山崎ナオコーラ自身をモデルにしたとしか思わせない新進小説家、矢野マユミズと、彼女の友だち、神田川歩美の2人を中心にして、彼女たちの周辺の人物や、なんかよくわからない事象、全く関係なさそうな出来事(伊勢の芥川なんかまで出てくる)まで集めた雑多な短編集。(でも、ほんとうはそうではなく、彼女の頭の中の宇宙ではこれらは1つにきちんと繫がっている)
短いのは3ページくらいで、それなりの長 . . . 本文を読む
夏の子供たちがいる。12編の短編小説はもちろんそれぞれ独立したものだが、そこにはあらゆる世代の、夏の子供たちがいて、(かって子供だった大人も含む、ということが)彼らがそれぞれの夏をいかに過ごし、今ここにいるのかが、語られる。
彼らはこの一瞬の季節の中で、今、自分たちに出来ることを全力でやり遂げようとする。家の都合で引越していかざるえない少年。彼は友だちと2人で自転車に乗り、40キロも先にある . . . 本文を読む
2時間48分の大長編である。61年のキューバ危機から始まり、そこからCIAの歴史を遡り描いていく。マット・デイモン演じる主人公が、どうしてCIAの仕事をするようになったのかが描かれていく。映画は、彼の人生を追っていきながら、それがCIAの歴史であり、その過程を、彼の家族との関わりを通して淡々と描いてみせる。
時間を前後させながら、今の状況とこれまでの日々が交錯していく中、アメリカがなぜ、こん . . . 本文を読む
なんて恐ろしい映画だろう。そして、なんと勇気のある映画だろう。これだけの事実を現地ロケで描いて見せた、そのことだけでも感動する。映画はフィクションだ、なんて言わさない。ここに描かれた事実がどこまで現実に迫っているのか、あるいは現実はこの映画すら凌ぐくらいに凄まじいのか、そんなことはわからない。
だが、この映画の気魄は僕たちを圧倒する。ドキュメンタリー以上にドキドキする。今見ている出来事が、た . . . 本文を読む
今更だが、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』をDVDで見た。正直言って、最初TV版を見た時には、あんなにも興奮したにもかかわらず、今では何に感動していたのかすら、思い出せない。情けないです。
さて、今回、この新劇場版を見ながらも、実は、最初は、なんだか乗れなかった。「ただのダイジェストじゃん」としか思えないオープニングは、普通の映画ファンなんかまるで相手にしていない。マニアだけのための映画に見 . . . 本文を読む
7月から8月にかけて読んだ本で、一番面白かったのは星野博美『愚か者、中国をゆく』であることは別項で書いたが、その他をまとめて簡単にメモしておこう。
そんな中で一番印象に残ったのは山崎ナオコーラ『長い終わりが始まる』だ。大学のマンドリン部を舞台にして、クラブ内の人間関係を通して、唯我独尊の主人公の孤独を綴っていく。周囲の人間を拒否しているくせに、自分が認められないことに憤りを感じている。ここで . . . 本文を読む
松尾スズキ監督の第2作。前作『恋の門』はなんだかいただけなかったが、今回は快心の出来だ。主人公の内田有紀が素晴らしい。精神病院を舞台にして、ドタバタを見せていきながら、その実、シリアスなドラマを展開して見せる。病んだ人たちの姿を通して誰の中にでもある心の病をデフォルメしていく。極端な行動は病気だから、とは言い切れない。何が正常で、何が病気か、なんて紙一重なのだ。
この病院は健常者の世界の縮図 . . . 本文を読む
堤幸彦監督が、またやってしまった。どうして、こんなにも中身がなくってくだらないだけの映画を、わざわざ撮ってしまうのだろうか。中谷美紀もせっかく『嫌われ松子の一生』をやったのだから、もうこういうタイプの汚れ役は、やる意味ないやろ、と思う。
世界一不幸な女が、彼女なりの幸せを摑むまでが、描かれているのだが、説得力がない。阿部ちゃんの卓袱台返しのCGばかりが評判になったが、それだけな . . . 本文を読む
こんなにも何もない映画って、他に類を見ない。しかも、わざとそれをねらっている。ねらいまくっているみたいで、ちょっとあざとい。
たそがれにやってくる人々、なんていう設定のわざとらしさも鼻に付く。荻上直子監督の前作『かもめ食堂』はその優しさに癒されたが、今回はちょっとやりすぎでしょう。あのイメージをさらに推し進めたらこうなったのだろうが、あざとすぎます。まったりとして、何もせずに、心を空っぽにし . . . 本文を読む
どうしても北京が見たいと思って、06年1月、思い立ってすぐに旅立った。きっかけはジャ・ジャンクーの『世界』という映画を見たからだ。05年12月に見た時、これは何があっても今すぐ北京に行かなくては後悔する、と思った。1日でも早く行かなくては、もう、かっての北京はなくなる。こんな気持ちになったのは生まれて初めてのことだった。
だが、空港に降りたった時から、実は行く前とは別の後悔ばかりが襲った。冬 . . . 本文を読む
なんとそっけない映画だろうか。ストリートで歌う男が、そんな彼の歌に耳を傾けた、ちょっと変わった女に興味を持つ。2人は音楽を通してなんとなくひかれあい、そして1枚のCDを作る。男はダブリンを出て、ロンドンに行き、音楽で身を立てようと思う。そんな彼を周囲の人たちは温かく見守り、応援する。
たったそれだけの映画だ。なんの変哲もない。なのになんだろう、これは。なぜだか爽やかで見終えて感動してる。こん . . . 本文を読む
2幕2時間30分からなるミュージカル大作だ。こういうものは普段滅多に見ることはないが、見終えてとても満足している。これだけ本格的に作り上げられた舞台を見せてもらうと、納得がいくからだ。
妥協せずに自分たちのやりたい事を全力でやり遂げて行くという姿勢にも感動した。そんな当たり前のことがなかなか出来ないのも現実なのだ。さまざまな諸条件の中で、気が付いたら最初思っていたものとはまるで別のものが生ま . . . 本文を読む
遊劇体の新作『山吹』からまだ何ヶ月も経っていないのに、こんなにも早くキタモトマサヤさんの新作が見れるなんて幸せだ。しかも、何度もキタモトさんからリーディングのあり方についてはお話を聴いていたので、この公演で、彼がどんな試みをされるのかも、楽しみだった。客席でドキドキして開演を待っていた。私事だが、この日、偶然にも太陽族の新作とこの作品を梯子して見た。しかも63年前に長崎に原爆が落ちた日である。な . . . 本文を読む
とても暑い夏の日に太陽族の新作を見た。長崎に原爆が落ちた日だ。そして、北京ではオリンピックの競技が開幕した日でもある。かって、岩崎さんは『憩いの果実』で天安門事件を扱ったことがある。ずっと昔から今も岩崎さんは変わることなくこの国の現在と未来を芝居を通して描いてきた。我々がこれからどうなっていくのか、そしてこの世界はどこへ向かっていこうとしているのか。そのことを演劇を通してリアルタイムの実感として . . . 本文を読む
ドラマとしてのメリハリがない。描こうとしていることが中途半端で、観客にまで伝わりきらない。興味深いエピソードが満載だし、もう少し掘り下げたなら、きっとおもしろくなる。なのに、それをあっさり見せてしまうので、1本のドラマとして繫がらないのだ。残念な仕上がりだ。だが、最近の若手劇団の中ではかなりおもしろい集団なのではないか。今後がとても楽しみだ。
作、琳宏。演出、野倉良太。彼らは敢 . . . 本文を読む