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映画・演劇のレビュー

2012 小説ベストテン

2013-01-03 22:56:59 | その他
 2012年に読んだ本は153冊。9割は小説だが、その中で特に面白かった作品を10篇リストアップするのは、映画や演劇よりも困難を極める。すごく面白かった小説でも、時間が経つとどんな話だったのか、忘れているからだ。面白かったという記憶のみが残っていても、細部が定かではない。かといって、ひとつひとつ調べるのも、なんだかなぁ、なので、とりあえず、インパクトが強かった作品を優先しながら、10冊リストアップして見る。

 1位 紙の月(角田光代)
 2位 人質の朗読会(小川洋子)
 3位 この女 (森絵都)
 4位 ブルックリン・フォリーズ(ポール・オースター)
 5位 楽園のカンヴァス(原田マハ)
 6位 美しい一日の終わり(有吉玉青)
 7位 長崎くんの指(東直子)
 8位 神さまのカルテ3(夏川草介)
 9位 幸せな日々があります(朝倉かすみ)
 10位 舟を編む(三浦しをん)

 1作家1作品にした。それと、できるだけ、2012年に出版された新作を優先した。だが、『この女』のようなほんの1年前に読み忘れていた(というか、ちゃんとチェック出来てなくて、知らなかった)傑作や、偶然見つけた東直子のデビュー作(長崎くんの指)なんかは、外せないから、この10冊に入れた。3位にした『この女』は、とんでもない女の生涯を、頼まれて仕方なく小説に書くことになる男の話だ。彼女に取材し、付き合うのだが、その経験を通して様々なものが見えて来る。

 外国文学はあまり読まないけど、その中から1冊。オースターは特別だ。今回もすばらしかった。じっくりと、時間をかけて読んだ。テンからは、宮下奈津『太陽のパスタ、豆のスープ』とか、朝井リョウ『星やどりの声』というとても素敵な作品が漏れている。特に後者は彼の作品でいちばんいい。小説以外でも内田樹の数々の本とか(特に『最終講義』!)川本三郎さんのエッセイとか、本当なら外せない。やはり10冊という括りは過酷だ。でも、そのくらいで止めておかなくては際限がない。

 昨年のベストワンは、角田光代の独壇場である『紙の月』にした。あの小説を読んでいる数日間は本当に心が暗くなったけど、それくらいに影響力のある秀作なのだ。彼女と共に、逃避行している気分だった。自分がこの世界からなくなってしまう気分だ。タイの街かどの迷路の中、身を潜ませて暮らす時間。『八日目の蝉』の時も、そうだったけど、今回はひとりで逃げるのだから、余計に救われない。

 2位の小川洋子作品も息が詰まる作品だった。タイトル通りの内容である。短編連作で、人質たちが話す様々なお話が胸に沁みて来る。5位は原田マハの最高傑作。アンリ・ルソーの『夢』を巡るドラマ。

 8位は唯一の日本人男性作家のものだが、シリーズ最高傑作となった。読みだした最初は「マンネリだ、」と思い、あまり乗れなかったのだが、後半になると今までのお話がここに到るための前奏曲でしかなかったのではないか、と思わせるくらいに乗せられる。

 東直子の数々の作品の原点であり、これが頂点ではないか、と思わせるほど素晴らしい『長崎くんの指』と出会えたのもよかった。こんなすごいものが、何年も前に書かれていたという事実に驚く。ささいな話だから、これを読んでも、なんとも思わない人もいるだろうけど、僕はこの幻想小説に嵌った。

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