その重苦しさを打ち破る声が彼方から聞こえた。
藤原範季の実子藤原範資である。
「六郎、よう参ったな。」
と明るく声を掛ける。
「義母上、堅苦しい挨拶はもう終わりましたかな。
義母上の心尽くしの膳はそろそろですかな。
六郎は大食らいですぞ。強飯は充分に用意されましたでしょうか?」
その声に範季も顔をほころばせた。
「よもや、そなた六郎と共に大食らいをしようと狙って・・・」
という範季に対して
「わかりましたか、父上」
と言って範資はとぼけてみせる。
御簾の奥の空気が少し和んだ。
教子は御簾の奥に入り込んで気配を消した。どうやら侍女たちの采配を振るうらしい。
やがて、美しく着飾った侍女たちが膳を運んでくる。
膳の上には所狭しとご馳走がならんでいる。食べるものに不自由しているはずの都において諸大夫身分であるとはいえこれだけのものを揃えるのは大変なことである。
再び御簾の奥に人の気配が現れた。
「どうぞお召し上がりください。」
と御簾の奥から声がする。
早速膳に手をつけようとする範頼前にある膳の上の皿に主より先に伸びようとする手があった。
範頼の郎党当麻太郎の手である。
当麻太郎は主より前に食事を口に入れ毒見をしようとしたのである。
だが、その手を範頼は静かに制した。そしてまず強飯を口にした。
「美味しゅう存じます。」
と範頼は御簾の奥に向かって声をかけた。
御簾の奥から一礼されたのが見て取れた。
その主の様子を脇から当麻太郎は不安そうに見つめている。
主の体には何の変調もないようである。
当麻太郎は案じている。敵の娘である主の養父の妻は主に何か危害を加えるのではないかと・・・・
おだやかにみえた食事の後、教子ーーー範季の妻は琴を奏でると言い始めた。
平家一門は管弦に優れたものが多い。
平教盛の娘である教子も幼い頃から琴をたしなんでいる。
その時、範季の前にあるものからの使者が現れた。範季は難しい顔をした。
そして妻にさらなる来客があることを告げた。
教子は一瞬顔を引きつらせたが、すぐに夫の意向を汲み取ることにした。
琴の演奏は少し伸ばされ、新たなる人物が一同の前に現れた。
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藤原範季の実子藤原範資である。
「六郎、よう参ったな。」
と明るく声を掛ける。
「義母上、堅苦しい挨拶はもう終わりましたかな。
義母上の心尽くしの膳はそろそろですかな。
六郎は大食らいですぞ。強飯は充分に用意されましたでしょうか?」
その声に範季も顔をほころばせた。
「よもや、そなた六郎と共に大食らいをしようと狙って・・・」
という範季に対して
「わかりましたか、父上」
と言って範資はとぼけてみせる。
御簾の奥の空気が少し和んだ。
教子は御簾の奥に入り込んで気配を消した。どうやら侍女たちの采配を振るうらしい。
やがて、美しく着飾った侍女たちが膳を運んでくる。
膳の上には所狭しとご馳走がならんでいる。食べるものに不自由しているはずの都において諸大夫身分であるとはいえこれだけのものを揃えるのは大変なことである。
再び御簾の奥に人の気配が現れた。
「どうぞお召し上がりください。」
と御簾の奥から声がする。
早速膳に手をつけようとする範頼前にある膳の上の皿に主より先に伸びようとする手があった。
範頼の郎党当麻太郎の手である。
当麻太郎は主より前に食事を口に入れ毒見をしようとしたのである。
だが、その手を範頼は静かに制した。そしてまず強飯を口にした。
「美味しゅう存じます。」
と範頼は御簾の奥に向かって声をかけた。
御簾の奥から一礼されたのが見て取れた。
その主の様子を脇から当麻太郎は不安そうに見つめている。
主の体には何の変調もないようである。
当麻太郎は案じている。敵の娘である主の養父の妻は主に何か危害を加えるのではないかと・・・・
おだやかにみえた食事の後、教子ーーー範季の妻は琴を奏でると言い始めた。
平家一門は管弦に優れたものが多い。
平教盛の娘である教子も幼い頃から琴をたしなんでいる。
その時、範季の前にあるものからの使者が現れた。範季は難しい顔をした。
そして妻にさらなる来客があることを告げた。
教子は一瞬顔を引きつらせたが、すぐに夫の意向を汲み取ることにした。
琴の演奏は少し伸ばされ、新たなる人物が一同の前に現れた。
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