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-空から見るからこそ見えてくるものがある-

晴れ渡る皐月の空を飛ぶ (6) - 八ヶ岳連峰

2010-05-13 | 中部


中央線の汽車が甲州の釜無谷を抜け出て、信州の高台に上り着くと、まず私たちの眼を喜ばせるのは、広い裾野を拡げた八ヶ岳である。全く広い。そしてその裾野を引きしぼった頭に、ギザギザした岩の峰が並んでいる。八ヶ岳という名はその頭の八つの峰から釆ているというが、麓から仰いで、そんな八つを正確に数えられる人は誰もあるまい。

芙蓉八朶(富士山)、八甲田山、八重岳(屋久島)などのように、山名に「八」の字をつけた例があるが、いずれも漠然と多数を現わしたものと見なせばいいのだろう。克明にその八つを指摘する人もあるが、強いて員数を合わせた感がないでもない。詮索好きな人のために、その八峰と称せられるものを挙げれば、西岳、網笠岳、権現岳、赤岳、阿弥陀岳、横岳、硫黄岳、峰ノ松目。

そのうち、阿弥陀岳、赤岳、横岳あたりが中枢で、いずれも二千八百米を抜いている。二千八百米という標高は、富士山と日本アルプス以外には、ここにしかない。わが国では貴重な高さである。この高さがきびしい寒気を呼んで、アルピニストの冬季登山の道場となり、この高さが裸の岩稜地帯を生んで、高山植物の宝庫を作っている。

(深田久弥著『日本百名山』より)