
これには驚いた。まさか、こんな話になるなんて、想像もしなかった。ただのSFで、タイムトラベルもの、アクションと思って、軽い気分で見始めたのだが、なんのなんの。冒頭のアクションの後、バーテンダーとなったイーサン・ホークのもとに、一人の若い男がやってくる。ただの客のはずだった。しかし、彼が語り始めた話に、どんどん引き込まれていく。そこからはその若い男の奇妙な人生を描く映画の趣になる。ほんの少し、と思っていたら、なんのなんの。ずっと、その語りは続く。彼が実は男ではなく、女だった、というところから、もう完全にその話に引き込まれて、これが近未来SFであったことなんか、忘れてしまう。
さらには、彼の話が30分以上続いた後、いきなり本題に突入した。そこからは、さらに、さらに意外な展開。めくるめく、驚きのドラマつるべ打ち。なんなんだ、これは! って感じになる。
彼(実は女)は自分の愛した男の正体を知る。それはタイムトラベルした自分自身で、ということは、自分と自分が時を超え出会い、結ばれて赤ちゃんが生まれる。生まれた赤ちゃんも誘拐され、(自分は昔、捨て子だった)その赤ちゃんがなんと成長したら、イーサン・ホークで、彼が追う爆破魔も実は自分で、とかなんとか、とんでもない話の展開についてこれるか?
結局なんなのか、と突き詰めると、お話自体が破綻するのだが、でも、複雑に絡み合った人間関係の謎解きは面白く、頭の中で組み立てていく過程を楽しむ。よく考えると、無茶苦茶な話で、ニワトリが先か、卵が先か、なのだが、97分(実質90分ほど)で、こんなにこんがらがった映画をよく作ったものだ、と感心する。監督のピーター&マイケル・スピエリッグ兄弟は前作『デイブレイカー』でも、従来のゾンビものとは一線を画する作品を作っていたから、さもありなん、なんだが、ハインラインの短編小説を膨らませて、見たこともないような映画をよくぞ作った。感心、感心。