NPO法人 三千里鐵道 

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セウォル号惨事の真相究明と朴槿恵大統領

2014年08月27日 | 三千里コラム
セウォル号惨事の特別法制定を求める国民大会(8.23,ソウル・光化門広場)


4月16日、セウォル号の惨事で修学旅行の高校生ら300余名の乗客・乗務員が犠牲となった。事故発生当初は、規制緩和に乗じた旅客船の無理な改造と過積載など、乗客の安全よりも利潤の追求に没頭した船舶会社の経営陣に非難が集中した。だが、船内に残った乗客を一人も救出できなかったことから、「緊急時に迅速な救助作業を実行しなかった重大な責任」を政府に問う声が、日増しに高まることとなった。

10名の遺体が発見されぬまま、惨事から4ヶ月が過ぎた今も真相究明は一向に進んでいない。調査委員会の権限を規定する特別法の制定をめぐり、与野党の間で合意に至らないからだ。徹底した真相究明と責任者の処罰、何よりも二度とこのような惨事が再発しないよう安全対策の完備を求める遺族は、調査委員会に全面的な捜査・起訴権限を付与すべきだと主張する。適切な措置を取らなかった大統領も、調査の対象から除外されてはならないというのだ。一方の与党は、調査委員会にそこまでの絶対権限を付与することはできないとする。

与党の消極的な姿勢は、聖域(大統領)への捜査を遮断するためであろう。事故当日、朴槿恵大統領には“空白の7時間”という疑惑が提起されている。当日午前9時19分頃、テレビのニュースで事故を知った大統領官邸は、キム・ジャンス国家安保室長が午前10時、大統領に書面で最初の報告をした。その後、大統領には18回にわたり電話や書類で事故の経緯を報告したというが、一度も対面(口頭)での詳細な報告はされていない。

最初の報告から7時間後の午後5時15分、朴槿恵大統領はようやく「中央災難安全対策本部」を訪問した。国家的な災難状況の報告を受けていながら、7時間にもわたって大統領が公式席上に姿を見せなかったわけだ。当然ながら、その間、一度も対策会議を主宰していない。10時15分と10時30分に、大統領からは簡単な指示が出されたというが...。

7時間にわたる大統領の沈黙が続くなか、300余名の命は徐々に、そして絶え間なく消えていった。彼女はその時間、どこで、何をしていたのだろうか?

8月3日付『産経新聞』のウエブサイトには、「朴槿恵大統領が旅客船沈没当日、行方不明に…誰と会っていた?」と題した加藤達也・支局長のコラムが掲載されている。筆者は大統領の私生活には関心がない。ましてや、日本の極右紙が臭わせるスキャンダルなど、全くもって興味すら覚えない。

大統領の側近たちは、彼女が当日、ずーっと官邸に居て執務中だったと証言している。だが、逐一の報告を受け事態を正確に把握していたはずの彼女が、午後5時15分に訪れた「中央災難安全対策本部」で放った第一声は、“学生たちは救命チョッキを着用しているのでしょう。なぜ、発見して救出できないの?”というものだった。

この、的外れも甚だしい発言から、大統領が事態の深刻さを全く理解していなかったことがわかる。十分な報告を受けていなかったか、あるいは、受ける状況ではなかったと考えるしかないだろう。

重要なのは、事故発生直後に、国政の最高責任者である大統領が“何処に居たのか”ではない。“どう対処したのか”なのだ。300余名の生死がかかった貴重な時間帯に、大統領がセウォル号の惨事を差し置いて処理した重大事項とは、何だったのか。そして、大統領府の官僚たちはどのような報告を上げ、それを受けた大統領がどのような指示を出したのか、全てを明らかにすべきであろう。国民は“空白の7時間”について知る権利があり、大統領には応える義務がある。

セウォル号の惨事で娘(ユミン)を失ったキム・ヨンオさんは、特別法制定と大統領への面会を求めて断食を続けている。ハンガー・ストライキが40日を越え、健康が極度に悪化したキムさんは8月22日、入院を余儀なくされた。この日、数十名の遺族がチョンウン洞の住民センター前に座り込んだ。この住民センターは、民間人が大統領官邸に接近できる最短距離に位置している。

遺族は“大統領に私たちの声が届く最も近い場所”を選んだのだろう。官邸まで450メートルの距離だ。しかし、朴槿恵大統領は聞く耳を持たず、多数の警官が遺族たちを包囲して賛同する市民たちの接近を遮断している。路上での「座り込み籠城」を抑えるために、ビニールやダンボールの搬入も制限しているそうだ。

この日、大統領は「特別法制定は国会で決めること」との言葉を残し、地方視察に出発した。行く先は釜山。民生の現場を把握するためとして、有名なジャガルチ市場も訪問している。以前(5月16日)、大統領官邸で遺族代表と面談した際には、「遺族の意を汲んだ真相究明に務める。特別検察と国政調査を実施すべきだ」と述べている。だが“空白の7時間”というアキレス腱を抱えた今、遺族との対面をことさらに回避しているようだ。

無情な大統領とは対照的に、特別法制定に向け遺族を支持する広範な市民・学生のデモが続いている。8月23日、「特別法の制定を求める国民大会-大統領官邸は応答せよ」が光化門広場で開催され、1500人の市民が参加した。25日には、ソウル大学・慶煕大学の学生ら400人がデモ行進し、籠城を続ける遺族を激励するため住民センター前に押し寄せた。「セウォル号惨事国民対策委」の発表によると、23日現在でキム・ヨンオさんを支援してハンストに合流した市民が2万名を越えたという。

「特別法制定は遺家族だけの要求ではありません。大学生をはじめ国民一般の要求なのです」。ソウル大学総学生会長イ・ギョンファン君の言葉を、朴槿恵大統領と政府・与党は胸に刻んでほしいものだ。(JHK)

69回目の光復節を迎えて

2014年08月15日 | 三千里コラム

「8.15自主統一大会」に参加したソウル市民。(8.14、汝矣島の川辺)



8月15日、69回目の光復節(日本帝国主義の植民地支配から解放された日)を迎えた。民族分断による南北の不信と対決が続いている現状では、真の「光復」も「解放」も実現しているとは言えまい。

韓国政府は8月11日、南北高位級会談の開催を提案した。しかし、開催日(8月19日)の前日から、北を威嚇する大規模な米韓軍事演習(UFG)が展開される。片手に武器を持ち、もう一方の手で握手をしようとしても、相手が応じるだろうか。

8月14日、北は「祖国平和統一委員会」の名で声明を発表し、南に関係改善の意思と現実的な対策を提示するよう促した。北の要求は、①UFG演習の中断、②「6.15宣言」など南北間の合意履行、③南北関係の悪化を招いた「5.24措置」(2010年)の撤回、などである。

南北双方が自らの正当性を主張し相手を批難するだけでは、関係改善は一向に進まないだろう。北の不満は十分に理解できるが、先ずは当局会談を開催し、対話と交渉を始めるべきだと思う。南北ともに、気に入る相手に出会うまで“お見合い”すらしないようでは、いつまで経っても分断民族の羞恥を免れまい。

8月14日の夜、ソウル市の汝矣島川辺で「8.15自主統一大会」が開かれた。開会辞で韓国進歩連帯共同代表のハン・チュンモク氏は、「光復70年、分断70年となる来年を、新たな平和体制を実現する年にしなければなりません。新しい南北協力の時代を切り開く年にしましょう!」と主張した。

三千余名の参加者は大会決議文を採択し、△朝鮮半島の平和と主権を脅かす日本の集団的自衛権行使・再武装の阻止、△朝鮮半島の緊張を高める戦争演習の中断、△南北の往来を妨げる「5.24措置」の撤回、など10項目の決議を表明している。(JHK)

*参考資料として、7月6日、名古屋で開催された「6.15宣言14周年記念集会」で行なった林東源・元統一部長官の基調講演要旨を紹介します。掲載が大幅に遅れたことをお詫びします(事務局)。



<東北アジア平和のための韓国の課題>   林東源

三千里鉄道が毎年開催してきた「6.15南北共同宣言記念討論会」を、今年もこの名古屋で開催することになり心よりお祝い申し上げます。なによりも、都相太理事長に感謝と敬意を表わすところです。また、三千里鉄道の会員の皆さん、この席に参加された貴賓の皆さんにも、感謝の挨拶を差し上げます。

そして本日、基調講演を担当してくださる元内閣官房長官・野中広務先生と、討論に参加される衆議院・近藤昭一議員に、また、司会を引き受けられた康宗憲・韓国問題研究所代表にも、感謝を申し上げます。

ご存知のように「NPO法人三千里鉄道」は、祖国の切断された鉄道(京義線と東海線)のDMZ区間における連結工事費を全額支援するなど、海外で朝鮮半島の平和と統一のために積極的に参加してきました。これに対し韓国民の感謝と敬意の表示として、4年前に都相太三千里鉄道理事長に「ハンギョレ統一文化賞」が授与されています。

-転換期の東北アジア-

今日、この「東北アジアの平和のための討論会」が時期的にとても絶妙だという気がします。先週(7月1日:訳注)、安倍内閣は憲法解釈の変更を通じて集団的自衛権行使を決定しました。これにより日本は、‘戦争をしない国、戦争に加担したり協力しない国’から、‘海外で武力を行使する国、戦争のできる国’になることにしました。

そうなると、日本と中国の関係は更に緊張して相互の民族主義的な感情は高揚するでしょうし、東北アジアの情勢不安と軍拡競争が加速化するものと憂慮されます。
 一方、7月3日には、日本に対する歴史・領土問題で共同歩調を摸索してきた中国の習近平国家主席が韓国を訪問し、共同声明には明示されませんでしたが、日本の右傾化に対する共同対処などを協議しました。

東北アジアは今、激動の時期をむかえています。去る30余年間に高度経済成長をしてきた中国が、アメリカと共に二大経済大国として浮上しています。中国のGDPが2020年頃には、アメリカを追い越すだろうと展望されています。経済力の強化は軍事力の増強を伴うことになり、中国の国際的影響力も拡大するでしょう。

その反面、アメリカが唯一の超大国として一方的に国際秩序を導いた時代は徐々に終わらんとしています。行き過ぎた軍事拡張によるアメリカ経済の衰退が、国力の相対的低下を招いたのです。だが、アメリカは今後も相当の期間、軍事・科学技術・文化分野において中国に対する相対的優位を維持することでしょう。

アメリカは2012年頃から、アメリカ経済の再建と世界的規模での覇権を再構築するために「アジアへの回帰」を宣言し、アジア・太平洋における再均衡(リ・バランス)戦略を推進し始めました。安全保障の側面では同盟強化を通じて中国が軍事的に膨脹する可能性を牽制し、経済的な側面では「環太平洋・経済パートナシップ協定(TPP)」を締結して中国の経済的影響力の拡張を遮断することで、アメリカの経済的利益を増大し覇権を維持しようとするのです。

このような再均衡戦略の中心には、核心的なパートナーである日本との同盟強化が位置しています。深刻な財政難に陥ったアメリカは、日本を前面に押し立て、中国の海洋進出を監視し牽制しようと思っています。それで、日本の軍備増強と集団的自衛権の行使を支持しているのです。

アメリカの再均衡戦略に後押しされた安倍首相と執権勢力は、平和憲法の改正を目指す一方で、去る60年間にわたり維持してきた専守防衛の原則を捨て、集団的自衛権の行使と再武装を推進しています。このような情況を背景に、安倍首相は「戦後レジームからの脱却」を主唱し靖国神社を参拝しました。そしてナショナリズムが極度に煽られ、歴史修正主義と領土紛争が激化しています。しかし、平和憲法改定に反対し平和を愛する日本国民とアジア諸国民の声が、ますます高まっています。

現状況における米・中の二大国構図を、冷戦の復活と見るのは正しくないでしょう。米・ソ冷戦は東西両陣営の間に「鉄のカーテン」を下ろし、経済的・文化的関係がすべて断絶された状況でイデオロギー対決と核兵器競争、および際限のない軍拡を特徴としていました。これとは違って米・中の戦略的関係は、経済・文化分野では平和的な競争と協力を維持しつつ、政治・軍事分野で互いに牽制し葛藤する様相を見せているのです。

中国は「新しい形態の大国関係」樹立を主張します。歴史的に見る時、既存の覇権強大国と浮上する新生強大国間には摩擦と衝突が生まれ、ついには戦争を招来したものです。中国が主張する「新しい形態の大国関係」とは、超大国アメリカと新生強国中国が互いに相手の核心的な利益を侵害することなく協力しながら、平和的に共同繁栄を追求する関係を発展させようというものです。過去の失敗を教訓とし、「ウィン・ウィンの新しいモデル」を作ろうとするのでしょう。中国はアメリカとの軍備競争と武力衝突、そして戦争を回避しようとしています。ただし、アメリカの軍事的な威脅に対応するのに必要な尖端武器の開発は推進する、という立場なのです。

ヘンリー・キッシンジャーは彼の著書『中国論(On China)』で、米・中関係が勝敗のゲームになってはいけないと警告しています。「アメリカと中国は、互いに相手によって支配されるにはあまりにも巨大で経済強国だ。どちらも、戦争や冷戦時代のような形態の紛争で勝利することはできない。...相互補完的な利益を追求し、共同の繁栄発展を目ざさなければならない。」として、“共進論(co-evolution)”を提唱しました。彼はアメリカの反中ブロック形成の企図は成しないと看破し、太平洋共同体の形成を主張しています。

協力的な米・中関係は東北アジアに祝福をもたらすでしょうが、対決的な米・中関係は災難でしかありません。‘米国と日本そして中国が互いに威脅となり対決が不可避だろう’と誇張してはならず、歪曲された判断による不信と葛藤によって不幸な事態を引き起こしてはなりません。このような事態を予防するためには、東北アジア地域において安保協力をもたらす平和共同体の形成が緊要だと考えます。

-転換期を迎える韓国の立場-

東北アジアの平和に向けた韓国の課題は何よりも、激動の時期に対処できる正しい立場と戦略を確立することです。韓国には二つの考え方があります。一つは、「歴史的に中国が強大になると、朝鮮半島の地政学的な位置によって威脅になる」という警戒論に基づき、今まで持続してきた韓米安保同盟を引き続き維持・強化しなければならないという立場です。 他の一つは、「誇張された中国威脅論に惑わされることなく中国の影響力拡大を現実として受け入れ、アメリカだけでなく中国とも良好な関係を維持すべきだ」という立場です。

昨年度の韓国と中国の貿易規模(2300億ドル、香港を含めると2700億ドル)が、韓国と米国・日本両国との貿易を合わせた規模(2000億ドル)よりも大きく、私たちの貿易赤字を埋めるのも対中国貿易黒字(600億ドル)です。韓・中貿易と経済協力は引き続き増加する趨勢にあり、中国はもはや韓国にとって分離できない最も重要な貿易パートナーなのです。それだけでなく中国の北朝鮮に対する影響力と、東北アジア地域において中国が占める安保側面での位相を考えるなら、中国との関係の重要性は今後も増大していくことでしょう。

二つの強大国の間で選択を強要される立場ですが、韓国はすでに‘韓米同盟を維持しつつ中国とは戦略的協力パートナー’という局面に入っています。二つの強大国の間で択一するのではなく、バランスを維持しようとするのです。つまり、韓米同盟が中国の威脅になってはいけないし、中国との協力関係がアメリカを排斥する結果になってもいけないという立場です。

また、韓国は安全保障面での自律性を増大させつつ均衡外交を展開し国益を増大させながら、一方ではアメリカと中国の葛藤解消にも寄与しようとするのです。これが朝鮮半島はもちろん、東北アジアの安定と平和につながる条件を造成するだろうと考えるわけです。

-朝鮮半島の平和体制構築-

東北アジアの平和に向けた韓国の最も重要な役割は、朝鮮半島の平和体制を構築することです。朝鮮半島の平和なくして、東北アジアに平和が訪れることはありません。

朝鮮戦争の砲声が止んで60年になります。しかし、今だに戦争が終結しない状態の軍事停戦体制下で敵対関係を維持しているのが、朝鮮半島の悲しい現実です。アメリカ、中国、日本、ロシアと朝鮮半島の南北が「9.19共同声明」(2005年)を通じて合意したように、関連当事国(アメリカ、中国、韓国、北朝鮮)の平和会談を開催して、軍事停戦体制を平和体制に転換していかなければなりません。

韓国が北朝鮮と力を合わせて4者平和会談の開催を推進し、主導していかなければならないのです。そのためには、行き詰まった南北関係から改善しなければなりません。南と北は「6.15共同宣言」の遵守・履行を確約し、交流・協力を活性化して相互の信頼を築くべきです。‘先・核解決、後・平和’ではなく、両者を並行して推進しなければならないでしょう。

4者平和会談は、朝鮮半島の平和を保障する実質的な措置を討議する場です。例えば、南北の対決関係と朝米の敵対関係を解消し、相互の関係正常化と非核化、政治・軍事的な信頼構築措置と軍縮、そして外国軍の駐屯問題解決などを推進する平和プロセスを通じて、冷戦構造を清算し朝鮮半島の平和体制を構築していくのです。

朝鮮半島問題が米・中の葛藤と紛争の口実にならないよう、軍事停戦体制を平和体制に転換する努力を急がねばなりません。朝鮮半島の平和体制構築への努力を通じて、東北アジア平和共同体の形成にも寄与できるでしょう。韓国は、東北アジアの安定と平和に実質的な寄与となる「地域平和共同体」の形成に率先して寄与すべきです。

アメリカと中国がともに韓国との協力強化を必要とする状況なので、韓国はアメリカと中国の間で架橋としての役割を遂行できるでしょう。まず、韓・米・日3カ国の北朝鮮との関係改善が緊要です。このような意味で最近の、日本と北朝鮮の関係改善に向けた努力を評価します。良い結実を結ぶことになるよう期待しています。

-東北アジア3カ国の協力-

韓・中・日の3国は歴史的にも地理的にも極めて密接であり、必然的に親しく交わるしかない関係です。東北アジアは力動的な経済圏として登場しており、世界経済の成長を牽引する主役として、共同繁栄を先導するチャンスを迎えています。3国が葛藤と対立ではなく、協力を通じて共同の繁栄と発展を指向していくべきです。韓国は日・中の間で促進者の役割を担当しなければならないでしょう。

韓・中・日の3国はすでに定例化している「3国首脳会談」を効率的に運営し、2011年秋、その傘下としてソウルに設置した3国協力事務局を活性化することで、共同の関心事項を協議し解決することができるでしょう。3国は経済分野での協力関係を強化し、民間交流と文化交流を増進することで、歴史・領土問題、域内安保および外交問題などを対話と交渉を通じて克服していかなければなりません。まず、韓日関係から速やかに回復することが緊要です。

韓国と日本はアメリカの同盟国ですが、米・中関係を安定させる方向で寄与することが、関係国すべての利益になるでしょう。韓国と日本は力を合わせて、政治的には米・中の間で架橋の役割を遂行する一方、経済的には東北アジア経済共同体の形成を主導し、更には東北アジアの安保協力に向けた平和共同体の形成をも先導しなければなりません。

最後に、日本の平和憲法第9条と関連して一言申し上げようと思います。植民地支配と侵略戦争を体験したアジアの人々にとって、平和憲法第9条は、過去歴史に対する反省と、過ちを繰り返さないとする戦後日本国民の真摯な決意として受け入れられてきました。その意味で第9条は、日本国民がアジア民衆の信頼と愛情を受けるための資産となっているのです。

しかし、第9条を変更しようとする動きに対してアジアの民衆は、地域の平和と安定に深刻な威脅になると憂慮しています。また、最近の事態によって、日本国民には自らの過去を正しく認識し、謙虚に反省する決断が不足しているのではないかと、疑念を抱くようになりました。

東北アジアの平和に向けた日本の役割は非常に重要です。日本はまず、平和憲法第9条を守ることによって自国の安保はもちろん、東北アジアの平和と安定にも寄与できるでしょう。平和を愛するアジアの民衆は、日本が‘平和主義を貫徹して国際社会に寄与する国’になることを、切に願っています。

私は、平和憲法第9条を守ろうとする道徳的勇気を持って闘争する、平和を愛する数多くの日本の民主市民に心からの敬意を表し、熱い激励の拍手を送リたいと思います。

ご清聴、ありがとうございました。(訳責:康宗憲)

南北関係の国際関係化?-北の仁川アジア大会参加を実現させよう!-

2014年08月06日 | 三千里コラム

統一旗を掲げ合同で入場行進する南北の選手団(2002.9.29、釜山アジア大会)



9月17日から10月4日まで、韓国の仁川市で第17回アジア大会が開かれます。南北間の政治・軍事的な対峙が続く朝鮮半島ですが、北が今大会への参加を表明しています。しかも、選手団350名・応援団350名、計700名の大規模な代表団を派遣するというのです。

2000年6月の南北首脳会談を契機に、南北のスポーツ交流が活性化しました。金大中・盧武鉉政権期には南での各種国際大会に北からの代表団が参加し、南の市民が「統一旗」を振って南北の選手を応援するなど、微笑ましい南北和解のシーンが見られたものです。北からは2002年の釜山アジア大会、2003年の大邱夏季ユニバーシアード大会、2005年の仁川アジア陸上競技大会などに参加しています。

ところが、「核放棄と開放」を経済協力の前提条件にした李明博政権の下で南北関係は悪化し、スポーツ交流も中断します。今月の18日は故・金大中大統領の5周忌ですが、当時、弔問に訪れた北の高位代表団に李明博大統領は会おうとしませんでした。なんとか大統領官邸で短時間の接見が実現したのは、8月23日のことです。“各国弔問団との接見に準じた対処”というのが、大統領報道官の説明でした。

「同じ民族というだけで南北を特殊な関係と見なす時代は終わった。国際関係の一般的な原則に基づき、国家間の関係に再設定することが南北関係の進化だ」というのが、李明博政権の視点でした。当初は、統一部を廃止し通商外交部に吸収させる構想もあったようです。しかし、こうした視点で南北関係を軽視した結果、前政権の対北政策には「失われた5年」との否定的な評価が下されています。

そして“南北関係の国際関係化”という目標を、朴槿恵政権も継承しています。政権出帆から一年半が経過しましたが、その間の南北対話と交渉において、これといった画期的な成果はありません。7月17日、板門店で北のアジア大会参加に関する南北実務交渉が開かれました。これまでの前例からして、交渉は順調に進むものと楽観されましたが、決裂したのです。

争点は、代表団の位置づけと処遇をめぐる対立でした。700名という史上最大規模の代表団派遣について「南北関係を改善し、相互不信を解消する重要な契機」との意義を付与する北は、板門店経由の陸路、西海直行の空路、万景峰92号による海路など、多様な移動手段を考えています。そして、前例に相応する南の協力と支援を期待しているでしょう。

一方の南は、大規模代表団による北の政治宣伝を警戒し、“適切な規模”の代表団を希望しています。そして、代表団の処遇に関して「国際慣例とアジアオリンピック評議会(OCA)の規定に従うことが望ましい」と表明しました。‘これまでのような便宜を提供せず、他の参加国と同様の処遇をする’との意思表示です。ここでも、“南北関係の国際関係化”が原則なようです。

“国際慣例とOCAの規定”によると、各選手は一日50ドルの選手村使用料を支払います。応援団は基本的に観光客と見なされ、すべて自費負担が原則です。ただし、特定国の経済的事情を考慮して、選手団50名までの滞在費は開催国が支援してきました(当該国の体面を重んじ、国名は公開しないのが慣例です)。

しかし、南北関係はこれまで、「国際慣例」ではなく「南北間の慣例」が重視されてきたのです。会談であれ行事であれ、主催側がすべての経費を負担するのが慣例でした。今回のアジア大会に際し朴槿恵政権は、“南北関係の国際関係化”を持ち出し‘すべての経費を自己負担せよ。嫌なら参加しなくても構わない’と、ほのめかしているのです。

相手の自尊心を踏みにじるような対応で、何を得ようとするのでしょうか。これまで、北が南に派遣した代表団で最大規模は、2002年・釜山アジア大会の650名です。多数の応援団(いわゆる美女応援団)が万景峰号で釜山に入港し、その船舶で宿泊しながら釜山市民と意義深い交流をしました。当時、韓国政府が支援した滞在費用は13億5500万ウォンです。今回、700名の代表団を受け入れても、その支援額は20億ウォン(約1億9800万円)に満たいないでしょう。

世界第12位の経済大国を自賛するには、いささか気恥ずかしい少額です。でも、もし北から700名の代表団が南に来れば、その経済効果はおそらく1000億ウォンを下らないことでしょう。そして、北の選手団と応援団の大多数は、未来を担う若い世代です。

民族の未来を切り開く南北の若い世代が一緒になって、平和と統一を歌い舞う場面を想像してみましょう。この素晴らしいマダンを創りだすのに、南の現政権はわずか20億ウォンを惜しむのでしょうか。1998年6月、500頭の牛を連れて故郷である北の地を訪れた、故鄭周永氏(現代グループ元会長)の民族愛と剛毅が懐かしいばかりです。

最後に、8月4日付『ハンギョレ新聞』に掲載された丁世鉉・元統一部長官のコラムから、その一節を引用したいと思います。(JHK)

「...現実の問題として、対北政策は北が拒否したら、推進することも成果を挙げることもできない。少なくとも北が拒否しないように持って行くことが、対北政策の必要十分条件なのだ。...一年半ほどやってみて成果がなかったのなら、方法を変えるべきだ。国際情勢を見ても、南北の協力が緊要な時点だ。朴槿恵大統領が8月15日の慶祝辞で、北に対し‘アジア大会の参加に向けた南北体育会談を開催しよう’と提案するのも一策だろう。」