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映画・演劇のレビュー

朝井リョウ『スペードの3』

2014-06-16 21:17:57 | その他
今回の朝井リョウは帯にもあるようにダークだ。3人の女のお話。3話からなる連作。話はちゃんとつながっていく。1話目のお話の脇役が、次の話の主人公になるというよくあるパターンなのだが、その選には、結構微妙な人物が選ばれる。いずれも、自分を信じきれなくて、何とかしたいと、もがき苦しむ。読んでいて暗い気分にさせられるのだが、止まらない。落とし所も、かなり微妙なラインだ。

 もっと上手く生きられたのではないか、と思う。どこで間違えたのだろうか。その分岐点をなんと小学生の頃の出来事に持ってくる。あの時から、変わらないのだと。優等生が、クラスの嫌われ者に構って、結果的に自分の今ある地位を失うという構造は先日読んだ『生き直し』と同じ。でも、あそこまで悲惨にはしないけど。転校生にも関わり、彼女を構うことでも、自分の地位が失墜していく。でも、もともと彼女自身のスタンスが危うい。だから、それらの出来事はきっかけでしかない。修学旅行で何があったのか。そこにもあまり頓着しない。だって、もう今では過ぎたことでしかない。今ある問題と向き合い、昔のような失敗はしないということのほうが大事だからだ。あの頃のクラスメートと再会し、彼女を通して過去の傷と向き合う。あの嫌われ者だった少女である。だが、最初は転校生の方かと思わせる。なかなか上手い作り方だ。主人公にとってはそれがどちらでも構わない。でも、まるで違う人である2人が17年後には区別できないくらいに変わっているというのは衝撃的だ。ブスだった女とカワイイ女が、である。

 2話目はそのブスだった女の話。彼女がどうして自分を変えていけたのか、が描かれる。最悪の小学時代から、卒業して中学デビューする。さらには、大人になり、努力して自分を変えていく。自信を持ち、キレイになる。そのきっかけが描かれる。

 3話目はなんと彼女たちが憧れる芸能人である「つかさ様」の話になる。このお話はもともと「つかさ」のファンクラブの話だった。憧れの象徴である彼女を、このどこにでもいるようなふつうの女の子を描く小説の主人公に引き下げるのだ。彼女もまた、2人と同じように自分の生き方に悩み苦しむ、ただの普通の女性でしかないということだ。芸能界を引退する覚悟をする。自分の存在意義がわからない。もうこれ以上こんなことをしていたくはない。だが、はたしてそうなのか。今まで芝居をしてきて、それはただ流されてきただけだったのか。そうではない。初めて本当の自分と向き合う。もう逃げない。

 3人の女たちはそれぞれのやり方で、自分と向き合う。それが彼女たちの第1歩だ。これまでの自分が避けてきた。ほんのちょっとしたこと。でも、それだけで人生すら変わるかもしれない。簡単なことなのだ。でも、今まで避けてきた。怖かったからだ。要するにそれは「簡単」ではなかったのだ。もしかしたら、何も変わらないかもしれない。でも、そんなことどうでもいい。ここから先に未来がある。


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