NPO法人 三千里鐵道 

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4.21集会の時局講演会がブックレットになりました。

2019年07月29日 | 三千里コラム
 南北が、私たちが! 力を合わせて!平和で豊かな朝鮮半島を作ろう

 去る4月21日(日)、名古屋市博物館地下講堂にて、6・15共同宣言十九周年/4・27板門店宣言一周年記念企画として、「南北が、私たちが!力を合わせて/平和で豊かな朝鮮半島を作ろう」が開催されました。とりわけ、4・27板門店宣言が発表されてから一周年を祝うことと同時に、この一年の朝鮮半島を取り巻く情勢の流れを振り返りながら、次なる展望に向けて私たちは何をすべきなのかを考える機会とするイベントとなりました。
この日の前半は、昨年の歴史的な出会いの感動を全身で共有すべく「文化公演」を開催しました。オープニングを飾ったのは、韓国伝統音楽グループ「ノリパン」による民族打楽器の演奏。チャ ンゴの響きが会場全体を盛り上げていきました。演奏者の中には小さな子どもも参加しており、幼い手つきで力強く演奏する姿がとても印象的でした。
その後、「在日本朝鮮文学芸術家同盟 東海支部」の皆さんによるノレ(歌)とチュム(踊り)の披露。美しい歌声と舞い、特にチュムでは腕につけた鈴の音と舞踊が非常に美しかったです。
そしてトリを飾ったのは、重要無形文化財第5号パンソリ唱者「安聖民」さん。身体の奥に響く独特の歌声が、一瞬にして会場全体をパンソリの世界へ。客席との掛け合いなどもあり、会場全体が「ひとつ」になった大変素晴らしい公演でした。

後半は都相太理事長による主催者あいさつで始まりました。
あいさつの中で「19年前に三千里鐵道を立ち上げたが、我々の団体は、南北の鉄道が行ったり来たりできるようになれば、その役割を終える。早くその役割を終える日が来るように、これからも皆さんと共に歩んでいきたい」と述べました。
その後、朝鮮大学校准教授、李柄輝先生の講演。
この間、日本のメディアにも度々ご出演になっている李先生。今回の講演では「朝米関係の現況」と題し、歴史的に見た朝鮮半島の停戦体制、そしてそこにある東アジアの冷戦構造、朝米間でのこの間の動向、今後の展望などをお話し頂きました。
その後、韓国問題研究所 所長であり当会顧問でもある康宗憲先生による講演では、「南北関係の現況」と題し、朝鮮民族にとっての米国という存在、南北首脳会談の成果、民族自主による平和・繁栄・統一、韓日・韓米の歴史的視点など、多岐にわたり講演して頂きました。
その後、講演をされたお二人の先生による対談では、お二方が、南北の首脳陣、そして朝鮮半島を取り巻く周辺国首脳陣に「助言・進言できる立場だったら、何を伝えたいか」というテーマでお話し頂きました。非常にユニークな対談形式でのお話でしたが、聴いている私たちにとっては、現状の問題点・課題点が明確になり、大変分かりやすい対談講演でした。
こちらの講演・対談の内容は、ブックレットとして三千里鉄道より販売される予定です。非常に内容も厚く、様々な視点から朝鮮半島情勢が整理された内容になっておりますので、講演の詳細内容につきましては、ぜひこちらを読んで頂けたらと思います。

ニュースレター記事より

投稿 beak


6.30 歴史的な瞬間を映像で!

2019年07月02日 | 三千里コラム
2019年6月30日、板門店にて、歴史的な出会いが実現しました。

本当に突然のことで驚きましたが、それ以上に感動しました。

その動画を皆さんとともに、共有したいと思います。

【韓国 青瓦台 Twitterより】
 


【Youtube 聯合ニュースチャンネルより】







投稿:baek

韓国大統領選挙後の朝鮮半島

2017年05月15日 | 三千里コラム

文在寅候補の当選を祝うソウル市民(5.9.光化門広場)



❏ 市民集会がもたらした政権交代

 5月9日、韓国の第19代大統領選挙が実施され、「共に民主党」文在寅候補が41.1%の得票で当選した。過半数得票には至らなかったが、①次点の「自由韓国党」洪準杓候補とは557満票(87年以降で最大)の大差、②全国17の選挙区のうち大邱市と慶尚南・北道を除く14の地域で1位当選という二点から、有権者多数の支持を得た圧勝と評価できるだろう。保守政党の分裂があったとはいえ、金大中(39万票)・廬武鉉(57万票)の当選時とは比較にならない大差で当選したことは、文在寅政権に対する有権者の高い期待を示している。
 10年ぶりに民主政権への交代を可能にした要因は、言うまでもなく、昨年10月末からソウルを中心に全国的な規模で展開された市民集会である。民主労総や全農など、2,300を越える市民・社会団体による「朴槿恵政権退陣を求める国民行動」は、23回にわたる集会を毎週土曜日に開催した。そこには延べ1,700万人の市民が参加している。
 市民集会の要求は「朴槿恵の退陣・拘束」にとどまらない。長年に渡り韓国社会を蝕んできた「積弊」の清算と、不平等社会の根本的な変革を求めるものだった。政権、財閥資本、保守言論、検察・情報機関などが一体となって特権を謳歌する一方、大多数の市民は不安定な雇用状況と深刻な貧富格差に苦しんできた。広範な民意を結集した市民集会の威力こそが、躊躇する国会に「大統領弾劾訴追」を決議させ、優柔不断な憲法裁判所をして「大統領罷免」を決断させたのだ。5月9日付『ワシントン・ポスト』は、「韓国が世界に示した民主主義の実践」と題した記事で、今回の政権交代を「市民革命」と高く評価している。

❏ 政権交代の影響は?
 
 文在寅大統領は5月10日の就任演説で、朴槿恵・前政権を反面教師とする姿勢を強調した。国民を無視する権威主義的な大統領ではなく「国民と語り合う大統領」を目指すとし、政財癒着の根絶、検察の改革、情報機関の政治介入排除などを約束した。また、地域・階層・世代間の葛藤解消や非正規職問題の解決など、民生問題への早急な取り組みを宣言している。
 しかし、注目されるのはやはり、南北関係と外交政策に関する言及だろう。「必要な時はワシントンに直行する。北京・東京にも行くし、 状況が整えば平壌にも行く」という宣言は、「朝鮮半島の平和定着のためなら、私にできるあらゆることを厭わない」との決意があるからだろう。
 ただ、米政府の懸念と国内保守層の反発を意識してか、「韓米同盟のさらなる強化」が前提になっている。先に引用した『ワシントン・ポスト』の記事には「文大統領は北朝鮮との和解協力という伝統を引き継いでいる。北朝鮮との緊張を攻撃的に高めているトランプ政権とは相容れない姿勢だ」との厳しい評価がなされている。『読売新聞』に至っては、「文氏は親北・反日を貫くのか」と題した社説で、「南北関係改善を急ぐあまり、国際社会の対北朝鮮包囲網に穴を開けてはなるまい」と感情的な論調を展開している(5月10日付電子版)。
 米日両政府は「文大統領の就任を祝賀する」という外交辞令と同時に、不安の混じった警告を発しているのだ。韓国の政権交代、とりわけ南北関係の改善を志向する政権の登場は、必ずしも歓迎されないのだろう。

❏ 文在寅政権の課題と展望
 
 朝鮮半島の非核化と平和統一を中心に検討したい。参考になるのは、大統領選挙戦の最中(4月23日)に文在寅候補が発表した「朝鮮半島の非核平和構想」である。彼は金大中・盧武鉉政権期の太陽政策・抱擁政策を発展的に継承するとして、以下のように述べている。
 ①中国の役割ではなく、韓国の役割が重要である。中国を説得して六カ国協議を再開させ、米国を説得して米朝関係の改善を誘導し、北を説得して対話のテーブルに着かせる。②北の核放棄を先行条件とするのではなく、関連国すべてが同時行動の原則に依拠し、非核化と平和協定締結を包括的に推進すべきである。③南北首脳間の合意などは双方の国会批准を経て法制化する。開城工団の一方的な閉鎖など、政権交代による断絶を防止し永続性を保障したい。
 李明博・朴槿恵政権が破綻させた南北関係は、文在寅政権の下で徐々に改善へと向かうだろう。盧武鉉政権で要職に就き第二回南北首脳会談に深く関わった文大統領は、南北が民族経済共同体を構築し、経済協力と市場の統合を通じた均衡発展を目標に掲げている。ちなみに、第二回南北首脳会談の合意文書は『南北関係の発展と平和繁栄のための宣言』という副題がついている。
 多少の紆余曲折はあっても、閉鎖された開城工団は再稼働され、中断された金剛山の観光事業や離散家族の再会事業も復活するだろう。もちろん、国内保守層の反対は相当なものであり、楽観は許されない。また、対話と交渉を匂わせつつも対北制圧政策を撤回しない米日両政府は、軍事的な圧迫と経済封鎖を継続している。文政権との間で不協和音が発生ることは避けられまい。
 だが、さまざまな悪条件にも拘らず文在寅政権の登場は、膠着した朝鮮半島情勢を打開する重要な契機となるだろう。それを活かすも殺すも、南北政府当局の決断にかかっている。「隗より始めよ」ではないが、一切の前提条件をつけず、先ずは南北の当局間対話から始めてほしいものだ。(JHK)

憲法裁判所の弾劾審判

2017年03月09日 | 三千里コラム

憲法裁判所の掲示板-弾劾審判宣告日の案内(17.3.8)



1.大統領は弾劾されるのか?

歴史的な審判の瞬間が迫っている。カウントダウンは始まっており、すでに12時間を切っている。憲法裁判所は3月8日、朴槿恵大統領への弾劾審判に関する宣告を、3月10日午前11時に行うと発表した。昨年12月9日、国会議員234名(定数300名)の賛成で朴大統領の弾劾訴追案が採択された。それから92日を経ての審判である。

憲法裁判所は9名の裁判官で構成され(現在は1名が欠員)、その内3名が反対すれば弾劾案は否決される。朴槿恵氏はその日に大統領として職務復帰し、来年2月まで国政を担当するだろう。しかし8名のうち6名以上が賛成すれば、彼女は停止中だった大統領の職責を即刻罷免され、一市民として検察のさらなる追及と捜査を受けねばならない。

民意はどうなのか。世論調査機関『リアル・メーター』が3月8日に実施した調査結果を見ると、弾劾支持の世論が77%、反対は20%だった(保留3%)。同機関の昨年12月21日付調査に比べ、弾劾支持の世論は約5%増えている。他機関による直近の調査でも、弾劾支持の世論は概ね75~80%に達している。韓国社会における憲法裁判所の審判は、単に法理の検討だけにとどまらず、世論の動向をも考慮しての総合的な状況判断である。80%という圧倒的な民意を反映した立法府の弾劾訴追案を、司法府が退けることは想定し難い。

ただ、看過すべきでないのは、ニクソン元米大統領と違って彼女は、最後まで辞任を受け入れようとしなかったことだ。国民にとって最大の悲劇は、大統領が最後まで自身の非を認めず、すべての行動は国家と国民のためだったと強弁していることだ。今も彼女は、野党と反対勢力の計略に“嵌められた”被害者だと思い込んでいる。筆者は確信するが、朴槿恵氏にとって恐らく、今夜が青瓦台(大統領官邸)で過ごす最後の夜となるだろう。


2.特別捜査チームの報告

一方、昨年11月17日、『朴槿恵政府の崔順実ら民間人による国政介入疑惑事件究明のための特別検事任命などに関する法律』が国会を通過した。同法に基づき特別捜査チームが組織され、今年2月末日まで約90日間に及ぶ集中的な捜査が実施された。特別捜査チームは3月6日、記者会見を開き捜査結果を公表している。便宜上、本件を「朴槿恵・崔順実ゲート」と命名するが、以下は、捜査結果を要約したものである。

「朴槿恵・崔順実ゲート」の核心は、国家権力が私的利益追求のために濫用されたことであり、韓国社会の典型的な腐敗構造の源泉ともいえる「政財(政界と財界)癒着」である。その中心には常に朴槿恵大統領がいた。しかし、大統領は在職中に刑事訴追されないとの規定がある。それで特別捜査チームは、調査によって立証された12件に関し、大統領を容疑者として立件し今後の関連捜査を検察に移管した。朴槿恵大統領の主な容疑は次の四項目である。

①特別捜査チームは三星電子副会長・李在鎔の贈賄捜査において、朴槿恵大統領が崔順実と共謀し巨額の賄賂を授受した容疑を確認した。朴槿恵大統領と崔順実は、李在鎔が三星財閥の経営権を継承するうえで企業合併などで諸般の便宜を提供し、その代価として433億ウォンの賄賂提供を約束された(実際の収賄額は約300億ウォン)。

②朴大統領は『KEBハナ銀行』の人事に介入し、崔順実の推す人物を本部長に昇進させるように圧力を行使するなど職権を濫用した。また、崔順実の娘が梨花女子大学に不正入学する際に便宜を提供したキム・ギョンスク前学長の夫を、国家科学技術諮問委員に委嘱するように指示するなど職権を濫用した。

③朴大統領はチョン・ホソン大統領秘書官らと共謀し、2013年1月から2016年4月まで、崔順実に計47回にわたって国家機密が記載された文献をeメールなどを通じて伝達するなど、公務上の秘密を漏洩した。

④現政権に批判的な文化芸術界の人士を選別(ブラックリストの作成)する際に、これに反対する政府官僚たちが辞職を強要された。朴槿恵大統領はこの件に直接介入したのであり、職権濫用と権利行使妨害などの容疑がかけられている。

上に挙げた項目だけでも、朴槿恵大統領の罪状は明白であろう。だが、これは全体の一部に過ぎない。特別捜査チームに参加した弁護士や検事たちのインタビュー記事を読むと、時間の制約(政府は捜査チームの期間延長を認めなかった)に加え、当事者である朴大統領の非協力的な態度によって真相の究明は極めて不十分だったという。大統領は捜査に協力するとした当初の対国民談話とは違って、対面調査に一度も応じず、大統領官邸の押収捜査も拒否した。「朴槿恵・崔順実ゲート」は20~30%が解明されたに過ぎないそうだ。

なかでも、セウォル号沈没事故当時、朴大統領の具体的な動向は究明されなかった。彼女がどこに居て、どのような報告を受け、救助に向けてどのような初期指示を出したのか...。事故前日の2014年4月15日夕刻~翌16日午前10時までの時間帯、大統領の行動は全く確認されていない。また、崔順実一家の総資産は2730億ウォン(崔順実本人の財産は228億ウォン)と計上されたが、40年以上(朴正熙政権期から)の長期間にわたる蓄財であり、不法な資産形成と隠匿の全貌を究明するには至らなかった。これらの疑惑も、今後の検察捜査に委ねるしかない。


3.今後の展望と課題

憲法裁判所が弾劾の審判を下せば、2ヶ月以内に大統領選挙を実施する規定である。5月9日が投票日の候補として上がっている。そして政界の現状は、与野党を問わず、大統領選挙に向け党内の有力者たちが候補選出にしのぎを削っている。いつの間にか、矛盾に満ちた韓国社会の根本改革を訴えた「ローソクデモと広場の政治」は、後方に追いやられた感すらある。思い起こそう。昨年10月末から19回に及ぶ延べ1200万人の市民集会は、単に朴槿恵大統領を罷免することが目的ではなかったはずだ。大統領弾劾は市民革命の始まりに過ぎず、決して終わりではない。

「ローソクデモと広場の政治」が掲げた改革課題は、大統領選挙に目がくらんだ与野党の消極的な姿勢もあって、何一つ解決されていない。△セウォル号特別法の改定、△ペク・ナムギ農民(2015年11月市民決起集会の犠牲者)特別捜査の実施、△言論掌握防止法の改定、△不当解雇制度の中断、△歴史教科書の国定化禁止法の制定、△「サード(高高度ミサイル防衛システム)」配置の中断、など6大当面課題は2月の国会でも論議すらされなかった。国会の時計は、昨年12月9日(弾劾案可決)の時点で止まったままである。

躊躇する野党(与党の一部を含め)を大統領弾劾に踏み切らせたのは、「ローソクデモと広場の政治」の圧力だった。代議制民主主義の限界を克服しようとする市民の、直接民主主義への熱い願望だった。それを快く思わない議会政治と各政党が企図するのは「ローソクデモと広場の政治」の終息であり、大統領選挙局面で政党政治が主役として再登場することだろう。

韓国市民革命は今、重大な分岐点を迎えている。朴槿恵弾劾という勝利によって迎えた大統領選挙の早期実施局面で、「政党政治」の荒波に「広場の政治」が飲み込まれようとしているからだ。その原因は、全国2300の市民社会団体で構成される『朴槿恵政権退陣を求める国民行動』と民主労総などの進歩勢力が、広場に結集した市民の憤怒と熱気を、政治的・階級的な改革力量にまで高め切れていないからだろう。

だが、「ローソク」がいつの間にか「烽火(タイマツ)」になり、広場のスローガンが「朴槿恵退陣」から「朴槿恵逮捕」に変化していることからも明らかなように、韓国市民革命の幕は、今ようやく上がったところである。次の大統領選挙で、「誰が政権を執るのか」が重要なのではない。「どのような政策を実施するのか」、韓国社会の進むべき方向を先ず提示すべきであり、その次に「どの勢力(政党)がそれを実行するのか」を選択することだ。「広場の政治」が掲げた要求を定式化し、それを遂行する意志を持った政治勢力を市民が牽引し、圧迫し、強制することが民主主義の原点であり原則であるからだ。

1987年の民主抗争は軍事政権が強要した憲法を変え、市民社会の形式を整えた。2017年の市民革命は、積年の弊害に病んだ韓国社会の根本的な変革を志向する。2017年は、それを可能にする勢力を、市民自らの力で形成していく元年となるだろう。3月11日の土曜日、第20回の市民集会が光化門広場で開催される。だがそれは、朴槿恵退陣を祝う勝利の終宴ではなく、社会変革への新たな出発を誓う舞台となるだろう(JHK)。

韓国市民の求める新たな民主社会-大統領弾劾から社会変革へ

2016年12月16日 | 三千里コラム

「青少年が主人公だ!」とのプラカードを掲げ市民集会に参加する中高生(11.19、ソウル)



韓国市民の求める新たな民主社会-大統領弾劾から社会変革へ

大統領弾劾への過程

12月9日、韓国の国会で朴槿恵大統領に対する弾劾訴追案が可決された。所属議員300名のうち299名が投票し、賛成234、反対56、棄権・無効9という圧倒的な票差で朴槿恵大統領は職務停止となった。直前の世論調査(12月6~8日、韓国ギャロップ)では、大統領弾劾を支持する国民が81%に達していた。世論を反映すれば243の賛成票に相当するが、それを少し下回る結果となった。国会議員(特に与党)の反応はやはり、民心に遅れを取り消極的にしか受け入れないようだ。

10月29日、2万人の市民がソウルの光化門広場で第一次集会を開き「朴槿恵の即時退陣」を求めたが、野党は“国民世論の反発”を恐れ退陣や弾劾には否定的だった。しかし、第二次(11月5日・20万人)、第三次(同12日・100万人)、第四次(同19日・100万人)、第五次(同26日・190万人)、第六次(12月3日・232万人)と退陣を求める市民の声が全国に拡大するなかで、政界も「弾劾・退陣」を選択するようになる。政治(国会)を動かしたのは広場(市民)の力だった。

韓国市民はなぜ、これほどの憤怒を表出させているのだろうか。決して、日本のメデイアが指摘するような「政権末期に通例のスキャンダル」が原因ではない。核心は「権力の私物化」と言えよう。一民間人に過ぎない崔順実とその取り巻きが、朴槿恵政権を動かす事実上の指導部として君臨していたのだ。内政と外交における政策決定(開城工業団地の一方的閉鎖にも関与)だけでなく、政権要職の人事にまで私人が介入する歪な政権運営を、大統領は容認し、政権中枢部の閣僚たちもそれに便乗して特恵を謳歌してきた。

三星や現代などの財閥企業は権力集団と癒着して資本を拡大し、権力に忠実な司政機関(検察・警察)は、不正腐敗の摘発ではなく市民の抗議運動を弾圧するだけだった。保守的なメディアも情報機関と協力し、大統領の指導力を讃え“北朝鮮の脅威に備えた国民の団結”を宣伝することに奔走している。その一方で民生は破綻し、貧富の格差は拡がるばかりだ。セウォル号沈没など国民の生命と安全を脅かす大型事故が多発しても、大統領と政府は真相究明はおろか責任ある対処を全くしてこなかった。市民の憤怒は、積年の腐敗し切った権力構造に向けられている。韓国社会で進行しているのは、無能で無責任な政権とそれに寄生する「巨大カルテル」の解体を求め、新しい社会体制への変革を志向する市民革命である。

市民革命の伝統と現状

韓国の現代史は、こうした市民革命による民主主義の発展史にほかならない。不正腐敗にまみれた李承晩政権の長期独裁を打倒したのは、市民と学生による1961年の4月革命だった。数十万の市民デモに警察が発砲し、約200名が犠牲となった。全国各地に拡大する抗議デモの前に、李承晩は下野を表明するしかなかった。しかし、「ソウルの春」は短命に終わる。翌61年の5月16日、軍事クーデターで執権した朴正熙はその後、18年間に及ぶ長期の軍事独裁体制を敷いた。1979年10月、釜山・馬山をはじめ全国で展開された民主化運動によって政権は崩壊する。だが、「二度目の春」も血みどろの軍靴によって蹂躙された。民主政府樹立を求める市民の声を、全斗煥ら軍部勢力は戒厳令で鎮圧し、200名を越える光州市民軍の命が新たな軍事独裁の祭壇に捧げられた。

韓国市民はこの尊い犠牲を無にせず、87年6月の民衆抗争で報いた。大統領直撰制を骨幹とする現行憲法への改正を勝ちとり、全斗煥政権を退場させた。しかし、歴史の女神はまたもや市民に微笑まず、野党の分裂により全斗煥の盟友、盧泰愚が執権した。韓国現代史を貫通するのは、こうした民主社会を求める市民革命の潮流である。広場に結集する市民の力が、独裁政権に終止符を打つ原動力となってきた。87年の6月民衆抗争が民主主義の形態(大統領直撰制)を獲得しただけに終わったのなら、2016年11月の市民革命は、上述した醜悪な権力構造を根本的に変革し、民主社会にふさわしい内容と制度を盛り込むための闘いと言えよう。

今回の市民集会には、これまでの政権下で闘われた市民デモとは異なる特徴が見られる。87年の6月抗争や李明博政期のキャンドル集会は、進歩勢力が中心の運動であり目標も単一事案(憲法改正、米国産牛肉の輸入阻止)に限定されていた。今回は進歩と保守が一体となる共感帯が生まれており、韓国社会の根本的な構造改革を求めている。この間、一ヶ月以上にわたり延べ700万人が参加した市民集会では、中高生をはじめとする青年層から壮年・高齢層まで、あらゆる世代が怒りの声を上げている。また、朴槿恵政権を支えてきた慶尚北道地域でも広範な市民が退陣を要求しており、地域対立の構図すら消滅した感がある。崔順実の娘が露骨な入学特恵を受け、国民年金の基金が特定財閥の支援金に流用されるなど、世代と地域を超えた民衆の憤怒が大統領と政権に向けられているのだ。

なかでも、朴槿恵政権に絶望し最も“過激”なスローガンを掲げているのが青少年たちである。10%を越えて増え続ける青年失業率、アルバイトの日常化を迫る高額の学費、いくら努力しても生活向上への可能性が見えない格差社会の現状などは、彼らをして市民革命の先鋒に立つことを決断させている。11月5日の第二次市民集会では、「中高生革命指導部」のプラカードを掲げた集団が隊列の一角を占め、「中高生が先頭に立って革命政権を樹立しよう!」とのシュプレヒコールを唱えていた。彼らこそ、同年代の仲間をセウォル号で失い、国定教科書での歴史教育を強制される、朴槿恵政権における最大の被害者たちである。日本社会ではもはや死語になった「革命」という言葉を、韓国では何の違和感もなく青少年が口にしている。韓国の中高生は、教室で学んだ民主主義を街頭と広場で実践する。彼らを広場に向かわせ実践教育の場を提供したことが、朴槿恵政権の成した唯一の功績といえるかもしれない。

今後の展望と課題

国会における大統領の弾劾訴追案可決は、市民革命の勝利に向けた第一歩にすぎない。大統領としての職務は停止されたが、朴槿恵氏は今も青瓦台(大統領官邸)で起居している。警護と礼遇はそのままであり、給与も支給される。彼女にとっては有給休暇なのかもしれない。今後、弾劾の最終的な可否は憲法裁判所の判断に委ねられるが、その間、大統領の職務は国務総理(首相)が代行する。しかし、総理の黄教安(ファン・ギョアン)氏は弾劾された大統領が任命したのであり、現政権の初代法務長官として統合進歩党の強制解散を陣頭指揮するなど、総理に抜擢されるまで常に大統領の忠実な同伴者だった。現状の国政混乱を招いた責任を問われるべき閣僚に、大統領の職務代行を委ねるべきではないだろう。ところが3野党はすべて、黄教安代行との協力を掲げている。

憲法裁判所は本来、民主主義を擁護するために設置された機関である。ところが李明博政権から現政権に至る過程で、民主主義を後退させる判断が相次いでいる。憲法裁の所長は大統領が任命し、残り8名の裁判官も大統領・与党と最高裁長官の指名した人士が大半であることから、進歩的な法官の登用は期待できなくなった。2014年12月の統合進歩党解散審理でも、9名のうち反対を表明したのは野党が推薦した金二洙(キム・イス)裁判官だけだった。当時、朴漢徹(パク・ハンチョル)所長は金淇春(キム・ギチュン)大統領秘書室長と緊密な連絡を取り合い、事案の審議や証拠の検証も不十分なまま解散決定を強行した。憲法裁判所が当時と同じ状況なら、朴槿恵氏は有給休暇を存分に楽しむことになるだろう。

朴槿恵大統領は職務停止の直前(一時間前)に、空席だった大統領府の民政首席秘書官に曺大煥(チョウ・デファン)弁護士を任命した。その間、朴大統領の法律顧問を担当してきた人物だ。彼と黄教安総理、朴漢徹憲法裁判所長らは司法研修院の同期(13期)であり、黄・朴の両氏は公安検事として辣腕を振るった経歴を持つ。曺大煥氏は朴槿恵大統領の意向に従い、総理や憲法裁判所長と連携して弾劾審判を有利に進行するために画策するだろう。遅くとも来春3月には憲法裁の判断が出るものと予測されているが、楽観は許されない。

だが、国会の弾劾決議を主導したのが広場の市民集会であったように、憲法裁に速やかな弾街決定を圧迫するのも広場に結集する市民の力である。保守的な性向の裁判官たちであるが、圧倒的な弾劾世論と即時退陣の声に対抗して、消え行く大統領と心中するほどの愚かな忠誠心は発揮しないだろう。朴槿恵大統領と崔順実らの犯罪はすでに、検察の一次捜査と良心的なメディアの取材でかなり明白になっている。権力の意向と同時に、世論の動向にも極めて敏感なのが憲法裁の裁判官だと言われている。朴漢徹憲法裁判所長の任期が来年1月末に迫っている。任期内に弾劾決定の判断を下すことが望ましいだろう。そのためにも、市民集会のキャンドルを絶やしてはならない。

国会の弾劾訴追が第一段階なら、間もなく始まる特別検察チームの捜査で、朴槿恵大統領の犯罪事実を究明することが次の段階だ。朴槿恵大統領とその側近たちの容疑は、①三星やロッテなど財閥からの収賄、②秘書室長や民政首席秘書官らの職務遺棄、③セウォル号事故に際して「7時間の空白」をもたらした大統領の職務遺棄、などである。これら三大疑惑を究明することが第二段階である。そして憲法裁での弾劾決定が第三段階。さらに大統領の拘束・起訴という第四段階を経て、大統領選挙での民主的政権交代が第五段階だ。新たな政権の下で諸般の民主改革を断行してこそ、2016年11月の市民革命は完成される。

市民革命の前途は険しく、長き道程となるだろう。権力と財閥、言論などが一体となって既得権を固守してきた韓国社会の構造的矛盾は、朴正熙政権から計算しても50年を越える期間に達する。敵対的な南北分断体制の下で、国家保安法は権力が民衆運動を弾圧する最大の武器だった。制定から68年が経過した今日も、この悪法は生き延びている。韓国社会の根本的な変革が容易であろうはずはないが、その前進に向けて今、広場の力を現実の政治舞台(国会)に反映させる様々な模索が続けられている。

12月8日、1141人の市民が連名で「オンライン市民議会」の結成を呼びかけた。広場の民意を国会に伝達する「市民代表団」を選出しようというのだ。共同提案者として金薫・黄晳暎などの小説家、市民集会で司会を担当した金濟東、セウォル号特別調査委員長の李錫兌弁護士などが名を連ねている。また12月12日には、大学教員、企業家、会社員、自営業者、農民、労働者、青年など各界各層の市民170名による「市民憲章」が発表され、『市民主権会議』の準備委員会が発足している。『市民主権会議』の設立趣旨文は、「市民革命の過程で表出した熱望を実践し、朴槿恵弾劾後に新しい大韓民国を準備するために結成された市民組織」と自らを規定した。そして「特定の政党や組織の利害を代弁せず、すべての人に開かれた組織であり、市民主権の実現を掲げる他団体と連帯し協力する」と表明している。

これらの運動に共通するのは、韓国政治の現状が決して民意を反映していないとの危機感であり、下からの民主主義・直接民主主義に対する強調と期待である。これまでの歴史がそうであったように、韓国の市民革命は新たな民主社会の実現に向け前進を続けることだろう(JHK)。

北朝鮮の核実験と国連安保理の制裁決議

2016年09月30日 | 三千里コラム

対北制裁の強化を主張する韓国外相(9.22,国連総会)



朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の第5回核実験から3週間が経過しました。米日韓の三国政府は「制裁のさらなる強化」を掲げ、国連安保理での決議採択に奔走しています。だが筆者は、核実験と制裁の悪循環にいささか食傷気味です。とりわけ、制裁一辺倒の無能無策ぶりは目に余るものがあります。

今年1月6日の第4回核実験に際し国連安保理は3月2日、「史上最強の制裁」と豪語する決議2270号を採択しました。決議文書は前文5項、本文52項、付属文書5項目からなる膨大な分量で、「北朝鮮の核・ミサイル開発資金を遮断するために」制裁対象を60の個人・団体に拡大しています。韓国政府はこれに加えた独自制裁として、開城工業団地の一方的な閉鎖まで断行しました。朴槿恵大統領は「金正恩政権には耐え難い圧迫だ。半年もすれば屈服するだろう」と楽観していたそうです。ところが、国際社会の前に膝を屈するはずの北朝鮮が、半年後の9月9日午前9時(現地時間)に新たな核実験を敢行しました。「史上最強の制裁」に効果がなかったことは、誰の眼にも明らかでしょう。

にも拘らず安保理で「制裁のさらなる強化」を追求するとしたら、今度の制裁は何と命名するのでしょうか。「史上最強の新たな制裁」、「史上最強の特別制裁」、「史上最強かつ最大の制裁」...。どのように位置づけても、「制裁の上塗り」は「恥の上塗り」でしかありません。国連安保理での制裁決議は十分な効力を発揮できず、北朝鮮核問題の解決策ではないことが偽らざる現実なのです。国際社会は、不都合で不愉快なこの現実を認めることから出発すべきだと思います。

1.対北制裁と中国の立場

対北制裁に関して一部で誤解しているのが、「中国の役割(責任)論」です。“北朝鮮の最大交易国である中国が、真剣かつ積極的に制裁に協力すれば金正恩政権は屈服せざるを得ない”という観点です。しかしこれは、国際政治の力学と中国の対朝鮮半島政策に関する無知の所産に過ぎません。すべての国は、その国益に沿って政策を立案し展開します。

中国政府にとって、北朝鮮の核開発は「既得権である核兵器の寡占体制を脅かし地域の緊張を高める」故に、国益とは相容れません。それでこの間、国連安保理の制裁決議に賛同してきました。しかし「朝鮮半島の安定と核問題の平和的解決」こそが中国の国益であって、米日韓の三国が追求する「制裁強化による北朝鮮の体制転換」は決して受容できないシナリオです。朝鮮半島が韓国主導で吸収統一されれば、駐韓米軍基地が中朝の境界線まで迫ってきます。中国にとっては最悪の結果であり、どんな犠牲を払ってでも回避すべき事態です。朝鮮戦争に大規模な義勇軍を派遣して参戦したのも、そのような「戦略的利害」のためです。

そして今年7月、米政府がサード(終末高高度ミサイル防衛体系)の韓国配備を決定した状況で、中国が米日韓の対北制裁強化に全面的な協力をすると期待するのは、希望的観測の域を越えた幻想と言えるでしょう。サードは言うまでもなく、オバマ政権の「アジア再均衡」政策(中国包囲政策)において核心的な位置を占めます。
“北朝鮮のミサイル脅威に対する抑止力”という口実は、中国(ロシアも含め)を愚弄するような話です。中国がサードの韓国配備に対し、「戦略的利害を著しく侵害する」として猛反発しているのは当然なことです。そして米中関係が緊張すれば、中国にとって北朝鮮の「戦略的価値」は相対的に向上します。

これらの点に関し、米国主要紙の論調は核心を突いています。『ニューヨーク・タイムズ』は9月11日付の論説記事で、「中国の国営放送は核実験後も数時間にわたって一切の言及をしなかった」ことを確認し、中国政府が事実上、北朝鮮の核実験を容認するような立場を取ったと述べています。また、中国人民大学のス・インフン(時殷弘)国際関係学教授のコメントにも注目すべきです。彼は「米国は対北制裁に関して中国に依存すべきではない。中国は米国よりも北朝鮮に親近感を持っている。中国は北の体制崩壊による混乱よりも、核兵器で武装した隣国を選ぶだろう」と示唆しているのです。

2.朝鮮半島核問題の本質

『三千里鐵道』は一貫して、「朝鮮半島の非核化」を主張してきました。北朝鮮の核開発に反対するだけでなく、韓国に対する米軍の拡大核抑止(核の傘)政策にも全面的な反対を表明しています。毎年、世界最大規模で展開される米韓合同演習では、原子力空母や最新鋭爆撃機を投入した対北核攻撃訓練が実施されているからです。

北朝鮮はなぜ、国際的な非難と孤立という代価を払ってまで、核・ミサイルの開発を継続するのでしょうか。その動機は、世界最大最強の核軍事大国である米国の脅威が発端であり、米国からの体制保全が目的だと言えます。対テロ戦争に際し「先制的自衛戦略」を導入したブッシュ政権以降、米政府は“テロ支援国家”や“悪の枢軸国”というレッテルを貼って、アフガニスタン・イラク・リビアなどを先制攻撃し体制転換を断行しました。そうした事態を目撃し、米国と半世紀以上にわたって対峙している北朝鮮が得た教訓は、「核保有だけが米軍の先制攻撃を抑止する」というものです。

日本のメディアが連日くり返す“北朝鮮核脅威”の本質は、決して核実験の回数やミサイルの性能ではありません。その本質は、核兵器の開発を追求させる敵対関係にあります。北朝鮮の核開発は米朝敵対関係の産物であり、その根源は朝鮮戦争(1953年7月に休戦)の停戦体制です。よって「北朝鮮核問題」の解決は、朝鮮戦争を集結させる平和協定を締結し、米朝(日朝)が国交を正常化する「朝鮮半島の平和体制」を構築するしかありません。

もう少し敷衍して説明しましょう。日本国民はなぜ、米国の圧倒的な核・ミサイルに脅威を覚えないのでしょうか。日米が敵対関係ではなく、同盟関係にあるからです。“米軍の核兵器が日本を守ってくれる”と信じ込まされているからです。それで、米大統領が「核兵器の先制不使用」を宣言すると仄めかすだけで狼狽え、「唯一の被爆国」が「唯一の加爆国」の核兵器に依存するという嘆かわしい現実を露呈します。

あるいは、ロシアや中国は、北朝鮮とは比較にならない高性能な核・ミサイルを大量に保有しています。しかし殆どの日本国民は、モスクワや北京から核・ミサイルが飛んで来るとは想定しません。両国とは領土問題などで決して友好的ではありませんが、少なくとも敵対関係ではないからです。国交があり、頻繁な交流と往来があります。反面、長期間の敵対関係は相手のすべてを疑い、否定し、敵意を増幅させます。優位にある側は相手を制圧しようとし、劣位にある側は恒常的な恐怖感から、手段方法を選ばず生存を優先させるのです。

9月9日、朴槿恵大統領は核実験直後の国務会議で「もはや金正恩の精神状態は(常軌を逸し)統制不能だ」と述べました。北の指導者を“狂人”扱いする論調は、日本でも溢れています。でも、再び『ニューヨーク・タイムズ』に眼を向けようと思います。9月11日付の同紙は「北朝鮮の行動は“狂気の沙汰”ではない、極めて合理的だ」という衝撃的なタイトルの論評を掲載しました。論評は在米の朝鮮問題研究者や元政府高官の分析を引用しながら、次のように北朝鮮を解説しています。

「相次ぐ核実験やミサイル発射といった挑発行為の背景には、弱小国の指導者としての、体制生存をかけた理性的な思考が見受けられる。…一国のリーダーシップが理性的だという場合、最高指導者が常に最善の道徳的な選択をすることを意味しない。自らの体制保全を最優先し、それに合致する国益を追求することが理性的な行動になるのだ。…北朝鮮は米国のイラク侵攻から生存方法を学んだ。北朝鮮の指導者にとって核開発計画は、弱小国が強大国と敵対する状況で、敵の先制攻撃を思い止まらせる唯一の道であり、平和を維持する合理的な方法なのだ」。

日本のメディアには、当事者である北朝鮮の主張がなかなか紹介されません。韓国『中央日報』のロサンゼルス版が、ニューヨークに駐在する北朝鮮外交官にインタビューしています(9月18日付)。以下はその発言の引用です。

「南と北は生存方式が違う。南は在来武器を大量に輸入するが、北にとって在来武器の軍備競争は負担でしかない。核武装は北にとって最小限の自己生存権なのだ。われわれの願いは、国防費を減らし経済発展に集中することだ。生存権が保障されないのに、経済を発展させ人民生活を改善するというのは理想主義にすぎない。…開城工団を閉鎖し制裁強化を叫ぶ朴槿恵政権は自滅を招いている。南の政治が過去に回帰したのか。かつて南北が軍事訓練するときにも互いに防御を強調し、攻撃という用語は避けてきた。ところが最近は、“平壌侵攻と斬首”を露骨に口外するようになった。同族の殺戮を宣言する政権と、どうして対話できるだろうか。…科学的でも論理的でもない“北の体制崩壊論”から脱却し、相手の体制を尊重して統一への基調を明示すべきだ。」

3.朝鮮半島非核平和への道

5日、18日、23日、57日…。この数字の意味を解読した人は、かなりの朝鮮半島マニアと言えるでしょう。北朝鮮の核実験から安保理制裁決議が採択されるまでに要した各日数です。回数を重ねるに連れ、必要日数も延びています。問題が深刻さを増し、中国・ロシアとの合意が難航している状況を示しているようです。しかし、より重要なのは、冒頭で確認したように、制裁決議では「北朝鮮の核脅威」が解消されないという事実です。

患者に譬えるなら、「北朝鮮の核脅威」は症状に過ぎません。根源的な病因は「朝鮮戦争の停戦体制」です。よって、最も正確な治療法は「平和協定の締結」となります。ところが、病因を無視して「安保理制裁の強化」という対症療法に執着しているのが現状です。処方箋が間違っていたなら、他の治療法を探るべきです。効果のない処方箋にしがみつき投薬量を増やしても、患者の耐性が助長され病状は悪化するだけでしょう。

その間、オバマ政権は「軍事的な威嚇と経済封鎖による制圧政策」(戦略的忍耐)を掲げ、北朝鮮に核放棄の先行を強要してきました。北に「先ず核兵器を放棄して武装解除せよ」と要求するのは、停戦体制下の両国関係では説得力を持ちません。また、2005年の9.19共同声明を始めとする六カ国協議の諸合意とも矛盾します。六カ国協議では、北朝鮮がその核施設を凍結→無能力化⇒完全廃棄に至る各段階に合わせて、米国が体制の安全保障、国交正常化、経済支援などを履行することで合意しました。こうした「同時行動」は、敵対関係の外交交渉では基本原則だからです。

米日韓はいつの間にか「同時行動」から逸脱し、“北朝鮮の脅威”を煽ることで対話と交渉の道を閉ざしてきました。三国の政府が言うように、北朝鮮との外交交渉は無意味なのでしょうか。その間の5回にわたる核実験は、二国間もしくは多国間の非核化交渉が、挫折するか断絶している状況で敢行されました。交渉の進展期や合意の履行期には、決して北朝鮮は核実験もロケットの発射実験も実行していません。2006年10月の第1回核実験は、前年9月19日の合意翌日に、米政府がマカオの銀行口座凍結という経済制裁を課したことが原因でした。

軍事的な先制攻撃という手段を別にすれば、対話と交渉の他に道はありません。またもや『ニューヨーク・タイムズ』に登場してもらいましょう。9月9日付の社説で「オバマ大統領は既存の制裁を強化し新たな措置を取ると言明している。だが、その効果は楽観できない。…共和党は反対するだろうが、問題の恒久的な解決には制裁を超えた交渉が必要なのは明らかだ」と述べ、北朝鮮政府が7月6日付で米政府との「対話再会」を提案した事実に言及しています。そして「大部分の専門家は、現時点での可能な目標が北朝鮮の核・ミサイル実験の中断であって、核プログラムの全面的な放棄ではないことを主張している。オバマ大統領の後任者は、北朝鮮の加速する脅威に緊急対処すべきだ」と促しました。

さらに、米政府の対外政策に一定の影響力を発揮する『米国外交協会(CFR)』も同様の提言をしています。「オバマ政権の対北政策(戦略的忍耐)は失敗した。核凍結を目標に、北朝鮮との交渉を速やかに再開すべきだ」というのです。一昨年から北朝鮮が提案してきた「核実験の中断(一時保留)と米韓合同演習の中断(縮小)」は、決して合意が不可能な交渉とは思えません。双方の利益に合致するからです。ただ、韓国政府の理解と協調が前提です。ところが“北の体制崩壊は間近に迫っている”との妄想に囚われた朴槿恵政権は、相変わらず「国連安保理の制裁強化」を掲げ諸外国に同調を求め行脚しています。

朝鮮半島の非核平和には、南北関係の改善が必須です。数日後には『10.4南北首脳宣言』の9周年を迎えます。その第4項は次のような内容でした。「南北は、現在の停戦体制を終息させ恒久的な平和体制を構築していくべきだという認識を共にし、この問題に直接関連している3ヶ国または4ヶ国の首脳が朝鮮半島地域にて会合し、終戦を宣言することを推進していくために協力する。南と北は朝鮮半島核問題解決のために六カ国協議の9・19共同声明、2・13合意が順調に履行されるように共同で努力することにした」。

また、その前提として第2項では「南北は思想と制度の差異を超越して、南北関係を相互尊重と信頼関係へと転換させていくことにした。南北は互い内部問題に干渉しないこと、南北関係に関する諸問題については、和解・協力・統一の精神に符合する方向で解決していくことにした」と謳っているのです。南北の両当局に、相互の体制尊重に基づく無条件での対話再開を訴えます(JHK)。

忘却を願うのか?

2016年08月29日 | 三千里コラム

‘慰安婦’問題の日韓政府合意に抗議するキム・ボクトンさん(8.26,ソウル)



昨年12月28日、日韓の両政府は「‘慰安婦’問題が最終的かつ不可逆的に解決された」との合意を発表した。当事者の意思と心情を無視した政府間合意は歓迎されず、今も抗議と糾弾が内外で続いている。あれから8ヶ月が経過した今年の8月24日、日本政府は閣議決定により、10億円を韓国政府主導の「和解・癒やし財団」に拠出すると発表した。9月上旬までに、今年度の予算から支出されるという。菅義偉官房長官は「支出が完了すれば、日本側の責務は果たしたことになる」と述べた。

本当にそう思っているなら、あまりにも安易な発想であろう。昨年末の合意で岸田外相は、「‘慰安婦’問題の責任を痛感する」と発言した。真摯に責任を痛感するならば10億円は「賠償金」であるべきだが、「拠出金」と規定されている。言うまでもないが、「拠出金」に賠償や補償の意味はない。政府予算で開発途上国に支給される、「政府開発援助資金(ODA)」のような性格だと言えよう。

被害女性の一人キム・ボクトンさん(90歳)は8月26日、記者会見で次のように憤りを表現した。「幾ばくかのお金目当てに20余年間を闘ったのではない。日本政府が心から謝罪することが前提だ。韓国政府は‘慰労金’という名目でこの問題に幕を引こうとする。私たちを10億円で売り渡すことに他ならない」。

口先だけの謝罪で賠償を拒否する日本政府、被害女性たちの声に耳を傾けようとしない韓国政府…。日本では、‘慰安婦’問題合意に関する韓国社会の怒りが、なかなか理解されないようだ。参考のために、8月29日付『ハンギョレ新聞』のコラムを紹介する。筆者は統一外交問題のチーフであるイ・ジェフン記者だ。記者の糾弾は、被害女性たちを蔑ろにする朴槿恵政権に向けられている。(JHK)


忘却を願うのか?

朴槿恵大統領の言葉を思い出す。「被害者の方々は高齢であり、今年だけでも9名が他界された。生存者は46名となった。今回の合意は、こうした緊急性と現実的な制約の下で、最善の努力を傾けて成し遂げた結果だ」。昨年12月28日、韓日政府間の日本軍‘慰安婦’問題合意直後に発表したメッセージである。

大統領はその後も、折を見てこの合意を強調している。そして、12・28合意を批判する人々を‘無責任な扇動をする輩’と断定してきた。幾つかの例をあげよう。
「最大限の誠意を持って、今できる最高の合意を求めて努力したことを評価すべきです。かつて国政を担当していた時には問題の解決すら試みようとしなかったのに、今になって‘無効’だと主張して政治的攻撃の口実とするのは本当に残念です」(1月13日、年頭記者会見)。

大統領はとりわけ‘真心’と‘切迫性’を強調する。「今でも遅すぎたくらいだ」(上述の年頭記者会見)。「年老いた被害女性(ハルモニ)たちが、1人でもたくさん生きておられる間に問題を解決せねばならないという切迫した心情で、集中的かつ多角的な努力を傾けた結果だ」(3.1節記念演説)と。

だが、いつからか大統領は、この問題を口にしなくなった。「韓日関係も歴史を直視しつつ、未来指向的な関係に新しく作り変えて行かねばならないでしょう」(8月15日光復節の祝辞)。大統領の年間演説のなかでも、最も重要な光復節の祝辞において、‘慰安婦被害者’の‘慰’の字も出てこなかった。韓日関係に関しても、ただ一行の言及に終わっている。

ならば率直に伺いたい。大統領は本当に、切迫した心情でハルモニたちの苦痛に共感しているのか。朴槿恵大統領は好悪の感情を隠すことができない人だ。自分の秘書官出身であるイ・ジョンヒョン議員がセヌリ党の代表(最高職)に選出されるや、大統領官邸に招待した。そして、庶民たちは存在すらろくに知らず口にもできない最高級の、トリュフやフカヒレ料理でもてなした。しかし、2013年2月25日の就任後、大統領は一度もハルモニたちを大統領官邸に招いたことはなく、暖かいご飯の一食すら接待したことがない。否、就任の以前であれ以後であれ、朴槿恵大統領はハルモニたちに直接会ったことがない。一度として手を握ってあげたこともなく、ご飯の一食も共に食べたことがないのに、どうしてハルモニたちの苦痛を共感するというのだろうか?

12・28合意を発表した当事者のユン・ビョンセ外交部長官もまた、合意から今日に至るまで、ハルモニたちには会っていない。ユン長官の言葉もそれらしく聞こえる。「被害者のハルモニたちが皆亡くなった後に合意しても、何の意味があるのか」(2015年12月31日、セヌリ党議員総会での報告)。昨日も‘切迫した心情’(8月28日『韓国放送』の日曜診断)を強調しているほどだ。ところでユン長官はなぜ、合意後すでに6名の方が無念な思いでこの世を去られたのに、ハルモニたちに直接合って説明し、慰労して理解を求めようとはしないのか?

彼はかつて、日本軍‘慰安婦’問題を「反人道的犯罪であり、人類の普遍的な人権問題であり、未解決の生々しい問題」(2014年3月5日、第25回国連人権理事会基調演説)だと強調したのだが…。ユン長官は今年の3月2日にも、第31回国連人権理事会で演説している。しかし彼は、韓日合意を踏まえてか、今回は慰安婦の‘慰’の字も口にしなかった。

大統領と外交部長官が願うのは何だろう? 忘却なのか? 記憶なのか?

収容者の90%がガス室で死んだアウシュビッツの生存者であり、“時代の証言者”でもあったプリーモ・レーヴィは警告した。「事件は起きたし、だからこそ、再び起こり得る。これが私たちの話そうとする核心だ」(『溺れるものと救われるもの』)。レーヴィは遺書とも言えるこの言葉を書き記した翌年、1987年4月11日に、トリノの自宅アパート4階から飛び降りて自ら命を絶った。‘記憶’を避けたがる世の中に疲れて…。

忘却を願うのか、あなたは。

真の民族解放に向けて

2016年08月19日 | 三千里コラム

朝鮮半島の平和と自主統一を求める8・15民族大会(2016.8.15,ソウル・大学路)



久しぶりに、8月15日を祖国で迎えることになった。ソウルの旧西大門刑務所歴史館で開催される「2016西大門独立民主祝祭」に参加するためだ。大日本帝国の植民地統治が終了したこの日を、北では「解放節」、南では「光復節」と呼んで記念している。

今年で6回目になる今年の祝祭では、一つの特別展示が催された。第11獄舎の3号監房をブースにした「在日同胞良心囚-苦難と希望の道」という資料展示だ。ご存知のように1970年代~80年代にかけて、母国留学生をはじめとする数多くの在日韓国人がスパイ罪を捏造され、ここ西大門拘置所に収監された。再審裁判を通じて無罪判決の確定が相次いでいるが、今回の特別展示は、ようやく韓国内でもこの問題に対する関心が高まってきたことを反映しているようだ。

酷暑の折だったが、8月14日の前夜祭にはたくさんの入場者が訪れた。もちろん、他の展示室や文化公演などが中心で、特別展示が世論の注目を集めたわけではない。特別展示の実現には、管轄部署である西大門区庁の役割も無視できない。民選区長が野党(共に民主党)出身の進歩的な人士であったことも、一つの要因といえよう。

韓国民主化運動の成果の一つとして、過去事件の再検討事業を上げたい。盧武鉉政権期に設立され、李明博政権期に解散された「真実・和解のための過去事件整理委員会」がその典型である。だが、この委員会が担った使命は未完の状態だ。真相の究明と被害者の救済がなされていない公安事件が、決して少なくないのだ。そして、民族分断と軍事独裁に基因する民衆の苦痛を、事件数を示す統計データが語り尽くすことはできない。

何よりも祝祭の名称が、私たちの課題が未達成であることを示している。「独立民主」という用語は、植民地統治と独裁政権に抵抗した歴史を象徴している。しかし、「光復」が真の「民族解放」となるためには、分断に終止符を打つ「統一」の二文字が必要だ。遠からぬ未来に、西大門の行事が「独立民主統一祝祭」として開催されることを願ってやまない。

当日(8月14日)の夜、ソウルの市庁広場では「8・15自主統一大会」の前夜祭が開催された。諸団体と全国各地からの参加者で広場は埋まり、「サードの韓国配置撤回、朝鮮戦争平和協定の締結、南北当局対話の再開」などを掲げ熱のこもったスピーチと文化公演が行われた。中でも、全国を巡回して平和統一の気運を高めてきた「統一先鋒隊」の青年学生たちが舞台に登場すると、ボルテージは頂点に達した。

相次いで、プロの芸術家たちにも劣らない公演がくり広げられた。何よりも、日本では想像できない平和統一への熱気に触れることができ、感慨もひとしおだった。統一運動の市民的な拡大という課題が、少しづつ現実化されているようで頼もしかった。

さて、リオ・オリンピックも残り少なくなった。フィナーレはやはり男子マラソンのようだ。思い起こせば、80年前の1936年8月9日、ベルリン・オリンピックの金・銅メダリストは植民地朝鮮の青年だった。ソン・ギジョン(孫基禎)とナム・スンリョン(南昇竜)。「消えた国旗」という事件を記憶される読者も少なくないだろう。表彰台中央のソン・ギジョンから、ユニホームの日の丸を消したとして、民族紙が停刊処分を受けたのだ。

表彰式で日の丸を見上げることを拒否した二人の青年、ユニホームの日の丸を消した民族新聞。植民地の時代を生きたアスリートとジャーナリストの、ささやかな、しかしとても勇敢な抵抗だった。

最後に、朝鮮民族の誇りだった二人のメダリストに関する逸話を紹介しよう。マラソン競技の終了後、大日本帝国の代表チームがレセプションを開催したが、二人は参加せず、朝鮮人だけの祝賀会に現れた。豆腐工場の壁に太極旗を掲げた祝賀会は、在独同胞のアン・ボングンが主催した。アン・ジュングン(安重根)義士の従弟である。

朝鮮国内は二人の快挙に沸き返った。「ソン・ギジョン万歳(マンセー)」の叫びは、1919年の3・1独立運動を彷彿させるほどだったという。8月13日、『朝鮮中央日報』と『東亜日報(地方版)』に日章旗を消したソン選手の写真が掲載された。朝鮮総督府は当時、印刷機の不都合で起きたことだろうと不問にしたそうだ。ところが8月25日の『東亜日報』に再度、日章旗のない写真が登場するや大騒ぎになった。『東亜日報』は無期停刊、独立運動家ヨ・ウニョン(呂運亭)が社長の『朝鮮中央日報』は廃刊に追い込まれた。

青年ソン・ギジョンの気概も大したものだった。ベルリンで外国人にサインを求められると、必ずKOREAと書いた。一連の行動から大日本帝国の特別高等警察は、彼を要視察人物としてマークした。ヨ・ウニョンとも親しく、私席では「思想犯として睨まれても構わない」と発言していた彼に対し、大日本帝国の報復は残忍で執拗だった。

「不逞鮮人が独立の気運を高めかねない」との理由で、彼はその後、内外の主要な大会に参加できなかった。マラソン・ランナーとして全盛期だったソン・ギジョンの心情は如何ばかりであったろうか。翌年、彼は明治大学の予科に入学するが、陸上部には入らなかった。彼が再びトラックに勇姿を見せるのは1988年、ソウル・オリンピックの最終聖火ランナーとしてだ。ベルリンの英雄はすでに、76歳だった。(JHK)

 

怪物『サード』と戦う韓国社会

2016年07月16日 | 三千里コラム

『サード』配置に反対する星州郡の住民(7.13)



2006年、韓国では「怪物(クェムル)」という映画が大ヒットした。駐韓米軍基地から放流された化学汚染廃棄物が原因で、漢江に巨大な化け物が発生して住民を襲うという内容だった。10年後の今年、新たな怪物が出現した。名前を『サード(THHAD=終末高高度ミサイル防衛体系)』という。韓国社会は大変なパニックに陥っているが、発生の根源はやはり米国だ。

7月8日、米韓の両政府は記者会見で、駐韓米軍基地への『サード』配備を表明した。5日後の7月13日には、配置区域が慶尚北道星州郡に決定したと発表している。国会の審議を経ておらず、地域住民の世論を聴取したわけでもない。決定と発表は一方的だった。今回の決定には、朴槿恵大統領の意向が強く反映されているという。

政府の公式発表文によると、『サード』配置は“北朝鮮の核兵器・弾道ミサイルの脅威から大韓民国と国民の安全を保障し、韓米同盟の軍事力を保護するための防御的な措置”だという。もし政府の説明が正しいのなら、どうして星州郡の住民だけでなく、野党や各地の市民団体まで『サード』配置にこぞって反対するのだろうか。

軍事的な見地から、『サード』が北朝鮮のミサイル迎撃には無用の長物だと言われてきた。また、環境破壊や電磁波による地域住民の健康侵害も指摘されている。何よりも、米国の真意が中国(ロシア)を軍事的に牽制するためであることは明白で、中韓関係の悪化と東北アジアの緊張激化は避けられない。朴槿恵政権は対北制圧政策の一環と見なしているようだが、この怪物を引き入れることは韓国の国益を大きく損なうことになるだろう。

今回の『サード』騒動を見るにつけ、米韓の従属的な関係がいかに深刻な弊害をもたらすのか、痛感せざるを得なかった。そして、敵対的な南北関係に埋没する韓国の保守政権は、亡国的な対米依存を深化させるしかないようだ。

『サード』配置の発表は電撃的だったが、決定の過程はそうではない。数年間の周到な準備と検討を経たものである。国内世論の反発を恐れた韓国政府が、その過程を隠し続けただけだ。1年前にも『サード』配置をめぐる論争が、主要なメディアに取り上げられていた。その際に、韓国政府は「3No」を掲げて煙に巻いたものだ。“米政府の要請もなく、両国間に協議もなかった。よって何らの決定もない”という「3No」である。

しかし、『サード』配置が公式的に提起されたのは、それより前の2014年6月3日である。当日、ソウル市内の某ホテルで国防研究院が主催した安保フォーラムが開かれた。その席上、当時の駐韓米軍司令官カーティス・スカパロッティは「韓国への『サード』配置は米国の主導権(initiative)だ。司令官として、すでに私は本国政府に配置を要請した」と述べている。

“主導権”という表現は、韓米関係の本質を象徴する言葉だ。有事の作戦指揮権(事実上の統帥権)を米軍に譲渡している韓国政府は、駐韓米軍基地内にどのような兵器が導入されるのか、関与する権限すら与えられていない。米軍の決定に従うだけである。1950年代後半にどの種の核兵器が導入されたのか、それがいつ、どのような理由で撤去されたのか(誰も確認していないが)、韓国政府と国民は事後に推測するしかない。

今回も同様だろう。ただ、米政府が周到なのは、形式的ではあるが、韓国政府の体面を慮る素振りを見せていることである。“主導権”という上から目線ではなく、“同盟次元での合意”という体裁を装うことにしたのだ。提案者はカーティス・スカパロッティの前任者、バーウェルベル元駐韓米軍司令官である。

2014年7月、ワシントンで開かれた某セミナーで彼は、「『サード』の配置は韓国民にとって極めて複雑な問題だ。韓国政府が合意を受け入れ、国民の同意を得やすいように配慮すべきだ」と忠告を忘れなかった。それで、今回の両政府公式発表文には、“主導権”という用語を避けて“同盟次元での決定”と表記されれいる。

だが、単なる言葉遊びで、従属的な米韓同盟の本質が糊塗されるものでもあるまい。今回の『サード』配置を法律的な観点で見るなら、韓国の「防衛事業法」ではなく、「駐韓米軍地位協定」を適用したことに注目すべきであろう。地位協定(SOFA)の正式名称は「大韓民国とアメリカ合衆国との間の相互防衛条約第4条に基づく施設及び区域並びに大韓民国における合衆国軍隊の地位に関する協定」だ。そして、1953年10月1日に結ばれた「韓米相互防衛条約」は、1951年9月の「日米安保条約」をモデルにしている。

「駐韓米軍地位協定」第2条は次のような内容だ。
「合衆国は大韓民国内の施設と区域の使用権を供与される。各施設と区域に関する協定は、本協定28条の規定する合同委員会を通じて両政府が締結する」。

つまり、韓国政府にできることは、『サード』配置に適切な地域を選び、米政府に供与する協定に署名することだけなのだ。7月13日、『サード』配置の地域を星州郡と発表したことは、両国間ですでに、
星州郡供与の協定が締結されたことを意味する。

だが、問題はこれで終わらない。政府の責任は厳しく問われねばなるまい。どのような条件で土地を供与したのか、臨時的なのか永久供与なのか...。国防長官は米政府との『サード』配置協定を公開すべきである。供与期間だけでなく、供与土地の規模や私有地の収用有無も明らかではない。にも拘らず、『サード』の配置は“決定であって国会の同意対象ではない”と強弁するなら、もはや民主的な法治国家の行政とは言えないだろう。

また、『サード』の運営費用が年間1兆5千億ウォン(約1500億円)だというが、誰が負担するのか。国民の疑問と抗議に応える意味からも、朴槿恵政権は『サード』配置協定の全文を即時に公開すべきである。たとえ“大韓民国と国民の安全を保障する”協定であり合意といえども、主権者である国民の同意(国会の承認)がなければ無効である。大統領の決断が「法律」ではないからだ。

最後に、『サード』配置に強く反対してきた中国政府の見解を引用したい。政府系の機関紙『環球時報』は7月10日付ウェブサイトに掲載した労木の署名記事で次のように述べている(浅井基文さんのコラム「21世紀の日本と国際社会」http://www.ne.jp/asahi/nd4m-asi/jiwen/thoughts/2016/821.htmlを参照)。

「中国は韓国に対して一再ならず、『サード』の韓国配備を許すことはアメリカのために火中の栗を拾うことであり、韓国にもたらされるのは安全の高まりではなく、安全がさらに損なわれることだと諫めてきた。...韓国はアメリカの圧力に屈し、『サード』を我が家に導き入れ、自分を縛った縄をアメリカの手に差し出した。その行動は中露の怒りを買い、本来は良好だった中韓関係に破壊的要因を持ち込んだ。大国の駆け引きにわけも分からないままに口を差し挟むと、うまくやらない場合には引火して我が身を焼くことになるという自明の道理を、韓国当局は認識するべきであり、...」。

10年前の映画では、市民が力を合わせて怪物(クェムル)を退治した。今回の『サード』という迷惑な怪物も、市民の連帯した力で退治したいものだ。だがその連帯は、国際的なものとして推進されるしかないようだ。なぜなら、『サード』の重要なパーツが、青森県つがる市の車力分屯基地や京丹後市経ヶ岬に設置されたXバンド・レーダーなのだから。(JHK)

朴槿恵大統領のマッカーシズム

2016年06月28日 | 三千里コラム

首席秘書官会議で冒頭発言を述べる朴槿恵大統領(6.27,青瓦台)



朴槿恵大統領は6月27日、青瓦台(大統領官邸)で首席秘書官会議を主宰した。大統領は韓国社会が総体的な危機状況にあるとの認識を示し、それへの対処として、国民の団結と政府への全面的な支持を強調した。

当日、北への露骨な敵意を反映した大統領の言辞は、冷戦時代のマッカーシズム(アカ狩り)を彷彿させるものだった。特に国内の反対勢力を“内部の敵”と規定しその一掃を煽動するのは、実父・朴正煕の独裁統治下で見飽きた手法である。現政権への批判の意を込めて、会議における朴槿恵大統領の主要発言を検証したい。

朴槿恵大統領の現状認識は以下の通りである。
「英国のEU離脱など、韓国経済を取り巻く内外の条件は日増しに悪化している。加えて、ミサイル発射をくり返す北朝鮮の挑発行為は、わが国の安全保障に深刻な危機をもたらしている」

ところが、危機状況への対処において朴槿恵大統領は、極めて飛躍した見解を述べている。
「国論を分裂させ北朝鮮を擁護する勢力が存在する。彼らが公然と活動しているのを座視してはならず、防止しなければならない。...国家の危機に際して最も警戒すべきなのは、内部の分裂と無関心だ。かつて(南)ベトナムが崩壊したのも、国内の分裂と国民の無関心が大きな原因だった」

では、朴槿恵大統領の言う「国論を分裂させ北朝鮮を擁護する勢力」とは誰か?
どうやら、『民主社会のための弁護士の集い(民弁)』を指しているようだ。民弁は今、政府が総選挙の直前に公表した集団脱北(中国の北朝鮮食堂女性従業員)事態に対し、当事者たちの身辺保護と意思確認が必要だと主張し、彼女たちとの面会を要求している。言うまでもなく、真相の究明を恐れる政府は一切の面会を許可しない。

また、「共に民主党」前代表のムン・ジェイン氏も含まれているのだろう。彼は米政府に対し、戦時作戦統制権(事実上の統帥権)の返還を要求すべきだと主張しているからだ。前日(6月26日)に出した論評で与党・セヌリ党は、ムン・ジェイン氏に「北朝鮮の政権を擁護する態度だ」と露骨な非難を浴びせている。

民弁やムン・ジェイン前代表を“内部の敵”と見なす朴槿恵大統領は、北への制圧政策に全力を投入してきた。“圧力をかけ続ければ北の体制は崩壊する”との妄想への執着は、歴代のどの大統領よりも強いようだ。以下の発言から、その一端を窺えるだろう。

「北朝鮮を変化させる唯一の方法は、より強力な制裁と圧迫だ。北朝鮮の核・ミサイル開発意志よりも、これを防ごうとする私たちと国際社会の意志がはるかに強いということを、彼らに見せつける必要がある。国際社会は今、北朝鮮問題に対してどの時よりも強力な連帯を形成している。このような国際社会の連帯とともに、私たち国民の団結と意志が何よりも重要だ」

朴槿恵大統領の頑なな発言には、野党からも驚きを越えた慨嘆の声が後を絶たない。とりわけ、金大中元大統領の三男、金弘傑(キム・ホンゴル)「共に民主党」前国民統合委員長
の指摘が的を射ている。彼は当日のツイッターで次のように述べた。

「故障した録音機でもあるまいに、いつまで昔ながらのアカ狩りと従北騒動に熱を上げているのだ。...南ベトナムの崩壊は、植民地支配に協力した反民族的で無能な指導層のためだ。彼らが国民を分裂させて戦意を喪失させたのだ」

彼はまた、現政権の悪政を厳しく糾弾している。
「テロ防止法や国定教科書の導入を強行して国民を分裂させたのは誰か。...ベトナム崩壊を口実に国民を脅迫し、大統領緊急措置を宣布したのは朴正熙だった。独裁政権の手法を再び使うというのか!韓国経済が深刻な状況だと言いながら、呑気な外遊に明け暮れているのは、他でもない大統領御本人ではないか。総選挙で苛酷な審判を受けたなら、少しは自重するのがよろしかろう」

参考までに、世論調査機関『リアル・メーター』が6月23日付で公表した朴槿恵大統領の支持率は、前週に比べ2.3%下落の35.1%である。一方、不支持率は2.0%上昇し60.0%だった。35%の支持率を、どう評価すべきなのか...。「不安定」には違いないが、「レーム・ダック」と見なすにはまだ尚早のようだ。ただ明らかなのは、大統領には、総選挙の民心を尊重する意志は皆無であるということだ(JHK)。

「5.18光州民主化運動」の36周年-真相は究明されたのか?

2016年05月19日 | 三千里コラム

光州民衆抗争36周年の前夜祭(5.17,光州市)



36年前の1980年5月18日、光州市民は新軍部勢力の「5・17非常戒厳全国拡大措置」に反対し、憲政破壊と民主化の逆行に抵抗して起ち上がった。全斗煥・盧泰愚を中心とする新軍部勢力は、事前にデモ鎮圧訓練を受けた空挺部隊を投じてこれを暴力的に鎮圧したために、数多くの市民が犠牲となった。市民虐殺の契機となったのは、その年の5月21日、国防長官室で開かれた新軍部勢力指揮官たちの緊急会議だった。出席者は、イ・フィソン(参謀総長、戒厳司令官)、全斗煥(合同捜査本部長、保安司令官)、盧泰愚(首都警備司令官)、チョン・ホヨン(特殊戦司令官)などである。“光州市民の闘いが激しく鎮圧が容易ではない”との現地報告を受けた彼らは、出動した軍人たちに「自衛権の発動(発砲許可)」を決議する。

自衛権発動の決定から約2時間後の同日午後1時、光州市クムナム路では戒厳軍が市民に対し一斉射撃を開始した。銃声が鳴り止んだのは午後4時だった。その日だけで、キム・ウァンボン君(当時中学三年生)ら34名が犠牲となった。自国民を躊躇なく虐殺する戒厳軍に対抗するため、光州市民は手に銃を取り「市民軍」が組織された。他地域の支援を得ることもできず完全に包囲され孤立した状況だったが、光州市民は全羅南道の道庁に篭り民主主義の松明を掲げ続けた。5月27日午前0時、戒厳軍の一斉攻撃を受け闘いは鎮圧された。10日間の闘いは夥しい犠牲をもたらした。政府の発表によっても、死者166人(傷痍後遺症の死者376人)、行方不明者54人、負傷者3,139人である。

長い間、光州市民の闘いは“北が扇動した暴動”“光州事態”などと罵倒され歪曲された。“暴徒”ではなく「市民軍」、“事態”ではない「民主化運動」として正当な評価を受けるまでには、光州という地域を超えた韓国市民社会の目覚めが必要だったし、苦難に満ちた民主化運動の進展を待たねばならなかった。その後、1987年の全国的な民主化抗争と文民政権(金泳三政権)の登場を機に、1995年「5・18民主化運動などに関する特別法」が制定され、犠牲者に対する補償および犠牲者墓地の聖域化がなされた。また、1997年には「5.18民主化運動」を国家記念日に制定し、その年から政府主管で記念行事が開かれている。

ところが、李明博・朴槿恵政権のもとで極右勢力を中心に、歴史を修正し光州民主化運動の精神を貶めようとする動きが本格化している。5月18日、光州市で開催される記念行事に、朴槿恵大統領は今年も参加しなかった(3年連続)。そして、記念式典で歌われてきた「ニム(あなた)のための行進曲」の斉唱を引き続き拒否している。合唱には反対しないそうだ。「合唱」と「斉唱」はどこが違うのか? 本質的な歴史認識の差異が反映される。参加者にとって「合唱」は聞くもので、必ずしも一緒に歌うことではない。一方、「斉唱」は民主化運動の精神を継承する意思を込めて、参加者が全員で歌うのが前提である。今年の記念式典に大統領代理で参加し演説したファン・ギョアン国務総理は、周囲の参列者が自発的に「ニム(あなた)のための行進曲」を斉唱している間も、固く口を閉じて立っていた。“民主化運動ではなく暴動事態だ”という自身の頑なな認識を表明するかのように…。

さらに看過できないのは、5月17日発刊の『新東亜』6月号に掲載された全斗煥のインタビュー記事だ。そのなかで彼は「あの当時、誰が国民に“発砲しろ”と命令するかね。馬鹿なことを言うんじゃないよ! 私は光州事態とは何の関係もない」と、白々しく市民虐殺の責任を否定している。今も“光州事態”と呼んで憚らない彼の認識が、全てを代弁しているだろう。おそらくそれは、朴槿恵現大統領の歴史認識とも共通すると思われる。前述したように、「自衛権発動」という名目で市民への発砲を許可したのは彼らだった。誰よりも、当時の新軍部勢力で最高権力者だった全斗煥が発砲命令の責任を回避し、それが容認されている現状は、36年を経た今も「5.18光州民主化運動」の真相究明がなされていないことを如実に示している。

1995年12月に「5・18民主化運動などに関する特別法」が制定され、検察は全斗煥・盧泰愚元大統領をはじめ5・18の虐殺関連者16人を起訴した。そして1997年4月には、大法院(最高裁)が彼らに「内乱罪」を適用し無期懲役などの重刑判決を確定している。しかし、主要起訴項目の内乱罪や不正蓄財は、1979年12月の「粛軍クーデター」や執権後の不正蓄財を裁いたもので、光州市民の虐殺を断罪したものではなかったのだ。ちなみに同年12月、全斗煥・盧泰愚らは大統領の特赦で釈放された(2205億ウォンの追徴金を課せられた全斗煥は、今も1673億ウォンを未納)。一大茶番劇の幕はこうしてあっけなく閉じられた。

検察が作成した10万ページ余りに達する訊問調書のどこにも、「発砲命令者」は記載されていない。軍人の銃に撃たれた死者は数百人なのに、銃を撃てと命令を下した者はいないのだ。錦南(クムナム)路など、光州市の随所で虐殺を実行した現場の指揮責任者が誰一人として起訴されなかったのは、彼らが「上官の命令により行動した」と陳述しているからだ。命令を受けて虐殺に加担した者はいるのに、自国民を殺せと命令した者は存在しない。このような歴史の冒涜を許してきたのが、この36年だったのだ。1993年、韓国の市民社会団体は5.18関連諸団体と「5・18問題解決の5大原則」に合意した。①真相究明、②責任者処罰、③名誉回復、④集団賠償、⑤記念事業、がその5原則である。①と②の原則を貫徹するうえで、核心は発砲命令者を明らかにすることではないだろうか。

「ニム(あなた)のための行進曲」のフレーズにあるように、歳月は流れても山河は覚えている。「光州民主化運動」を“光州事態”と歪曲し、「市民軍」を“暴徒”と罵倒する輩が、今も白昼堂々と“愛国者”として振る舞う状況を座視してはならない。真相を究明して責任者を断罪することでしか、真の名誉回復は達成されないからだ(JHK)。

韓国総選挙の民心

2016年04月18日 | 三千里コラム

無所属で当選した「統合進歩党」出身のユン・ジョンオさん(4.13,蔚山市)



4月13日、韓国で第20代国会議員総選挙が実施された。事前に野党が分裂したことから、与党「セヌリ党」の圧勝が予測されていた。ところが、「セヌリ党」は過半数議席どころか、第1党の地位からも転落するという意外な結果となった。今回の総選挙ほど、専門家たちの予測が外れた選挙もなかっただろう。本稿で、選挙結果に現れた韓国社会の民心を分析してみたい(JHK)。

1.各党の議席数と得票率の変化

韓国の国会議員総選挙は、小選挙区と比例代表の並立制で行われる。地域区253人、比例代表区47人の議員が選ばれ、任期は4年だ。各党の議席数を前回総選挙と比較すると、次のとおりである。「セヌリ党」(146⇒122)、「共に民主党」(102⇒123)、「国民の党」(20⇒38)、「正義党」(5⇒6)、無所属(⇒11)。また、比例代表の得票率では「セヌリ党」=33.5%、「共に民主党」=23.5%、「国民の党」=26.7%、「正義党」=7.2%だった。「国民の党」と「正義党」は今回新たに結成された新党なので、得票率の推移を比較できない。だが、「セヌリ党」は12.5%、「共に民主党」(旧民主統合党)は11.0%と、いずれも前回に比べ得票率が大きく減少している。

にも拘らず、「共に民主党」が第1党になったのだ(「セヌリ党」の公認を得られず無所属で当選した7人は復党の意志を表明しており、「セヌリ党」が129議席で第1党になると予測される)。今回の選挙結果には、小選挙区制の抱える問題点をはじめ、幾つかの要因が重層的に作用している。ただ、表面上の結果からは、「セヌリ党」=惨敗、「共に民主党」=善戦、「国民の党」=躍進、「正義党」(他の進歩政党も含め)=停滞、と短評できるだろう。

2.民心の審判

今回の総選挙は言うまでもなく、朴槿恵政権の愚政に対する容赦なき審判であった。韓国市民は国政全般に渡る大統領の傲慢で独善的な姿勢に憤怒しており、何よりも、経済の失政と南北関係破綻の責任を厳しく追及したと言えるだろう。具体的には、セウォル号惨事の真相究明放棄、歴史教科書国定化の強行、日本軍「慰安婦」問題の屈辱的な対日交渉、国会と野党を無視した強引な政局運営、青年失業率と家計債務の増大、開城工団の閉鎖と南北関係の断絶など、枚挙にいとまがない。何一つ、肯定的な評価に値する治績は見当たらないのが現状だ。このままではおそらく、最も無能な大統領として記憶されるのではあるまいか。英国公営放送『BBC』や米紙『ニューヨーク・タイムズ』なども、「朴槿恵大統領の独断的な統治スタイル、反政府デモへの強硬な対応」などを敗因としてあげている。

今回は、特定の政策をめぐる与野党間の論争も殆どない選挙だった。与野党は経済悪化の責任を相互に転嫁するだけで、未来への政策展望を何も提示しなかった。また、北朝鮮の核・ミサイル開発と米韓合同演習の強化という高度の軍事緊張下で実施された選挙だったが、外交・安保・統一問題などは争点にもならなかったのだ。実際の選挙遊説でも、与野党間にこれといった差異が見えなかった。さらに、比例代表候補の選出過程を見ると、経歴や資質の疑わしい人士を与野党の指導部が不明瞭な基準で公認するという、旧態まで露呈していた。有権者が投票場に向かう動機を見つけるのが困難で、「史上最悪の選挙」になるだろうと酷評されていたほどだ。

しかし、前回に比べ投票率は3.8%上昇し(54.2⇒58.0)、過半数議席の獲得を目指した与党は第2党に後退した。予想外の結果をもたらしたのは、有権者が共有した政権交代への強い願望だったと言えよう。韓国市民はもはや朴槿恵大統領の“統治”を望んでおらず、民主政治の回復と朝鮮半島の平和定着、公正な分配による格差の解消を求めているのだ。

ここで看過すべきでないのは、民心は「大統領と政権与党を厳しく審判した」のであり、「野党に全面的な支持と期待を表示した」のではないという事実だ。「共に民主党」と「国民の党」が議席を増やしたのは、両党の政策や主張が共感を得たからではない。あくまでも、朴槿恵政権と「セヌリ党」の失政がもたらした“反射利益”にすぎない。両党が一時的なバブル議席に酔いしれていると、民心の新たな審判を免れないだろう。

すでに「共に民主党」は今回、伝統的な支持基盤の全羅道で有権者の峻厳な審判を受けている。この地域で総28議席のうち、同党はわずか3議席を得たに過ぎない。「国民の党」が23議席、与党が2議席だった。特に「民主化運動の聖地」と呼ばれる光州市で全敗した(「国民の党」が全8議席を獲得)ことは、「共に民主党」にとって致命的な痛手と言えよう。

全羅道の民心が「共に民主党」から離反したのは、南北関係の悪化と政権の公安弾圧(「従北」攻勢)に際し、同党が右傾化を選択し保身に回ったことに起因している。金大中政権期の南北和解・協力政策(太陽政策)を擁護せず、その成果である開城工業団地の一方的な閉鎖を阻止しなかった「共に民主党」の現状は、全羅道の民心が同党への支持を撤回する十分な根拠となった。その結果、代案として「国民の党」に票が流れ第3党に浮上したのだ。

しかし、共同代表の安哲秀をはじめ「国民の党」の主要人氏は、ほぼ全員が中道もしくは穏健保守に分類される。決して、南北関係の改善や和解協力政策に粉骨砕身する意思を持っているとは思えない。同党のスローガンである“新しい政治”も何を意味するのか、具体的なイメージすら湧いてこない。野党内で主導権確保に失敗した「安哲秀とその仲間たち」が離脱し、「政権交代のためには第3党が必要だ」と旗を上げ、既存野党に失望している全羅道民に受け入れらたのだ。

これも一種の“反射利益”と言える。全羅道における変化は、「共に民主党」に対する審判の結果であって、「国民の党」への全面的な支持を意味するものではない。また、「国民の党」が名実ともに第3党として認定されるには、まだ程遠いと言わざるをえない。全羅道以外の地域では、ソウル市で2議席を得ただけなのだ。地域政党としての限界は明白であろう。

3.今後の展望と課題

今回の選挙は図らずも、憲法第1条の「大韓民国は民主共和国である。大韓民国の主権は国民にあり、すべての権力は国民より出る」を実感する場となった。韓国民衆の躍動的な力量を示し、民主化の成果が決して消尽したのではないことを証明したからだ。主(あるじ)である民(たみ)が、自らの意志で、保守政権による後退と反動への流れに歯止めをかけたのだ。野党は候補一本化に失敗したが、市民が自らの判断で、当選可能な候補を選択して投票した。首都圏における「共に民主党」の勝利は、こうした市民の賢明な判断によるものだ。

市民社会の意志はさらに、1987年の民主化抗争以後、30年間にわたって韓国社会を規定してきた「地域対立の構図」を変革する動力となっている。朴槿恵大統領の地元であり保守勢力の拠点でもある大邱市で、「共に民主党」の次世代ホープ、金富謙(キム・ブギョム)が与党の重鎮に圧勝した。大邱市をはじめ与党の支持基盤地域である慶尚道は総65議席の票田だ。今回、野党と無所属が17議席を占めたのは重要な意味を持つ。野党地域の全羅道でも、「セヌリ党」が2議席を獲得している。

「地域主義」に根ざした87年体制が崩壊に向かい、その代わりに「世代対立の構図」が顕著になっているようだ。特に、20代~40代の人口比率が高くその世代が積極的に投票した地域では、「共に民主党」と「正義党」、そして無所属の議席が増えている。こうした傾向は2012年の大統領選挙でも顕著だった。20代~40代は野党の文在寅候補に、50代以上は朴槿恵候補に票が集中した。ただ、全羅道と慶尚道だけは例外だった。両地域は世代を問わず、野党と与党に圧倒的な支持を与えたからだ。しかし今回、両地域でも世代間の差異が顕著に現れた。全羅道の20代~40代は「共に民主党」、50代~60代は「国民の党」を支持した。慶尚道では、50代~60代が「セヌリ党」を支持したが、20代~40代は「共に民主党」と無所属支持に傾斜している。

社会を変革し歴史を創造する力の源泉はどこにあるのだろう。それは民衆の「ひたむきな心」ではないだろうか。矛盾だらけの現状を変えたいという「ひたむきな心」だ。今回の選挙も、20代~40代の「ひたむきな心」がもたらした結果だと思う。中央選挙管理委と各放送局の出口調査によると、前回(2012年)に比べ世代別の投票率推移は以下の通りである。20代(45.0%⇒49.4%)、30代(41.8%⇒49.5%)、40代(50.3%⇒53.4%)。一方、50代以上の増加率は1%に満たない。政権に失望した高世代は投票に行かなったが、20代~40代は「ひたむきな心」で政権交代への強い意志を投票で示したのだ。

来年の12月に大統領選挙が控えている。政権交代を実現するには野党勢力の連帯が不可欠だ。「国民の党」の躍進で20年ぶりに三党体制が出現した。しかし不安定で過渡的な三党体制だ。「国民の党」は選挙後に、いち早く「セヌリ党」内部の反朴槿恵勢力に連帯のエールを表明している。一方、大統領候補に知名度の高い人物が見当たらない「セヌリ党」は、安哲秀に大統領候補の座を譲ってでも政権の延長を企図するかもしれない。大統領への道が開かれるのなら、どの政党であっても厭わないのが「安哲秀とその仲間たち」ではないだろうか。かつて金泳三が、与党との野合で大統領候補の座を得たように。

かつて金大中が野党の指導者だった時期、政権交代に向けた最大の拠り所は全羅道民の「ひたむきな心」だった。しかし今、盧武鉉政権を誕生させたもう一つの要因である、特定地域を超えた進歩・民主勢力の「ひたむきな心」なくしては、2017年の政権交代は実現しないだろう。その中核を担う20代~40代の意志に期待したい。この世代の力が、野党勢力の連帯を推進することを願う。

最後になったが、蔚山の地で、二人の無所属議員が誕生している。キム・ジョンフン(51歳)とユン・ジョンオ(52歳)だ。二人は労働運動の経歴が長く、朴槿恵政権の弾圧で強制解散された「統合進歩党」に所属していた共通点を持つ。二人はまた、与党の牙城だったこの地域で市議や区長を努めながら、労働者と市民の支持を広げていった。今回の選挙で民衆は、朴槿恵政権を審判し民主政治への確固たる意志を表明した。同時に、不当な弾圧でも決して消滅しない進歩政党の新たな可能性を、力強く立証した。韓国民衆の奮起に拍手を!

制裁? 対話と交渉!

2016年04月05日 | 三千里コラム

各界人士818名による「今こそ制裁ではなく、対話と交渉を開始せよ!」共同宣言(3.31,ソウル)



3月31日、ワシントンでの第4回核安全保障サミット期間に米中首脳会談が開かれた。日本の報道では、両国首脳が「対北朝鮮制裁決議の全面的な履行意思を再確認した」と伝えるだけだ。しかし、国連安保理の決議2270号は単に制裁という要素だけではなく、対話と交渉によって朝鮮半島の非核化(北朝鮮の非核化ではない!)と平和体制を追求するという側面も含まれている。決議の第49項は「朝鮮半島・東北アジアにおける平和と安定の維持」、第50項は「六カ国協議と『9.19共同声明』の支持」となっているのだ。制裁決議の全面履行とは、これら項目の実現に向けて米中両国が共同で努力することの確認でもある。

4月1日、中国外交部の報道によれば、米中首脳会談で習近平主席は「中国は一貫して、朝鮮半島の非核化・朝鮮半島の平和と安定・対話と交渉による諸問題の解決、という原則を堅持してきた」と述べたそうだ。北朝鮮の第4回核実験以降、中国の首脳が米大統領に「対話と交渉による解決」を求めたのは、これが初めてのことだろう。
周知のごとく、史上最強レベルの対北朝鮮制裁決議が3月2日に採択され、史上最大規模の米韓合同演習が3月6日から始まった。そして南北双方が互いの最高指導者を標的にした軍事作戦の敢行を表明するなか、朝鮮半島の軍事緊張は「休戦協定以降で最高位」とまで言われている。一触即発とも見れる危機状況だが、筆者は「戦争から平和」に向かう変化の兆しを感じている。

まず、1月の核実験から制裁決議の採択に8週間も要したことは、何を意味するのだろうか。明らかに、制裁だけでは“北朝鮮の核・ミサイルの脅威”を解消できないこと、国連安保理が問題解決の有効な場ではないことの反映であろう。別の表現をするなら、朝鮮半島の非核化は朝鮮半島平和体制(核心は朝鮮戦争の平和協定)の一部分であり、その実現は安保理の制裁強化ではなく六カ国協議の合意履行を通じてこそ可能であることを、ようやく米中を始めとする関係国(日韓両国は除き)が自覚するようになったのだ。

次に、米中両国が制裁決議案を論議するなかで到達した合意内容だ。2月17日、中国の王毅外相は「朝鮮半島の非核化と米朝平和協定を並行して推進する」との提案を行った。さらに同23日、米中外相会談で両国は「制裁は対話のための手段であり、朝鮮半島問題の対話による解決」を表明している。衝撃的だったのは、2月21日付米紙『ウォールストリートジャーナル』の記事だった。昨年末に米朝両国がニューヨークで、平和協定交渉に関し非公開で接触したというのだ。この報道に関し米国務省は「われわれは平和協定に関する北朝鮮の提案を慎重に検討し、非核化がそうした論議の一部として含まれるべきだと言明した」というものだった。

これまでは「非核化(北朝鮮の核放棄)をあらゆる交渉の前提」にしてきた米政府が、「平和協定と非核化をパッケージにして一括交渉する」立場に移行しつつあると読める内容だ。米政府は制裁を前面に掲げているが、一角で交渉の余地も残している。それは、2006年以降くり返された安保理制裁に効力はなく、平和協定締結の提案を受け入れることでしか、北朝鮮の核問題は解決されないと悟り始めたからだろう。その意味で3月8日、全国人民代表大会における王毅外相の記者会見は、米朝関係の今後を予測するうえで参考になる。彼は次のように述べた。「非核化は国際社会の確固とした目標であり、停戦体制の平和体制への転換は朝鮮の合理的関心であり、両者を併行して交渉し統一的に解決することは、公平かつ合理的であるとともに、確実に実行可能でもある。」

そして、もう一方の当事者である北朝鮮も明確なシグナルを送っている。4月3日、国防委員会は報道官談話を通じて以下のようなメッセージを表明した。
「…一方的な制裁よりも安定の維持が急務であり、無謀な軍事的圧迫よりも交渉への転換が根本的な解決策であり、制度転覆の企図よりも無条件の体制承認と協調こそが賢明であるとの世論が大勢となっている…」。3月7日、米韓合同演習の開始直後に出された国防委員会の声明とは、明らかに異なるトーンである。当時、声明の基調は「米国とその追従勢力による核戦争の挑発狂気に全面対応するため、総攻勢に進入する」との過激な警告だった。今回、談話のキーワードが「安定の維持、交渉への転換」であることに注目したい。平和協定交渉に向け、米政府に“ボールを投げた”と言えよう。

ボールは米側のコートにある。受けて返すのか、以前のように無視するのか。選択は米政府にかかっている。残念ながら、韓国政府は変化の現状を直視していないようだ。朴槿恵政権の国防部は、北の談話に対し「今は国際社会が一致して対北制裁を強化している時期だ。対話について論じる時ではない」と一蹴した。参考までに、3月31日、韓国の市民社会と宗教界を代表する818名の人士が「今こそ制裁ではなく対話を!」という趣旨で共同宣言を発表した。宣言は、他でもない「朝鮮半島の平和協定と非核化の同時解決」を訴えている。そして、4月13日の国会議員総選挙を控え、主要な三野党もすべて「平和協定と非核化の同時解決」を公約として掲げている。制裁への執着がもたらすのは戦争の危機だけである。朴槿恵政権の覚醒を促したい。(JHK)

韓国の国会議員総選挙-野党か勝利する道は?

2016年01月24日 | 三千里コラム

労働法の改悪阻止とゼネスト決起を訴え行進する民主労総(1.23,ソウル駅前)



4月13日、韓国では第20代国会議員総選挙が実施されます。1月22日の時点で各党の議席数は以下の通りです。与党「セヌリ党」157、「トブロ民主党(以下、民主党)」110,「正義党」5,「無所属」20。無所属のうち15人は、アン・チョルス氏をはじめ、民主党を離党し「国民の党」結成(2月2日に創立大会)を準備している議員たちです。

李明博・朴槿恵と保守政権が続くなか、韓国の民主主義は大きく後退しました。また、自殺率や老人の貧困率、最低賃金に満たない勤労者の比率などにおいて、韓国は「経済協力開発機構(OECD)」加盟国の中で第一位を占めています。青年失業率の高さや非正規職勤労者の比率も、世界のトップクラスです。金大中・盧武鉉政権期に導入された新自由主義の経済政策が、保守政権の下で更に深化したことで韓国は極端な格差社会となりました。昨年の統計によれば、上位1%の階層が国富の26%を占めています。上位10%に拡大すると、その占有率は66%になります。

4年前の総選挙と大統領選挙で、「経済の民主化」が最大の争点になったのは当然のことでした。富の公正な分配と福祉の拡大を要求する有権者に対し、最も熱弁をふるったのがセヌリ党と朴槿恵候補です。過ぐる4年の間、与党と大統領が掲げた「経済民主化」の公約は死文と化して久しく、もはや誰も省みようとはしません。ところが、政権交代を求める声はまだ、多数世論とはなっていないのです。『韓国ギャロップ』が1月22日に発表した世論調査結果によると、各政党別の支持率は「セヌリ党」38%、「民主党」19%、「国民の党」13%、「正義党」3%の順です(支持政党なし:26%)。一方、朴槿恵大統領への支持率は39%(先週に比べ4%の下落)、不支持率は49%となっています。

多数の市民は現政権に不満を抱いていますが、現存の諸野党に次期政権を託すだけの期待や希望を持てないようです。3野党が連帯し候補を一本化しても、ようやく与党に対抗できるレベルなのです。しかし、市民が切望する社会改革への展望を、どの政党もまだ、公約として提示していません。“新しい政治”を掲げて政界入りしたアン・チョルス氏は、イメージだけが先行しています。「民主党」を離党して結成する「国民の党」も“中道路線”を志向するそうですが、「改革なき中道」は「保守」の別称に過ぎません。世論調査の推移を見ると、「国民の党」に対する旗揚げ当初の期待値が徐々に下降しています。参考までに、昨年11月から12月にかけて開催された民衆決起大会に、アン・チョルス氏は一度も顔を見せていません。彼と行動を共にした議員たちも、殆どが“過激な行動”を批判する側に立っています。

1月19日、こうした現状を憂い、次期総選挙での勝利と民主主義の回復を目指す市民たちが声を上げました。野党勢力に連帯と団結を訴え、仮称「フォーラム、再び民主主義を!」の結成を呼びかける集会が開かれています。以下に、20日付『オーマイニュース』の記事を要訳します。(JHK)


「今回の総選挙は民主主義と傲慢な権力、経済正義と経済独占の戦いです。大韓民国の未来のために、平和統一と民主主義を渇望する国民が必ず勝利しなければなりません。それは野党勢力の連帯なしには不可能です」。1月19日午後2時、ソウル市中区のフランチェスコ教育会館で開催された「フォーラム、再び民主主義を!」の結成に向けた集いでの発言だ。

野党の分裂によって総選挙の惨敗が予想される状況で、かつて民主化運動に献身した各界の元老たちが再び集まった。宗教、文化芸術、言論、学者、農民、労働、女性、法曹、市民運動の各分野から、166人の人士が野党勢力の連帯による候補一本化を主張したのだ。

呼びかけ人の一人であるハン・ワンサン元副総理は、「韓国の民主主義が再び絶壁に立っている」と現政局を診断した。『茶山(タサン)研究所』(茶山は丁若の号:訳注)のパク・ソンム理事長も、「茶山先生は200年前に、悪政を行う統治者は民衆が起ち上がって権座から引きずり降ろさねばならないと教えた。専制君主の時代にはそうしたが、民主主義の社会では引きずり降ろす方法が選挙しかない。国民の力で総選挙に勝って、政権交代を実現しなければならない。こんな暴政の下で、どうして暮らせようか!」と発言した。

『全国挺身隊問題対策協議会』のキム・ソンシル代表は、「慰安婦問題の外交で惨憺な結果をもたらした朴槿恵政権を交代し、新しい社会を作らなければならない。そのためには国民の行動を促すしかない。国民の心に訴えて民主主義を回復しよう!」と強調した。

ハム・セウン神父は閉会辞で「民主化の元老、市民社会、野党などすべての人たちが結集し、野党候補を一本化して与党に対抗しよう。国民に希望を提示しよう!」と訴えた。ハム神父は、2月4日午前10時に国会憲政記念館で開かれるフォーラムの出帆式に、野党の各代表を招請する計画だと明らかにした。

また、人権運動家のパク・ネグン氏から「金大中・盧武鉉政権の失敗を克服し、新しい民主主義を志向すべきだ。過去への回帰を意味する‘再び民主主義を!’という名称は再検討すべきだ」との指摘があった。提案者の中からも「正しい指摘だ。現在の名称は仮称であり、名称の論議は常に開かれている。望ましい名称を考えて行こう」との意見が表明された。

以下の内容はフォーラム提案者の一人、『自由言論実践財団』キム・ジョンチョル理事長のインタビューである。

「韓国は今、総体的な絶望状態に陥っている。政治、経済、社会文化、言論など全てのものが崩壊している。大統領府が立法権を侵害し与党の院内代表を追い出す韓国は、民主国家でなく専制国家だ。正常な民主国家なら辞退したり弾劾されて当然の当事者(朴槿恵大統領)が、反省どころか長期政権を目論んでいる。来年の大統領選挙で政権交代を実現できなければ、日本の自民党のように守旧・保守勢力が国家を支配することになる。これが恐ろしい。」

-与党の長期執権体制を阻止するためにフォーラムを結成するのか?

「朴槿恵とセヌリ党の長期政権を防ぐためには、第2の民主化運動が必要だ。民主化運動の元老だけでなく、50代、40代、30代、そして20代の学生たちまで一つになって、野党が連帯するように圧迫しなければならない。政治の指向において差異があっても、アン・チョルス新党と正義党など野党勢力が連帯して、国民による公認と推薦を通じて野党候補を一本化し、セヌリ党と1対1で戦う総選挙構図を作るべきだ。全野党を網羅した「共同選挙対策委員長体制」を作って国民公認などができるように、私たちのフォーラムが影響力を発揮するようにしたい。」

-歴史の転換は青年たちが起ち上がってこそ可能だった。現在、大多数の青年は政治や現実問題から目を背けている。動力である青年の無関心が憂慮される。

「李明博・朴槿恵政権は、若者たちを政治や現実問題に無関心な世代に作り上げた。就職活動とアルバイトに没頭するしかないので、恋愛、結婚、出産、幸福な家庭など、人間らしい未来を放棄せねばならない世代が生み出されている。そうした自暴自棄の若者たちが憤っている。いつか若者たちは目覚め、起ち上がるだろう。若者の絶望が自身の能力不足が原因ではなく、悪しき政治がもたらしたものだと悟り団結するだろう。私たちの民族史をふり返ってみよう。東学農民革命と3・1独立運動、1960年の4月革命と80年の5月光州抗争、87年6月の民主化抗争など、民衆が起ち上がって歴史を変えた。私たちには民主化の潜在力がある。」

-権力による不正選挙にどう対処するのか。メディアの否定的な役割も憂慮される。

「李明博・朴槿恵政権は不正選挙を通じて登場した。来年の大統領選挙でも、不正が起きる可能性はある。野党の分裂と与党の圧勝、そして長期政権を主導するのは、李明博・朴槿恵政権が掌握した言論である。李明博・朴槿恵政府が掌握した言論と公営放送が野党の分裂を助長しており、国民は野党に対して冷笑的だ。進歩的な言論さえも、野党の分裂を興味本位に報道する場合がある。遺憾なことだ。自主的な言論と独立したメディアが、連帯を通じて洗脳された国民を目覚めさせ、保守的な言論に対抗しなければならない。これまでのどの選挙よりも、言論の役割が大きい。」

-野党の候補一本化は可能だろうか? 朴槿恵政権への、鉄壁とも言える支持率を越えることができるだろうか?

「野党勢力の連帯によって候補一本化に成功すれば、40%の支持率を回復することができるだろう。確かに、朴槿恵大統領とセヌリ党は40%台の“コンクリート支持率”を誇っている。だが、総選挙の勝利と政権交代へのカギは、中間地帯にいる20%台の主権者が握っている。アン・チョルス新党をはじめとする野党が連帯して候補一本化を成し遂げることで、民主主義と政権交代に対する確信を与えることができれば、中間地帯の主権者たちが移動するだろう。墜落した大韓民国を救い苦しむ国民を蘇生させたいのなら、野党候補の一本化を推進して国民に希望を与えねばならない。」

北朝鮮の核開発

2016年01月14日 | 三千里コラム

朝鮮半島上空を飛行する米軍のB-52戦略核爆撃機(1月10日)



北朝鮮の第4回核実験から一週間が経過した。日米韓の三国が中心となって、国際社会には「北朝鮮への懲罰と制裁強化」を求める声が喧しい。言うまでもなく三千里鐵道は、すべての国の核保有と核実験に反対する。

最も遅い核保有国となった北朝鮮に対しても然りであり、1945年から現在まで2055回の核実験を敢行した米・露・英・仏・中の5大国(国連安保理を牛耳る常任理事国)は、より厳しい批判と糾弾の対象だと考える。ところが、最近の世論をみると“これら諸国の核兵器は許容できるが、北朝鮮の核開発だけは容認できない脅威だ”と言わんばかりである。

衛星ロケットの発射実験と同じく、核開発もどの国が実行するかによって評価の基準が変わるようだ。北朝鮮と同様にNPT(核不拡散条約)に加盟せずに核実験をくり返したインドとパキスタンは、いつの間にか国連安保理でも制裁の対象ではなくなったようだ。なんとも理解に苦しむ二重基準(ダブル・スタンダード)である。

ともあれ、どうすれば北朝鮮が核開発を放棄し脅威の国でなくなるのか、この難問に取り組むことが喫緊の課題となっている。すべての回答は2005年9月に締結された第4回6カ国協議の共同合意文書にある。合意の核心は、①朝鮮半島の非核化と正常化(朝鮮戦争の平和協定と米朝・日朝の修好)の並行推進、②同時行動の原則(北朝鮮に核放棄の先行義務なし)である。

いつの間にか6カ国協議の合意は歪曲され、“北朝鮮が核放棄を先行させないので、あらゆる対話と交渉は無意味だ”との誤解が蔓延するようになった。北朝鮮が核実験をする度に国連安保理では制裁決議を採択した(1718号、1874号、2094号)が、全く効力を発揮しなかったし、北朝鮮の核開発能力を向上させただけだった。国連安保理ではなく、協議の場を速やかに北京での6カ国協議に戻すべきだろう。

朝鮮半島核問題の参考資料として、以下に二編の文章を要訳して紹介する(JHK)。
(1)1月7日付『プレシアン』チョン・ウクシク氏コラム「北朝鮮に核を放棄させる方法は…」。
(2)1月8日付中国『環球時報』社説(浅井基文WEBサイト「21世紀の日本と国際社会」1月9日付より引用)。


(1)北朝鮮に核を放棄させる方法は...

「核武装し、それを絶対に放棄しない」という金正恩の北朝鮮に、どう対処すればいいのだろうか? 北朝鮮の奇襲的な‘水素爆弾’実験を契機に、国際社会が再び切歯腐心している質問だ。

大まかな方向は予想通り出てきている。韓国とアメリカ政府は「相応する代価を支払わせる」ために、追加的な制裁と韓米連合戦力の強化を予告している。“後頭部を殴られた”中国も「国際社会に対する義務を果たす」とし、対北朝鮮制裁と圧迫に参加する意向を明らかにした。日本も自国の安保に「重大な威嚇であり決して容認できない」と勇ましい。国連安保理は「追加制裁を盛り込んだ新しい対北朝鮮決議案の採択」を推進するという。このように国際社会は、声を一つに北朝鮮の核実験を糾弾して「絶対に核保有国と認定できない」と念を押す。

このような反応は「金正恩の北朝鮮をこのまま放置してはならない」というものだ。だが、直視しなければならないことがある。まず、今回の主要国家と国連安保理の対応は、すでに数えきれないぐらい繰り返されてきたものだ。制裁の強度を高めれば、特に中国が積極的に参加すれば、今回は違う結果が出るとの期待が述べられているが、これも聞き飽きた言葉だ。状況は何も変わらなかったか、かえってさらに悪化した。

このような脈絡で見る時、制裁と圧迫、そして武力示威を中心とするアプローチは、失敗した政策の拡大再生産となる公算が大きい。“北朝鮮の息の根を止める”制裁など存在しない。また、米軍戦術核兵器の再配置や韓国独自の核武装は、可能ではないし妥当でもない。軍事境界線での対北放送再開も、乾燥した山にタバコの火を投げるようなものだ。

私たちが忘れてはいけないことがある。アメリカと中国など周辺国家は、北朝鮮の核開発状況を自分たちの戦略図で見ているという点だ。アメリカは北朝鮮の核開発をアジア再均衡戦略の滋養分としてきた。これを誰よりもよく知っている中国は、北朝鮮の核開発反対と北朝鮮の戦略的価値の間で、動的な均衡をとってきた。北朝鮮はこのようなスキ間を利用して、「両弾一星」(原子爆弾・水素爆弾と人工衛星の開発を目指した1960年代の中国安保政策:訳注)の敷居を越えようとする。これら三国が各々の戦略を持って動いているが、残念なことに、韓国の戦略は漂流を繰り返している。

それなら、どのように対処すればいいのだろうか? 本当に北朝鮮の核開発が韓国にとって「存在論的な脅威」なら、私たちはこれに相応しい非常な覚悟を持たなければならない。その覚悟とは、今まで一度も行ってみなかった道を選択するところにある。即ち、北朝鮮に核開発による安保でなく「他の手段による安保」を提示して一大交渉を追求することだ。

ここで「他の手段による安保」とは、停戦体制を平和体制に代替すること、北朝鮮と米国・日本の関係正常化、朝鮮半島の軍備統制と軍縮、韓国が吸収統一を追求しないという明確な意思表示と南北関係の発展を通した信頼構築、などを網羅するものだ。分かりきった話だと反問するかも知れない。しかし、韓米日の三国がこの道をまともに行ってみたことは一度もないのだ。

交渉の核心は、金正恩の戦略的判断に確実な影響力を行使できる所に合わさなければならない。今までは、苦痛の度合いを大きくして北朝鮮の屈服を誘導しようとする方式だった。これは失敗に終わった。これからは、アプローチの方法を換えなければならない。核放棄を考慮できるほどの利益を提示することが、まさにそれだ。これは決して経済的支援を意味しない。先ほど挙げた「他の手段による安保」が核心なのだ。また、これは北朝鮮にだけ良いことではなく、韓国をはじめとする関連国のすべてを利するものである。

それで、いくつかの提言をしたい。まず、今回の核実験がこれ以上の危機増幅に至らぬよう、断固としていながらも節制された姿勢が必要だ。強硬と強硬がぶつかり合う対決よりは、冷却期を持つべきだ。そして、8年間も中断している6カ国協議を前提条件なしに再開し、2005年の9.19共同声明合意にもかかわらず、一度も開かれていない南・北・米・中の4カ国平和フォーラムも始動しなければならない。


(2)1月8日付『環球時報』社説

朝鮮が水爆実験に成功したと発表したことは、国際社会に対して大きな挫折感を与えるものだった。安保理は速やかに声明を発表して朝鮮を非難した。遠からず新たな対朝鮮措置が作られることが予想される。

この時に及んで、アメリカ及び西側の一部世論は、中国をまな板に乗せ、朝鮮核問題における「中国責任論」を打ち出している。中国が対朝鮮制裁に参加していることを否定できないため、米欧の主要メディアは中国の対朝鮮制裁の力の入れ方が足りないと非難し、中国は朝鮮が全面的に混乱することによる影響を懸念するべきでないとしている。ということは、中国はすべての可能なことをやって、様々なリスクを一手に背負い込むべきだということに等しい。

朝鮮核問題の根っこは極めて複雑であり、朝鮮政権が国家の安全保障政策の方向性の選択を誤ったという問題もあるが、アメリカが朝鮮敵視政策を堅持しているという外部的要因もある。
朝鮮半島が今日もなお平和協定を締結できないことは、平壌をして深刻な安全保障上の焦りを生ませている。アメリカは、多くの責任を負担し、半島の緊張した情勢を緩和し、朝鮮が核を放棄することに積極的になるようにすることを考慮するべきだ。

 朝鮮の核問題は今、各国をがんじがらめにしており、朝鮮もそうである。朝鮮の核政策がさらに広汎な核拡散を刺激するならば、全世界が敗者となる。この歪んだ流れを打ち破ることは、いずれかの国が単独で促進することはできないのであって、各国が努力し、集団的な妥協を創造することが求められている。国際問題をそらんじているはずのアメリカの主要メディアが中国だけにこうしろああしろと教えを垂れるのは、朝鮮核問題に対するアメリカ全体の認識がでたらめであることを反映している。

 米韓日が積極的に条件をつくり出さず、北京が平壌に圧力をかけることだけでその核開発計画を放棄させることができると考えるのであれば、それは極めて幼稚な考えだ。アメリカのエリートたちは実はそう考えているのではなく、要するに責任を負いたくないだけで、ほかに方法もないために「中国責任論」を言っているのではないかとも疑いたくなる。

 中国は、米韓日がやるべきことを代わりにやることはできない。元はといえば、朝鮮と米韓日が敵対することによって核問題の出現を招いたのだ。中国は、中朝関係を敵対関係にすること、ひいては中朝敵対を地域情勢の最大の焦点とするようなことはできないし、するべきでもない。中国社会は、政府がそうすることを許すはずがない。

 中国は国連の対朝鮮制裁に参加し、安保理決議を真剣に履行した。その結果、中朝関係の雰囲気は過去のそれに遠く及ばないまでになっている。中国がさらに厳しく朝鮮を制裁するかどうかは、安保理での討議の結果を見る必要がある。

 我々は朝鮮の核保有には断固反対だが、半島の平和と安定にも関心がある。ある問題の解決に当たっては、他の問題がコントロール不能になるという代価をもたらすことはするべきでなく、中国のこのような総合的判断は中国の国家的利益に対する考慮から決定されるのであり、中国の対朝鮮政策は全体としての安定性を維持しなければならない。

 情勢が引き続き悪化すれば中国としては辛いが、中国がいちばん辛い当事者だと思うものがいるとすれば、それは間違いだ。したがって、中国に対してもっと多くを要求する前に、まずは彼らに先んじて行動を起こすことをお願いする。