
今年で3年目になるという極東退屈道場、林慎一郎による中之島芸術センター主催ライブ・パフォーマンス。前2作は見逃したので今回初めて参加する。なんと2時間20分に及ぶ大作である。この企画の完結編であり、前作の流れを踏襲する。もちろん単体でも楽しめるようになっている。
最初の40分は、劇場内でのお芝居だが、そこからはホールを出て、センター内から夜の街をクルージング。1時間の後、再びホールに戻って来て、お話を締める。林さんらしい(まぁ彼にはよくある)パターンである。
ルーシー(石原菜々子)は宇宙探査船で、この地球に帰って来たが、この星にはもう誰もいない。やがて彼女はこの場所から出て夜の街を彷徨う。彼女は中之島から北浜へと歩いていく。スマホからは今いる場所の映像と音声がライブ配信されている。劇場では3人の男たちが未来からやって来て、自分たちの話をする。100万年後の1年前(過去)から来たヒト(久しぶりの小坂浩之!)と加藤智之演じる100万年前から来たヒト(現在)。そして橋本浩明の100万1年後から来たヒト(未来)。そこにこの街の保安官(井上和也)が登場する。これは失われた記憶を巡る物語。
そこに記憶の砂を巡る考察が重なる。それが発信されるのは移動した後の1階ロビーに設置された電話ボックスから。受話器を手にして発信されるさまざまな人たちの声が混在する。
まず、3階から3グループに別れて移動する。僕は最初の橋本浩明(100万1年後から来たヒト)に引率される。1階ではたくさんの人たちが入れ替わり立ち替わりやって来ては消えていく。大阪に来て思ったこと、大阪で育ち感じたこと。さまざまな世代がここで刻んだ歴史が語られる。今ではもう懐かしい電話ボックスで受話器を耳にあて一人語りする。記憶の砂になった思い出の出来事。最後にナビゲーターである橋本さんの話に耳を傾ける。もちろん彼もまた電話ボックスの中に入って語る。
中之島デリバティブのナイトクルージングは普段なら立ち止まらない風景の中で何度も立ち止まらされる。夜のビル群、川に囲まれた街。中之島センターを出て、ほたる町を散策することになる。手旗信号で伝えられるたった3文字の情報。全編に散りばめられた記憶の断片。水の街大阪の中心である中之島。そこで一夜の幻の旅をする。
再び劇場ホール内に戻って来て、お話は集約される。中之島を巡る記憶。かつてここには「葦の民」がいたこと。米相場の先物取り引きがここで始まったこと。そして今ここにある現在の姿。そこから未来を見ること。演劇作品としてはいささか冗長で説明過多だけど、これはなかなか貴重な体験だった。