちの願いを届けたいと思うのです。 
おりしも、6月4日は、現政権の中間評価といえる統一地方選挙の投票日です。私たちは、この呼訴文を通じて、韓国社会に訴えたいと思います。
多くの方の参与をお願いします。
 
2014年5月23日

呼び掛け人(가나다라順 5月23日現在)
金成元 (在日韓国キリスト教会館館長)  
金秀男 (在日本韓国YMCA総務)
金必順 (牧師 在日大韓キリスト教会関西地方会会長)  
都相太 (NPO法人 三千里鐵道 理事長)  
文京洙 (立命館大学教授)  
呉光現 (NPO法人 聖公会生野センター 総主事)  
尹健次(神奈川大学教授)  
李政美 (歌手) 
林範夫 (NPO法人コリアNGOセンター共同代表 弁護士)

発表期日 5月31日
発表方法 ハンギョレ新聞意見広告 最終面全面広告
参加要領 1口 1万円 日本地域 100人目標
メールにて  touhyou2012@gmail.com
   お名前 ご住所 電話番号 E-Mail アドレスを記入のこと。
申請締切 5月29日 午後8時


※送金用口座  郵便振替

00840-4-143175

『投票2012』    ←カッコがついています。



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在日同胞から国内同胞への呼訴文(案)

우리는 한국이 무엇보다 사람의 목숨과 인권을
소중히 하는 나라가 되기를 바랍니다.

私たちは韓国が何よりも人の命と人権を大切にする国になることを願います。

4月16日、珍島沖で起こったセウォル号沈没惨事は、これまでにもたびたび発生していた韓国の水難事故でも最大規模のものでした。 304名もの死亡者・行方不明者のうち大半が、『船室でじっと待て』という館内放送を信じて避難しなかった高校2年生であったことが、私たちにさらに大きな衝撃と悲しみをもたらしました。 
死を目前とした高校生たちは、どれほど悔しく、恐ろしく、苦しかったでしょうか。 国内同胞の皆さんがそうであったように、私たち在日同胞も、それを思うと、胸がつぶれ、天を仰ぎました。

今回の惨事では、船長を始めとする乗組員の職務放棄、乗客を放置したまま真っ先に逃げたことが大きくクローズアップされていますが、それだけが問題なのではありません。それは、私たち誰もが知っていることです。

船長を始めとした乗務員の大半が非正規職員であった… ここ数年の過度な規制緩和によって、老朽化したフェリーの航海延長を許し、定員増員のための無謀な改装を許した… 最大積載量の3倍もの貨物を積載し、しかも固定が不十分であった… 安全航海のために必要なバラスト水が基準の4分の1しかなかった… 積載されていた救命ボートがほとんどすべて不良だった… 海洋警察による救助の初動が遅れた… 高校生全員救助などというとんでもない誤報があった… 海洋警察、安全行政部、海洋水産部などの関係部署が指揮系統の統一もなくバラバラな対応をした… 海洋警察の艦艇に、救助用の装備がなかった… 海洋警察が予算をゴルフ場建設などに流用していた… 韓国軍の海難救助艦統営号の派遣が見送られた… 救助活動において民間会社が優先された… 公営放送KBSを始めとしたマスコミはその報道の本分を忘れ、不正確で歪曲された報道を垂れ流し、犠牲者やその遺族の心を踏みにじった… 政府に怒り抗議する犠牲者の家族たちを暴徒のごとく扱った…

セウォル号沈没惨事は、事故発生から救助の失敗に至るまで、天災でもなく、船長以下の乗務員の過失のみによるものでもなく、徹頭徹尾、清海鎮海運と政府行政機関、そしてマスコミなどによる、起こるべくして起こった人災だったのです。

今、政府は経済効率のみを最優先し、企業は利潤のみを最優先し、社会には利己主義がはびこり、人々は私利私欲に走る ― 拝金主義の国に堕落してしまったのでしょうか? 自分に与えられた仕事に誠実に取り組むことを忘れ、責任を負うことを回避し他になすり付けることに汲々とする姿は、指導的な地位にある人々において特に顕著であると言わざるを得ません。
その一方で人の命は軽んじられ安全はないがしろにされています。 労働者の人権は無視され、子どもたちはこの過酷な社会に適応するよう強制されています。
セウォル号沈没惨事には、現代韓国が抱えているこのような深刻な社会的病理が凝縮していると言わざるを得ません。 そしてそれは私たち、今の社会を作り上げてきた既成世代の責任なのです。 ソウル市庁舎に『미안합니다』(ごめんなさい)という大きなたれ幕が掲げられましたが、それはまさに私たちの心を代弁しているものと思います。
犠牲となった人々を正しく記憶し、この深刻な社会的病理に切り込むことなしには、第2、第3のセウォル号事件が起こるのです。それは、今回犠牲となられた人々を再び殺すことを意味します。

韓国の建国思想は『弘益人間』であり、我が国が古来より『東宝礼儀の国』と称されてきましたが、私たち在日同胞も、そのような国を取り戻すことを心から願っています。
そのためには、何よりも人の命と人権を大切にする国にならなければならないと思います。
国内同胞の皆さん、憲法第一条をもう一度かみしめて下さい。
「大韓民国の主権は、国民に存し、すべての権力は、国民に由来する。」 
国内同胞の皆さんが、セウォル号沈没惨事の犠牲者の前に厳粛に立ち、深刻な社会的病理におかされた我が国の社会を変革するために、主権者としていかなる行動をとるべきか、よく考えてみてください。

 2014年5月31日
 
 海外同胞     名前(肩書) ※가나다라順
   



日本政府の集団的自衛権行使と朝鮮半島

2014年05月19日 | 三千里コラム

日本大使館前で抗議する韓国の平和団体(5.16,ソウル)
 -集団的自衛権の行使容認を宣言した日本政府への糾弾-



5月15日、安倍晋三首相は満を持して記者会見に臨んだ。この日、首相の私的懇談会である「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(安保法制懇)は、集団的自衛権の行使容認に向け、憲法解釈の変更を求める報告書を提出している。報告書を“錦の御旗”と見なす首相は、自民・公明両党に内容の検討を指示した。どうやら憲法解釈の変更を速やかに閣議決定し、今年中にも集団的自衛権の行使を現実化する方針のようだ。

自国が攻撃されてもいないのに、他国(米国)への攻撃に武力で反撃するのが集団的自衛権の行使である。これを容認するなら、戦後の歴代日本政府が掲げてきた「専守防衛」路線は、もはや放棄したも同然であろう。日本の国家安全保障政策は今、重大な転換局面を迎えているのだ。

安倍政権の強引な手法を見るにつけ、日本の平和と民主主義が直面している深刻な危機状況に触れざるを得ない。先ず、政府傘下の公的機関ではなく、首相個人の私的懇談会がこの一大転換を主導していることだ。

安保法制懇の委員14人のうち、憲法学者は一人だけだ。その一人を含め全員が安部首相の意を呈した「集団的自衛権行使の支持者」なのだから、報告書は“先に結論ありき”の出来レースと言えよう。安保法制懇にはいかなる法的根拠も存在しない。首相の個人的なサロンが出した見解を、さも権威ある政策指針であるかのように国民が受け入れているなら、これ以上の茶番はないだろう。

次に、安倍政権は立憲主義を根本から否定している。憲法が禁止している武力行使を容認するには、憲法に定められた手続きによって改憲するのが筋である。ところが政府は、憲法の改定ではなく、憲法解釈の変更という便法で突破しようとする。憲法9条を改定する確信が持てないからだ。改憲には、衆参各院3分の2以上の多数で発議し、国民投票による過半数支持という困難なプロセスが必要となる。

5月19日付『毎日新聞』の世論調査によると、集団的自衛権行使に「反対」が54%、「賛成」は39%に過ぎない。また、首相が憲法改定ではなく憲法解釈の変更で対応しようとすることについても、「反対」が56%、「賛成」は37%だった。参院の議席分布(自民党は3分の2以下の議席)とこうした民意を考慮するなら、改憲は「現実的には不可能に近い」(5月15日、安保法制懇座長の柳井俊二・元駐米大使)のが現状である。

半世紀以上にわたって吟味され積み上げられた現在の憲法解釈を、時の内閣が恣意的に変更するなら、憲法に対する国民の信頼は揺らぐしかない。憲法の核心的な役割は本来、そうした政権の横暴を統制することにあるはずだ。安保法制懇の報告書は「政府が日本の安全に重大な影響を及ぼすと判断すれば、集団的自衛権の限定的な行使を容認すべき」と提言している。

日本の立憲主義が時の政権から重大な挑戦を受けているのに、国民の危機意識はそれほどでもないのが不思議でならない。何よりも、安部首相が自ら「憲法解釈の最高責任者は私だ」(2月14日衆院予算委)と豪語している。国民の上に君臨する、独裁者の傲慢極まりない発言だった。もし朴槿恵大統領がこれに類似する発言をしたなら、「即刻退陣」を要求する韓国市民の厳しい糾弾を受けるだろう。

安部首相は5月15日の記者会見で、集団的自衛権行使を検討する具体的事例として「朝鮮半島の有事」を挙げた。「避難邦人を輸送する米艦船への防護」目的で、自衛隊は朝鮮半島で米軍と共同作戦を展開するというのだ。これに対し韓国政府は、「朝鮮半島の安保と我が国の国益に影響を与える事項については、韓国政府の要請と同意がなければ容認できない」との立場を表明している。

だが、朝鮮戦争の前例からして、韓国政府の発言を額面通りには受け入れ難い。戦争初期の1950年10月~12月、旧日本海軍の士官50名を中心とする海上保安庁特別掃海隊が、北朝鮮の元山と海州で機雷の除去作業に動員されている。当時の李承晩政権に決定権限はなく、戦争を指揮した米政府の要請(命令)によるものだった。

今も韓国軍の戦時作戦統制権は、米政府が掌握している。であるなら、有事に際し日本軍(もはや自衛隊ではあるまい)の朝鮮半島進入を決定するのは、米政府であって韓国政府ではない。また、米政府が主導する国連多国籍軍の一員として日本軍が朝鮮半島に進出するならば、韓国政府がそれを阻止することはできないだろう。

そして、国防予算削減の圧迫を受けるオバマ政権としては、朝鮮半島有事に際し自国の軍事負担を最小化したいはずだ。米政府にとって、自国軍隊の肩代わりを買って出る日本軍ほど、頼もしい同盟軍はないだろう。米政府が安部首相の集団的自衛権行使への決意を「歓迎し、支持する」のは当然のことだ。

想えば昨年の10月3日、日米安全保障協議委員会(「2+2」閣僚会合)後の記者会見で、両国の外務・防衛閣僚は「集団的自衛権の行使容認」を表明した。そして、日米防衛協力の指針(ガイドライン)の再改定作業を、2014年中には終える意向だと明らかにした。安部首相がタイムリミットに追われるかのように憲法解釈の変更を推進するのは、米政府の強い意志が背景にあるからだろう。

米政府のアジア政策と密接に関連する集団的自衛権の行使は、東アジアの新たな緊張要因となり、地域の平和に深刻な脅威をもたらすだろう。それが決して杞憂ではないことを、安倍政権の一連の安保政策が示している。日米安全保障協議委員会(「2+2」閣僚会合)の結果を受け、昨年12月17日、安倍政権は『国家安全保障戦略』を策定して『防衛大綱』および『中期防衛力整備計画』を閣議で決定した。

「日米同盟全体の抑止力強化」を目標にしたこれら文書は、「北朝鮮の弾道ミサイル能力の向上を踏まえ、対処能力の総合的な向上を図る」(『防衛大綱』)としている。これまでの“空中でミサイルを迎撃する”という防御的な対処を超え、“敵のミサイル基地そのものを精密打撃する”との攻撃的な意図が込められているのだ(2014年1月18日付『毎日新聞』)。

憲法解釈を変更して集団的自衛権の行使を容認すれば、自衛隊は事実上、日本軍となる。憲法9条でその活動に歯止めを掛けることは、もはや不可能となるだろう。日本の政府と国民は、米国が始める戦争に際限なく協力するリスクを抱えることになる。朝鮮半島がその舞台とならぬよう、日韓両国市民の平和連帯を、いつにも増して強く訴える次第である。(JHK)

セウォル号の惨事と朴槿恵政権

2014年05月09日 | 三千里コラム

「セウォル号の犠牲者を追悼し、朴槿恵政権の退陣を求める市民決起大会」(2014.5.8,光州)


 いつの間にか、セウォル号の沈没から24日が経過した。事故当時、自力で船外に脱出した「救助者」の数は、174名のまま増えていない。いや、政府当局の無能ぶりを反映するかのように、172名へと訂正された。5月9日午前5時現在の状況は、「死亡」273名、「行方不明」31名である。前回のコラムで指摘したように、船内に閉じ込められたが救出された乗客・乗務員は、一人もいないのが現状だ。

今回の惨事に関して、韓国政府は以下の二点において厳重な責任を負わねばなるまい。第一に、相次ぐ規制緩和で企業の利益を優先し乗客の安全を軽視した責任である。李明博政権は「海上運送事業法」を改定し、20年に制限されていた旅客船の使用年限を、30年に延長した。朴槿恵政権はそれを受け継ぎ、客室・貨物室増築などの用途変更に対する制限も緩和していった。

もう一点は、事故発生直後に迅速かつ全面的な救助活動を展開せず、船内の生存者を救出できなかった責任だ。事故現場に設置された対策本部は状況把握に追われ、殆ど機能していない。救助に当たった海洋警察庁(日本の海上保安庁に相当)も当初、民間の潜水士やSSU(海難救助隊)、UDT(海軍特殊戦戦団)などの救助活動を受け入れなかったという(5月2日付『プレシアン』)。

沈没事故の第一報が済州島の管制センターに入ったのは、4月16日午前8時55分だった。同日午後6時過ぎまで、船内の学生たちはスマートホンで「救助を待っている」というメセージを送り続けた。政府が可能なすべての手段を動員して迅速な救助を展開していたなら、ここまでの大惨事には至らなかったのではとの思いを払拭できない。献身的な救助活動(5月6日、民間潜水士のイ・グァンオク氏が死亡)にも拘らず、一人の生存者も救出できなかった事実はあまりにも重い。

救助活動をはじめ事態の収拾では無能な姿を露呈した政府機関だが、世論の統制においては一糸乱れぬ有能さを発揮している。国民の怒りが全国的に広がった4月22日、政府は「北朝鮮が4度目の核実験を準備中」と大々的に宣伝した。そして現地には、遺族の抗議行動を取り締まる多数の私服警察官が配置された。教育部も各地の学校と保護者に、“軽率”な発言を控えるようにと警告を出している。とりわけ、「放送通信委員会」の活躍ぶりは目を見張るばかりである。各放送局の報道内容やインターネットの通信内容をチェックし、政権への批判を“流言蜚語”と決めつけ警察に捜査を依頼しているのだ。

国民の追悼世論に押された政府は4月26日、ようやく合同慰霊所の設置を許可した。だが、場所を屋内庁舎に限定し、その数も17箇所に過ぎなかった。ちなみに天安艦沈没(2010年3月)の際には、全国各地に340箇所の合同慰霊所を設置している。そして、抗議集会への参加を呼びかける団体や人士を、与党幹部らが「アカ」・「従北勢力」と罵倒するのはもはや見慣れた光景である。

大統領から直接、心からの謝罪の言葉を聞きたかった遺族の思いは今も叶えられていない。だが、朴槿恵という政治家が国民の生命保護に至高の使命感を抱いていることを、筆者は彼女自身の言葉からして疑わない。盧武鉉政権期の2007年7月、アフガニスタンで武装勢力に拉致された韓国民が殺害された。当時、野党ハンナラ党の重鎮だった彼女は次のように述べている。

「国家の最も基本的な任務は国民の生命と安全を保護することです。今回、国家がその任務を果たさなかった事実を目撃した国民は政府の無能と無責任に憤り、国家に対し根本的な懐疑を抱くようになりました。」

遠く離れた異国であるが、国民の生命を救えなかった政府を追求する彼女の発言は正しい。では、自国の海岸で数百倍もの国民の生命を犠牲にした今回の惨事に対し、朴槿恵大統領はどのような言葉で自己の責任を問うたのだろうか。4月17日、事故現場を訪問した大統領は、遺族と政府関係者に対しこう語った。

「もし、今日ここで皆さんと約束したことが守れなかったなら、ここにいる人たちは全員、責任をとって辞職しなければなりません。」

約束は履行されるべきだろう。あの日、遺家族と一緒にいた政府関係者の中には、言うまでもないが大統領も含まれていることを、どうか想起して欲しい。

朴槿恵大統領の支持率が急降下している。だが、自ら責任を負って辞任することはないだろう。ただ、民の声に耳を傾ける謙虚さを欠いた為政者は、ことごとく不幸な末路を迎えたのが韓国現代史の教訓である。父親を尊敬して止まない彼女に、父親を反面教師にせよと説くのは不躾だろう。だが、血の教訓を生かしてほしいと、筆者は切に願っている。

最後に、最近の民心を伝えたい。5月8日、光州市の錦南路では「セウォル号の犠牲者を追悼し、朴槿恵政権の退陣を求める市民決起大会」が開かれた。集会には高校生・民主労総組合員・市民など1000人余りが参加している。集会で発言した市民シン・ヨンムンさんは「国民が朴槿恵大統領に権限を与えたのに、大統領は公務員たちの責任を問うというのだから、話にならない」と大統領を批判した。

また、この日午前、全羅道地域の5大宗教(仏教・円仏教・天道教・カトリック・プロテスタント)の指導者が光州YMCAで、犠牲者の追慕祭を行なった。その後の記者会見では、「セウォル号惨事の責任を負って朴槿恵大統領は退陣すべきである。大統領、国会議員、高位官僚らが現地を訪問したが、一人の人命も救助できなかった。国民は今、既得権に寄生して適当に保身する野党を必要としない。野党は朴槿恵退陣の先頭に立て」と糾弾している。(JHK)