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映画・演劇のレビュー

『熱のあとに』

2024-02-14 18:40:00 | 映画

新宿ホスト殺人未遂事件を題材にして激情に駆られる女の狂気を描く山本英監督デビュー作。同時に久しぶりの橋本愛の主演映画。

彼女はホストに入れ込んで身を持ち崩し、あげくは男を刺し殺そうとした。(奇跡的に生命は取り止めたが)5年間を刑務所で過ごした後、抜け殻のようになり、母の勧めた男と見合いをする。そんな女を橋本愛は演じる。完全に心が壊れているとんでもない女である。

そんな女と結婚し、彼女の激情に振り回される男を仲野太賀が演じる。彼は偶然から(身代わりで見合いの席に行った)彼女とお見合いし、結婚する。優しい男で彼女のすべてを受け入れる。だが彼にも心が感じられない。まるでノルマのように彼女と接している。

なんだか不思議な映画なのだ。彼らふたりの気持ちがまるでわからない。全く理解できない感情や行動を見守るしかない。さらには隣家の女。ふたりに必要以上の関わりを持つこの女(木竜麻生)は不気味。そのまさかの正体が明かされるのは終盤だが、それでも納得いかない。

橋本愛の狂気の愛を受け入れていた仲野太賀が同じくらいの狂気に至るのは必然だったのか。もともとこの男も狂っていたのか。それすら定かではない。行方不明になっていた死ななかったホストと再会するラストのプラネタリウムのシーン。後ろに座った少女の泣き声が怖い。投影が始まっても延々と喋り続ける橋本に抗議するがまるで聞き耳持たぬ橋本に恐怖を感じたのか。

この映画の橋本愛はアンジェイ・ズラウスキー監督『狂気の愛』のソフィー・マルソーを想起させる。冷静になって平然と狂っている。何度か繰り返される精神科医の木野花との面談シーンも怖い。医師のほうが冷静さを失ってしまいそうになる。冒頭のマンションから落ちた(落とした)男を階下まで走って行き見るシーンからラストまで、彼女の感情の揺れ幅に翻弄される。一体あれはなんだったのだろうか?

わけのわからない人たちの愛憎劇から目が離せない。信号が青になったのに止まったままの車に乗ったラストのふたりの姿、表情が何を示すか。

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