NPO法人 三千里鐵道 

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倒行逆施

2013年12月25日 | 三千里コラム

スクラムを組んで警察の侵入に対抗する民主労総組合員(12.22)



12月19日は、朴槿恵大統領当選から一周年の日でした。国家情報院をはじめとする政府機関の選挙介入が明らかとなり、朴大統領に責任を問う声が拡がっています。「私が指示したのではないし、不法な世論操作のお陰で当選したわけでもない。私は自力で、国民の支持を得て大統領に選ばれたのだ!」と主張する朴槿恵氏の心情は、痛いほどわかります。

 しかし、情報機関の組織的な世論操作によって、有権者の投票が影響を受けたのは否定できない事実です。当落が逆転するほどの影響だったかは検証されていませんが、公正中立であるべき政府機関が不法な介入をしたのですから、明白な公職選挙法違反であり、その選挙結果は無効なのです。

 朴槿恵候補は昨年の大統領選挙戦で終始、優位を確保していました。野党に先んじて進歩的な公約を表明し、大々的なキャンペーンを展開したからです。特に内政問題で、「経済民主化と福祉の拡大」を中心テーマに設定したことは、一定の説得力を持ちました。財閥資本の専横と深刻な貧富格差に苦しむ韓国社会の現状を、正確に把握したスローガンだったのです。問題の核心は「当選後に、どのように政策として推進していくのか?」にありました。

 残念ながら、就任から10ヶ月が過ぎた今日に至るまで、公約のどれ一つとして履行されたものがありません。内政だけでなく、外交においても華麗なジェスチャーと構想はありましたが、内容は空虚なもので可視的な成果は何もないようです。非武装地帯に平和公園を建設、釜山からシベリアを経てヨーロッパに繫がる鉄道の連結、...。

 12月22日、『教授新聞』が今年の「四字成語」を発表しました。日本では今年の「漢字」ですが、韓国は「四字成語」を使用します。全国の大学教授622名を対象にしたアンケートの結果、今年は「倒行逆施」が一位に選ばれました。意味は「道理に逆らって行動する」といったところでしょうか...。推薦者の一人であるユク・ヨンス中央大学教授は、「朴槿恵政府が国民の期待に反して、歴史の歯車を後退させる政策や人事に固執している」と警告しています。また、カン・ジェギュ仁済大学教授も「経済民主化による福祉社会の具現を掲げて当選したのに、公約は破棄され、民主主義の後退、公安統治、貧富格差の深化が進んでいる」と述べています。

 「倒行逆施」が今年の四字成語に選択されたその日、政府は5500名の警察部隊を投入し民主労総(全国民主労働組合総連盟)の本部事務所を襲撃しました。民営化反対のストライキを闘う鉄道労組の委員長らを逮捕するためです。対話と交渉で解決するのではなく、暴力で争議を鎮圧するのが朴槿恵政権の“原則”なのでしょうか。「委員長と首席副委員長の逮捕には一階級昇進の褒章を出す」というニンジンまでぶら下げているのは、この政権の本質を端的に示しているようで怒りを禁じえません。

 当日、逮捕令状が発布された鉄道労組の幹部9名は事前に退避しましたが、弾圧に抗議する労働者と市民138名が連行されています。中でも、全教組(全国教職員労組)のキム・ジョンフン委員長には、特殊公務執行妨害の罪で警察が拘束礼状をソウル地裁に申請しました。全教組に対する非合法化を更に推進する構えのようです。民主労総は即刻、緊急中央執行委員会を開催し、朴槿恵政権に対する退陣闘争を決議しました。そして、12月28日からゼネストに突入し、市民・学生とともに大規模な時局集会を開催すると宣言しています。

 穏健派と言われている韓国労総も歩調を合わせる姿勢を見せており、23日には政府・企業との交渉窓口である「労・資・政」委員会には今後、参加しないとの意思を表明しました。政府に反対する団体や人士に「従北勢力」のレッテルを貼り攻撃してきましたが、労働運動との全面対決をも辞さない強硬な対応で、朴槿恵政権は一体、何を守ろうとするのでしょうか? 朴槿恵大統領、あなたはこのままで本当に「安寧なんですか!」。

 釈迦に説法かもしれませんが、次の文言を敢えて紹介します。
「大韓民国は民主共和国である。大韓民国の主権は国民にあり、すべての権力は国民より出る。」(韓国憲法第一条)。
韓国民主化運動の苦難の歴史を通じて証明されたのは、「国民に勝つ政府は存在しない」という不動の真理です。朴槿恵大統領の安寧を願っています。そして、血の粛清という恐怖政治が跋扈する北の同胞の安寧を、心より祈願します。(JHK)

全国の大学に広がる“アンニョン(安寧)ハシンミカ?”の問いかけ

2013年12月17日 | 南域内情勢

高麗大学の壁新聞(2013.12.10)


去る12月10日、高麗(コリョ)大学経営学科に在籍するチュ・ヒョヌ氏(27才)は、“皆さん、安寧(元気・平気:訳注)ですか?”という題名で始まる壁新聞一枚を学内に掲示した。チュ氏は本文で“一日のストライキで数千人の労働者が働き口を失った。鉄道民営化に反対しただけで、4213人が職位解除の処分を受けたのだ。朴槿恵大統領が自ら、国民の合意なしでは推進しないと約束した民営化なのに、それを反対したという理由で懲戒だなんて...労働法から「ストライキ権」がなくなるかも知れない”と嘆いた。

続けて彼は、国家機関の大統領選挙介入問題も指摘している。“不正選挙の疑惑は膨らむばかりだ。国家機関の選挙介入という未曾有の事態を前にして、大統領の弾劾訴追権を持つ国会の議員が、「辞退せよ」と言っただけで除名の圧力を受ける。今が果たして21世紀なのかわからなくなった”と皮肉った。

更にチュ氏は“「月収88万ウォン世代」の私たちは、IMF事態(1997年の通貨危機。IMFの管理下で大量解雇を断行:訳注)以後に両親が共働きで鍵っ子になることを、センター試験の度に少なからぬ学生が自殺する現実に沈黙することを、何事にも無関心になることを強要されてきた。私はただ、皆さんに尋ねたい。このままで安寧なんですか?別に不都合なくお住まいなんですか?他人事だと、見て見ぬふりをして平気なんですか?”と問いかけている。

二日後、壁新聞に共感する大字報が40余枚、同じ掲示板につけ加えられた。瞬く間に、反響は各大学に広がっている。延世大、成均館大、中央大、仁川大、釜山大...。

“安寧ですか?”と問いかける壁新聞に、すべての大字報は“安寧ではおれません!”と答えている。こうした熱気は、学生たちが政治・社会的な諸懸案を自らの問題と認識しており、抑圧される社会的弱者に対し強い連帯感を抱いていることを示すものだ。“安寧ではおれない”300余名の大学生が、鉄道労働者のストに参加したという。

そして16日午前7時半、大田市にある女子高校の1年生、イ・ミンジさんが校舎に壁新聞「いいえ、私は安寧ではありません!」を掲載した。彼女の聲を聞いて欲しい。

“高校生なので大学生の問いかけには答えられないだろう、と考えていた自分が恥ずかしくなりました。市民が不当に抑圧される現実に対し「安寧ではおれない」と言えなければ、社会に出てからも市民の権利を要求する資格はない、と思ったのです。残念ながら私は今、安寧ではありません。
 
病気の祖父母がお金がなくて病院にも行けないと思うと、安寧ではおれません。中学生の従弟が「慰安婦は強制ではない、自分の意志で日本軍に従って行ったんだ」と教えられるかと思うと、安寧ではおれません。毎週土曜日に市庁前広場で数万人がローソクデモををするのにテレビは報道しないので、安寧ではありません。数えきれない方たちの血で築いた民主主義がこんなにあっけなく崩れていくのを見ると、心が張り裂けそうで安寧ではありません。
 
私たちがみんな、「行動する良心」になることを願います。皆さんは、2013年に韓国民として安寧ですか?またもや弱者に刃を振るおうとする朴槿恵政府を前にして、皆さんは安寧なんですか?”

地の塩、世の光

2013年12月07日 | 三千里コラム

朴槿恵大統領の退陣を要求する市民デモ(2013.11.30,ソウル)



今から約2000年もの昔、パレスチナの地で活動していた青年イエスは弟子たちに「この地の塩、この世の光たれ」と教えます。ローマ帝国の植民地支配に加え、それと結託し民衆に君臨していたユダヤ宗教界の抑圧に対し、イエスは、真理を照らし不義に立ち向かう勇気と愛を説きました。

韓国の宗教界にも、その教えは受け継がれているようです。11月22日、全州市のカトリック『正義具現司祭団』がミサを奉献し、「不法選挙の糾弾、朴槿恵大統領の辞任」を掲げました。怒り心頭に発した大統領は25日の首席秘書官会議で、「混乱と分裂を引き起こす行動がやたら目につく。私と政府は、このような言動を決して容認したり黙過しないだろう」と威圧的な発言をしました。

朴槿恵大統領が「容認しない、黙過しない」と声を荒らげたのは、力づくで反対勢力を屈服させようとする権力の威嚇でしかありません。自身と異なる考えの相手に対し、対話によって相互の理解を深めようとする姿勢は皆無です。まさに、彼女が座右の銘とする「法と秩序」を連想させます。それはまた、反政府活動をことごとく厳罰に処した亡き父親、朴正熙元大統領の強権統治につながるものと憂慮します。

カトリック司祭たちの勇気ある行動は、決して孤立していません。11月27日にはプロテスタント教会の『国家情報院の選挙介入共同対策委』が記者会見を開き、「不正選挙で就任した大統領を、国民が選択した大統領と認めることはできない。退陣を要求する」との立場を表明しました。翌日には仏教会にも同様の動きが波及しています。

公正であるべき選挙に国家機関が介入し世論操作を組織的に行なったことは、明白な選挙法違反です。当該選挙は無効と言わざるを得ません。そして、この問題の真相解明に向けた捜査を現政権が稚拙な手段で妨害している現実に対し、市民は怒りに満ちて糾弾しているのです。もはや「私が指示したわけではない、私に責任はない」と回避できる状況ではありません。

そして12月6日、カトリック司教会議の『正義平和委員会』が談話文を発表しました。司教会議は、韓国カトリック教会を実質的に指導する公式機関です。『正義具現全国司祭団』を後見する立場にあるとも言えます。談話文の内容を要訳して紹介します。出展は12月6日付『オーマイニュース』、および7日付『ハンギョレ新聞』です。(JHK)
http://www.ohmynews.com/nws_web/view/at_pg.aspx?CNTN_CD=A0001934391
http://hani.co.kr/arti/society/society_general/614307.html?_fr=mt3


国家権力の不法な選挙介入は、人間の尊厳を損なうもの


韓国カトリック教会司教会議の『正義平和委員会』(委員長イ・ヨンフン司教)は6日、談話文を発表し国家情報院、国軍サイバー司令部など国家機関の不法な選挙介入を厳しく批判した。

『正義平和委員会』は、“神の住みかは人々の中にある”というヨハネの黙示録21章3節で始まる談話文で、「議論になっている国家権力の不法選挙介入とこれを隠蔽・縮小しようとする企図は、人間の尊厳と社会的、政治的権利を歪曲し損傷する行為だ」と規定した。

『正義平和委員会』の談話は、去る4日、『正義具現全国司祭団』が発表した朴槿恵大統領の退陣要求を後押しするものと解釈される。この日の談話文は、来る8日の「第32回人権の日」と、8日から14日まで続く「第3回社会教理週間」を迎えて発表したものだ。

-権力が法律を越えるならば、人権と自由に対する侵害だ-

談話文は国家権力による不法選挙介入への批判に続き、「密陽(ミリャン)地域での送電塔の建設強行、労働者に対する弾圧、済州島江汀(カンジョン)村の海軍基地建設強行など、公権力の過度で不当な行動もまた、極めて憂慮される事態だ」と主張した。

さらに『正義平和委員会』は、「国際連合の世界人権宣言が規定する社会的・政治的権利が意味する核心は、市民の自由と、これを保障するための国家権力に対する制限」と述べている。そして「特に情報機関と警察、軍隊など国家の権力機構を市民的統制の下に置くことが、民主主義の根幹であり本質だ」と強調した。また「国家権力が法律と社会的合意で定めた限界を越えるならば、権力はそれ自体が不法であり、市民の基本的な人権と自由に対する侵害者に他ならない」と付け加えた。

また、『正義平和委員会』は「わが国は世界経済10位圏に入る経済大国であるが、経済協力開発機構(OECD)会員国のうち、最も甚だしい所得不平等と貧富格差を見せている」と指摘し、「このような現実は、公正な競争の不在と富の独占によるものだ。財貨が不足しているというよりは、公正かつ人道的な分配体系を備えていないためである」と明らかにした。

そして「一緒の作業場で同じ労働をする人間が、正規職と非正規職に分けられ差別される労働者の現状は、社会的な統合を妨げる最大の障害物である。信仰が異なる人々、言語と文化が違う外国人、さまざまな少数者に加えられる韓国社会の偏見と差別も、非常に深刻だ」と自省を訴えた。

最後に『正義平和委員会』は、「神がそうであったように私たちもまた、貧しい隣人たちと同行して連帯(マタイの福音25章)しながら、私たちの社会がより一層、人間の尊厳が保護され増進される社会に進むよう、共に努力しなければならない」と明らかにした。