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映画・演劇のレビュー

青年団『走りながら眠れ』

2019-10-13 08:59:02 | 演劇

80分という上演時間がとてもここちよい。それ以上になればきっと退屈する。あるいは、彼らの内面に立ち入ることになる。そうするとこの芝居の持つ空気が損なわれる。2人芝居である。大杉栄と伊藤野枝ということを知らずに見ていたらこれは何なのか、と戸惑うことになるかもしれない。だけど、本当はその方がいいかもしれない。誰とも知れず、とある夫婦の会話劇。3つの時間がどこにつながるのかは、わからないまま、ただなんとなく、不安が漂う。夏のできごと。何気ない夫婦の日常。だが、ここに普遍性を求めるのではない。この後に起こる震災や、虐殺。彼らの置かれた立場。そんなものも、ちゃんと視野に入れてこのなんでもない会話(何でもないわけではないのだが)に耳を傾ける。そうすると、そこから普遍が見えてくる。彼らではなくとも、誰もが抱える不安と、恐怖が忍び寄る。

「走りながら眠れ」というタイトルは刺激的だ。「眠れ」は「死」につながる。それでも走ることが求められる。熱く語るのではなく、いつものようにさりげなく、淡々としたタッチでその夏のなんでもない夫婦の風景のスケッチとして提示した。

作者の想像力が指し示す日常はリアルで、そして、いつものようにそのたわいない会話に耳を傾ける。これはまごうことなく平田オリザの世界だ。濃密な夫婦の間にある緊張感が漂う。だから、ふたりから目が離せない。自分たちの置かれた現状を背景にして、でも今はただ、なんとなく、どうでもいいような、でも、実はそうじゃないような、不思議な緊張と弛緩が同時に存在する空間に身を置くことになる。ラストを飾る「楽しいなぁ」のひとことが心に沁みる。


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