死んでしまう2人の男女が死の直前の「狭間の世界」で出会い、ふたりきりで過ごす時間が描かれる。不思議な場所に放り込まれて、困惑する。でも、受け入れざる得ない。まるで面識のないふたりが、同居することになる。でも、この世界には彼らしかいない。半径15分圏内の世界で、でもなんでも叶う世界。そこに閉じ込められて、出られない。
登場人物は彼らふたりだけ。いや、そこにサカキと名乗る中年女がやってきて、彼らの置かれた状況を説明する。彼女は神なのか、と問うと、「ただのこの部屋の大家さんみたいなものね、」と答える。
小説はここでのふたりの日々を描きながら、これまでのふたりの日々をふたりを見てきた他者の視点から交互に描いていく。そして、やがて、決断の日がやってくる。サチ、ワタル(過去)、二人の部屋(現在)の3つのエピソードが交互に描かれていく。
先が気になる展開で、322ページもあるのに、最後まで一気読みさせられる。最後は涙する。単純なハッピーエンドではないけど、幸せな気分にさせられる。僕たちは与えられた現実を受け入れるしかないけど、その中でどんな選択だって、できる。このとんでもない世界で彼らが過ごした愛おしい時間を大切にしよう。そんな気分にさせられる素敵な小説だ。