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映画・演劇のレビュー

『チルドレン・オブ・ホアンシー』

2009-05-25 22:16:26 | 映画
 1937年上海。大きな戦争がアジアで起こっているのに、対岸の火事としか思わないアメリカから、ひとりのイギリス人青年(ジョナサン・リース・マイヤーズ)がやってきた。本当のことをみんなに知らせるために報道カメラマンとしてこの未開の大地にやってくる。

 頭の中ではいろんなことをわかっているつもりだ。だが、それはただの知識でしかない。ハバード出の超エリートで、日本語も中国語も話せる。自分に自信があるし、自分の力を過信している。彼は無謀にも日本軍統治下の南京を目指す。そこで目撃したことをカメラに収める。だが日本軍につかまり処刑されそうになる。初めて本当の恐怖を肌身に感じる。彼は傲慢で自分は大丈夫だ、と思っていたのだろう。戦場に居ながらも、彼のほうがこの事実を対岸の出来事として見ていたのではないか。そんな彼が死の淵から中国人ゲリラ(チョウ・ユン・ファだ!)によって助けられることになる。映画はここから始まる。

 この映画が描こうとするものは、日本軍のよる残虐行為ではない。これはひとりの青年が、頭でっかちで自分の考えに世の中をあてはめて理解しようとするが、現実を通して修正せざる得なくなり、本当に自分たちに必要なものは何なのかを知る。彼は今、自分の目の前にいる孤児となった子供たちの命を助ける。ただそれだけのことに自分のすべてを賭けていく。映画は彼と子供たちとの自由を求めた1000キロに及ぶ旅が描かれる。

 自分に出来ることなんかたかが知れている。しかし、満足に食べるものもない孤児たちを誰かが守らなくてはならない。彼らの安全を保障し、心の傷を癒し、彼らが生きていける環境を作ってあげること。それだけが自分の使命と知る。

 どうしてこんな想像もしなかった辺境の地で命を投げ出してしまったのか。本人ですらわからないだろう。ただ一生懸命生きていたなら、そんなことになってしまった。それだけのことだ。戦時下の中国で安全で平和な場所なんかない。だが、遥か1000キロを徒歩で旅して約束の地を目指す。

 このヒューマンドラマが実話をベースにしていることをラストで知って(生き延びた子供たちが彼のことを語る姿がエンドクレジットで流れる)正直言ってただ甘いだけの映画だと思っていたこの映画が描く事実の重さを知る。こんなことをした人がこの広い世界には居る。その当たり前のことに心打たれた。ロジャー・スポティスウッド監督はこの大作をきちんとドライブして取り敢えずは合格点の映画に仕立てた。だが、緊張感はないし、あまりに単純で退屈。これではあまり褒められたものではない。せっかくレンタルしてきたのに、途中でやめようか、と思ったほどだ。だが、このスケールの娯楽映画が今の日本では劇場公開できないのはなんだか残念な気もする。たいした映画ではないのなんだかこの映画の弁護するようで恐縮だが、セールス次第では日本人の琴線に触れてくる映画ではないかとも思う。でもやっぱりこの程度の出来ではあかんかもなぁ。
 

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