「イノ。 君に仕事を命ずる。いままで私からきいた話を要約してみたまえ」
といったとき、ポンぺは伊之助のまとまったオランダ語をはじめてきいた。十分以上に理解し、見事に要約し、なによりもそのオランダ語が立派だったことに、ポンぺは驚きよりも腹立たしさを覚えた。
(司馬遼太郎著 『胡蝶の夢』より)
長崎医学伝習所で、伊之助はポンぺの講義を聴いては、たちどころに翻訳し、学生達に教えるという役割を果たし、彼の才能を存分に発揮した。
関寛斎とともに『七新薬』という著書(ポンペの説により7種の新薬をあげて、それぞれの健康作用と医治効用とを論じたもの)を出版するが、これは断りもなくポンぺの書斎に入りこみ、勝手に医学書等を見て作った本であり、ポンぺにすっかり嫌われてしまう。
そしてポンぺに破門された伊之助は長崎を去る。