風の数え方

私の身の回りのちょっとした出来事

閉店? 新装開店?

2005年03月29日 | 清水ともゑ帳
久しぶりに商店街を歩いたら、大好きな店がなくなっていた。
建物もなく、周りをブルーシートで囲まれ、さら地になっていた。
踏み切りのすぐそばにあるこの店の名前を、私は知らない。
看板がなかったからだ。
でも、「踏み切りの黄金饅頭の店」と話せば、このあたりでは誰にでも通じる。
静岡県の中部地方では、「黄金饅頭」、他の地方では、「大判焼き」「今川焼き」「回転焼き」「御座そうろう」などの呼び方があるそうだ。

戦後間もなく開店したというこの店は、当時から現在まで、気温の低い時期にしか饅頭を焼かない。
中の餡が傷んでしまうからだ。
私は、昨年11月ごろから、今シーズンの饅頭を楽しみにしながら、毎日のように店をのぞいていた。
店には張り紙がしてあり、「おまんじゅうはしばらくお休みします」と書いてあった。
12月になっても、年が明けても、饅頭が店頭に出ることはなかった。
それでも私は心待ちにしていた。

私がとりわけ「踏み切りの黄金饅頭」が好きだったのにはわけがある。
幼いころ、私たち姉妹が、楽しみにしていたお土産だからだ。
父は給料日になると、必ずと言っていいほど買ってきてくれた。
たぶん少しでも温かい状態を保ちたいという配慮だったのだろう。
カブで通勤していた父は、饅頭をかごには入れずに、ジャンパーのポケットにしのばせて帰ってくるのだった。
おかげで饅頭はいつもつぶれていたけれど、ほかほかだった。

昨年の5月の末ごろだった。
私は、父の夢を見た。
そして、目覚めたとき、「今日はどうしても踏み切りの黄金饅頭を持って、実家に行かなければ」と思った。
店に行くと、店主のおばあちゃんが、「お饅頭は今日までだから、1個おまけしといたよ」と包んでくれた。
もう、初夏の陽気だもんなぁ…と思いながら、店をあとにした。

あのときは、また、秋になれば食べられると思っていた。
でも、あれが最後になってしまうのだろうか。
家に帰ってきて、店がなくなっていたことを夫に話すと、
「古い建物だったから、新築してまたやるんじゃないの」と言っていた。
…だとしたら、いいんだけど。
昭和のたたずまい、懐かしい味がこのままなくなってしまうのは惜しい。
「踏み切りの黄金饅頭」…たぶん、ファンはいっぱいいるはず。
ぜひ、再開してほしい。

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