NPO法人 三千里鐵道 

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朴槿恵大統領の「平和統一構想」

2014年03月31日 | 南北関係関連消息

ドレスデン工科大学で演説する朴槿恵大統領(2014.3.28)



ドイツを訪問していた朴槿恵大統領はドレスデン工科大学での演説を通じて、北朝鮮に核を放棄し住民の生活向上に向け努力すべきだと主張した。離散家族の面会事業をはじめとする人道的問題と、南北の経済協力などを北朝鮮に提案したのだが、その前提は北朝鮮の非核化であるという点を再度強調したと言えるだろう。

朴大統領は3月28日(現地時間)、同大学で政治法律分野の名誉博士学位を授与された。記念演説で朴大統領は、「人道的支援と南北経済協力が一日も早く実現するよう、北朝鮮は非核化の道に進まなければならない。北朝鮮が核放棄への決断をするならば、これに相応して北朝鮮に必要な国際金融機構への加入、および国際投資の誘致を積極的に支援する」と明らかにした。

朴大統領は北朝鮮に対し、△離散家族面会事業の定例化を含んだ人道問題の解決、△南北共同繁栄のための民生インフラ構築と経済協力の強化、△南北の民族的な一体性回復に向けた交流の活性化、などを提案した。

人道問題に関しては「国連と協力して、北朝鮮の妊婦と2才までの乳幼児に栄養と保健を支援する“母子パッケージ事業”を実施する」との意志を表明した。

また、民生インフラの構築と関連して「北朝鮮地域に農業・畜産・山林を同時に開発する“複合農村団地’”を造成する。そのために南北が力を合わせなければならない」と述べ、農業への支援を提案した。

そして経済協力については「現在、北朝鮮とロシアで推進中の羅津-ハッサン(ロシア領)間の物流センター事業と共に、新義州などを中心に南北と中国の協力事業を推進する」との計画を明らかにした。

さらに、南北の民族的な一体性回復のために「政治目的の事業やイベントよりは、民間次元での出会いを着実に拡大させる歴史研究、文化芸術やスポーツ交流などを奨励していく」と述べ、その実現に向け、相互に「南北交流協力事務所」を設置するよう提案した。

だが、朴大統領の提案が北朝鮮の非核化を前提としている点を考慮するなら、現段階で南北の協議を経て具体的な実現に向かうとは思えない。ソウル大学・統一平和研究員のチャン・ヨンソク専任研究員は、朴大統領の提案に対し「新しいメッセージというよりも、これまでの提案内容をもう一度喚起し、北朝鮮に非核化を強く促したもの」と冷静に評価した。

一方、韓国の市民運動団体『参与連帯』は翌29日に声明を発表し、朴大統領の提案が抱える問題点を次のように指摘している。

「最大の問題点は、現在の南北交流協力における重大な制度的障害物である5.24措置(2010年に李明博政権が採択した包括的対北制裁:訳注)に対し、何らの対策も提示されていないことだ。朴槿恵政府は去年、5.24措置を根拠に民間次元の人道的支援活動を制限した。その結果、民間の対北支援規模が2012年対比で3分の1水準に減少した。民間の人道支援と交流協力を許容する具体的な実行計画なしでは、今回の対北提案も空虚な話に終わるだろう。」

参与連帯はまた、「北朝鮮に核放棄を勧告しているが、不安定な停戦体制の解消と朝鮮半島の平和体制に関しては論議すら回避している」と指摘した。「核放棄を経済支援によって引き出す観点と処理方式は、李明博政府が採択しすでに失敗したことが証明された。前提条件なしで6者会談を再開し、朝鮮半島の核脅威を根源的に解消する方案に関する実質的な議論を始めるべきだ」と強調している。

声明はさらに「今回の演説で朴大統領は、ドイツ統一が歴史的な必然だったと言及しただけで、朝鮮半島統一の実質的なプロセスを提示しなかった。“吸収統一”を目論んでいるとの誤解を招きかねない。7.4共同声明、南北基本合意書、6.15共同宣言、10.4首脳宣言など、南北当局間の既存合意を尊重するとの意志を公開的に表現しないのは、大統領の“平和統一構想”の未来に暗影を投じる要因になるだろう」と憂慮した。

参与連帯の声明はその結びで、「統一問題には北朝鮮という相手と、国民という主体がある。だからこそ統一問題を国内政治に利用しようとする誘惑を捨て、内では民主主義的な手続きを尊重しすべての国民が合意できる代案を用意しなければならない。そして外では、北朝鮮との信頼関係を回復して対話の接点を形成できる実質的な措置を用意しなければならない」と促した。

最後に、3月29日付『ハンギョレ新聞』の社説から、その一部を引用する。

「今回の提案の最も大きな問題点は、北側の要求を考慮しない一方的な内容という点だ。 北側が切実に望むことが何かを考えずに、南側の要求内容だけを羅列したのだ。その結果、現時点で北側が最も必要とする肥料やコメ支援などは抜け落ちた。

 5・24措置の緩和・解除などの大勢を捉えないで、細部事案のみを羅列しているのも限界だ。今回の提案内容はすべて、南北当局間の高位級会談などが正常化すれば議論できる内容だ。その上、今回の提案には政治・軍事分野が全く言及されておらず、現実性に欠けると言わざるをえない。

 現在、南北関係は統一という言葉を持ち出すことすら出来ない状態だ。離散家族の面会事業が再開はしたが、後続の議論は全くなされていない。韓-米軍事演習と北のミサイル発射などで緊張が続くなか、最近では南北の批難合戦も再開している。高位級会談を行うとの2月合意が面目を失うほどだ。今必要なのは朝鮮半島の状況を管理して交流協力を進展させる実質的な方案だ。政府は北朝鮮核問題を解決するための6者会談再開についても、消極的な態度で一貫している。

 今回の提案が南北関係の新しい突破口を開くうえで寄与するには、南北当局間で高位級会談が一日も早く再開されねばならない。“全く違う生活を送ってきた人々を開かれた心(開放的姿勢)で接し、彼らの話にじっと耳を傾けなければならない”というメルケル・ドイツ総理の言葉を、朴大統領が聞き流しにしないことを望む。」

韓米日の三国首脳会談と日本社会の人権意識

2014年03月23日 | 三千里コラム

三国会談に臨む韓米日の各首脳(2014.3.24)



朴槿恵大統領はきょう(23日)、オランダに向け出国した。24-25日に開催される核安保首脳会議に参加するためだ。24日は習近平中国主席と会談し、25日には韓米日の三国首脳会談が予定されている。

朴槿恵政権はその間、「慰安婦」問題など過去歴史の清算に否定的な日本政府の姿勢に変化がない限り、韓日首脳会談は考慮しないとの立場だった。だが、中国の台頭と北朝鮮の核開発問題などで東北アジア情勢が緊迫するなか、米政府は韓米日の三国協調システムの構築が喫緊の課題とくり返し表明してきた。

今回の三国首脳会談が、こうしたオバマ政権の仲介圧力によって浮上したことは言うまでもないだろう。よって、議題はあくまでも核兵器の拡散防止など安全保障問題が中心であり、韓日の争点である歴史問題ではない。安倍政権は「河野談話の見直しをしない」と表明し、朴政権はそれを「歓迎する」ことで、歴史問題が一時的に封印されただけである。

上述したように、米政府の関心は歴史問題ではない。この問題で韓日が不毛の対立を激化させ、中国・北朝鮮(そしてロシアも含め)に対する安保同盟の形成に支障を来たしてはならないとの圧力を行使しているのだ。3月4日、米上院外交委員会聴聞会に参席した政府官僚の発言が、それを明確に示唆している。

国務省東アジア太平洋地域担当のダニエル・ラッセル次官補は「米韓同盟と米日同盟、そして米日韓の三国協力の強化が、米国のアジア回帰戦略における核心」と述べ、「どの国も、歴史問題が原因で我々が安全な未来を建設することを妨害してはならない」と強調した。

さらに彼は、「現在の政策(日本が集団的自衛権を行使しない状況)では、北朝鮮が米国に弾道ミサイルを発射しても、日本は迎撃ミサイルを応射できない」と踏み込んだ発言をしている。MD(ミサイル防御システム)の効率的な構築には、日本の集団的自衛権行使が必須であると表明したわけだ。同聴聞会にはデビッド・へルビー国防総省東アジア副次官補も参席しており、「米日韓の三国安保協力は、北朝鮮の脅威に対処するうえで核心的な要素」と発言している。

朝鮮半島の緊張緩和と平和体制の構築に向け、韓国政府が米日との軍事同盟強化にのみ依存することは、決して賢明な外交とは言えまい。南北関係を改善し和解協力の流れを創出することで平和共存の基礎を築いた、金大中・盧武鉉政権期の統一外交政策から、貴重な教訓を得てほしいものだ。

ともあれ、朝鮮半島の南北と日本の各政府にとって、植民地支配の歴史精算はまだ終わっていない。22ヶ月ぶりという韓日両首脳の会談後に、その課題は再燃するだろう。以下の翻訳記事は、『ハンギョレ新聞』東京特派員の3月15日付コラムである。日本社会の現状を鋭く指摘した内容ではないだろうか。(JHK)



「日本人だけ入場可」と「朝鮮人を殺せ」の落差

振り返ってみると、恥ずかしい“判断ミス”だった。事の発端は3月11日付『朝日新聞』の報道だ。

新聞はこの日のスポーツ面(23面)で、埼玉を本拠地にするJリーグ・サッカーチーム「浦和レッズ」のサポーターが8日、球場の応援席出入口に「日本人だけが入場(Japanese Only)」という横断幕を掲げたことは「人種差別的な行動」だと報道した。「これがそんなに大きな問題なのだろうか」と、安易な判断でその記事を大して気にかけなかった。

しかし、予想外に日本社会の対応は機敏だった。主要なメディアで横断幕を批難する記事が相次ぐと、13日には「浦和レッズ」の社長が頭を下げて謝罪した。そしてJリーグは「浦和レッズ」に対し、23日のホーム競技を「無観客試合で開催せよ」との懲戒処分を下した。

Jリーグで「無観客競技」が行われるのは今回が初めてであるから、非常に重い懲戒であることに間違いない。日本社会の人権意識と市民社会の成熟した対応を示す、肯定的な事例だと思ったのだ。

だが、横断幕の言葉が「朝鮮人の出入り禁止」と記されていたなら、果たしてどうだっただろうか、という気がふとした。決して、余計な被害意識からの思い付きではない。すべての新聞が「浦和レッズ」を非難した14日、『東京新聞』はその第1面で、「朝鮮人を殺せ!」というヘイト・スピーチを主導する「在日特権を許さない市民の会(在特会)」の区民会館使用を、東京都豊島区が承認したと伝えている。

記事を読むと、「人種差別を助長する団体の会館使用を許容してはいけない」という意見もあったが、区では「集会の自由も重要だ」として最終的に許可を出したという。

「人種差別は犯罪であり、これを許容してはいけない」というJリーグの決定を歓迎する。 しかし、社会のもう一方では露骨な人種差別集会が許可されており、禁止すべきだという主張に対し「表現の自由」を突きつける。政府は更にその上を行き、朝鮮学校を高校無償化の対象から除外することで社会の差別意識を助長するだけでなく、機会さえ生ずれば、慰安婦問題と関連した国家の責任を否認しているのだ。

すべての差別は具体的なので、サッカー競技場で「差別が悪い」と語るだけではあまりにも不十分だ。その結果、東京の図書館で『アンネの日記』が毀損された事件に怒る社会が、もう一方では、慰安婦と南京大虐殺を否認する発言を容認するという矛盾が発生する。サッカー場の日本と在特会の日本。どちらが日本社会の本当の姿なのだろうか。どちらが、真の姿であるべきなのか。 東京/キル・ユンヒョン特派員。

訃報-李鳳朝(イ・ボンジョ)元統一部次官、他界

2014年03月16日 | 南域内情勢

李鳳朝・元統一部次官



悲しい知らせです。3月15日午後3時20分頃、李鳳朝(イ・ボンジョ)元統一部次官が肝臓がんで他界しました。三千里鐵道とは浅からぬ縁があり、林東源元長官らとともに何度も訪日されました。昨年の6.15南北共同宣言13周年記念行事にも、講師としてお招きしています。あまりの急逝に言葉もありません。まだ60才でした。三千里鐵道はここに、都相太理事長をはじめ各理事と全会員の名で、故人に心よりの哀悼をささげ冥福を祈ります。以下に、昨日付け『統一ニュ』の記事を要訳します。



昨年12月、肝臓癌の診断を受けて闘病中だった李鳳朝・元統一部次官が3月15日午後3時20分頃、ソウル市中渓洞(チュンゲドン)の自宅で死亡した。

故人は統一部の統一政策室室長を経てノ・ムヒョン政府で15代統一部次官(2004~2006)を務めた。最後の公職は統一研究院院長だった。

退職後は『興士団』の「島山統一研究所」所長をはじめとして、「韓半島平和フォーラム」理事など統一関連団体の活動に積極的だった。最近では、「新しい政治連合(仮称)」の創党準備委発起人に名を連ねもした。

故人をよく知るイ・ジョンソク元統一部長官は「健康を回復するだろうと信じていたのに、本当に残念だ。1月に見舞った時には、気候が和らげば療養院に行くと言っていた。こんなに早く逝くとは、とても信じられない」と哀悼した。

イ・ジョンソク元長官はまた、「私がNSCの事務次長だった時に、統一部政策室長の職にあった故人をNSC政策調整室長に迎え入れた。極めて有能だったし、面倒見がよくて申し分のない人格者だった」と回顧した。

ソウル市元公務員の“スパイ事件”-情報機関と検察の卑劣な捏造を糾弾する

2014年03月14日 | 三千里コラム

ソウル高等検察庁での参考人調査を終え、無罪を主張するユ・ウソン氏(2014.3.12)



韓国社会では今、ある“スパイ事件”の控訴審が進行中だ。当事者はユ・ウソン氏(34才)。
ソウル市の元契約職員で生活保護受給者の管理を担当していた。ところが2013年1月、彼は入居先のアパートから国家情報院に連行される。数日後には、「脱北者を偽装してソウルに潜入した北のスパイ、脱北者の個人情報を北朝鮮に提供」というセンセーショナルな報道が、韓国の新聞・テレビでくり返された。

彼は咸境北道会寧市で生まれ育った華僑である。曽祖父は漢族の独立運動家で、朝鮮人とともに日本帝国主義との抗争を闘った。祖父は子孫が中国ではなく朝鮮に定着することを望み、ユさんの一家は解放後、朝鮮半島北部に定住することになった。ユ・ウソン氏は2001年に咸境北道の鏡城医学専門学校を卒業し、会寧市のある病院で准医師(医師補助)として勤務した。

華僑の立場から中国を往来する機会に恵まれていた彼は北の体制に幻滅し、脱北を決意する。ただ、祖父の代から朝鮮半島で暮らしたユさんは、行き先として中国ではなく韓国を選択した。2004年3月、韓国に来た彼はさまざまな職種を体験しながら学費を蓄え、2007年に延世大学への入学を果たした。そして2011年6月には、ソウル市庁の福祉政策課に契約職公務員として採用されたのだ。

生活が安定したので彼は、妹を呼び寄せ一緒に暮らすことにした。韓国で脱北者は、極めて不安な立場に置かれている。ほとんどが定職に就けず、パートタイム労働者として最下層の収入で暮らすしかない。また、情報機関の管理下に置かれるため、日常的に機関員との接触を余儀なくされる。ユ・ウソン氏も妹の件で国家情報院の関係者と相談し、その人間から「妹の韓国定着に便宜を図ってあげる」と言われたそうだ。

しかし、ユ・ウソン氏が“スパイ事件”で起訴される決定的な証拠とされたのが、妹ユ・ガリョさんの陳述だった。2012年10月、兄の後を追って韓国に来た妹は、国家情報院の運営する訊問センターで数ヶ月間にわたる厳しい捜査を受けた。暴行と脅迫に耐え切れなかった妹は、捜査官の要求するまま“兄は北のスパイだ”と自白するしかなかった。

妹は法廷で、勇気をふりしぼり国家情報院での陳述を翻した。また、民弁(民主社会のための弁護士会)が中国で行った現地調査の結果、公訴状に記載されたユ・ウソン氏の“入北事実”は虚偽であることが明らかになった。

2013年8月22日、ソウル地裁はユさんに無罪を宣告したが、当然のように検察は控訴した。しかも、新たな証拠として同年11月1日、ユ・ウソン氏が中国と北朝鮮を往来した際の出入国記録をソウル高裁に提出したのだ。

検察が提出したのは、ユ・ウソン氏が2006年5月に中国から北朝鮮へ出国し、翌6月に中国へ戻ったという中国当局の書類3件だった。この期間に彼が、北朝鮮の対南工作機関に取り込まれたことを裏付けるためだった。だが、裁判所が在韓中国大使館に照会したところ、書類はすべて偽造だったことが判明した。

書類は、在瀋陽総領事館に勤務する“領事”(国家情報院が派遣した職員)が「朝鮮族の協力者」から入手した。ところが、協力者とされる男性が今月5日、「偽造書類だということを国情院も了解済みだった」という内容の遺書を書いて自殺未遂をしたことから、疑惑はさらに拡大している。世論の糾弾を受けた検察も7日になって、証拠偽造事件として本格的な捜査を始めると表明した。

かつて、1970年代から80年代にかけて量産された“在日韓国人スパイ事件”でも、在日韓国領事館が発効する「領事証明書」が、重要な証拠として採択された。拷問による自白以外これといった証拠がないので、窮地に陥った検察が苦肉の策として“領事”に協力を仰いだのだ。

法的には何らの証拠能力もない出先情報員の一方的な主張を、裁判官たちは神妙な面持ちで“有罪の証拠”と認定したのだから、まさに暗黒の時代だった。「領事証明書」の内容は概ね“被告の周辺人物は朝鮮総連の活動家であり、彼らと接触した被告は北のスパイだ”と決めつけるものだった。

21世紀に入り、民主化が一定の進展をみた韓国社会だが、相変わらず“スパイ造り”に励む情報機関と検察の横暴が続いている。絶対権力を背景にした彼らの卑劣で厚顔無恥な行為が、どこからも制約を受けず何らの処罰も受けないとしたら、民主共和国としての大韓民国は存立しないだろう。以下に紹介した3月12日『ハンギョレ新聞』の社説を参考にされたい。(JHK)



検察が生きる道は、国家情報院への徹底捜査だけだ。

検察が3月10日、国家情報院を電撃的に押収捜索した。国家情報院によるスパイ疑惑の証拠捏造事件を明らかにするためだ。中央情報部の時期からすれば50年の歴史をもつ国家の最高情報機関に対する、三回目の押収捜索だという。表面的には検察の捜査意志を評価できるかもしれないが、何とも苦々しい体たらくだ。

先月14日、ソウル市元公務員ユ・ウソン氏“スパイ事件”の証拠が捏造されたという疑惑が拡大すると、検察は「文書が偽造であるはずがない」として国家情報院を擁護した。二日後には記者会見まで開いて、偽造疑惑がふくらんだ文書3件は全部「中国政府の機関が発行したもの」と弁明した。

初期捜査において決定的に重要な1ヶ月を、無為に放置したわけだ。その後、パク・クネ大統領が3月10日「徹底した検察捜査と国家情報院の協力」を指示するに至ってようやく、押収捜索に着手したのだ。1ヶ月も時間を稼いだのに、証拠をそのまま保存している犯罪人がどこにいるだろうか。“後の祭り”にも程があろう。

国家情報院の提出した文書が偽造されたかもしれない、と疑うに足る契機が何回もあった。しかし検察は、裁判所に文書を伝達する配達人の役割だけを果たした。検察は昨年、国家情報院が文書を提出する前に、外交経路を通じて中国の機関に関連文書を要請したことがある。ところが、中国側から「発行の前例がない」という理由で拒絶された。

その二ヶ月後、国家情報院がまさにその“文書”を検察に提出したのだ。検察は、自分たちが正規の外交経路を通じても得られなかった中国の公文書を、国家情報院がどのように入手したのか確認すべきだったが、それをしなかった。

偽造されたことを知りながらも検察が捜査を進めたとすれば、国家情報院と共に証拠捏造の共同正犯になるか、少なくとも職務放棄に該当する。偽造されたことを知らなかったなら、検察は公安事件に関して、国家情報院に全面的に依存する「調書丸写し」の無能な機関であることを露呈したわけだ。

検察はすでに、国家情報院が犯した行為の後始末をするなかで、深い傷を負っている。国家情報院による大統領選挙介入事件を捜査し裁判を進める過程で、検察総長が追放され捜査チームは懲戒処分を受けた。検察は国家情報院の召使いではない。検察内部でも「これ以上、国家情報院の言いなりになってはいけない」という声が高い。国家情報院を引き続き擁護していたのでは、検察の存立そのものが難しくなるだろう。検察が生きる道は、徹底した捜査と真実の糾明だけだ。

自殺を試みた国家情報院協力者のキム氏は、国家情報院が組織的に管理してきた人物で、国家情報院の特殊活動費で雇用されたことは明らかだ。恐らく“上層部”が認知していたことは間違いあるまい。その上層部がどこまでなのか、糾明しなければならない。証拠捏造にかかわった対共捜査チームはもちろん、対共捜査を指揮する国家情報院の次長とナム・ジェジュン院長が文書偽造を知っていたのか、あるいは事後に報告を受けていなかったのか、明らかにしなければならない。

地方自治体選挙に向け、新党結成に合意

2014年03月02日 | 南域内情勢

新党結成に合意したアン・チョルス(左)とキム・ハンギル(右)



キム・ハンギル民主党代表とアン・チョルス「新しい政治連合」準備委の中央運営委員長が2日、新党の結成に合意したと宣言しました。与党同様、国民の信頼を失った保守野党勢力が、6月の地方自治選挙を控えて起死回生の策を講じたようです。果たして国民の支持を回復できるのか、慎重に見守る必要があります。以下は、同日付『ハンギョレ新聞』電子版の記事を要訳したものです。


 二人はこの日午前10時、国会で共同の緊急記者会見を行い、「政府と与党は大統領選挙時の不正行為に対する反省と謝罪をせずに、傲慢と独善にまみれている。地方自治選挙を控え、再び国民を欺瞞している現状を黙過できず、偽りの政治を審判して約束の政治を実践するために互いの力を合わせて新党を結成することにした」と表明した。

二人はまた「国民に約束した通り、今回の6・4地方選挙では基礎自治体選挙(中小規模の市・郡・区など227自治体。他にソウル市や釜山市などの大都市と各道など17の広域自治体がある:訳注)の政党公認をしないことに合意した」と付け加えた。

キム代表とアン委員長は「今日の明け方、最終的に新党結成による両党の統合に合意した。今後、協議を通じて新しい統合政党の党憲・党規などを作成することで持続的な改革を推進する」と説明した。

また、チェ・ジェチョン民主党戦略広報本部長はこの日、緊急記者会見が終わった直後に記者たちと歓談し「今朝9時に緊急最高委員会を開いて、基礎自治体選挙における政党公認の廃止と新党結成に関して全会一致で決議した。新党の結成方式などに対しては、早急に双方の代表者による結成準備チームを構成して議論する」と話した。ソン・ホチャン「新しい政治連合」対外委員長も新党の結成時期に関して、6・4地方自治体選挙前の結成を示唆した。

民主党と「新しい政治連合」の電撃的な新党結成宣言で、野党圏を中心に政界改編が現実化されることになった。6・4地方自治体選挙はこれまでの3者構図から、セヌリ党と統合新党の両者対決構図へと再編されることになる。

両者の電撃的な新党結成宣言に対して、与党セヌリ党は「低レベルな野合の政治シナリオ」と批判した。セヌリ党スポークスマンのパク・テチュル氏はこの日、『聯合ニュース』との電話インタビューで「自力更正が不可能な新生政党と、勢力拡大のためならば何でもする民主党との野合だ。既に予測していた低俗な政治シナリオ」と罵倒した。


*参考のために、当日の共同記者会見文を紹介します。

民主党キム・ハンギル代表と「新しい政治連合」アン・チョルス中央運営委員長は今回の地方選挙で、国民に約束した通り基礎自治選挙における政党公認をしないことに決定した。

政府と与党は、大統領選挙時の不正行為に対する反省と謝罪をせずに傲慢と独善にまみれており、地方自治体選挙を控え再び国民を欺瞞している。

政治が選挙勝利だけのために偽りの約束で運営されるならば、国民とのどんな約束も無意味であり、国民は政党とのいかなる約束も真に受け入れないだろう。政治的な欺瞞は国民の政治嫌悪をもたらし、民主主義そのものを脅かすことになる。

厳重な状況に直面しているが、「新しい政治」への試みは継続されねばならない。「新しい政治」は、国民との約束を守る「信頼」という資産を作るところから出発する。「新しい政治」は約束の実践なのだ!

ここに「新しい政治連合」アン・チョルス中央運営委員長と民主党キム・ハンギル代表は、偽りの政治を審判し約束の政治を実践するために、双方の力を合わせて新党を結成することとし、次の通り合意した。

1. 双方は、新しい政治のために新党結成による統合を速やかに推進して、これを基礎に2017年の政権交替を実現する。

1. 新党は、基礎自治体選挙における政党公認廃止の約束を履行して、韓国政治の慢性的弊害を打破するために政治改革を持続的に推進する。

1. 新党は、大統領選挙時の不法選挙介入などに対する真相究明を通じて、民主主義の再建に向け努力する。

1. 新党は、国民経済を構成するさまざまな主体が等しく成長して共生できるよう、経済民主化と福祉国家の実現に向け民生中心主義の路線を堅持する。

1. 新党は強固な安保体制に基づき、韓半島の平和を構築して統一を志向する。

2014年3月2日 民主党キム・ハンギル代表。「新しい政治連合」アン・チョルス中央運営委員長。