NPO法人 三千里鐵道 

NPO法人 三千里鐵道のブログです。記事下のコメントをクリックしていただくとコメント記入欄が出ます。

貪欲な企業と無能な政府、遣る瀬ない遺族の悲憤

2014年04月25日 | 三千里コラム

ひたすら生還を祈る家族(4.21)



韓国の旅客船「セウォル号」沈没から10日目を迎えた。事故現場を中継するニュース画面の数字は刻々と変動する。「死者」の数は増え、その分、「失踪者」の数値は減っていく。唯一、変化のない数字が「救助者=174人」の表示だ。

その間の経緯を見れば、174人を「救助者」と分類することすら憚られる。正確には「脱出者」と呼ぶべきだろう。傾く船から自力で逃げのびた人々をボートに引き上げたのであって、救助隊が船内に潜入して救い出した人たちではないからだ。

「救助者=0人」。これが弁明の余地なき現実である。政府がこの10日間にわたって展開した救助作業は、ただ一人の失踪者をも救出できなかったのだ。

事故当日、現場に駈けつけたチョン・ホンウォン首相は家族の激しい抗議を受けた。正確な事故情報を提供できず、迅速な救助作業の展開を指揮することもできなかったからだ。事態を収拾するために翌日、朴槿恵大統領が訪れた。大統領は対策本部の責任者に「被害家族にはすべての関連情報を提供せよ」と指示した。そして「救助作業に全力を投入し、皆さんの望むことはすべて実行する」と約束した。

大統領の説得を受け、わが子が無事救出されることだけを待ち続けた親たちのひたすらな願いは、今日に至るもかなえられていない。生存への希望が薄れゆくとともに、「朴槿恵は責任を取れ!青瓦台(大統領官邸)へ行こう!」という声が上がり始めた。だが、抗議行進は警察によって阻止された。

全国民が悲嘆にくれるなか、乗客を放置したまま素早く脱出した船長と乗務員たちが、世論の厳しい糾弾を受けている。朴槿恵大統領も4月21日、青瓦台での首席補佐官会議で「船長と一部乗務員の行為は殺人にも等しい」と断定した。大統領はまた、「今回の事故原因を徹底的に究明し、公務員としての無責任と不条理、過誤に対しては強く責任を問う」と述べている。

韓国の大統領はいつから、国民に対し「責任を担う立場」から「責任を追求する立場」に変貌したのだろうか。

今回の旅客船沈没が、社主と船長および一部乗務員の無責任な行動に起因することは言うまでもない。だが、乗客476名のうち、死亡:183名、失踪:119名(25日正午現在)という大惨事に拡大したのは、政府の初期対応における無能さにあったことは明白である。

朴槿恵大統領の政治スタイルは日ごろから、立法・司法・行政の三権に超越した存在として自身を位置づけるものだ。今回の惨事において、現地を訪問した際にも自ら被害家族と国民に謝罪の言葉を発しなかった。謝罪は首相や長官たちの役目だった。

無能な政府と切り離すことで自己の責任を曖昧にしようとするなら、国民の信頼は地に落ちるしかないだろう。韓国憲法の第68条4項には、「行政権は大統領を首班とする政府に属する」と明記されているからだ。

大規模災害の予防と対処に向け、盧武鉉政権は2004年に国家危機管理システムを導入し様々な規制を設けた。このシステムを李明博前政権は解体した。加えて朴槿恵現政権は、「行き過ぎた規制は企業活動を妨げる癌だ」として大幅に緩和した。その中には、船舶の安全に関わる規制も多数あったそうだ。

沈没した「セウォル号」の社主もその規制緩和を最大限に活用した。低賃金の非正規職員を数多く雇用し、老朽船舶の無理な改造で収容能力の拡大に奔走したのだ。船長を含め主要な乗務員の大半(17名中の12名)は、半年から1年契約の非正規職だった。正規職に比べ劣悪な雇用条件の彼らが、船舶会社から充分な安全教育を受けていたとは考えられない。

彼らに全責任を負わせ「殺人者」と罵倒することが、国家の最高指導者として適切な姿勢だろうか。問題の核心は「責任」と「権限」の不一致ではないのか。すべての権限は大統領が掌握しているのに、事故が発生すれば実務担当者が問責される。その結果、現場の公務員たちは自らの判断で動こうとせず、上層部の顔色ばかり伺うようになる。今回も事故現場の対策本部は、コロコロ代わる上部の指示に右往左往するばかりで、ほとんど機能していない。

朴槿恵政権に最も切実なのは、他でもない大統領の責任感だ。今回の惨事における根本原因を究明すれば、最終的には大統領官邸に行き着くしかない。沈没事故は船長が引き起こしたが、その原因として、国家の安全システム不備が指摘されるだろう。そして何よりも、人命救助という緊急任務は政府の責任と管轄下にあるからだ。様々な欠陥が露呈した「大韓民国号」の船長は、朴槿恵大統領、あなたなのだ。

以下に参考資料として、4月23日付『全国民主労働組合総連盟(民主労総)』の論評を紹介する。(JHK)


-責任を取ろうとしない輩に、根本的な診断を任せてはならない-

生還してほしいという切実な祈願を込めて、言葉ひとつにさえ慎重になっていた。しかし、無能で無責任な政府の対処、船会社の不道徳極まりない態度、政府高官と与党議員らの不謹慎なふるまい、責任者厳罰を指示しながらも本人は道義的責任にともなう一言の謝罪さえない大統領....。一連の無責任な姿を見ているだけでも惨憺たる思いに駆られ、憤怒を抑え難い。

それでも私たちは怒りに先立ち、何よりも失踪者の救助と被害者の治癒に社会的な力量が集中されることを願う。同時に、惨事の背景には構造的な原因があるという点を看過してはならない。この点を強調して正さないならば、再び悲劇を繰り返すことになるからだ。

しかし、最も大きな責任を負うべき政府と与党は、自分たちを非難する世論をどう回避するのか、その対策に汲々としている。それで「政府非難は不純勢力の扇動」という荒唐な反論もあれば、「デマを取り締まる情報統制の指示」すら出されている。このような政府と与党が果たして、まともな安全対策を整備できるのか憂慮せざるを得ない。

人や生命に対する責任よりも利潤を優先する企業は己の貪欲を効率性で包装し、より多くの「貪欲の自由」を要求してきた。そのような企業活動に依拠する政府と与党は、各種の特恵と規制緩和政策で彼らとグルになることを躊躇しなかった。だからこそ、先進国から廃船直前の船舶を買い込んで営業し、より多くの客室を確保するために無理な船舶改造を敢行した。そして、特別な規制を受けることなく過剰積載を日常化したあげくに、大惨事を招くことになったのだ。

また、高い職業倫理で乗客安全の責任を負うべき乗務員はもちろん、船長まで臨時職(非正規職)で採用したというのだから、「費用さえ減らせばいいのだ」という雇用システムがいかに嘆かわしいものか、実感させられる。

ところが我が国では、大型の惨事が発生するとその原因を「安全不感症」と診断しがちである。原因が曖昧な社会風潮のせいにして、問題の本質や構造的原因はそれとなく見過ごしてしまうのだ。

少なからぬメディアは「船舶会社が零細なので安全管理が行き届かなかった」と分析している。では、その会社が接待費と広告費にはいくらを使ったのか。零細性を問う前に、「安全は営業にマイナス」とする企業の認識そのものが問題なのだ。その結果、韓国はOECD国家のうち労災死亡率1位の国家になった。

もちろん、これからも大型惨事が発生してはならない。だが、3時間ごとに1人が命を失い、毎年2千4百人余りの労働者が死亡する残酷な労働災害の現実も、これ以上持続してはいけないのだ。

政府・企業・言論機関など社会の運営に携わる人々は、今回の惨事に対する深い省察を通じて根本的な安全対策を探さなければならない。ひとまず責任だけは免れようとする政治的な対応では、国民の不信と怒りをさらに増大させるだけである。この事実を、大統領から肝に銘じるよう願うところである。 2014.4.23. 全国民主労働組合総連盟

朝鮮半島の軍事情勢(2) -無人機の“脅威”

2014年04月19日 | 三千里コラム

三陟で発見された無人機(4.6)、下は一般的なラジコン機の墜落機体。



韓国国防部は4月11日、先月から発見されている3機の小型無人機に関する調査発表を行った。国防部の報道官は「飛行体の特性や搭載装備を調査した結果、北朝鮮の素行を裏付ける状況証拠が数多く発見された」と明らかにした。だが、その一方で「より明白な証拠を確保するためには、科学技術的な追加調査が必要」と述べている。つまり、「状況証拠」はあるが、明白な「確証」を提示するには至らなかったようだ。

現在まで小型無人機は、3月24日に坡州(パジュ)、同31日に白翎(ペンニョン)島、4月6日に三陟(サムチョク)と、韓国北部地域で3機の墜落機体が発見されている。ただ、三番目の墜落機体は昨年10月に目撃されたもので、発見者の申告(4月3日)を受けた当局が、一帯を捜査して発見したという。

北朝鮮が無人機を侵入させたのなら、韓国政府は厳重に抗議し再発防止を約束させるべきである。だが、軍当局の報道内容を見ると、政府与党と保守メディアの過剰反応に引っ張られ、右往左往しているような印象を受ける。

最初(3月24日)の無人機発見に際して「特別な容疑点は見当たらない」と冷静に対応した当局が、二機目には「北朝鮮の素行」と方向を転換した。同時に、無人機の撮影内容に関しても「特定地域を撮影した形跡はない」が、「大統領官邸を集中的に撮影」と変わった。無人機の性能も「攻撃用としては性能不足」だった当初の発表が、朴槿恵大統領の叱責を受け「高性能爆弾を搭載すればテロ攻撃に利用可能」と、北朝鮮の脅威を強調するものとなっている。

一方、北朝鮮の対応はどうか。4月14日に国防委員会が声明を発表している。『無人機事件の“北素行説”は天安艦事件の複写版』と題したこの声明で、北朝鮮は一切の関与を否定し南北軍当局の合同調査を提案している。確かに、今回の無人機事態の経緯を見ると、2010年3月に発生した韓国哨戒艦「天安艦」沈没と類似点が少なくない。

類似点を列挙すると、①発生時期(6月初の地方自治体選挙を前にした3月末)、②当局発表内容の変貌(北の関与を疑問視⇒北の犯行と断定)、③調査結果をめぐる対立(北の関与否定と合同調査要求、南の拒否)、④韓国内部の葛藤と政府の強硬姿勢(調査内容への不信を表明する市民団体、政府の弾圧、対北制裁措置による南北関係の悪化)、などである。

長期間の分断により、南北間(政府・民間を問わず)には深刻な相互不信と敵意が根付くようになった。また、韓国の世論は政府の強硬な対北政策に影響されがちだ。李明博政権以降、現政権の下でも南北の民間交流は極度に制約されており、金大中・盧武鉉政権のような往来を通じた相互理解の深まりは期待できない。最近の世論調査結果から20代の対北認識を見ると、26.6%が「隣人」、27.6%が「敵」、14.1%が「同じ民族」との解答だった。北を敵視する比率は、20代がどの世代よりも高かったという(4月8日付『プレシアン』)。

今回の無人機騒動でも、新聞社やテレビ局には「北の無人機は本当に脅威なのか?」と、問い合わせの電話が殺到したそうだ。しかし、これは些か的外れの質問だろう。北を「敵」と規定する南の国家保安法体系では、無人機だけでなく、北に存在するすべてのもの(領土、資源、人口...)が「脅威」であるしかないからだ。だから、冷静に「核兵器や弾道ミサイルなど、既存のものに比べてどれぐらいの脅威なのか?」を問うべきである。

では、今回発見された無人機の性能を基に、その“脅威の実態”を探ってみよう。先ず、航行距離である。無人機は全長1.22m、両翼幅1.93m、重量15kgで、機体下部に撮影カメラが装着されている。韓国国防部は無人機の航続距離を180km~300kmと発表したが、“脅威の増長”というプレッシャーのためか、やや誇張が過ぎたようだ。

韓国の最先端無人機(韓国航空宇宙産業株式会社の製品)ですら、飛行半径が80kmである。また、韓国陸軍に配備されている無人機「ソンゴルメ」は、全長5m、幅6.5m、時速150kmで作戦半径が100kmだ。これに比べはるかに小型で性能の劣るエンジンを搭載するしかない無人機が、300kmを航行するというのだ。航空部門の専門家ではない筆者にとって、解明できない疑問である。

次に、搭載カメラの性能に関して。撮影された写真を分析した結果、その解像度は私達がインターネットで検索できるグーグル・アースの解像度にも及ばないレベルだという。偵察目的の無人機と見るには無理があるようだ。

最後に、兵器としての攻撃能力について。保守メディアは「高性能爆弾・生物化学兵器・小型核爆弾などを搭載すれば恐ろしい武器になる」と脅威を強調し、国民の恐怖心を刺激している。しかし、この種の無人機がカメラの代わりに搭載できるのは、2~3kgのTNT爆弾ぐらいだろう(4月8日、国防部報道官は軍事的な意味がないと言明)。ちなみに、弾道ミサイルに装着される爆弾は500kg~1000kgだ。

以上の比較分析から、無人機を“新たな脅威”と規定するには、かなりの論理的な飛躍が必要と言えるだろう。何よりも、今回の無人機騒動と公開された墜落機体の写真を見て、筆者が最初に抱いたのは、「なぜ3機とも無傷の状態なのか?」という素朴な疑問だった。

サイズから判断すると、無人機は巷で見る「ラジコン飛行機」に毛が生えた程度の大きさであろう。軍当局の発表では飛行高度が1.4kmだという。その高度から墜落した軽量の無人機が、いかに落下傘の開いた状態であったとしても、平地や山岳地帯に墜落して機体に全く損傷がなかったのだから、まさに奇跡である。専門家は、どのような好条件であっても軽量無人機は、墜落時にプロペラの損傷が避けられないという。ならば、考えられる結論は二つだ。北朝鮮の無人機製造技術が我々の想像をはるかに超えるレベルであるか、もしくは、誰かが発見場所に無人機を安置したか、である。

「北の素行」を充分に立証できない状況であるが、無人機がもたらした心理的な側面に着目せざるを得ない。「北朝鮮=主敵」という既存の分断思考に、「無人機=新たな脅威」という恐怖の結合は、韓国民に国防態勢の強化を受容する絶大な心理効果をもたらした。国防部は今後、軍事境界線付近に低空レーダー網の整備を図るという。

分断の軍事対峙は時として、笑止千万な愚行を正当化する。3月31日、朝鮮半島の西海島嶼で展開された南北海軍の砲撃演習は、三国志の「赤壁の戦い」を想起させるものだった。映画「レッドクリフ」に描かれたように、弓矢の不足から劣勢だった蜀・呉軍は諸葛孔明の誘引策で囮の船を浮かせ、曹操の魏軍に大量の弓矢を発射させる。結果として魏軍は弓矢を消耗し、蜀・呉軍はその弓矢を再利用した。

2010年11月23日、北からの延坪島砲撃を受けた韓国軍には、それ以後、3倍の砲弾で報復せよとの命令が下されている。半沢直樹も真っ青な「3倍返し」である。3月31日、北から100発の砲弾が南側に発射された。南から300発が応射されたのは言うまでもない。南の砲弾は価格において、北よりもかなりの高額であるという(4月7日付『統一ニュース』のコラム)。

無人機の侵入を探知するために韓国軍が低空レーダー網を整備するには、膨大な予算が必要となる。4月8日付『オーマイニュース』によれば、その規模は最少でも約2000億ウォンに達するという。一方、「北の素行」と推測される無人機は1機当たりの価格が、せいぜい1000万ウォンである。3千万ウォン足らずの費用で相手をパニックに陥れ、2千億ウォンもの国防出費をさせるなら、極めて効率的な「非対称戦略」であろう。しかし、こうした事態が民族分断の嘆かわしい所産であることは、再論するまでもないだろう。

南北の政府当局に課された歴史的使命は、民族内部の不毛な消耗戦を中断し、平和共存に向けた対話と交渉を速やかに再開することである。北の合同調査要求を南は頑なに拒否しているが、再考すべきだと思う。合同調査が難航を極め双方が納得する結論には至らないだろうが、南北の軍当局が対座し、合同で無人機の調査を進めるだけでも意味があることだ。現在の緊張を緩和する何らかの契機になるかもしれないからだ。韓国国防部は朝鮮国防委員会の提案を拒否し、米軍との合同調査で「北の素行」を立証するという。4年前、天安艦沈没と同様の手順である。

当時、米韓合同調査が出したのは「北の魚雷による爆沈」という結論だった。直後に韓国政府は「5.24対北制裁措置」を発表し、南北関係を断絶した。日本の鳩山政権も「北の脅威」に対処する日米同盟の強化を掲げ、普天間基地の県内移設へと後退する。そして六カ国協議の再開を準備していた米朝対話も中断され、東北アジアの情勢は一挙に緊迫していったのだ。一連の展開を再現するとしたら、どの国も歴史の厳しい審判を免れないだろう。

「転禍為福(災い転じて福となす)」のためには、南北の当局が高位レベルの軍事会談を開くしかない。相手を刺激する軍事演習や挑発行為の中止に向け、真摯な交渉を開始することだ。2014年、韓国社会におけるキーワードの一つが「テバク(大当たり、大ヒット)」だ。年初の会見で朴槿恵大統領が発した「統一はテバク」というメッセージは、具体的な政策提案ではなかったが、韓国民に南北統一の意義を再認識させる契機となった。
 
無人機に関する南北の合同調査が実現し、それが関係改善への契機になるのなら、騒動の元になった無人機こそ紛れもない「テバク」だ。平和への第一歩が3千万ウォン。決して高い買い物ではないのだが...。(JHK)

朝鮮半島の軍事情勢(1)-韓国の弾道ミサイル発射

2014年04月08日 | 三千里コラム

韓国の弾道ミサイル発射(写真は2012年4月の実験)



朝鮮半島が‘きな臭い’。聞こえてくるのは軍事関連のニュースばかりだ。最大規模の軍事演習、ミサイル発射、無人飛行機、新たな核実験予告...。

北朝鮮の国防科学院は4月7日、報道官声明を発表して、米韓両国にこれ以上の軍事挑発行為を中断せよと警告した。声明は特に、米韓合同軍事演習の最中に敢行された韓国政府のミサイル発射実験を厳しく糾弾している。

南北が高位級の実務協議で、△離散家族の再会事業実施、△相互誹謗の中止、△高位級会談の随時開催など、関係改善に向けた合意を交わしたのは2月14日の事だった。なぜ、2ヶ月も経たないうちに状況がこれほどまでに悪化したのだろうか。昨今の朝鮮半島に関連したニュースから、韓国の弾道ミサイル発射を中心に筆者の見解を提示してみたい。(JHK)

まず、南北関係悪化の原因を探るためにも、その間の主要な動きを整理してみよう。

△2.24~米韓合同軍事演習(2014)開始。4月末まで実施の予定。
△2.27、北朝鮮、短距離弾道ミサイル(射程距離220㎞)4発を発射。
△3.3、北朝鮮、短距離弾道ミサイル(射程距離500㎞)2発を発射。韓国国防部、「予告なしに発射されたミサイルは重大な挑発行為。安保理への制裁提議を考慮中」と非難。
△3.24、朴槿恵大統領、核安保サミットで演説。北朝鮮に「核放棄の先行」を要求。
△3.26、北朝鮮、弾道ミサイル(射程距離650㎞)2発を発射。国連安保理が非公開協議で非難。
△3.27~4.7、米韓豪による連合軍事演習「双竜2014」。同演習は北朝鮮への上陸と平壌占拠を想定した攻撃訓練。チーム・スピリット米韓演習以降では最大規模。1万2500人の兵力とオスプレイ22機など、最新兵器を投入。
△4.4、韓国国防部、弾道ミサイル(射程距離500㎞)の発射実験に成功したと発表。発射は3.23に行われた。
△4.6、韓国内で3機目の小型無人機(墜落機体)が発見された。3.24と3.31にも韓国北部で発見されている。韓国政府は「北朝鮮」から離陸したものと発表。北朝鮮は「ばかげた策動」と関与を否定。

朝鮮半島の軍事緊張が絶えないのは、朝鮮戦争が終戦していない(停戦協定)という構造的要因によるものだ。加えて、北朝鮮を標的とする大規模な米韓軍事演習の恒例化は、北朝鮮指導部が核兵器・弾道ミサイルを開発する口実となっている。

東西冷戦の終息を迎えた90年代以降には、南北と朝米の間でいくつかの合意も交わされたが、根深い相互不信を解消するには至らなかった。その結果、合意内容を履行する過程で挫折をくり返しているのが現状だ。

今回も同様の展開を見せている。2月の南北対話で一定の前進があったものの、米韓合同軍事演習が開始されると、すべての合意は意味を失ってしまった。国際社会は、核兵器と弾道ミサイルを開発する「北朝鮮の脅威」を強調する。国連をはじめとする国際政治でのダブル・スタンダード(二重基準)は強固であり、米韓による「北朝鮮への脅威」が注目されることはない。

しかし、北朝鮮にのみ戦争危機の責任を転嫁したところで、朝鮮半島の軍事緊張が緩和されることはないだろう。平和共存に向けた相互信頼を構築するには、相手の要求を満たしながら真摯に対話と交渉を重ねるしかないからだ。そうした「易地思之」の観点からすれば、今回、韓国政府が敢行した弾道ミサイル発射は、その動機とタイミングにおいて少なからぬ懸念を抱かせるものだった。

国防科学研究所(ADD)が開発した弾道ミサイル(射程距離500余㎞)の発射実験は、3月23日に行われた。北朝鮮がノドン・ミサイルと推定される弾道ミサイルを発射したのは、その3日後である。ミサイル発射の相互応酬ともいえるが、韓国国防部は3月3日、北朝鮮の弾道ミサイル発射に対し「事前の航行警報なしで奇襲的におこなった異常な軍事行動であり、国際航行の秩序を破綻させ民間人の安全にも甚大な威嚇となる挑発行為」だと厳しく非難している。

ここで、韓国軍当局が新型弾道ミサイル発射に先立ち、航行警報などの事前予告をしたのかという疑問が発生する。実際は韓国軍も非公開で弾道ミサイルを発射し、数日後にようやく発射実験の成功を公開したのだ。米日など周辺国はもちろん、国連安保理も韓国の弾道ミサイル発射を糾弾しない。北朝鮮にとっては承服し難いルールであろう。

個人であれ国家であれ、不当で不公正な差別を容認することは屈辱でしかない。北朝鮮は国家の尊厳を守り国際政治の不道理に立ち向かうには「国力」を誇示するしかないと判断している。彼らの掲げる「国力」の核心は軍事力であり、その要は核兵器と弾道ミサイルの精度化であろう。

朝鮮半島の非核平和を願うものの一人として、核抑止力の保持と強化を“万能の宝剣”とする政策には、決して賛同することができない。だが、韓米日中露の東北アジア諸大国がはたして、北朝鮮に政策の変更を決断させる十分な努力をしたのだろうか。金正恩政権は核能力強化と「経済発展・人民生活向上」を同時に推進する路線だが、毎年の大規模な米韓軍事演習はその実行を極めて困難にしている。

米韓軍事演習のメッセージは平和共存ではなく、北朝鮮への武力制圧であるからだ。韓国政府は今回の新型弾道ミサイルを来年には実戦配置する計画だという。さらに、2017年には射程距離800kmの弾道ミサイルを配備するそうだ。軍当局は「これで韓国も、北朝鮮全域を打撃できる弾道ミサイルを保有することになった」と豪語している。

こうした刺激的な発言は事態を悪化させるだけだ。北朝鮮は先に紹介した4.7「国防科学院」声明で、「我々は米国の北侵核戦争策動への対処から多様なミサイルを開発しているが、一度たりとも、同族を標的にしたり南朝鮮全域を打撃すると公言したことはない」と反発した。

南北は「敵対的相互依存」の関係から、速やかに脱却すべきである。相手の脅威を口実にして自らの軍備拡張を正当化する状況は、朝鮮民族にとって百害無益であり、貴重な民族力量を消耗させる結果しかもたらさない。

現時点で重要なのは、いかにして危機状況を管理するかだ。これまでのパターンは、北の長距離弾道ミサイル(人工衛星)発射実験⇒国連安保理の制裁決議採択⇒それに抗議する北の核実験、という展開だ。今後、北朝鮮が「国連宇宙条約に基づく主権国家の正当な権利」として、追加的な衛星ロケットを発射するのかが、最大の争点となるだろう。

上記のパターンを再現して、第4回目の核実験が実施されることがあってはならない。その意味でも、軍事的な圧迫を優先させている韓国政府の対北政策は再考されるべきであろう。現政策では、北朝鮮の過剰行動を誘発する結果を招きかねないからだ。

大規模な軍事力を動員した武力示威ではなく、南北対話と6者会談の再開に向けた外交努力を勧告したい。金大中・盧武鉉政権と違い、保守層の圧倒的な支持基盤に立っている朴槿恵政権には、そうした和解政策を率先して実行するだけの十分な条件が備わっているはずだ。