藤井美保が台本を書き、川田陽子が演出する。ふたりの黄金コンビに武田操美が絡んできて、劇団准教授。
この3人が勢いで仕掛けた芝居はとてもシックな作品に仕上がった。クラシックなバーが舞台だ。ママと、そこにやって来る客とのドラマが綴られる。ゆっくり(ゆったり)したタッチで語られる。何も語らないくらいに。
20年前の火事で亡くなった人たちと、今を生きる彼らの知り合いや身内との再会が描かれる。事前にチラシや当日パンフでネタバレされているけど、できることならそこを伏せて見たかった気がする。芝居を見ているうちに何かおかしいと気づき、やがて時空のねじれに翻弄されていくところにこの作品の仕掛けがある以上、そこをネタバレしたところから見るのはもったいないと思った。
いろんな描写があまりにさりげなく描かれるから、20年の歳月を経ての再会という部分が曖昧なまま話が展開している。メリハリがないからわかりにくい。敢えてそんな描き方をしたかったから、観客には先に死者との再会がテーマだと告知したのかもしれない。藤井さんは観客に優しい。チラシにあるあらすじを芝居を見てから改めて読んで、ここにすべてが書いてあることに驚く。
ひとりの女(川田陽子)がここにやって来て、その誰もいない暗いバーに座り込む。舞台上手の青いポストに、さまざまな人たちが順番に、郵便だけでなく、さまざまなものを入れていくシーンから始まる。
20年前の火事で死んでしまった人たちがここにやって来て、会話する。あの時の後悔。今を生きる人たちと20年前のあの日に亡くなった彼らがここで出会う一夜の物語。母なる海に抱かれて今を生きること。母を探す女の視点からすべてを描くのではなく、彼女は傍観者の位置に甘んじる。母であるバー「ラ・メール」のママがお客さんを優しく見守っていたように、彼女はこの場所に来るすべての人たちを見守る。
余計なことは語らないから、幾分説明不足だけど、気にしない。これは満月の夜の一夜の夢。何も考えないで心地よい雰囲気に身を委ねる。不思議な時間を満喫する。