スノーマン見聞録

ジャンルも内容も気の向くまま~“素浪人”スノーマンの見聞録

挽 歌

2016年10月30日 | 雑感
今年8月に発刊された歌人・松川洋子の私的なエッセイ集。

『 大戦末期、挺身隊員として徴集されていた時のこと ・・・ 隣り町、江別で列車が爆撃を受けたり敗戦の
  日が近かったある日、隊員が忘れた弁当を届けようとある駐車場を駈けていた、そこへ偵察機が急降下。
  射たれると思ったという。 その一瞬、兵の顔が見えた。 機は一転して走り去った。
  見える筈が無いと言われるが確かに見えた。』 
                           

歌人らしい人間へのひと筋の救いを描くが、戦争への憎しみには一歩も譲らず、こうも断ずる。
         
『 戦争とは大義名分をもって人間が人間を殺させる、殺せる、殺す野蛮な行為をいう。
  人の性は善か悪かと折に触れ論は出るが、そんなものは現実に何の役にもたたない。』


戦時下をくぐり抜けてきた歌人の文章はさすがに鋭く美しく、腹の据わったエッセイ集だ。

       

この方、函館生れの札幌育ち、戦争・病気・数々の不幸をも体験した短歌ひと筋の人生
のようで、もう高齢と推察するが、凛としたその姿には恐れ入る。 


『 みどり児の 姉の柩を 運びゆく 函館本線 あかねにかすむ 』

初子を亡くし、葬儀の為函館から祖父のいる札幌へ柩を運んだ時の挽歌だ。

父母の悲しき声を胎内(五ヶ月の)で確かに聴いたという。  歌人の感性とは科学を越えるものなのかも。


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