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映画・演劇のレビュー

『ハーフェズ ペルシャの詩』

2008-12-25 23:37:47 | 映画
 アボルファズル・ジャリリ監督の新作である。キアロスタミと並んでイランを代表する作家である彼の作品ですらなかなか日本ではお目にかかれないという現実をいまさら嘆いてもしかたない。今回、この作品が日本で上映されたのは、製作に日本が参加しており、ヒロインを麻生久美子が演じているからにほかならない。

 だが、作品自体は中途半端な合作映画ではなく、隅から隅までジャリリのテイストに貫かれた傑作である。シャムセディン(メヒディ・モラディ)はコーランを諳んじている者だけが授けられる称号“ハーフェズ”を受け、宗教指導者の娘で、外国育ちのためコーランの知識が少ないナバート(麻生久美子)にコーランを教えることになる。ハーフェズになるために生まれてきたような男が、偶然から彼女と一瞬(でも、それは永遠でもある)心を通い合わせてしまったことで、罪に問われてしまう。彼は彼女を忘れるために旅に出る。その途上でいくつもの奇跡を起こしていく。

 彼女と結婚したハーフェズと同じ名前の男は彼女の心が自分にはなく、ハーフェズにあることを知り、彼女には手も触れず、やがては彼を追って同じように旅に出る。彼女の心を取り戻すための旅だ。もちろんそんなことは不可能だということは最初からわかっている。彼女の心が自分に向くことなんか一生ない。彼女は永遠にハーフェズだけを愛している。

 この魂の彷徨を描くこの映像詩は、ほとんど科白もない。出来事の説明もない。(まぁ、それってジャリリの作品ではいつものことなのだが)ロングショットで捉えられた砂漠の中にある村と、そこで暮らす人たち。ハーフェズは旅をして、そこで様々な人たちと出会い、別れていく。映画は、この放浪の詩人の軌跡と奇跡を静かに追いかけていくだけである。

 だが、見ていて、見ている僕たちの魂が清められていくような気がする。彼は言葉(詩)によって、あるいは当たり前の行為によって、たくさんの人たちの心を救済していく。今、僕たちに何が必要なのかをこの映画は教えてくれる。

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