とても心にずしんとくる映画でした。
見終わった後、映画館から出るときに、言葉を出すことができない状態・・・たぶんみんなそうだったと思います。みんな終始無言で長いエスカレーターを降りていました。
人が死ぬというだけで、悲しい話にもって行くことはできるんだろうけど、そういった死んで悲しい・・という感情もありつつ、それだけでない、深いところで考えてしまう…感じてしまう、重い映画だと思います。
正直最初はひいてみてました。
まず、鶴瓶さん演ずる弟のめちゃくちゃさ。寅さんみたいに笑いだけでは収まらないようなどうしようもなさ…あんな人間いたら、正直迷惑だし、疎まれて当然だと、思いました。
そして、娘役の蒼井優さんが、はまってこないんです。山田洋次の映画は、つくりあげられた自然体という印象があるんですけど、なんか、それがしっくりこないんですよね。もっと、ふにゃふにゃな感じというか、つくらない自然体が彼女の魅力だと勝手に思ってますが、それがどうも、言わされてる感じに思っちゃって…
吉永小百合さんも、無理して関西弁みたいな言いまわししなくてもいいんじゃないかな?と思ったりして…そこまで考えちゃうのは、やっぱり、集中してなくて、ひいてみてたからなんだろうけど・・・
ホスピスの自然さが何となく宗教チックに感じてしまったところもあって、不自然に思えたり、鶴瓶さんが出る前の結婚式のシーンもなんか違う感じがして。
加瀬亮さんの好青年も、山田洋次的好青年って感じがしちゃって、なんとなく違和感が…山田洋次さんの感じている青年像と、ずれがあるのかもしれません。
そんな、違和感の流れの中で、たんたんと、話が進んでいきます。前半だけみたら、終わったかな?とも思いました。寅さんの映像とかも、正直そこまで縛られなくても…・と思ってしまったし…
山田洋次さんの作品で、こんなに否定的に書いたのは初めてだと思いますが…
さて、それで、後半に入ると、なんか、ずっと涙を流していました。大泣しちゃったというんじゃなくて、涙がすこしずつ、とめどなく流れるというか…あまり感情の起伏もなく、自分の頭の中で何が涙を誘ったのかがよくわからないんですけど…なぜか気がつくと涙って感じで…
きっかけは、お姉さんが、弟を追い出したあと、弟の行方がわからなくなり、警察から連絡が来て、お姉さんが大阪まで会いに行こうとする時の娘とのやり取りのところ。新幹線に場面がうつりながら、小春の名前を付けてもらったときのエピソードが語られるわけですけど、あのときの、旦那の話。他の姉妹に踏みつけられて、ずっと褒められないで生きてきたんじゃないかなあ…だから、娘の名前を付けてもらって、ちょっとぐらいへんな名前でも、思いっきり感謝しようと思っていた・・・とかいうセリフのところがズシッと突き刺さったわけです。
そこで、今までのシーンで、おとうとさんに向けてた嫌悪の気持を自分自身も、見透かされた感じがして…まあ、あんな行動されたら当たり前ですが…要は、人の社会の歯車に会わない人間は、みんな邪魔もので、足蹴にしていいのか、考えてしまったわけです。わけへだてなく、みんなを愛せよと言われているんじゃないけれど、自分が今までの生活の中でつくりあげてきたある種の基準というか、常識とか、その場での人のあるべき姿とか、はっきりしないあいまいなもので、みんな人を区別して来てしまったんじゃないかと・・・それは批判というか、ただそうだったんじゃないかと…そうなったときに、そのはじかれた方はどのような思いをして、生きていかなくちゃいかないのかと考えたときに、お姉さんと同じように(かわからないけど)、負い目を感じてしまったんです。
そこから弟さんが死ぬまでの話も、別に劇的なことがあるわけじゃないし、木の聴いたセリフがアクセントになるわけでもないし…と言いながら、重要なせりふはけっこうあるんですが、ここで涙を流してもらいます的なはっきり視聴者の心を代弁しちゃうようなせりふはあえて消してしまったみたいで・・・。そんなたんたんとした市へ向かい流れにの中で、少しだけ最後まで涙が流れていたわけですが…
セリフを言わさないことで、みている側にわからせるテクニックはすごいです。
たとえば、その小春の名前でおじさんを傷つけて死ぬ前に、会いに行かなきゃと、娘を車で走らせ、会いに来させるわけですけど、普通だったら、「あんなこと言ってごめんなさい」なんて言うのが普通の劇ですが、そこをそういうセリフを出さないところに、美しさを感じました。言葉で説明するまでもなく、あれが彼女の引っかかりだとみんなわかってるわけですからね。
危篤だと知らされる電話のシーンも、母親の方に娘がさりげなく手をのせますが、あんなところも美しい映像です。
一緒に行った友達が言ってたんですけど、弟に通天閣を見てみろと言われて窓の方を向くお姉さんのシーンがあるんですけど、そこで通天閣のピントがぼけてたそうです。
そういえば、あの時のお姉さんの窓の方を向く目線の重たい感じがしてましたが、そうだったんですね。そんなの見るような状態じゃないわけで、目線はそこへ向けても、とても、通天閣を見るような気持じゃなかったんでしょうね。それがあのシーンになったんじゃないかと。
薬局の前の坂もいい味出してました。山田さんはああいった小さな駅の傾斜がきつい場所が好きなのかもしれませんね。
あの坂を使っていろんな表現してて、その坂のシーンも面白いです。
そういういろんなことも感じられて、最終的に、いい映画でした。