時のうねりのはざまにて

歴史小説もどきを書いてみます。作品と解説の二部構成で行こうと思います。

蒲殿春秋(六百一)

2013-10-20 22:41:29 | 蒲殿春秋
範頼軍は進む。
西へ進む旅に軍勢の数は膨らむ。

範頼の手元には名簿の数が膨らんでいく。

その様子を二人の郎党が眺めている。

「おい吉見次郎」
「なんだ当麻太郎」
「やけに今回は集まりがいいなあ。」
「そうだな。木曽攻めや一の谷の時はあまり人がいなかったし、
出てくるやつはどこか面倒臭そうな顔してやってきていたよな。」
「そういえば、此度はみな明るい顔をして出てきてやがる。
しかも一門兄弟多くそろえてきてやがる。」

そんな二人の会話をそばで範頼と和田義盛が聞いている。

「やはり、蒲殿のご郎党も此度の出陣の皆の意気込みの違いを感じておられる。」
と和田義盛は言う。
「和田殿もそう思われるか?」

「さよう。
前回の出陣は、出陣の支度の大変さや遠くへ行くことを渋っているものをなだめすかしながらの出陣でござった。
だが、今回は違う。皆喜んで出陣したがっておりまする。この違いの訳を蒲殿はお分かりですか?」

範頼はしばらく黙る。そして微笑みながら答える。
「恩賞、であろうか?」
和田義盛は膝を打って答える。
「さようでござる。
御家人たちは知ったのでござるよ。木曽攻め、一の谷、そして先般の甲斐信濃征伐にて
鎌倉殿が確実に恩賞をくださることを。
確かに出陣の負担は大きい。されど、出陣して勝利した暁には恩賞が手に入る。
それゆえに、此度出陣を志願するものが増えたのでござるよ。」

「そうであろう」

「御家人たちは切実な問題を抱えておりまする。
多くの者どもが産めよ増やせよで子を沢山儲けましてございまする。
しかしながら、分け与える所領は限られておりまする。
このままでは所領をもらえぬ子も現れかねませぬ。
しかしながら、恩賞を得られればその地を子に与えることができまするゆえに。
しかも、此度は西国の平氏の所領がそのまま手に入る可能性もございまするゆえに。」

和田義盛の目がギラリときらめいた。

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