星を見ていた。

思っていることを、言葉にするのはむずかしい・・・。
良かったら読んでいってください。

眠り男(7)

2014-09-13 12:00:54 | 眠り男
寒さが増してきた。このところ目覚めが悪くなかなか朝起きられない。寒くて布団から出られない、というのではなく、とにかく眠いのだ。

 妻は相変わらず仕事が早く終わると僕を連れ出しジョギングをさせた。だからもう大分痩せてもいい頃なのだが僕は相変わらず太っていた。
「ねえ、結構走っているのに何で痩せないのかしらねえ。」
 妻はスーツを着ようとして鏡の前に立った僕を頭のてっぺんからつま先まで眺め、そうつぶやいた。
 僕はそそくさと「じゃあ行ってくる。」と言って玄関に向かった。妻は「あ、待ってえ、私もすぐ支度できるからー。」と慌てだしたが、僕は今日ちょっと早いから、と言い残し先に出た。

 駅までの道のりは徒歩で15分ほどだ。それほど歩くのには苦ではない。僕がなかなか痩せないのは、それは妻のいないところでかなりの量を食べているからだ。妻はせっせとおおまかにカロリー計算された食事を作ってくれるが、僕は会社での昼食や妻がいない時にかなりの量の食品を消費していた。

 寒くなればなるほど、僕の食欲はどんどん増していき、そしてジョギングをしているせいだからなのか今までにはない尋常ではない食欲の波が押し寄せた。朝は軽くコーヒーとトーストを食べて何食わぬ顔で家を出るが、会社の最寄駅に到着すると必ずどこかへ寄ってモーニングを食べた。それで最近は妻より家を早く出る。喫茶店のモーニングの時もあればあまりの食欲を抑えられず牛丼屋に入るときもある。昼は妻がお弁当まで作ってくれるのでいちおうその弁当を食べるのだが一緒にカップラーメンを食べたりパンを追加して食べたりしている。夜は妻の作った夕飯を普通に食べ、妻の視線もあるのでそれ以外には何も食べないが、そのせいで朝寄り道をしてしまうのだろう。

 歩きながら住宅街の家々が目に入る。角の家に柿の木があり、たくさんの実がついていた。随分と今年は豊作じゃないか、とじっと眺めていると何故だが無性にあの実を引きちぎってがぶりつきたいという衝動に駆られてしまった。僕はそれほど果物が好物という訳ではないのに、どうしてそんな衝動が起こるのかよく分からなかった。

 会社の最寄駅に着くと、僕はいつも行くコーヒーショップに入った。僕の様に通勤途中のサラリーマンやOLが次々にカウンターに来ては注文をしていく。僕はカウンターのガラスケースを見ながら、やはりいけないなとは思いつつ何か食べようと思い考えていた。ケースの中の、ナッツがたくさん盛られたドーナツが目に飛び込んできた。僕はあまりこういった物は普段食べないのだが、レジの女の子に勝手に口がそれを注文していた。しかも3個も。「3点、でよろしいですね?」レジの女の子は繰り返した。

 窓際の席が空いていたのでコーヒーとでかいドーナツ三つをトレイに乗せ、僕は席に着いた。窓の外には早足でオフィスに向かう通勤の群れが見える。ドーナツ3個はあっという間に胃に収まった。ぼんやりと眺めていると窓の外にあるどこかの会社の看板に、ガラス越しの僕の姿が映っているのが見えた。カフェは足元からガラスになっていたので、僕の全身の半分が見えいていた。
 僕は一瞬目を疑った。家の洗面所の鏡では顔くらいしか見えていなかったが、こうして全身を見ると僕は自分のイメージしている自分とこの今の自分がだいぶ違うことに気付いた。なんだこれは。これじゃまるでクマだ。ちょっと太った、という域を超えている。これじゃただのデブではないか。

 僕はその看板から目を背け。大きくため息を付いた。これじゃあ妻が憐みの目で僕を見るのも分かる気がする。病気を気にするのも分かる気がする。これじゃあメタボ中年まっしぐらだ。僕は妻のほっそりとした腰とか、背中を思った。僕もついこの間まで、中年になったら会社の上司のようなメタボおやじにはならないぞと思っていたではないか。なぜこんな急激に太ってしまったのだろう。そしてこの押し寄せるような、何か使命感すら感じてしまうようなこの切迫した食欲はなんだろう。どうしてこんなに食欲が出てしまうのか。高校生や大学生の時だってこれほどの異常な食欲はなかったであろうに。何かがおかしいのだろうか、それとも僕のこの自制心のなさがいけないのだろうか。
 僕は席を立った。明日からはここへは来ないぞ、と心の中で思った。

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1 コメント

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ホームページを拝見しました (つねさん)
2014-10-08 09:40:58
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