ゆっくり読書

読んだ本の感想を中心に、日々、思ったことをつれづれに記します。

七つの海を照らす星

2008-11-27 23:36:23 | Weblog
七河 迦南 著。東京創元社刊。第18回鮎川哲也賞受賞作。

この本の著者は、本当に心のやさしい人なのだと思います。
表現の隅々にまで、他人を思いやる気持ちにあふれ、
そして茶目っ気たっぷりに解かれていくミステリー。

それは、読者に挑むミステリーではなく、
いたずらをした少女が、物陰でくすくす笑っているような
爽やかで愛おしい雰囲気があふれています。

舞台は、児童養護施設「七海学園」。
様々な事情から、家庭では暮らせない子どもたちが生活する場で繰り広げられる
日常生活の中でのミステリーです。
七不思議ですね。

一般的な価値観では「不幸」と言われる境遇にある子どもたちが、
それでも生き生きと一生懸命に暮らしています。
そして、それを優しい目で見つめる大人たち。

私は持論として、
幸せも不幸せも、その量は、誰もが等分に与えられていると思っています。
この世には、特別に幸せな人もいなければ、
特別に不幸せな人もいない。
なぜなら、最後に向き合い、悩むのは自分自身の心に対してだからです。

でも、相手が自分の心だからこそ、一人では、乗り越えられないこともある。
人は誰であっても、その時々で、めぐりあった人たちの
一言や、何気ない仕草に救われていくのだと思います。

この本は、最後に「そう来たのね!」と思わせられたので、
ミステリーとして一流だと思いますが、
それ以上に、人の心を描いた文章として、一流だと思います。
何気ない、ある意味簡単な言葉で綴られていますが、
だからこそ、表現していることの広がりに胸をうたれます。

文章に、たいへんな魅力を感じました。