NPO法人 三千里鐵道 

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韓国の国会議員総選挙-野党か勝利する道は?

2016年01月24日 | 三千里コラム

労働法の改悪阻止とゼネスト決起を訴え行進する民主労総(1.23,ソウル駅前)



4月13日、韓国では第20代国会議員総選挙が実施されます。1月22日の時点で各党の議席数は以下の通りです。与党「セヌリ党」157、「トブロ民主党(以下、民主党)」110,「正義党」5,「無所属」20。無所属のうち15人は、アン・チョルス氏をはじめ、民主党を離党し「国民の党」結成(2月2日に創立大会)を準備している議員たちです。

李明博・朴槿恵と保守政権が続くなか、韓国の民主主義は大きく後退しました。また、自殺率や老人の貧困率、最低賃金に満たない勤労者の比率などにおいて、韓国は「経済協力開発機構(OECD)」加盟国の中で第一位を占めています。青年失業率の高さや非正規職勤労者の比率も、世界のトップクラスです。金大中・盧武鉉政権期に導入された新自由主義の経済政策が、保守政権の下で更に深化したことで韓国は極端な格差社会となりました。昨年の統計によれば、上位1%の階層が国富の26%を占めています。上位10%に拡大すると、その占有率は66%になります。

4年前の総選挙と大統領選挙で、「経済の民主化」が最大の争点になったのは当然のことでした。富の公正な分配と福祉の拡大を要求する有権者に対し、最も熱弁をふるったのがセヌリ党と朴槿恵候補です。過ぐる4年の間、与党と大統領が掲げた「経済民主化」の公約は死文と化して久しく、もはや誰も省みようとはしません。ところが、政権交代を求める声はまだ、多数世論とはなっていないのです。『韓国ギャロップ』が1月22日に発表した世論調査結果によると、各政党別の支持率は「セヌリ党」38%、「民主党」19%、「国民の党」13%、「正義党」3%の順です(支持政党なし:26%)。一方、朴槿恵大統領への支持率は39%(先週に比べ4%の下落)、不支持率は49%となっています。

多数の市民は現政権に不満を抱いていますが、現存の諸野党に次期政権を託すだけの期待や希望を持てないようです。3野党が連帯し候補を一本化しても、ようやく与党に対抗できるレベルなのです。しかし、市民が切望する社会改革への展望を、どの政党もまだ、公約として提示していません。“新しい政治”を掲げて政界入りしたアン・チョルス氏は、イメージだけが先行しています。「民主党」を離党して結成する「国民の党」も“中道路線”を志向するそうですが、「改革なき中道」は「保守」の別称に過ぎません。世論調査の推移を見ると、「国民の党」に対する旗揚げ当初の期待値が徐々に下降しています。参考までに、昨年11月から12月にかけて開催された民衆決起大会に、アン・チョルス氏は一度も顔を見せていません。彼と行動を共にした議員たちも、殆どが“過激な行動”を批判する側に立っています。

1月19日、こうした現状を憂い、次期総選挙での勝利と民主主義の回復を目指す市民たちが声を上げました。野党勢力に連帯と団結を訴え、仮称「フォーラム、再び民主主義を!」の結成を呼びかける集会が開かれています。以下に、20日付『オーマイニュース』の記事を要訳します。(JHK)


「今回の総選挙は民主主義と傲慢な権力、経済正義と経済独占の戦いです。大韓民国の未来のために、平和統一と民主主義を渇望する国民が必ず勝利しなければなりません。それは野党勢力の連帯なしには不可能です」。1月19日午後2時、ソウル市中区のフランチェスコ教育会館で開催された「フォーラム、再び民主主義を!」の結成に向けた集いでの発言だ。

野党の分裂によって総選挙の惨敗が予想される状況で、かつて民主化運動に献身した各界の元老たちが再び集まった。宗教、文化芸術、言論、学者、農民、労働、女性、法曹、市民運動の各分野から、166人の人士が野党勢力の連帯による候補一本化を主張したのだ。

呼びかけ人の一人であるハン・ワンサン元副総理は、「韓国の民主主義が再び絶壁に立っている」と現政局を診断した。『茶山(タサン)研究所』(茶山は丁若の号:訳注)のパク・ソンム理事長も、「茶山先生は200年前に、悪政を行う統治者は民衆が起ち上がって権座から引きずり降ろさねばならないと教えた。専制君主の時代にはそうしたが、民主主義の社会では引きずり降ろす方法が選挙しかない。国民の力で総選挙に勝って、政権交代を実現しなければならない。こんな暴政の下で、どうして暮らせようか!」と発言した。

『全国挺身隊問題対策協議会』のキム・ソンシル代表は、「慰安婦問題の外交で惨憺な結果をもたらした朴槿恵政権を交代し、新しい社会を作らなければならない。そのためには国民の行動を促すしかない。国民の心に訴えて民主主義を回復しよう!」と強調した。

ハム・セウン神父は閉会辞で「民主化の元老、市民社会、野党などすべての人たちが結集し、野党候補を一本化して与党に対抗しよう。国民に希望を提示しよう!」と訴えた。ハム神父は、2月4日午前10時に国会憲政記念館で開かれるフォーラムの出帆式に、野党の各代表を招請する計画だと明らかにした。

また、人権運動家のパク・ネグン氏から「金大中・盧武鉉政権の失敗を克服し、新しい民主主義を志向すべきだ。過去への回帰を意味する‘再び民主主義を!’という名称は再検討すべきだ」との指摘があった。提案者の中からも「正しい指摘だ。現在の名称は仮称であり、名称の論議は常に開かれている。望ましい名称を考えて行こう」との意見が表明された。

以下の内容はフォーラム提案者の一人、『自由言論実践財団』キム・ジョンチョル理事長のインタビューである。

「韓国は今、総体的な絶望状態に陥っている。政治、経済、社会文化、言論など全てのものが崩壊している。大統領府が立法権を侵害し与党の院内代表を追い出す韓国は、民主国家でなく専制国家だ。正常な民主国家なら辞退したり弾劾されて当然の当事者(朴槿恵大統領)が、反省どころか長期政権を目論んでいる。来年の大統領選挙で政権交代を実現できなければ、日本の自民党のように守旧・保守勢力が国家を支配することになる。これが恐ろしい。」

-与党の長期執権体制を阻止するためにフォーラムを結成するのか?

「朴槿恵とセヌリ党の長期政権を防ぐためには、第2の民主化運動が必要だ。民主化運動の元老だけでなく、50代、40代、30代、そして20代の学生たちまで一つになって、野党が連帯するように圧迫しなければならない。政治の指向において差異があっても、アン・チョルス新党と正義党など野党勢力が連帯して、国民による公認と推薦を通じて野党候補を一本化し、セヌリ党と1対1で戦う総選挙構図を作るべきだ。全野党を網羅した「共同選挙対策委員長体制」を作って国民公認などができるように、私たちのフォーラムが影響力を発揮するようにしたい。」

-歴史の転換は青年たちが起ち上がってこそ可能だった。現在、大多数の青年は政治や現実問題から目を背けている。動力である青年の無関心が憂慮される。

「李明博・朴槿恵政権は、若者たちを政治や現実問題に無関心な世代に作り上げた。就職活動とアルバイトに没頭するしかないので、恋愛、結婚、出産、幸福な家庭など、人間らしい未来を放棄せねばならない世代が生み出されている。そうした自暴自棄の若者たちが憤っている。いつか若者たちは目覚め、起ち上がるだろう。若者の絶望が自身の能力不足が原因ではなく、悪しき政治がもたらしたものだと悟り団結するだろう。私たちの民族史をふり返ってみよう。東学農民革命と3・1独立運動、1960年の4月革命と80年の5月光州抗争、87年6月の民主化抗争など、民衆が起ち上がって歴史を変えた。私たちには民主化の潜在力がある。」

-権力による不正選挙にどう対処するのか。メディアの否定的な役割も憂慮される。

「李明博・朴槿恵政権は不正選挙を通じて登場した。来年の大統領選挙でも、不正が起きる可能性はある。野党の分裂と与党の圧勝、そして長期政権を主導するのは、李明博・朴槿恵政権が掌握した言論である。李明博・朴槿恵政府が掌握した言論と公営放送が野党の分裂を助長しており、国民は野党に対して冷笑的だ。進歩的な言論さえも、野党の分裂を興味本位に報道する場合がある。遺憾なことだ。自主的な言論と独立したメディアが、連帯を通じて洗脳された国民を目覚めさせ、保守的な言論に対抗しなければならない。これまでのどの選挙よりも、言論の役割が大きい。」

-野党の候補一本化は可能だろうか? 朴槿恵政権への、鉄壁とも言える支持率を越えることができるだろうか?

「野党勢力の連帯によって候補一本化に成功すれば、40%の支持率を回復することができるだろう。確かに、朴槿恵大統領とセヌリ党は40%台の“コンクリート支持率”を誇っている。だが、総選挙の勝利と政権交代へのカギは、中間地帯にいる20%台の主権者が握っている。アン・チョルス新党をはじめとする野党が連帯して候補一本化を成し遂げることで、民主主義と政権交代に対する確信を与えることができれば、中間地帯の主権者たちが移動するだろう。墜落した大韓民国を救い苦しむ国民を蘇生させたいのなら、野党候補の一本化を推進して国民に希望を与えねばならない。」

北朝鮮の核開発

2016年01月14日 | 三千里コラム

朝鮮半島上空を飛行する米軍のB-52戦略核爆撃機(1月10日)



北朝鮮の第4回核実験から一週間が経過した。日米韓の三国が中心となって、国際社会には「北朝鮮への懲罰と制裁強化」を求める声が喧しい。言うまでもなく三千里鐵道は、すべての国の核保有と核実験に反対する。

最も遅い核保有国となった北朝鮮に対しても然りであり、1945年から現在まで2055回の核実験を敢行した米・露・英・仏・中の5大国(国連安保理を牛耳る常任理事国)は、より厳しい批判と糾弾の対象だと考える。ところが、最近の世論をみると“これら諸国の核兵器は許容できるが、北朝鮮の核開発だけは容認できない脅威だ”と言わんばかりである。

衛星ロケットの発射実験と同じく、核開発もどの国が実行するかによって評価の基準が変わるようだ。北朝鮮と同様にNPT(核不拡散条約)に加盟せずに核実験をくり返したインドとパキスタンは、いつの間にか国連安保理でも制裁の対象ではなくなったようだ。なんとも理解に苦しむ二重基準(ダブル・スタンダード)である。

ともあれ、どうすれば北朝鮮が核開発を放棄し脅威の国でなくなるのか、この難問に取り組むことが喫緊の課題となっている。すべての回答は2005年9月に締結された第4回6カ国協議の共同合意文書にある。合意の核心は、①朝鮮半島の非核化と正常化(朝鮮戦争の平和協定と米朝・日朝の修好)の並行推進、②同時行動の原則(北朝鮮に核放棄の先行義務なし)である。

いつの間にか6カ国協議の合意は歪曲され、“北朝鮮が核放棄を先行させないので、あらゆる対話と交渉は無意味だ”との誤解が蔓延するようになった。北朝鮮が核実験をする度に国連安保理では制裁決議を採択した(1718号、1874号、2094号)が、全く効力を発揮しなかったし、北朝鮮の核開発能力を向上させただけだった。国連安保理ではなく、協議の場を速やかに北京での6カ国協議に戻すべきだろう。

朝鮮半島核問題の参考資料として、以下に二編の文章を要訳して紹介する(JHK)。
(1)1月7日付『プレシアン』チョン・ウクシク氏コラム「北朝鮮に核を放棄させる方法は…」。
(2)1月8日付中国『環球時報』社説(浅井基文WEBサイト「21世紀の日本と国際社会」1月9日付より引用)。


(1)北朝鮮に核を放棄させる方法は...

「核武装し、それを絶対に放棄しない」という金正恩の北朝鮮に、どう対処すればいいのだろうか? 北朝鮮の奇襲的な‘水素爆弾’実験を契機に、国際社会が再び切歯腐心している質問だ。

大まかな方向は予想通り出てきている。韓国とアメリカ政府は「相応する代価を支払わせる」ために、追加的な制裁と韓米連合戦力の強化を予告している。“後頭部を殴られた”中国も「国際社会に対する義務を果たす」とし、対北朝鮮制裁と圧迫に参加する意向を明らかにした。日本も自国の安保に「重大な威嚇であり決して容認できない」と勇ましい。国連安保理は「追加制裁を盛り込んだ新しい対北朝鮮決議案の採択」を推進するという。このように国際社会は、声を一つに北朝鮮の核実験を糾弾して「絶対に核保有国と認定できない」と念を押す。

このような反応は「金正恩の北朝鮮をこのまま放置してはならない」というものだ。だが、直視しなければならないことがある。まず、今回の主要国家と国連安保理の対応は、すでに数えきれないぐらい繰り返されてきたものだ。制裁の強度を高めれば、特に中国が積極的に参加すれば、今回は違う結果が出るとの期待が述べられているが、これも聞き飽きた言葉だ。状況は何も変わらなかったか、かえってさらに悪化した。

このような脈絡で見る時、制裁と圧迫、そして武力示威を中心とするアプローチは、失敗した政策の拡大再生産となる公算が大きい。“北朝鮮の息の根を止める”制裁など存在しない。また、米軍戦術核兵器の再配置や韓国独自の核武装は、可能ではないし妥当でもない。軍事境界線での対北放送再開も、乾燥した山にタバコの火を投げるようなものだ。

私たちが忘れてはいけないことがある。アメリカと中国など周辺国家は、北朝鮮の核開発状況を自分たちの戦略図で見ているという点だ。アメリカは北朝鮮の核開発をアジア再均衡戦略の滋養分としてきた。これを誰よりもよく知っている中国は、北朝鮮の核開発反対と北朝鮮の戦略的価値の間で、動的な均衡をとってきた。北朝鮮はこのようなスキ間を利用して、「両弾一星」(原子爆弾・水素爆弾と人工衛星の開発を目指した1960年代の中国安保政策:訳注)の敷居を越えようとする。これら三国が各々の戦略を持って動いているが、残念なことに、韓国の戦略は漂流を繰り返している。

それなら、どのように対処すればいいのだろうか? 本当に北朝鮮の核開発が韓国にとって「存在論的な脅威」なら、私たちはこれに相応しい非常な覚悟を持たなければならない。その覚悟とは、今まで一度も行ってみなかった道を選択するところにある。即ち、北朝鮮に核開発による安保でなく「他の手段による安保」を提示して一大交渉を追求することだ。

ここで「他の手段による安保」とは、停戦体制を平和体制に代替すること、北朝鮮と米国・日本の関係正常化、朝鮮半島の軍備統制と軍縮、韓国が吸収統一を追求しないという明確な意思表示と南北関係の発展を通した信頼構築、などを網羅するものだ。分かりきった話だと反問するかも知れない。しかし、韓米日の三国がこの道をまともに行ってみたことは一度もないのだ。

交渉の核心は、金正恩の戦略的判断に確実な影響力を行使できる所に合わさなければならない。今までは、苦痛の度合いを大きくして北朝鮮の屈服を誘導しようとする方式だった。これは失敗に終わった。これからは、アプローチの方法を換えなければならない。核放棄を考慮できるほどの利益を提示することが、まさにそれだ。これは決して経済的支援を意味しない。先ほど挙げた「他の手段による安保」が核心なのだ。また、これは北朝鮮にだけ良いことではなく、韓国をはじめとする関連国のすべてを利するものである。

それで、いくつかの提言をしたい。まず、今回の核実験がこれ以上の危機増幅に至らぬよう、断固としていながらも節制された姿勢が必要だ。強硬と強硬がぶつかり合う対決よりは、冷却期を持つべきだ。そして、8年間も中断している6カ国協議を前提条件なしに再開し、2005年の9.19共同声明合意にもかかわらず、一度も開かれていない南・北・米・中の4カ国平和フォーラムも始動しなければならない。


(2)1月8日付『環球時報』社説

朝鮮が水爆実験に成功したと発表したことは、国際社会に対して大きな挫折感を与えるものだった。安保理は速やかに声明を発表して朝鮮を非難した。遠からず新たな対朝鮮措置が作られることが予想される。

この時に及んで、アメリカ及び西側の一部世論は、中国をまな板に乗せ、朝鮮核問題における「中国責任論」を打ち出している。中国が対朝鮮制裁に参加していることを否定できないため、米欧の主要メディアは中国の対朝鮮制裁の力の入れ方が足りないと非難し、中国は朝鮮が全面的に混乱することによる影響を懸念するべきでないとしている。ということは、中国はすべての可能なことをやって、様々なリスクを一手に背負い込むべきだということに等しい。

朝鮮核問題の根っこは極めて複雑であり、朝鮮政権が国家の安全保障政策の方向性の選択を誤ったという問題もあるが、アメリカが朝鮮敵視政策を堅持しているという外部的要因もある。
朝鮮半島が今日もなお平和協定を締結できないことは、平壌をして深刻な安全保障上の焦りを生ませている。アメリカは、多くの責任を負担し、半島の緊張した情勢を緩和し、朝鮮が核を放棄することに積極的になるようにすることを考慮するべきだ。

 朝鮮の核問題は今、各国をがんじがらめにしており、朝鮮もそうである。朝鮮の核政策がさらに広汎な核拡散を刺激するならば、全世界が敗者となる。この歪んだ流れを打ち破ることは、いずれかの国が単独で促進することはできないのであって、各国が努力し、集団的な妥協を創造することが求められている。国際問題をそらんじているはずのアメリカの主要メディアが中国だけにこうしろああしろと教えを垂れるのは、朝鮮核問題に対するアメリカ全体の認識がでたらめであることを反映している。

 米韓日が積極的に条件をつくり出さず、北京が平壌に圧力をかけることだけでその核開発計画を放棄させることができると考えるのであれば、それは極めて幼稚な考えだ。アメリカのエリートたちは実はそう考えているのではなく、要するに責任を負いたくないだけで、ほかに方法もないために「中国責任論」を言っているのではないかとも疑いたくなる。

 中国は、米韓日がやるべきことを代わりにやることはできない。元はといえば、朝鮮と米韓日が敵対することによって核問題の出現を招いたのだ。中国は、中朝関係を敵対関係にすること、ひいては中朝敵対を地域情勢の最大の焦点とするようなことはできないし、するべきでもない。中国社会は、政府がそうすることを許すはずがない。

 中国は国連の対朝鮮制裁に参加し、安保理決議を真剣に履行した。その結果、中朝関係の雰囲気は過去のそれに遠く及ばないまでになっている。中国がさらに厳しく朝鮮を制裁するかどうかは、安保理での討議の結果を見る必要がある。

 我々は朝鮮の核保有には断固反対だが、半島の平和と安定にも関心がある。ある問題の解決に当たっては、他の問題がコントロール不能になるという代価をもたらすことはするべきでなく、中国のこのような総合的判断は中国の国家的利益に対する考慮から決定されるのであり、中国の対朝鮮政策は全体としての安定性を維持しなければならない。

 情勢が引き続き悪化すれば中国としては辛いが、中国がいちばん辛い当事者だと思うものがいるとすれば、それは間違いだ。したがって、中国に対してもっと多くを要求する前に、まずは彼らに先んじて行動を起こすことをお願いする。

「慰安婦」問題の最終的かつ不可逆的な解決?

2016年01月02日 | 三千里コラム

韓国内と世界各地に建立された「少女の像」



「解放と分断の70年」だった昨年は、年初から朝鮮半島に画期的な変化を願う声が充満していた。70年の歴史を振り返るとき、朝鮮民族は今もって植民地統治の苦痛を癒やされず、南北分断の対決意識に束縛されている現実を目の当たりにするからだろう。日本軍「慰安婦」問題の封印を強要され、南北関係も改善されなかった2015年は、植民地主義と分断イデオロギーの克服が、朝鮮民族にとって今後も切実な課題であることを痛感する一年だった。

12月28日、ソウルで日韓外相会談が開かれ、「慰安婦」問題の妥結を確認する協同記者会見が行われた。以下に、日本政府外務省の公表した岸田外相の発言を要約する。

(1)慰安婦問題は,当時の軍の関与の下に,多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題であり,日本政府は責任を痛感している。安倍首相は慰安婦として数多の苦痛を経験され,心身にわたり癒しがたい傷を負われた全ての方々に対し,心からおわびと反省の気持ちを表明する。

(2)日本政府は今般,日本政府の予算により,全ての元慰安婦の方々の心の傷を癒やす措置を講じる。韓国政府が元慰安婦の方々の支援を目的とした財団を設立し,これに日本政府の予算(約10億円)を一括で拠出し,日韓両政府が協力し,全ての元慰安婦の方々の名誉と尊厳の回復,心の傷の癒やしのための事業を行う。

(3)日本政府は今回の発表により,この問題が最終的かつ不可逆的に解決されることを確認する。あわせて,日本政府は韓国政府と共に,今後,国連等国際社会において,本問題について互いに非難・批判することは控える。

一方、尹炳世・韓国外相の発言は以下の通りである。

(1)韓国政府は,日本政府の表明と今回の発表に至るまでの取組を評価し,今回の発表により,日本政府と共に,この問題が最終的かつ不可逆的に解決されることを確認する。

(2)韓国政府は,日本政府が在韓国日本大使館前の少女像に対し,公館の安寧・威厳の維持の観点から懸念していることを認知し,韓国政府としても,可能な対応方向について関連団体との協議を行う等を通じて,適切に解決されるよう努力する。

(3)韓国政府は日本政府と共に,今後,国連等国際社会において,本問題について互いに非難・批判することは控える。

韓国政府は今回の妥結に関し、「朴槿恵大統領の大乗的な決断、韓日交渉は大団円」とのコメントを発表し、大統領の功績を称えることに終始した。アメリカ政府や国連も、いち早く歓迎の意を表明している。特に、韓国大統領の腰巾着と言われている潘基文・国連事務総長は、「朴槿恵大統領がビジョンを持って正しい勇断を下したことについて、歴史が高く評価すると思う」と、最大級の賛辞を送っている。

だが、こうした“肯定的”な評価は、被害当事者である元「慰安婦」女性たちの怒りの前には、あまりにも虚しいものだ。当事者が納得しない妥結は、決して“最終的かつ不可逆的な解決”ではないからだ。朴大統領が陣頭指揮した今回の交渉を見る限り、朴槿恵政権の対応は「独善・無能・傲慢・屈服・恥辱」と言わざるをえない。妥結内容の問題点を、以下に指摘する。

まず、日本軍「慰安婦」制度は、日本政府および軍によって組織的・体系的に行われた国家による戦争犯罪である。本質的に強制的な性奴隷制度であった事実を考慮するなら、典型的な「人道に反する罪」と言えよう。だからこそ国連人権委員会が1996年の報告書で、「慰安所の設置は国際法違反であり、日本政府は法的責任を負わねばならない」と勧告したのだ。

日本政府は一貫して、法的責任を負うことを拒否してきた。今回の発表文にある日本政府が痛感する「責任」も、これまで繰り返し表明してきた曖昧な「道義的責任」の域を超えるものではない。当日、岸田外相は共同記者会見直後に、「法的な立場に従来と何らの変更もない」と日本記者団に語っている。10億円の提供に関しても彼は、「賠償金ではない」と言明している。

法的責任を負うということは、戦争犯罪の事実を明確に認定し、必要な後続措置を取ることを意味する。即ち、徹底した真相究明と責任者に対する審判、事実に基づく国家次元での謝罪と賠償、関連資料の公開と教科書の記述などの再発防止策、などが義務として求められるのだ。厳格なようだが、これが国際人権の視点であり基準である。また、日本の政府と国民が拉致問題に関して、北朝鮮当局に要求している内容でもある。

次に、歴史問題の交渉で、「不可逆的(irreversible)」という単語の使用は極めて異例である。この単語は一般的に、非核化交渉など軍事問題で使用されるからだ。米国が北朝鮮に対し、一方的な核廃棄を強要する際に使用する「CVID(完全で検証可能かつ不可逆的な核廃棄)」が、まさにそれである。

対等な主権国家間の外交交渉では、決して登場しない用語である。1965年の日韓請求権協定にある「完全かつ最終的」に比べ、より拘束力のある表現と言えよう。「いかなる理由であれ、二度とこの問題を提起しない」という誓いに等しいからだ。だが、「不可逆的」という用語を、韓国政府が率先して提案したというのだから驚愕を禁じ得ない。

最大の問題点は、朴槿恵政権が交渉に際し、被害当事者の意見を全く聴取しておらず同意も得ていないという事実だ。元「慰安婦」女性たちが望む解決とは何か、その痛切な心情を多少なりとも理解しているとは思えない。

「私たちにはお金よりも、名誉の回復が必要なのだ」(イ・オクソン氏)。
「求めるのは補償ではなく賠償だ。政府は私たちのことを考えてないのだろう。こんな合意内容は全て無視する」(イ・ヨンス氏)。

こうした当事者の抗議に大統領は、「完全ではないが最善の合意だ。韓日関係の改善に向け、大乗的な見地からの理解」を求める談話を発表している。韓国政府の立場は、「正式な依頼も受けていない国選弁護人」に喩えることができるだろう。依頼人である被害当事者と相談もせずに独断で加害者と交渉し、屈辱的な条件で示談したあげく、「全て解決したので同意せよ」と言い張る無能な国選弁護人...。

この厚顔無恥な国選弁護人は、加害者への行き届いた配慮を忘れない。在韓日本大使館前の「少女像(平和の碑)」撤去に向け、“適切に解決されるよう努力する”そうだ。「少女像」は2011年12月14日、「慰安婦」問題の解決と平和を祈念する被害者たちや支援団体が、1000回目の水曜デモを期して設置したものだ。そもそも、韓国政府が移転を要求し介入する問題ではない。

日本の主要日刊紙によると、10億円の支出は「少女像」の撤去が条件だという。岸田外相は更に、「韓国政府が今後、慰安婦関連資料をユネスコの世界記録遺産には登録しないだろう」との見解を表明した。いかに米政府の圧力があったとはいえ、ここまで侮辱されても“最善の合意”と主張するのだろうか?

ちなみに、10億円はどれほどの金額なのだろう。比較のために、日本政府がアメリカから購入する「オスプレイV22B機」の価格を紹介しよう。2015年5月5日、米国防総省は垂直離着陸機「オスプレイV22B」17機とその関連装備を日本に売却する方針だと議会に通知した。価格は推定で総計30億ドル(約3600億円)。1機あたり211億円である。つまり、日本政府が支出する10億円は、オスプレイ1機の20分の1に満たない「はした金」なのだ。

「慰安婦」問題は果たして、“最終的かつ不可逆的に解決”されたのだろうか...。検証の基準は朴槿恵大統領が、この問題に関してくり返し強調してきた原則に依拠したい。「被害者が受け入れ、我が国民が納得できる解決策」(2015年10月30日、朝日新聞・毎日新聞に掲載された書面インタビュー)がそれである。大統領が自らこの原則を覆したのであれば、12月28日の妥結は無効である。(JHK)