習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

『素敵な歌と舟はゆく』

2007-04-22 11:21:39 | 映画
 オタール・イオセリアーニは『月曜日に乾杯』1本を見ただけで、虜になった。この人の映画は信用できる。あの、のんしゃらんとした作品世界。そして、なんちゅういい加減さ。こんな人は、なかなかいない。変すぎる。

 久々に彼の映画を見た。これは数年前にイオセリアーニの特集上映でかかった映画だ。あの時は上映日程がタイトでなかなか見れなかった。今朝、時間に余裕があり、なんとなく今見たのだが相変わらず、一筋縄ではいかない変てこな映画である。

 基本的な姿勢はいつも変わりない。今回は、超大金持ちの一家の話である。どのくらい金持ちかというと、母親は仕事に自家用ヘリで行く。息子は遊びに舟で行く。家の裏が川で、そこから街まで自分の舟。もちろん手漕ぎではなく、エンジン付きです。彼は学生なのかもしれないが、なんだか真面目に大学には行ってないようで、窓拭きとか、皿洗いとかのバイトをしている。こんなしょぼいバイトを何故するのかは語られない。これだけの金持ちなんだから、ほんとは働く必要はない。だから、こんな事を敢えてしてるようだ。考えたら凄く厭味な奴。こいつの2日間が中心に描かれる。

 母親の仕事、父親の生活(極上のワインをたらふく飲んで敷地内の森で狩り遊びしたりしてる)、妹たちの姿も少し描かれる。さらには、使用人たちの仕事ぶりなんかも挟みながら、彼が街で遊んだり働いたりの日常が綴られる。彼の変な友達たち。彼を巡る人々の姿、そのひとつひとつが面白い。そんな彼らの観察日記みたいな映画でもある。

 挙句は仲間とコンビニ強盗をして、警察に捕まり拘留されるが、のんきに歌をうたってる。金持ちと貧乏人。どちらが、幸せなのか。そんなことがテーマではない。ただ、この世には金持ちもいれば、貧乏人もいて、それぞれそれなりに暮らしてる。そんな当たり前のことが、この群像劇では描かれている。イオセリアーニはそのひとりひとりを、ただありのまま見せるだけだ。そこにはなんの批評も感想もない。まぁ、こんなものでしょう、とでも言ってるのかなぁ、ってくらい。

 この2時間のあきれた映画を見ながら、ケセラセラなんだよな、と笑えたらいい。『月曜日に乾杯』を見た時、ある日なんの前触れもなく、いきなり仕事をやめて、旅に出て、のんびりいろんなところを旅する主人公に憧れた。残された家族は驚いたろうし悲惨だったが、彼はのんしゃらんとなんの悩みもなく休暇を楽しむ。こんな非常識な人間はいない、けど、もしできるならそんなふうにしてみたい、なんて一瞬でも考えない人はいないだろう。映画の中で、何の悪びれもなく、そんなことを描いたイオセリアーニは凄い。

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