
このなんとも不思議なタイトルの短編集に納められた5つの作品は、このタイトルが象徴する通りのシュールなものばかりだ。「ちょっと怖くて愛おしい『偏愛』短編集」と帯にはある。一見するとなんの変哲もない日常の風景なのだが、なんだかおかしい。そして確かに怖い。だが、そこに描かれるドラマはとても優しい。愛に満ちたお話なのだ。これらの短編のなかで描かれる人々の機微。別段凄いことが描かれるのではないけど、心に引っかかる。とても奥の深いお話ばかりで感心した。
いずれの話も甲乙つけ難いが、そのなかでも一番好きだったのは最後の『ハクビシンを飼う』だ。偏屈で、田舎にこもり、ずっとひとり暮らしをして生涯を閉じた叔母さんの遺品整理のため彼女が暮らした家を訪ねた主人公の女性が、たまたま訪ねてきた叔母の知り合いの若い男から、生前の叔母の暮らしを聞く、という話だ。偶然から家に居着いたハクビシンという動物を飼うことにする。最初はその生き物の駆除のために便利屋を呼んで、なんとかして、捕まえようとしたのだが、捕まえてみると、情が移り、一緒に暮らすことになる。たまたま彼女のためにハクビシンを捕獲してくれた便利屋さんと懇意になり、気づくと彼と一緒に暮らすようになっていた、らしい。
人嫌いだった変人の叔母についての意外な話を聞き、そんな話をしてくれて不思議な青年と午後の時間を過ごしたこと。しかも、もっと意外な展開は、その午後のひと時に、それまで見ず知らずだったその男と寝てしまうのだ。まるで夢の中の出来事のようだと彼女自身が思う。叔母の出会った便利屋も、彼女の出会った青年もハクビシンの化身なのかもしれない。もちろん、この小説はそういうタイプの幻想小説ではない。あくまでもリアリズム。だから、すべては現実なのだろうが、まるで夢のような現実というのは、ある。
この短編集が描くのはそういう時間なのである。いずれの話もこれと同じ感触のお話ばかりだ。夢心地でページをめくる。決して長くはないけど、短編としては少し心持長くも感じられる。タイトルになっている作品はまさにそのタイトル通りのお話で、死んでしまった妻がレシピ帳に書いていた言葉を、夫が料理を通して理解するまでのお話。突然妻を亡くして、とまどう夫が、料理を通して自分の知らない彼女と出会う。
いずれの話も、なんだか少しだけセクシャルで、ちょっとドキドキさせられる。でも、いやらしい話なんかではない。性が絡んできたなら、いやらしいと感じるほうがずっといやらしい。
これは、とても刺激的な短編集だった。こういう丹念な仕事がなされた小説を読むと、とても豊かな気分になる。
いずれの話も甲乙つけ難いが、そのなかでも一番好きだったのは最後の『ハクビシンを飼う』だ。偏屈で、田舎にこもり、ずっとひとり暮らしをして生涯を閉じた叔母さんの遺品整理のため彼女が暮らした家を訪ねた主人公の女性が、たまたま訪ねてきた叔母の知り合いの若い男から、生前の叔母の暮らしを聞く、という話だ。偶然から家に居着いたハクビシンという動物を飼うことにする。最初はその生き物の駆除のために便利屋を呼んで、なんとかして、捕まえようとしたのだが、捕まえてみると、情が移り、一緒に暮らすことになる。たまたま彼女のためにハクビシンを捕獲してくれた便利屋さんと懇意になり、気づくと彼と一緒に暮らすようになっていた、らしい。
人嫌いだった変人の叔母についての意外な話を聞き、そんな話をしてくれて不思議な青年と午後の時間を過ごしたこと。しかも、もっと意外な展開は、その午後のひと時に、それまで見ず知らずだったその男と寝てしまうのだ。まるで夢の中の出来事のようだと彼女自身が思う。叔母の出会った便利屋も、彼女の出会った青年もハクビシンの化身なのかもしれない。もちろん、この小説はそういうタイプの幻想小説ではない。あくまでもリアリズム。だから、すべては現実なのだろうが、まるで夢のような現実というのは、ある。
この短編集が描くのはそういう時間なのである。いずれの話もこれと同じ感触のお話ばかりだ。夢心地でページをめくる。決して長くはないけど、短編としては少し心持長くも感じられる。タイトルになっている作品はまさにそのタイトル通りのお話で、死んでしまった妻がレシピ帳に書いていた言葉を、夫が料理を通して理解するまでのお話。突然妻を亡くして、とまどう夫が、料理を通して自分の知らない彼女と出会う。
いずれの話も、なんだか少しだけセクシャルで、ちょっとドキドキさせられる。でも、いやらしい話なんかではない。性が絡んできたなら、いやらしいと感じるほうがずっといやらしい。
これは、とても刺激的な短編集だった。こういう丹念な仕事がなされた小説を読むと、とても豊かな気分になる。