
6歳の女の子に選択を迫る。「母親を取るのか、ママを取るのか。」えっ?と思うよね。彼女には2人の母がいる。育ての母と産みの母。ふたりの母は姉妹だ。姉は育児放棄した。妹はその子を引き取った。6歳になった宙ちゃんは、夫の仕事の都合でマレーシアに行くことになった母親から、実母である(自分のことしかできない)ママのもとに移ることを決断する。この長編小説は、そんな宙の生きる5つの時代が描かれる。
第1話である6歳の話が心にしみた。(『ふわふわパンケーキのイチゴジャム添え』) 今、ちょうど僕の孫が同じ6歳だからかもしれないが、この子の姿がリアルの受け止められる気がした。凛(孫の名前ね)と同じ、と思うとそれだけで胸いっぱいになる。たった6歳の女の子の人生の選択を迫る大人たちってなんだか残酷だ。
でも、彼女は彼女なりに考え、結論を出す。でも、うまくいくわけはない。というか、幼い彼女には、何が正しいかなんてわかるわけもない。そんな彼女を守ってくれたのは、ママのことが大好きでずっと彼女を慕い続けるやっちゃんだ。彼が作ってくれる料理が宙を元気にする。最初読み始めたときは6歳の女の子のお話か、と思ってのだが、2話では彼女はもう5年生になっている。3話では14歳、4話では16歳、最終話ではなんと18歳。と、どんどん成長する。そして、悲しいことばかりが彼女を襲う。読んでいて、いたたまれなくなる。そんなにも彼女いじめなくてもいいじゃないか、と。
最後では母親の秘密。なぜ、自分には父親がいないのか、が描かれる。これはそのことを知るまでのお話だ。彼女は周囲の人たちの抱える苦しみを目撃して、自分だけではどうしようもないことを知る。彼女だって十分にたいへんなのに、でも、みんなもそれぞれ大変で、そんなこんなの連鎖が6歳から18歳までの12年間のドラマとして綴られていく。でも、そこにはいつもおいしい料理がある。食べることで生きていける。そんな当たり前の話に心が癒される。みんな弱い。そんな弱さと闘いながら生きている。
人の死が描かれる。大切な人の死だ。それによって立ち直れなくなる。でも、残されたものは生きなくてはならない。やっちゃんが事故死した時の悲しみは一番大きい。大好きだった母親が、変わってしまった、と思うときのショックも。支えてくれる人がいる。支えてあげなくては、と思える人もいる。
ラストで、大人になった宙が、やっちゃんの店を継いで、「ビストロ・サエキ」を再オープンする姿が描かれる。こんなふうにして人は大人になる。立ち止まることもあるけど、やがてちゃんと前進して、夢をかなえる。そうであって欲しい。