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映画・演劇のレビュー

『ラストレター』

2020-01-17 22:38:53 | 映画

まだ今年に入って映画館では1本しか見ていないのだけど、この映画は見る前から今年のベストワンだと決めていた。公開初日の今日さっそく見てきたのだが(だからこれでまだ今年映画は2本目)、やっぱりこれがベストワンだと確信した。すばらしい映画だ。

思い描いていた映画とは少し違ったけど、これでいいと思った。予想を心地よく裏切られた。原作小説を読んだとき、「これが映画化されたらいいな」と思っていた。もちろん書いたのが岩井俊二監督なのだから、最初から映画化を前提にしていたはずだ。待つこと2年。(くらいか?)ようやく完成して今日公開された。

理想のキャスティングで最高の映画が完成した。切ない映画だけれども、予告編ほど泣かさない。(何度となく予告編は映画館で見たけど、毎回それを見るだけで泣いた)とても静かな映画で、ドラマチックなお話なのに、あえて感動的にはしない。さらりと見せる。でもクールな映画ではない。ウエットだ。だけど、この透明感に圧倒される。いろいろ書きたいことはあるけど、なかなか言葉にはならない。

まず、登場人物たちが、みっともない。やることなすこと間抜けで、彼らの人生も情けない。特に中山美穂と豊川悦司。もちろん彼らは青春映画の金字塔、岩井俊二の最高傑作『Love Letter』の主人公である。そんな彼らにこんな役を与える岩井俊二はいじわるだ。でも、あのキラキラ輝いていた宝石のような映画のふたりが25年の歳月を経て、こんなふうに岩井映画の中で再会することも含めて、この映画は信用できる。彼らの起用は単なる特別出演にはならない。この映画の目指すもののひとつの象徴なのだ。本編の主人公である松たか子と福山雅治も彼らと同じように、かっこわるい。40代のくたびれた中年だからではない。(わざと無精ひげで情けない男を演じる福山は少し嘘くさいけど)そんなぶざまで情けない大人たちがいい。

そして広瀬すずと森七菜演じる子供たちは、はかなげだ。(『海街diary』の広瀬すずが帰ってきた気がした。)

お話がちょっと作為的で、感傷過多な小説がこんなふうに映像化されたことに驚く。ストーリーは全く同じはずなのに、印象はまるで異なるのが不思議だ。岩井俊二はこのドラマチックなお話をこんなにもドラマチックから遠く離れた映画にしてしまった。感傷とはまるで無縁な映画になった。

こうしてここで生きている人たちの等身大の姿をそのままで見せていき、そこにはつまらない感慨なんかはさませない。透明な空気のような世界が目の前に広がる。そんなありのままを僕たちは受け入れる。この世界はきっとこんなふうに美しくて残酷なのだ。僕たちはそこにたたずみ、そしてほんの少しうつむく。でも、決して泣いているわけではない。死んでしまった母からの最後の手紙は、高校を卒業していく彼女たちに向けてのメッセージである。その卒業式の答辞に込められた未来に対する想いをしっかりと受け止めてこれから先の人生を精一杯生きていく。


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