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韓国大統領選挙後の朝鮮半島

2017年05月15日 | 三千里コラム

文在寅候補の当選を祝うソウル市民(5.9.光化門広場)



❏ 市民集会がもたらした政権交代

 5月9日、韓国の第19代大統領選挙が実施され、「共に民主党」文在寅候補が41.1%の得票で当選した。過半数得票には至らなかったが、①次点の「自由韓国党」洪準杓候補とは557満票(87年以降で最大)の大差、②全国17の選挙区のうち大邱市と慶尚南・北道を除く14の地域で1位当選という二点から、有権者多数の支持を得た圧勝と評価できるだろう。保守政党の分裂があったとはいえ、金大中(39万票)・廬武鉉(57万票)の当選時とは比較にならない大差で当選したことは、文在寅政権に対する有権者の高い期待を示している。
 10年ぶりに民主政権への交代を可能にした要因は、言うまでもなく、昨年10月末からソウルを中心に全国的な規模で展開された市民集会である。民主労総や全農など、2,300を越える市民・社会団体による「朴槿恵政権退陣を求める国民行動」は、23回にわたる集会を毎週土曜日に開催した。そこには延べ1,700万人の市民が参加している。
 市民集会の要求は「朴槿恵の退陣・拘束」にとどまらない。長年に渡り韓国社会を蝕んできた「積弊」の清算と、不平等社会の根本的な変革を求めるものだった。政権、財閥資本、保守言論、検察・情報機関などが一体となって特権を謳歌する一方、大多数の市民は不安定な雇用状況と深刻な貧富格差に苦しんできた。広範な民意を結集した市民集会の威力こそが、躊躇する国会に「大統領弾劾訴追」を決議させ、優柔不断な憲法裁判所をして「大統領罷免」を決断させたのだ。5月9日付『ワシントン・ポスト』は、「韓国が世界に示した民主主義の実践」と題した記事で、今回の政権交代を「市民革命」と高く評価している。

❏ 政権交代の影響は?
 
 文在寅大統領は5月10日の就任演説で、朴槿恵・前政権を反面教師とする姿勢を強調した。国民を無視する権威主義的な大統領ではなく「国民と語り合う大統領」を目指すとし、政財癒着の根絶、検察の改革、情報機関の政治介入排除などを約束した。また、地域・階層・世代間の葛藤解消や非正規職問題の解決など、民生問題への早急な取り組みを宣言している。
 しかし、注目されるのはやはり、南北関係と外交政策に関する言及だろう。「必要な時はワシントンに直行する。北京・東京にも行くし、 状況が整えば平壌にも行く」という宣言は、「朝鮮半島の平和定着のためなら、私にできるあらゆることを厭わない」との決意があるからだろう。
 ただ、米政府の懸念と国内保守層の反発を意識してか、「韓米同盟のさらなる強化」が前提になっている。先に引用した『ワシントン・ポスト』の記事には「文大統領は北朝鮮との和解協力という伝統を引き継いでいる。北朝鮮との緊張を攻撃的に高めているトランプ政権とは相容れない姿勢だ」との厳しい評価がなされている。『読売新聞』に至っては、「文氏は親北・反日を貫くのか」と題した社説で、「南北関係改善を急ぐあまり、国際社会の対北朝鮮包囲網に穴を開けてはなるまい」と感情的な論調を展開している(5月10日付電子版)。
 米日両政府は「文大統領の就任を祝賀する」という外交辞令と同時に、不安の混じった警告を発しているのだ。韓国の政権交代、とりわけ南北関係の改善を志向する政権の登場は、必ずしも歓迎されないのだろう。

❏ 文在寅政権の課題と展望
 
 朝鮮半島の非核化と平和統一を中心に検討したい。参考になるのは、大統領選挙戦の最中(4月23日)に文在寅候補が発表した「朝鮮半島の非核平和構想」である。彼は金大中・盧武鉉政権期の太陽政策・抱擁政策を発展的に継承するとして、以下のように述べている。
 ①中国の役割ではなく、韓国の役割が重要である。中国を説得して六カ国協議を再開させ、米国を説得して米朝関係の改善を誘導し、北を説得して対話のテーブルに着かせる。②北の核放棄を先行条件とするのではなく、関連国すべてが同時行動の原則に依拠し、非核化と平和協定締結を包括的に推進すべきである。③南北首脳間の合意などは双方の国会批准を経て法制化する。開城工団の一方的な閉鎖など、政権交代による断絶を防止し永続性を保障したい。
 李明博・朴槿恵政権が破綻させた南北関係は、文在寅政権の下で徐々に改善へと向かうだろう。盧武鉉政権で要職に就き第二回南北首脳会談に深く関わった文大統領は、南北が民族経済共同体を構築し、経済協力と市場の統合を通じた均衡発展を目標に掲げている。ちなみに、第二回南北首脳会談の合意文書は『南北関係の発展と平和繁栄のための宣言』という副題がついている。
 多少の紆余曲折はあっても、閉鎖された開城工団は再稼働され、中断された金剛山の観光事業や離散家族の再会事業も復活するだろう。もちろん、国内保守層の反対は相当なものであり、楽観は許されない。また、対話と交渉を匂わせつつも対北制圧政策を撤回しない米日両政府は、軍事的な圧迫と経済封鎖を継続している。文政権との間で不協和音が発生ることは避けられまい。
 だが、さまざまな悪条件にも拘らず文在寅政権の登場は、膠着した朝鮮半島情勢を打開する重要な契機となるだろう。それを活かすも殺すも、南北政府当局の決断にかかっている。「隗より始めよ」ではないが、一切の前提条件をつけず、先ずは南北の当局間対話から始めてほしいものだ。(JHK)

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