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映画・演劇のレビュー

『ゴースト・トロピック』

2024-02-14 18:32:00 | 映画

『Here』の監督バス・ドゥボスの長編第3作。リアルなデジタルではなく16ミリのフィルム撮影による柔らかく優しい映像で綴られる。初体験のこの新鋭監督はなかなか刺激的な映画を作る。ただ惜しいのはあまりにテクニックに走りすぎたことだ。もっとさりげなく描くといい。

彼女は50代に深夜のビル清掃員。10年前に夫を失くし、長男は独立していて17歳の娘とふたり暮らし。その日の帰宅時、居眠りをして終着駅まで行ってしまう。終電だったからもう帰れない。タクシーに乗ろうとしたが、お金がない。ATMは残高不足で降ろせない。深夜バスも故障で乗れない。夜の静寂の中、疲れた体で家まで歩いて帰ることになる。

ファンタジーになりそうなお話をリアルと幻想の境目で描く。終電後の深夜の時間というだけで普段の時間とは違うファクターが掛かる。帰宅途上でさまざまな人たちと出会う。昔ハウスキーパーとして働いていた家の前を通る。閉店前の深夜のコンビニでお茶を飲む。本当なら自宅で眠りにつく時間にブリュッセルの町を歩いている。そんな非日常の夜。

最初と最後は同じシーン。誰もいない自宅の居間。最初は昼から夜の時間で最後は夜から朝。長回し定点観測。さらにはもうワンシーン。いきなりタイトルのゴースト・トラピックが描かれる。深夜,恋人との時間を過ごす娘をひっそりと見守るシーンと呼応するリゾートビーチの幻影。あっと驚く。


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